公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.07.18 (火) 印刷する

75万の中国海上民兵、対策は急務だ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 産経新聞などの報道によると、北朝鮮や中国の漁船が、日本の排他的経済水域(EEZ)である日本海の大和堆やまとたいで違法操業を続け、取締りの水産庁船に対し、北朝鮮漁船が小銃の銃口まで向けたという。
 筆者は青森県大湊を母港とする護衛艦の艦長に任じていた時、佐世保に向かう際には常に大和堆で漁船を避けつつ航行に苦労した体験から、この辺が好漁場となっていることを認識している。
 武器を携行して国から報酬を貰い、定期的に海軍から訓練を受けているか、軍の管轄下にある漁船を海上民兵と呼称する。近年、海上民兵に対する懸念が各国で高まっており、とりわけ米海軍は中国の海上民兵に対する対策を急ぎ練りつつある。

 ●紛争の尖兵、規模も装備も拡大
 中華人民共和国は建国以来、海上民兵を海上における紛争の尖兵として使用して来た。1974年のベトナムとの西沙諸島争奪戦で重要な役割を果たし、その後も規模や装備を拡大してきた。1978年には沖縄県の尖閣諸島周辺に100隻以上の武装漁船を繰り出し、2009年には米海軍調査船インペッカブルに対して海南島沖で航行妨害の挙に出た。
 2011年には武装漁船によるベトナム探査船への悪質な嫌がらせ行為が発生。2012年にはフィリピンが領有するスカボロー礁で中国とフィリピンの公船が1カ月以上も睨み合う事態が起きた。そして昨年8月、尖閣諸島沖に約230隻が大挙して押し寄せたことは記憶に新しい。
 中国が独自に打ち上げている航法衛星システム「北斗」は、受信だけの衛星利用測位システム(GPS)と異なり、衛星にメッセージが発信できる。その端末を政府が漁船に設置を義務付けて情報発信の任にも当たらせている。
 米海軍艦艇が南シナ海で航行の自由作戦を行うと、雲霞のように群がってくる中国漁船は、米海軍艦艇の位置や行動に関する情報を当局に送る任務を帯びているのであろう。日露戦争の時、バルチック艦隊の位置情報を連合艦隊に通報し続けた信濃丸のような船が常に多く付き纏っていると考えれば良い。

 ●民間人装って機雷の敷設も
 昨年出版された米海軍分析研究所の報告書によれば1978年のデータとして中国海上民兵は人員約75万人、14万隻の規模とされている。海上民兵は単に海軍の支援だけでなく、機雷敷設等の戦闘任務にも就いている写真がある。
 機雷敷設等の戦闘任務を遂行したからと言って、海上民兵を攻撃しようとしても莫大な数に及ぶので、弾薬は瞬く間に消耗してしまうであろう。もう1つ厄介なことは、中国が「無実の民間漁船が海軍艦艇に攻撃された」と国際社会にプロパガンダを発信し、便衣兵(民間人に変装した軍人)を処断した「南京大虐殺」の海上版となりかねないことである。
 従って米海軍大学では、これまでのWar Game(図上演習)を各国海軍からだけの参加としていたが、次回から海上民兵対策のため、法執行機関である沿岸警備隊(日本では海上保安庁)を参加メンバーに加えることになった。同時に海上民兵を取り締まるため新たな法律をも作成しつつあると聞いている。
 より近くで実被害を被っている日本も、こうした動きに呼応して対策を早急に講ずる時期に来ている。