公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.06.14 (水) 印刷する

取り合うに値しない「修正25条罷免」 島田洋一(福井県立大学教授)

 アメリカ憲法の第1章に規定された通常の大統領弾劾に加え、修正25条によるトランプ大統領罷免の可能性が、米メディアで取りざたされている。これは、重大な疾患などにより大統領が職務に耐え得ない場合を想定した規定である。
 ここでも、基本的ファクトを押さえておくことが重要となる。修正25条の関連箇所(第4節)を要約するとこうなる。
 副大統領を含む閣僚の過半数が、大統領がその職務上の権限および義務を遂行できないと判断し、その旨を上下両院に書面で通告、大統領がこれを受け入れた場合、副大統領が職務を受け継ぐ。他方、大統領が抗弁した場合も、両議院の3分の2以上が職務不能と判断すれば、大統領は失職する。3分の2に達しなければ、大統領は職務を続ける――。
 通常の大統領弾劾手続きでは、下院の過半数の賛成で訴追が行われ、上院の3分の2以上が賛成すれば罷免が成立する。

 ●政治分析よりプロパガンダの色彩
 すなわち、修正25条による大統領罷免は、閣僚の過半数の要求が前提で、かつ下院でも3分の2以上の賛成が必要となる点で、通常の弾劾よりハードルが高い。
 通常の弾劾すらまだ現実的とは言えないトランプ氏に関して、修正25条を云々するのは、真剣な政治分析というより、トランプ氏を「精神異常」と揶揄するプロパガンダの色彩が濃い。
 少なくとも、修正25条第4節による罷免の手法が使われたことはないし、現段階でまともに取り合うべき議論とも思えない。