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2017.08.30 (水) 印刷する

ミサイル上空通過、日本は北に侮られている 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 北朝鮮は29日早朝、西岸から中距離弾道ミサイルを発射、ミサイルは北海道上空を通過して太平洋上に分離して落下した。数日前には短射程の弾道ミサイルを数発、日本海に向けて発射したばかりだ。危険極まりない挑発行為であり、断じて許すことはできない。
 北朝鮮は8月上旬、中距離弾道ミサイル「火星12号」4発をグアム島周辺に包囲射撃すると予告、これに対してトランプ大統領は「世界が見たこともないような炎と怒りに直面することになる」と警告していた。このため北とすれば、日本上空なら反撃されないと判断したと思われる。「方向さえ変えれば、グアムも十分狙える」と誇示したかったのであろう。

 ●多弾頭分離の可能性
 ミサイルは日本海上空で3つに分離したとみられ、多弾頭を分離させた可能性がある。筆者は既に、液体燃料の中距離弾道ミサイルを出現させた軍事パレード直後の4月17日付の本欄で「複数弾頭搭載」と指摘しており、また7月7日付では「次は複数弾頭を搭載したMIRV(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle)の発射試験も行うだろう」と書いた。
 北朝鮮はグアム島を狙う際、ミサイルは中国・四国地方の上空を通過すると予告していたことで、政府は地上配備型の地対空誘導弾PAC-3を上空通過の可能性がある4県に配備していたが、今回は予告なしであり、北海道には配備する余裕がなかった。
 発射後、安倍総理は会見で、「発射直後からミサイルの動きを完全に把握していた」と述べた。事実、前夜に官邸に泊まり、発射直後にトランプ大統領と長時間電話会談していることからすると事前に発射の兆候は把握していた可能性が高い。

 ●発射源への攻撃が最善の策
 弾道ミサイルに有効に対処するためには、発射の兆候を察知した段階で発射源を攻撃するのが最善の策である。ましてや多弾頭に分離する弾道ミサイルであれば、分離した多くの弾頭を迎撃するよりは発射直後に撃ち落とす方が確実だ。
 しかし政府は未だに敵地・先制攻撃を具体化しようとしないばかりか、「専守防衛」政策見直しの検討すらしていない。だからこそ日本は侮られ、これまで5回も上空通過を許しているのだ。「情報の収集・分析」だけで、強力な「対策」がないからではないのか。
 北は核実験の準備も完了したと報じられている。核実験が行われれば、弾道ミサイルの弾頭部に小型化された核が搭載される可能性も高まることになり、一刻の猶予もないはずである。中国やロシアが常任理事国の国連安保理はもちろん、同盟国である米国にも過剰な期待はすべきではない。