公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.07.14 (金) 印刷する

プロ意識欠く日本メディアの米政治分析 島田洋一(福井県立大学教授)

 アメリカの主要メディア(大半が民主党支持)が、数日来、トランプ大統領の長男ドナルド・ジュニア氏に関する「国家反逆罪」疑惑で沸き立っている。
 経緯を、取りあえず以下のNHKニュース(7月12日)で見ておこう。
 ≪アメリカのトランプ大統領の長男が去年の大統領選挙中にロシア政府の支援の一環として民主党のクリントン氏に不利になる情報を提供すると持ちかけられ、ロシア人の弁護士と面会していたことが、公開されたメールから明らかになり、トランプ陣営とロシアとの共謀があったかどうかに大きな関心が集まっています。(中略)それによりますと、去年6月、仲介者は、ロシア側が対立候補だった民主党のクリントン氏に不利になる情報を提供すると申し出ているとして「トランプ氏にとって役立つ極めて高いレベルの情報で、トランプ氏のためのロシア政府の支援の一環だ」と伝えています。これに対しジュニア氏は「感謝する。話が本当ならすばらしい」と返信しています。ジュニア氏は声明で「弁護士は政府の職員ではなく、何の情報も持っていなかった」と説明しましたが、民主党は「トランプ陣営がロシアと共謀する機会を歓迎していたことにもはや疑いの余地はない」と強く批判しました≫

 ●保守派の動き見ずに状況は読めず
 さて、これが、「トランプ陣営とロシア政府が共謀して、違法な選挙操作を通じて民主党のヒラリー・クリントン陣営に勝利した」というリベラル系主要メディアが描くストーリーを裏付け、トランプ大統領の弾劾にまでつながる話と言えるかどうか。
 答は否だろう。
 ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙が一面トップで「決定的証拠」を報じるというのは、朝日新聞や毎日新聞が一面トップで安倍政権の「決定的疑惑」を報じると同様の政治的行為である。
 だが、そうした左からの仕掛けだけでは政権が追い詰められることはない。保守派の大量離反が起こらない限り大きなうねりとはならない。
 アメリカについて具体的に言うなら、共和党主流派に近いウォール・ストリート・ジャーナル紙や草の根保守の声を代表するトークラジオ・ホストの動向がカギとなる。弾劾となれば、上院の3分の2の賛成が必要となるから、これら勢力が雪崩を打ってトランプ氏の退陣やむなしとの意見に傾かねばならない。現状はそうした状況からほど遠い。

 ●受け売りの域出ないNHKや朝日
 ジャーナル紙は、きちんとした選対本部なら、この種の持ち込み情報は顧問弁護士の判断に委ねるのが常識と、ジュニア氏の軽率さを責め、トランプ氏に社会保障改革、税制改革などの重大政策で成果を上げることに集中するよう強く求めているが、「ロシアゲート」には実体がないとの立場を崩していない。
 トークラジオの人気パーソナリティー、ラッシュ・リンボー氏は、「ドナルド・ジュニアは、怪しげなロシア人の女性弁護士と一度会っただけ。意味のある情報はないと見限って、その後接触していない。ロシアとの共謀などどこにも存在しない。これが大騒ぎするほどの決定的証拠というなら、結局メディアが何の証拠も持っていないことを裏付けるものに過ぎない」と述べ、「メディアは、チキンの糞からチキン・サラダを作ろうとしている」と一蹴している。
 NHK、朝日などのアメリカ報道や大半の「専門家」のコメントは、相変わらず、米主流メディアの受け売りの域を出ていない。タイムズ、ポスト両紙や3大テレビ網、CNNなどのリベラル・メディアだけでなく、ジャーナル紙や代表的トークラジオの動向も併せ見なければ、バランスの取れたアメリカ政治分析には至れないという、プロとしての常識を早く身につけるべきだろう。