公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.06.07 (水) 印刷する

西教授の「ろんだん」に異論あり 髙池勝彦(弁護士)

 比較憲法学の権威、西修教授による5月22日付の「改憲発議にウイング広げた総理の提案を評価す」について、私も意見を述べたい。
 西教授は、安倍晋三総理が国会での改憲論議の低調さにしびれを切らして2020年を目標年に改憲すると言ったことを評価し、2020年ではなく、2019年でもよくはないかと述べる。賛成です。
 また、総理が改憲の項目として自衛隊の存在と教育の無償化をあげたことについて、国家緊急事態条項を加えるべきであるとの主張にも賛成です。教育の無償化は憲法で定めるような事柄ではないでしょう。

 ●加憲では自衛隊の認知に至らず
 西教授は、現行の9条はそのまま残し、9条の2として自衛隊を保持する旨の条文を加えることを提案しています。これは、9条の1項、2項をそのままにして、自衛隊を保持する旨の3項を加える安倍首相の案と同じ趣旨です。西教授の案は、シビリアン・コントロールの条項を加えるなど、やや詳しくなっているだけです。いわゆる加憲論です。
 総理の提案が、冒頭述べたように、このような提案をすることによって改憲論議が高まり、より良い具体的な改憲案が出てくることを期待してのことであれば結構なことですが、文字通りの具体的な改憲案であるとすれば反対です。同様に西教授の案にも反対です。
 自衛隊の存在が曖昧であるどころか、違憲論さえもある現状を変更して憲法上自衛隊の存在を明確に規定したいということが総理の意向であることは理解できますが、私は、加憲論は自衛隊が軍隊であることを認知することにはならないと思います。

 ●あくまで全面改正すべきだ
 私も西教授と同じく、現行憲法の解釈として、自衛戦力の保持は合憲であると思っています。即ち、第2項の「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」は、侵略戦争をするための「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」ということであるからいいとしても、「交戦権」など訳の分からない文言が入っていることについては改める必要があると思います。
 政府解釈は、そもそも自衛隊は戦力ではないという奇妙なものですから、加憲が認められたとしても、交戦権の規定と合わせて、自衛隊は憲法上認められた存在であるけれども、軍隊ではない、国連平和維持活動(PKO)などは海外派兵にあたる、集団的自衛権も認められない、といった議論が延々と続くことになると思います。
 私が何度も主張していますように、現行憲法は、我が国に主権がない状態で制定されたものですから、同じような文言であっても全面改正すべきなのです。これは政治論として未熟だと言われれば何も言うことはありませんが、辛抱強く説明すればわかることだと思います。