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2017.08.18 (金) 印刷する

「9条の2」追加の改憲案を支持する(下) 百地章(国士舘大学特任教授)

 そこで、取り敢えずまとめてみたのが以下の改正案である。これについては、8月9日付産経新聞「正論」欄で紹介した通りだが、若干、補足した。
 もちろん、本来なら9条2項を改正して、自衛隊を軍隊と位置付けるべきである。しかし、これでは公明党の賛成が得られず、憲法改正の発議さえ覚束ない。つまり、現状において9条2項改正論に固執することは、結局、憲法改正を断念するに等しい。それ故、敢えて一歩でも前進するため、先ず出来るところから憲法改正に着手するしかないとの思いでまとめてみた。

 ●違憲論の余地を明確に排除
 筆者が考えているのは、「9条の2」として以下の条文を設けることだ。
 「前条〔9条〕の下に、我が国の平和と独立を守り、国際平和活動に協力するため、自衛隊を保持する。その組織及び権限等は、法律で定める」
 これは現行自衛隊法の条文を参考にしたものである。できれば首相が最高指揮官であることなども書く必要があろうが、すでに自衛隊法に明記されており、国民投票のことを考えればできるだけ簡潔で分かりやすい方がよいと考え、このようにした。また、念のため自衛隊法第1条に、この法律が「憲法9条の2に基づいて」制定された旨、明記することにする。
 この改正案の「狙い」は、第1に「自衛隊の保持」を憲法に明記することによって違憲論の余地を無くすことにある。確かに国民の9割は自衛隊を支持しているが、合憲性については素朴な疑問を持つ国民もいる。また、共産党は自衛隊を違憲と明言し、憲法学者の6割以上も同様である。さらに国会の多数と内閣は合憲論だが、裁判所は正面からの「合憲」判断を避けており、地裁レベルでは長沼事件一審判決のように、違憲判決さえみられる。教科書の中には、わざわざ違憲論があることを紹介しているものもある。
 このような現状に鑑みれば、自衛隊の憲法明記により違憲論の余地を無くすことには、十分理由があると思われる。

 ●自衛隊に栄誉、自衛官に誇りを
 第2に「自衛隊の保持」と「国を守る」という自衛隊の「本来任務」を憲法に明記することにより、自衛隊に栄誉を、そして自衛官に誇りを与え、社会的地位を高めることだ。
 第3の狙いは、冒頭に「前条の下に」という文言を加えることで、本条が「9条の例外」ではなく、あくまで「9条の枠内」での改正であることを明らかにすることにある。つまり、1つには憲法9条1、2項には手を付けないこと、2つ目には憲法9条をめぐる従来の政府解釈は変更しないことを示すためである(残念ながら、この条件でなかったら公明党は乗ってこない)。
 また、「9条の2は9条と矛盾しないのか」との疑問に対して、現在でも自衛隊は「憲法9条の下に」設置されているのだから、その自衛隊を憲法に格上げしたからといって9条とは矛盾することはないと説明することができる。
 次に、改正によって期待される「効果」だが、この改正案では、残念ながら、自衛隊の「権限」は現在と変わらない。自衛隊は憲法9条1、2項および現行自衛隊法によって行動するのであって、「武器使用」の基準等についても変更は生じない。しかし、その「地位」は大きく向上すると思われる。
 すなわち、先ず、統合幕僚長を始め陸上・海上・航空幕僚長等を、天皇によって認証される「認証官」に格上げすることが期待できよう。また、自衛官の「栄典」「賞恤金」(犠牲者への功労金)等の待遇改善および向上も可能となる(例えば、勲章についていえば、従来、アメリカの大将には勲一等旭日大綬章を授与しながら、統合幕僚会議議長や陸上、海上、航空幕僚長経験者には勲二等瑞宝章しか与えられなかった〔元陸将補で、防衛大学校教授もされた柿谷勲夫氏による〕。犠牲者に対する報償金も、警察官より自衛官の方が少ない)。

 ●自衛隊からも歓迎論
 さらに在外公館の防衛駐在官の地位の向上等、様々な場面でプラスの効果をもたらし、自衛官の士気を高めるであろう。とりわけ、わが国を取り巻く厳しい国際情勢の下、国家国民を守るため、四六時中、第一線において命懸けで任務遂行に当っている自衛隊および自衛官に誇りを与え、その地位や待遇を改善・向上させることは、喫緊の課題である。
 筆者は、改正案の作成に当たり、当の自衛隊関係者の意見に耳を傾ける必要があると考えてきた。報道によれば河野克俊統合幕僚長は、「一自衛官としていえば非常に有難い」と述べ、齋藤隆元統合幕僚長も、「自衛隊の合憲化によって違憲論に終止符を打つのが先決であり、現実的な解決の方向性を真正面から提起した首相のイニシアティブに敬意を表したい」旨、発言している。また、筆者の友人、知人の自衛官や元自衛隊幹部の人達の意見も聞いたが、自衛隊関係者の多くが「憲法改正の第一歩」として「自衛隊の憲法明記」を支持していることは間違いなかろうと思う。このことが、筆者の態度を決める上で大きな意味を持ったことを付記しておきたい。