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2009.12.28 (月) 印刷する

【詳報】 講演会 「櫻井よしこが若者に日本の未来を語る」

国家基本問題研究所は12月3日、東京・九段会館で青年層を主な対象に、櫻井よしこ理事長の講演会「櫻井よしこが若者に日本の未来を語る」を開催しました。会場には約800人が集まり、「国基研と情報を共有し、国を立て直す力になってほしい」という理事長の呼び掛けに耳を傾けました。講演会は、国基研の活動に賛同する企業・団体・個人のご協力で実現したもので、改めて感謝申し上げます。冒頭、山谷えり子参院議員からの祝電が紹介されました。講演の内容は以下の通りです。

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 人間が他の動物と違うのは、夢を描く能力があることです。夢に向かって努力をすれば、大概の夢はかないます。日本人としての私の夢は、日本が世界の中で適切な評価を与えられる国になり、日本人が日本人の素晴らしさを自覚するようになることです。その時、多くの問題は解決されます。国基研を作りましたのは、この国のために何か良いことをしたい、この国がもっと正しく世界に理解され、若い世代が社会の中核となる時、今よりもっと素晴らしい国になっていてほしい、そんな日本になることができるように力を貸したいと思ったからです。

 日本は今、危機的な状況にあります。心して改革を進めなければ、2、30年後にみじめな思いをします。一日も早く日本を立て直したいものです。
 日本は戦後、他国の影響の下で過ごしてきました。日本に強い影響を与えてきたアメリカと日本は同盟関係にあります。同盟国とは命を懸ける最も重要なパートナーです。
 もう一つ、日本に大きな影響を及ぼす国、中国は隣国で、好きでも嫌いでも近くにいないといけません。人口は日本の10倍です。歴史的に中国はいつも日本の上に立つ国であると自負してきました。

 今、オバマ政権の下で、日本に大きな影響を及ぼすこの二つの国、米中の関係が親密になってきました。今年7月には米中戦略・経済対話が開かれました。
 米中関係は2005年のゼーリック(国務副長官)演説で、劇的に変わりました。ゼーリックは中国に「責任ある利害共有者」になるよう呼び掛けました。利害共有者とは「仲間」「運命共同体」ということです。
 中国はすぐに反応しました。それまで中国は、日本をアメリカから切り離すため、東アジア共同体を日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)でつくり、アメリカを入れない考えでした。これに対して日本は、東アジア共同体にインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えました。インドは人口でいずれ中国を抜く民主主義の親日国です。中国はこれを嫌い、東アジア共同体を考えなくなりました。ほぼ同じ時期、ゼーリック演説を聞いて、アメリカの懐に飛び込んでいったのです。

 米中戦略経済対話はブッシュ政権の2期目に始まりましたが、オバマ政権で格上げされました。経済だけでなく、テロ、安全保障、気候変動など重要問題を解決する枠組みを米中で決めようとヒラリー国務長官が今年2月に提案しました。そこで開かれたのが7月の米中対話です。
 この対話で全く触れられなかったのが「人権」です。ちょうどそのころ、ウイグルで弾圧事件が起きていました。既に中国はウイグル人の土地を奪い、そこで46回も核実験をして、少なくとも19万人が死んだといわれています。女優の夏目雅子さんが白血病で亡くなったのは、現地で三蔵法師役の映画ロケをし、放射能を浴びたためではないか、と札幌医大の高田純教授は指摘しています。

 そのウイグルで7月に弾圧事件が起き、3000人が虐殺されたとウイグル人は言っています。ところが、その時に開かれた米中対話で、オバマ政権は人権について一言も言わない。オバマ大統領も、クリントン国務長官も、ペロシ下院議長も、人権尊重の旗手のはずですが、何も言わない。国際政治には、こうした非情な面があります。
 アメリカにとっては、歴史に残る汚点です。なにゆえに言わなかったのでしょうか。国家は豹変するのです。国益のため。友愛のためにではありません。外交は武器なき戦いの最前線です。どこの国も、そうやって国益と国民を守ろうとするのです。

 アメリカの経済活性化には、中国の協力が必要です。アメリカはサブプライムローンの焦げ付きでおカネが回らなくなり、国債を中国に一番多く買ってもらっています。中国がスポンサーになっている限り、中国に文句を言いにくいのです。
 国家で大切なのは経済力だけでないことを中国は知っています。日本は戦後、アメリカに守られ、軍事の充実を忘れていました。中国はアヘン戦争でイギリスに負けて以来、国が弱いとひどい目に遭うことを知りました。中国共産党は軍事力こそ国家の基本と知って、それを国是にしたのです。毛沢東は、核兵器が外交でいかに有効かを見通していました。

 中国はソ連の没落を見ながら、1989年から21年間、軍事費を毎年2桁伸ばしてきました。こんな異常な軍拡をする国はほかにありません。今や世界第2の軍事支出国になりました。3年前には、中国の潜水艦がアメリカの空母に気づかれずに接近し、あと8キロのところに浮上してアメリカを驚かせました。衛星攻撃実験にも成功し、アメリカの軍事衛星を撃ち落とせる能力があることを証明しました。
 アメリカは中国が強くなりすぎたので、利害共有者として一緒にやっていくことにしたのです。中国の軍拡はどこまで進むのでしょうか。かつて中国の徐敦信駐日大使は「中国は、力のない国がどう扱われるか知っている」と語り、核実験を正当化しました。強くなれるだけなるのが中国の目的です。
 それでは、米中関係の緊密化で日米関係はどうなるのでしょうか。台湾を見れば、日本がどうなるか、ある程度、想像できます。アメリカは中国の顔色をうかがいながら、台湾への武器のリリースを決めています。10年後の日本は台湾と同じになるのでは、という思いがしてなりません。

 そうさせないためには、何をしなければならないのでしょうか。

 鳩山政権は本当におかしいと思います。東アジア共同体については、中国がアメリカ抜きでは成立しないと5年前から言っているのに、鳩山さん(由紀夫首相)や岡田さん(克也外相)は、少なくとも当初はアメリカ排除と言っていました。いかに不勉強かが分かります。
 民主党では小沢さん(一郎幹事長)がおカネと人事権を握っています。12月には、党所属の国会議員140人を連れて中国へ行きます。代表団全体では600人規模で「中国もうで」をするそうです。
 来年1月には、インド洋での海上自衛隊の給油活動をやめます。アメリカの他の同盟国はアフガニスタンに軍隊を増派するのに、日本は引き揚げ、代わりに約5000億円を出すのです。
 湾岸戦争で、日本は1兆7000億円を出しながら、(この戦争でイラクの支配から解放された)クウェートにお礼を言われませんでした。他国が命を懸けて戦う時に、出すのはおカネだけという国が信頼されるはずはないのです。そのことを日本は湾岸戦争で痛感したはずですが、鳩山さんは同じ間違いを再び繰り返そうとしています。
 小沢さんの訪中はまるで朝貢です。日本にとって最も重要な同盟国、アメリカには失礼な対応をしておいて、隙あらば侵略しようとする国に朝貢をするのが今の民主党です。
 アメリカとは一緒に働かず、おカネで済ませる。日本を恫喝し、反日教育で国民を日本嫌いにした中国に卑屈な態度をとる。この理不尽な外交は、国家とは何かを知らないためです。

 国家とは何か。拉致問題を例に取りましょう。数百人が拉致された可能性があるのに、取り戻せない。こんなのは国家でありません。国民の生命、財産を守るのが国家です。力がなければ守れません。軍事力があって初めて外交が生きてくるのです。軍事と外交は車の両輪です。まともな国家はその両方を備えています。戦後の日本はその意味で、到底、まともな国家ではありませんでした。
 この状況から一刻も早く行け出さなければなりません。できれば皆さんに国基研の会員になっていただき、情報を共有し、何をすべきかを具体的に一緒に考える同志になってほしいのです。
 幕末期に日本へ来たアメリカの駐日公使ハリスも、その通訳ヒュースケンも、日記で感心して書いたように、日本は昔から素晴らしい国を築いてきました。
 明治の人は、努力しないと列強に食われてしまうこと、軍事こそ国を守る力であり、これがあって初めて政治・経済が生きてくることを知っていました。明治の人は、日本を世界のトップレベルの国にしました。今の人に欠けているのは、日本人としての心です。歴史を深く学べば、問題は解決します。

 皆さんには、私たちの後を継いでほしい。志を一緒にし、情報を共有し、国を立て直す力になってほしい。日本人として大いなる自信を持ち、気概のない鳩山政権を乗り越え、大いなる夢を描いて、高く飛び立とうではありませんか。(了)