2017年7月の記事一覧
北のICBM再発射が突きつける危機 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
28日深夜、北朝鮮が再び大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。ミサイルは、いずれもこれまでで最大最長の時間、高度、距離を飛翔し、日本の排他的経済水域(EEZ)内の日本海に落下した。これまでICBMとは認めていなかった中露も認めざるを得なくなるであろう。 軍事的に見れば、深夜でも発射できる全天候型の実戦的能力を示威したことになる。北朝鮮にとってみれば、前回7月4日の発射だけでは大気圏再突入...
「天皇は元首」と憲法で明文化も必要だ 髙池勝彦(弁護士)
安倍晋三総理がタイムスケジュールまで示して、憲法改正が加速するかに見えましたが、東京都議選で自民党が大敗して以後、この段取りが怪しくなってきました。 私は6月7日付と15日付の「ろんだん」欄で、繰り返し総理の「加憲」案には反対してきましたが、憲法改正を1日も早く実現してほしいという点では同じであり、安倍総理には何とかして態勢を立て直して改憲を実現してもらいたいと思っています。 ●「象徴...
「加計」をめぐる“疑惑”は全くの虚構だ 原英史(政策工房代表取締役)
加計問題をめぐる混乱が収まらない。安倍晋三総理の友人が理事長を務める学園のため、国家戦略特区を利用した利益誘導がなされたのではないかという“疑惑”だ。前川喜平・前文部科学次官が「行政が歪められた」として会見を開き、あたかも真実であるかのように国会論戦やマスコミ報道が続いている。 私は、国家戦略特区ワーキンググループ(以下「特区WG」)の委員を務めている。獣医学部をめぐるここ数年の政策決定プロ...
共和党の73%が対北軍事行動支持の現実 島田洋一(福井県立大学教授)
7月19日に発表された米FOXニュースの世論調査に、北朝鮮に関して興味深い設問と結果があった。調査は7月16日〜18日に実施された。 設問は、「あなたは、北朝鮮が核兵器開発を続けるのを止めるために、アメリカが軍事行動を取ることに賛成ですか反対ですか」(原文=Do you favor or oppose the United States taking military action to s...
中国共産党政権の「統一戦線」に警戒を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
中国とロシアの両海軍は22日、バルト海で合同軍事演習の開幕式を行なった。演習は第1部と2部に分かれており、今回は第1部。第2部は9月中旬に日本海とオホーツク海で行われるというから穏やかではない。 これまで中国共産党は、まず主敵を定め、それに協力できる国・勢力と「統一戦線」を組み、主敵が衰退した後に、統一戦線を組んできた相手を攻撃するという歴史を重ねてきた。 ●主敵の敵と組んで戦わせ疲...
報道の使命とは倒閣運動なのか 斎藤禎(国基研理事)
現役の編集者だったころ、よく山本夏彦老を事務所に訪ねた。満月のような丸い顔をほころばせて迎えてくれた。しかし、人を射抜くような目が時に怖かった。山本老は、新聞を徹底して批判した。「記事はまじめくさって、たわけたことを書く。広告は割引いて読むからいいが、記事は額面通り読むからいけないのである」(『かいつまんで言う』) いま、新聞、テレビは、加計学園、そして稲田朋美防衛相と南スーダン国連平和維持...
本当は後退する日露平和条約交渉 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)
日露平和条約締結を悲願とする安倍晋三首相はこれまでに18回、プーチン大統領との首脳会談を重ねたが、残念ながら、交渉自体は後退しているかにみえる。毎回行う2人だけの密室会談を経て、何が飛び出すかは不明だが、首相官邸内でも悲観論が出ているという。 ●ハードル上げるプーチン プーチン大統領はこのところ、北方領土問題で強硬発言が目に付く。6月1日の会見では、「南クリル(千島)が日本の主権下に...
「ジェラルド・R・フォード」の就役に思う 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
22日、電磁式カタパルト(射出機)を装備した最新鋭の米原子力空母「ジェラルド・R・フォード」が就役した。電磁式カタパルトは、これまでの蒸気式カタパルトに比して航空機の発艦出撃回数が大幅に改善される。 一方で4月26日、中国海軍は空母の2番艦を進水させた。旧ソ連製の1番艦「遼寧」と比べると、レーダーには機械的ではなく電子的に回転し、広範囲をカバーする高性能の「フェーズド・アレー・レーダー」を装...
日本の海峡侵入繰り返す中国の狙い 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
7月2日に中国海軍の調査船が、通常と異なるルートで津軽海峡の我が国領海に侵入したのに続き、15日には中国海警局の船が、対馬海峡東水道の領海に2回にわたって一時侵入した。17日、この同じ海警の公船2隻が、今度は津軽海峡の領海に2回にわたって一時侵入した。一連の領海侵入は何らかの明白な意図の元に行われていると見るべきだろう。 国際海洋法条約では他国の排他的経済水域(EEZ)では勿論のこと、領海内...
75万の中国海上民兵、対策は急務だ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
産経新聞などの報道によると、北朝鮮や中国の漁船が、日本の排他的経済水域(EEZ)である日本海の大和堆やまとたいで違法操業を続け、取締りの水産庁船に対し、北朝鮮漁船が小銃の銃口まで向けたという。 筆者は青森県大湊を母港とする護衛艦の艦長に任じていた時、佐世保に向かう際には常に大和堆で漁船を避けつつ航行に苦労した体験から、この辺が好漁場となっていることを認識している。 武器を携行して国から報...
プロ意識欠く日本メディアの米政治分析 島田洋一(福井県立大学教授)
アメリカの主要メディア(大半が民主党支持)が、数日来、トランプ大統領の長男ドナルド・ジュニア氏に関する「国家反逆罪」疑惑で沸き立っている。 経緯を、取りあえず以下のNHKニュース(7月12日)で見ておこう。 ≪アメリカのトランプ大統領の長男が去年の大統領選挙中にロシア政府の支援の一環として民主党のクリントン氏に不利になる情報を提供すると持ちかけられ、ロシア人の弁護士と面会していたことが、...
欧州でも高まる北朝鮮、中国への懸念 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
7月11日、ドイツのアデナウアー財団と米テンプル大学が共催した「2017年のアジアとヨーロッパにおける安全保障チャレンジ」会議が都内のホテルで開かれ、筆者は「孫子の兵法に基づく中国の海上ハイブリッド戦」の講演を行った。 ハイブリッド戦とは、住民の自決権などを名目に民兵を装った特殊部隊を駆使し、正規軍によらず領土拡大の成果を得ていく作戦形態を指す。ともすると、ウクライナ紛争のようにロシアの専売...
劉氏と夫人の日本受け入れも選択肢に(上) 阿古智子(東京大学大学院准教授)
末期癌と診断され、仮釈放された劉暁波氏に関して、連日報道が行われており、中国政府は劉氏の診断と治療に国内外の著名な専門医が参加し、24時間体制でケアを行っていると伝えている。国際的に知名度が高く、今回の病気で世界各国からより多くの関心を集めている劉氏を、中国政府は無下に扱うことなどできないだろう。とはいえ、死を待つ身になるほど病が悪化するまで、家族にさえ病状を伝えなかった。今になって、さまざまな...
劉氏と夫人の日本受け入れも選択肢に(下) 阿古智子(東京大学大学院准教授)
私のように中国の人権に関わる仕事をしていない人にとっては、やはり自分はあまり関係がない、と思われるかもしれない。私はそう思わない。中国が世界全体において、強大な影響力を誇示していることを、我々はもっと認識すべきではないだろうか。日本では、中国人が土地を買い占めているだの、東南アジア、中東、アフリカにまで積極的にプロジェクトを展開しているだの、中国の進出を否定的に報道し、それを「脅威」と捉えること...
日欧EPAをTPP11拡大に繋げよ 大岩雄次郎(東京国際大学教授)
日本と欧州連合(EU)は7月6日、経済連携協定(EPA)交渉で大枠合意にこぎ着けた。日欧EPAは2013年にスタートしたが、2015年及び2016年の2度にわたって合意が先送りされた経緯がある。今回の合意の背景には、米トランプ政権の保護主義的趨勢が世界に波及することへの危機感があることは確かであろう。反保護主義の流れを確実にするには、更なる自由貿易協定(FTA)の拡大を図る戦略が必要である。 ...
北のICBM成功は米国以上に日本の脅威だ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
敢えて7月4日の米独立記念日に合わせて北朝鮮は高高度で打ち上げるロフテッド軌道により大陸間弾道弾(ICBM)を発射、成功させた。 6月19日付の「ろんだん」で筆者は次のように指摘した。 「北朝鮮は4月15日に行なった軍事パレードで新しく登場させた弾道ミサイル5種類のうち、既にKN-17は4月29日に、火星12号は5月15日に、北極星2号は5月21日に、それぞれ発射・成功させた。残る2種類は...
『死活問題』が教える「理想論で軍は戦えぬ」 黒澤聖二(国基研事務局長)
戦時国際法の第一人者で国基研客員研究員でもある色摩力男氏がこのほど、『日本の死活問題~国際法・国連・軍隊の真実~』(グッドブックス)を上梓した。色摩氏は、駐チリ大使などを歴任した元外交官で、退官後は評論家として辛口の言論活動を展開している。わが国の死活問題を法的観点から解説した本書は、平易な言葉ながら国防の本質を突く。 本書はまず、わが国には「国際連合へのおめでたい幻想がいろいろあり」、国連...
岐路に立つPKOと自衛隊の海外派遣 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
6月28日、内閣府と青山学院大学が共催する「国際平和協力法25周年記念公開シンポジウム」に参加した。 元国連事務次長の明石康氏の「グローバルな枠組みの中でこそ初めて平和が享受できる」という主張は、一般論としては納得できるものの、南スーダンのように指導者間の内紛で治安が悪化している場所に何故貴重な自衛官の生命の危険を晒してまで派遣しなければならないのか理解できない。 ●派遣人員の3倍は...
都議選結果で憲法改正の道筋は崩れない 屋山太郎(政治評論家)
東京都議会における自民党の凋落ぶりは、安倍長期政権を夢想していた国民には寝耳に水の現象であったろう。だが、この結果は憲法改正に至る順調な道筋を大きく崩したわけではない。小池百合子氏自身が極左ではなく、当初から憲法改正論者であるからだ。 小池氏は今回の都議選で惨敗した自民党よりも憲法改正に正しく向き合った人である。与党の没落は野党を伸長させるものだが、今回は民進党が失った2議席分が共産党に上積...
AIIBの最上位格付けは疑問だらけだ 大岩雄次郎(東京国際大学教授)
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が6月29日、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスから最上位の格付け「Aaa(トリプルA)」を得たと発表した。これによりAIIBは、資本市場で債券を発行することで、わが国を含めて世界の民間資金の調達が容易となるが、ムーディーズの判断には大いに疑問がある。果たしてAIIBに、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)などの国際開発金融機関(MD...