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2015.09.28 (月) 印刷する

「インド・太平洋における海上エネルギー貿易への挑戦」国際会議報告(太田文雄)

 国際戦略研究所( The International Institute for Strategic Studies-IISS-)アジア主催の標記会議が平成27年9月21日(月)シンガポール行われ、日本人参加者5名のうちの一人として出席した。

中東での米エネルギー依存減少と中国の依存拡大
 米国がシェルオイルの開発によりエネルギーの中東依存度を急速に減少させているのに対して、中国は益々エネルギーの中東依存度を増し、そのために海軍力をインド洋方面に展開している。こうした中、日本の対応は如何に、中国との海上交通路防衛協力の可能性はないか?といった問題意識から本会議が行われた。
 会議は、ホルムズ海峡・ペルシャ湾、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海の四つの海域に分けて討議されたが、このように国際情勢の急速な変化に伴う海上交通路の安全保障に関して、エネルギーの約8割をこの海上交通路に依存しているにも拘らず、今国会における安保法制がこの観点から余り議論されなかった。
 筆者は米国の中東関与に関して、単にエネルギー依存だけでなく、ISISを始めとする対テロ、大量破壊兵器の拡散問題(イランの核開発阻止)、対海賊等、様々な国益を有しているため中東から軍事的プレゼンスを撤退させる可能性は少ない事、また独立を好む中国との海上交通路共同防衛の可能性は極めて低い事を指摘した。

南シナ海における中国人工島建設の狙い
 南シナ海での中国人工島建設の目的には、勿論域内海上交通路のコントロールという目的はあるものの、永興島と現在の埋め立て海域、そしてスカボロー礁で囲まれる戦略的三角形内の海域を戦略弾道ミサイル搭載潜水艦(SSBN)の聖域とする狙いがあると述べたところ、IISS側から「我々も全く同じ分析をしている」との反応があった。さらに「しかし米軍の分析は中国の晋級SSBNに搭載されている弾道ミサイルJL-2では米本土に到達しないため潜水艦の聖域とするには無理があるとしているが、その点どうか?」とさらに聞かれたので、昨年11月に公表された米中経済・安保委員会の報告書にはJL-2の射程を超えるJL-3と、晋級の後継である唐級SSBNを開発している旨の記述があること、また中国は長期的に戦略を構築していることを指摘した。
 会議を通じてIISS側参加者とは法の支配、国際公共財としての海上交通自由といった共通の価値観でフランクな議論ができた。IISSは、今後中国側の有識者とも会議を設けて意見聴取を行なう予定であるが、中国有識者との議論では共通の価値観で議論はできないであろうと予測される。