公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2017.06.15 (木) 印刷する

加憲では根本問題解決せず、西教授への再反論 髙池勝彦(弁護士)

 私の6月7日付寄稿に対して、西修先生から光栄にも反論(同12日付)をいただきました。それについて、さらに私の考えを述べたいと思います。
 私は、西先生の憲法9条についての解釈には全面的に賛成です。というより、私の9条の解釈は、西先生や他の同様の解釈の先生方の教えを受けて、西説に立っているのですから当然です。66条2項についても私は西説に立ちます。9条2項の交戦権否認が、自衛権の放棄にはならないという点も同意見です。
 ただ、そのように解釈しても、西先生の「加憲容認」では、なぜ交戦権否認という不自然な規定を憲法に残さなければならないのかという問題は残ります。この規定は、西先生もおっしゃっているように、現行憲法制定の際、削除するのを忘れただけのものです。西先生の、「自衛隊は憲法上、明記されないで70年も経っている。このままでいいのか」というお気持ちは、私もまったく共有します。

 ●違憲ではないが軍隊ではない
 では、お前はどうして西説に盾突くのかということでしょうが、加憲では、まさに自衛隊とは何かの根本問題が残ったままになるからです。加憲によって、たしかに自衛隊は違憲の存在ではなくなりますが、自衛隊の行動については、違憲論が今と同じように続くのではないかと私は思います。自衛隊は確かに憲法上認められた、しかし、これは軍隊ではない、という奇妙な考え方が残るということです。なぜなら、9条の解釈について、政府や学会が西説に変更される見通しがないからです。西先生ご指摘のように、国民が「軍」の語句を導入することに拒絶反応を示しているとしたらなおさらです。
 現に、同じく加憲で「戦力に至らない実力組織として、自衛隊を設置する」という条文を提案している学者もいます(棟居快行専修大教授、読売新聞、平成29年6月6日付朝刊)。
 世論調査でも、自衛隊の存在は認めるが、「軍」としてではないとする回答が、なお多数見受けられますが、これはやはり政府や自民党の説明不足ではないでしょうか。

 ●せめて9条2項と前文は削除を
 現行憲法は、憲法という表題はついていますが、占領政策を遂行するための規則であり、占領政策が間接統治であったために、日本政府が作った形にしただけのものです。しかし、体裁や内容は、戦前の憲法と似通った部分もあり、一応まともな条文(法律文としてはよくできている?)であったために、なんとなく憲法であると思われてきたのです。アメリカ軍の占領政策はその意味で巧妙(狡猾)でした。
 私は、全面改正でないと、この占領政策法が残念ながら憲法として認知されてしまうのではないかと危惧しています。せめて9条2項と前文は削除すべきではないでしょうか。
 そうでないと、自衛隊が「戦力に至らない実力組織」という奇妙な存在として百年続くことになりかねません。