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2010.09.17 (金) 印刷する

【詳報】 月例研究会 「崖っ縁の日米同盟―日本は生き残れるか」(愛媛)

 国家基本問題研究所は平成22年8月28日、愛媛県松山市で月例研究会「崖っ縁の日米同盟―日本は生き残れるか」を開きました。都道府県別では愛媛県の会員数が東京都に次いで多いことへのお礼として開催したもので、会場の「ひめぎんホール」には、近隣の高知県や広島県の会員も含め、約660人が集まりました。開催に全面協力してくださった愛媛銀行(中山紘治郎頭取)の関係者の方々に改めて感謝申し上げます。パネル討論方式で行われた研究会の詳報は以下の通りです。
 

櫻井よしこ理事長 ご当地は『坂の上の雲』の秋山兄弟の故郷でもあります。あの当時、日本人は藩の垣根を越えて明治維新を成し遂げ、国際社会の中でどのようにして生き残っていくかに心を砕きました。そこには何の私心もなく、国家と民族の運命をどう切り開いていくかの一念だけで、あの物語が展開されたのです。平成の今、私たちは同じような思いを抱いています。当時に比べ、日本は大きくなりましたが、生き残るための国家戦略はあるのでしょうか。

田久保忠衛副理事長 日本を取り巻く国際情勢を説明したいと思います。今の国際情勢の特徴は三つあります。第一は、国家が主権を譲り合う共同体が欧州にできてきたことです。今は経済共同体で、政治共同体になるかどうかはまだ分かりません。第二の特徴はイスラム武装勢力による国際テロです。テロを鎮めるシステムを作ることが人類の大きな課題となります。第三の特徴は国益がぶつかり合う状況がアジアにあることです。アジアでは中国が台頭し、その周辺諸国はそれぞれ問題を抱え、米国も一枚加わって、主権国家同士の争いが予見し得る将来続きます。

その中で日本はどうするか。日本という小さな島国で、普天間基地をどこへ持って行くかとか、与党の党首を誰にするかとかで、喧嘩をしている場合ではありません。中国を中心とするアジア・太平洋地域で、日本はどういう構えを取らなければならないかを、与野党の政治家に考えてほしい。

エズラ・ボーゲルはかつて『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本を書きましたが、ウォール・ストリート・ジャーナルは先日、「ジャパン・アズ・ナンバー3」という社説を掲げました。米国に次いで世界2位だった日本の国内総生産(GDP)が中国に抜かれたからです。アジアでは、中国に続いてインドものし上がってきて、いずれ人口で中国を抜き、大国になる。ところが、日本は国内のことばかりやっていて、だんだん内向きになってきた。日本は、強いはずだった経済も、財政赤字、株安、円高でとんでもないことになりつつあります。

米国がアジアの有力プレーヤー(中国、インド、日本、インドネシア)のどこと仲良くするかによって、他のプレーヤーの運命は変わります。もしも米中が仲良くなったら、日本は終わりです。残念ながら中国の政治家は日本の政治家より視野が広く、50 年後、100年後を考えながら政治をやっている。これに対して、鳩山由紀夫前首相は日本を取り巻く国際情勢や日米関係の重要性を顧みず、99%確定していた普天間移設を吹き飛ばした。菅直人首相もこの問題についてどれだけ真剣に考えているのか分からない。世界全体の中で日本はどのへんに位置するかに気付いている日本人が少なくなったと思います。

問題は中国です。中国の軍事費は日本の3~4倍で、海軍が太平洋の第一列島線(琉球諸島―台湾―フィリピン―ボルネオ島)から第二列島線(伊豆諸島―小笠原諸島―グアム―パラオ―ニューギニア北西部)へ進出している。沖縄本島と宮古島の間を中国の軍艦10隻が往復した。それなのに、沖縄の普天間基地は県外に出ていけとか言っている。おかしいと思いませんか。

中国を地政学的にみるべきです。東シナ海では、日中間で天然ガス田の開発や尖閣諸島をめぐって問題がある。南シナ海では、中国が東南アジア諸国との間で2002年に合意した行動基準を3~4年前から破りだし、今年だけでも10回以上ベトナム漁船を拿捕して、銃撃も加え、大きな外交問題になっています。小さな環礁には中国人を住まわせ、守るために海軍が出てくる。海軍の基地は南シナ海の海南島にあり、いずれ空母の大艦隊が配備されます。そのため、軍事力の小さな国は縮こまったままとなります。

さすがに、米国のクリントン国務長官が7月、ハノイの東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムの会議で「南シナ海の海洋自由の原則はわれわれの国益(ナショナル・インタレスト)」と宣言しました。一方、3月に中国の戴秉国国務委員は米国の高官に「南シナ海は中国の核心的利益(コア・インタレスト)」と言いました。中国がそれまで核心的利益と呼んできたのは台湾やチベットなどであり、この発言は南シナ海を自分のものと宣言したことを意味します。中国のコア・インタレストと米国のナショナル・インタレストが正面からぶつかったわけで、この恐ろしさが日本には分かっていないのではないか。

このほかインド洋では、中国は中東やアフリカの資源を海上輸送するため、ミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンなどにカネと人を出し、港湾施設を建設しています。一連の施設はインドを取り囲む「真珠の首飾り」と呼ばれています。

中央アジアでは、カスピ海地域と新疆ウイグル自治区を結ぶ石油と天然ガスのパイプラインが完成しつつある。道路と鉄道もできると、中国を経済発展させる動脈が完成します。13億人民の生活水準を上げるためには、世界中に多少迷惑をかけてもやむを得ないと考える怪物が登場したということです。

中国の企業と労働者は、天然ガス、石油、鉱物、木材の宝庫であるロシア極東部にも出ていっています。

南シナ海の問題ではASEANが米国と協力し、南アジアではインドと米国が接近して、中国に対処しようとしている。ところが東アジアでは、日本が米国に白い目を向けている。日本は無知のため、あるいは意図的に、国益にならない方向に歩を進めているのです。

潮匡人企画委員 北朝鮮の金正日総書記が、訪朝したカーター元米大統領と会わずに中国入りしたのは、中朝の太いきずなを世界に見せつけるもので、最近の合同軍事演習に象徴される米韓の関係緊密化に対抗する動きです。日本が中朝と米韓のどちらの側につくべきか、自明のことです。しかし、8月末までに結論を出すはずだった普天間代替施設の具体的な位置や工法の決定は先送りされ、このままでは、11 月に予定されるオバマ米大統領の訪日の中止という最悪の事態さえ予想されます。日米安保条約改定50周年という本来なら祝賀すべき年に、日米同盟がガタガタになっていることに思いを致すべきです。

経済だけでなく、軍事・安全保障の分野でも「失われた20年」という言葉が当てはまると思います。中国は21年間連続で軍事費を二桁伸ばし、名目額では22倍に拡大するという、世界史に類例を見ない軍拡を続けてきました。その間、日本は国内総生産(GDP)の1%以内という目安の下に、最近では防衛費を逆に削減している。日本の軍事力は既に中国に追い抜かれたと認識しています。

米国防総省が8月に発表した年次報告書は、①中国は国産空母の建造に年内に着手する②海南島の大海軍基地は事実上完成した ③中国海軍は太平洋の第二列島線すら越えて活動範囲を広げつつある―と警鐘を鳴らしています。これは日本や台湾にとっても死活的な脅威だと認識すべきです。

最近会った台湾国防当局の高官は「台湾は今後、太平洋の平和と安定の維持のためにより大きな貢献をしたい」と言っていました。これに対して日本は相変わらず「専守防衛」を唱え、集団的自衛権の行使すらできない。戦後一貫して、日本が攻められたときのことしか考えず、今日に至っています。

昨日、首相の私的諮問機関のいわゆる安保懇(新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会)が、このままではいけないとさまざまな角度から提言を出しました。もっと踏み込んでほしいという気持ちは個人的にないわけではないが、報告書の方向性は基本的に支持できます。例えば、集団的自衛権の問題では、米国に向かっている北朝鮮の弾道ミサイルを日本が迎撃できないとか、米軍艦艇が危ない時に日本は守ってやれないといった点は変えるべきだという報告書の指摘に対しては、政府は何らかの措置を速やかに講ずるべきだと思います。

中国を見習えと言ったら皮肉が過ぎるかもしれないが、防衛費の面でももう少し努力すべきです。財政状況は厳しいといっても、子ども手当の総額は防衛費の総額より多いのです。子ども手当をやめれば、自衛隊をもう一つ作れるのです。それでも財政の余力はないというのであれば、一銭もかからない努力、例えば憲法解釈の修正で集団的自衛権を行使できるようにすべきです。

ウォール・ストリート・ジャーナルが「ジャパン・アズ・ナンバー3」の社説を掲げたのと同じ日に、英国のタイムズは「リーピング・ドラゴン、セッティング・サン」(飛躍する竜、沈む太陽)という社説を掲げました。ドラゴンは中国、太陽は日本を意味します。主に経済力の面で日本が中国に抜かれた事実をもって米英の高級紙がそのような社説を掲げたのですが、冒頭お話ししたように、同じことは軍事・安全保障面でもあてはまると思います。しかし、まだ間に合うのではないか、と私は思いたい。私たちの努力で(この流れを)変えていく必要があります。

島田洋一企画委員 北朝鮮が今の時期にカーターを呼んだ意図は明白です。3月に韓国の哨戒艦が北朝鮮に撃沈される事件があり、オバマ政権は対北朝鮮追加制裁を近く発表します。ところが、カーターは一貫して、制裁は逆効果だと反対してきた人です。そこで、北朝鮮としては、カーターに「制裁を中止すべきだ」と言わせれば、オバマ政権を揺さぶることができたのです。

そのカーターをわざわざ呼びながら、金正日が会わなかったのは、ちぐはぐな対応です。北朝鮮に宥和的なカーターを怒らせて、何も得はありません。カーターが「子供の使い」のような扱いを受けたことに、米外交界は民主党系も共和党系も反発しています。これで、米国から北朝鮮に向けて宥和的な政策が発せられることは当面なくなったと思います。その意味では、(金正日がカーターに会わなくて)よかったと感じています。

本日のテーマ「崖っ縁の日米同盟」に即して日本の政権の問題点を指摘したい。第一は、日米は同盟と言える状況にない、ということです。朝鮮半島有事に際して、日本は米国の同盟国として戦う態勢にありません。いざ有事の時、日本が集団的自衛権を行使できないことを理由に、在日米軍基地から出撃しようとしている米軍機への給油を拒否したり、洋上で撃墜された米軍機パイロットの救助を拒否したりしたら、米国民は日本を同盟国と認めないでしょう。そういうおかしなことは、有事にならないうちに正しておかなければなりません。

民主党政権がやるべき第二の点は、米政府が北朝鮮に宥和政策を取ろうとしたら、はっきり異を唱えることです。米国内は一枚岩ではなく、北朝鮮に圧力をかけるべきだと考える人もたくさんいるわけですから、そういう人たちの発言権が強まるよう、日本も働き掛けないといけない。ところが、ブッシュ政権末期に北朝鮮のテロ支援国指定を解除するかどうかが問題になった時、当時の福田康夫首相が解除を容認するかのような発言をしたため、米国内の解除反対派ははしごを外される形になった。野党だった民主党の有力者も傍観するだけでした。

第三に、北朝鮮問題のカギを握るのは中国共産党です。しかし、菅政権はそれを認識しようとしない。例えば、中国にも拉致被害者がいます。1978 年にマカオから拉致された2人の女性のうち、1人は大韓航空機爆破事件実行犯、金賢姫の教育係をさせられた。つまり、北朝鮮のテロの手助けをさせられた。そのことを中国が認定し、北朝鮮を批判する姿勢に転ずれば、北朝鮮には大打撃となります。日本政府としては、中国がそういう態度を取らざるを得ないところに追い込むことが重要なのに、それをやっていない。

7月にカナダで開かれた主要国首脳会議(サミット)に出席した菅首相は、胡錦濤中国国家主席との個別会談で、拉致問題での理解と協力に「謝意」を表明しました。中国は拉致問題で情報を持っている可能性のある脱北者を北朝鮮に送り返すなど、問題解決の足を引っ張っているのに、謝意を表明するとは情けない。

最後に、菅政権は景気対策の一つとして、北朝鮮の現体制を崩壊させて特需を呼び込むことを考えるべきです。日本は北朝鮮の体制を不安定にするため、いろいろな経済制裁を講ずるべきです。

櫻井 3人の話に共通しているのは、日本やアジア、世界が直面している危機の大本に中国の存在があるということです。中国に対してどのような戦略で臨むかが、日本や米国の浮沈にかかわる大問題です。中国の脅威は、通貨の面でもすさまじいものがあります。中国は1998年に、基軸通貨ドルを持つ米国と同じような経済的強さを発揮できるようにするため、人民元を2025年ごろまでに国際通貨にする計画を立てました。そのための人民元のばらまきと制度づくりが奏功して、日本の企業にもドルでなく人民元で取引するところが出てきました。私たちは通貨の面でも、中国の大国化に巻き込まれているのです。

日本は戦後、軍事を米国に任せ、外交も米国に頼り、経済に専念して第二の経済大国になりましたが、今、中国に抜かれて世界 3 位になったと同時に、日本経済は根底から揺らごうとしているのです。

日本の予算に関して、民主党は一律1割削減の概算要求を出すよう各省庁に指示しました。例外は、子ども手当、農家の戸別所得補償、高速道路無償化など、ばらまき政策の部分です。防衛予算は4兆7000億円ですから、4700億円を削らないといけない。人件費や装備の先払い分などを除いた実質的な防衛費は9300億円しかありませんが、削るとしたらここしかない。9300億円から4700億円をどうやって削るのでしょうか。

中国の脅威の前に、米国もロシアもオーストラリアも韓国も軍事費を増やしているのに、日本だけが減らしている。これで、中国の軍拡による脅威、中国に配慮するあまりの米国の日本離れによる脅威に対処できるはずはありません。

日本は自分で国を守れません。集団的自衛権は行使できず、他の法律上の制約もあって、自衛隊は何もやれないのです。こういう状況の中で、わが国の運命は本当に崖っ縁なのです。この危機をどう打開したらよいのでしょうか。

田久保 防衛費を他のコストと同列に扱うのは間違いです。例えて言うなら、日本という船が中国という暴風雨にさらされている時に、防衛費で船の構造全体を安全にすることをせず、自分の小さな客室だけに国家のカネを使おうとしているのです。

外の暴風雨を無視し、「平和を愛する諸国民」を信頼するのが憲法の姿勢です。現実のアジア情勢は、日本だけが平和を欲し、すぐそばに、軍事力を外交に使ってゴリ押ししようとする国家がいる。なぜ外を見ないのか。ここを直していかないと、とんでもないことになると思います。

 防衛費の削減で、前線部隊は本来の1日3交代制から2交代制になり、悲鳴の声が私のところに届いています。繰り返しになりますが、防衛費を削減しても、子ども手当は出すのです。その額は、空母機動部隊を毎年2個ずつ増やせるほどです。それほど巨額の子ども手当を支出する正当性はあるのか、改めて問いたい。

北朝鮮の潜水艦による韓国哨戒艦撃沈を受けて実施された米韓合同軍事演習に、海上自衛隊はオブザーバー参加しました。オブザーバーの意味は「傍観者」です。日本がそれ以上踏み込めないのは、憲法9条と、その政府解釈による集団的自衛権行使の壁があるからです。日本には、潜水艦を探知し追尾し撃破できる対潜哨戒機が100機近くもあります。その日本が合同演習になぜ正式参加してはいけないのでしょうか。今日できることをしない日本に、明日の中国の脅威に対抗できるはずはありません。

櫻井 米韓合同演習にオブザーバー参加した海上自衛官に、米側は「参加してくれてありがとう」と何度も礼を言ったといいます。この意味合いをどう理解したらよいのでしょうか。オバマ政権も最近ようやく、中国が脅威であることを骨身に感ずるようになり、日本を大事にしないといけないと思い始めた気配もあるのですが。

田久保 米国は日本に対し我慢に我慢を重ねています。米国は中国に「対話と圧力」で臨んでいますが、圧力を構成するのは米国の軍事力強化と、同盟・友好諸国との関係強化です。米国は韓国、台湾、ベトナム、インドなど中国を取り囲む国々との関係を強めています。日本は鳩山政権でこけてしまったが、米国はもう少し我慢して、日米関係の信頼を取り戻したい、というのが海上自衛官を歓待した意味だと思います。

島田 米国の特に保守派は、日本で連帯できる勢力を常に模索しています。自衛官を演習に招いたのは、その表れだと思います。日本も、米国の模索に応えられる政権を早く作らないといけない。

櫻井 日本はどのようにして生き残りを担保するのか、具体的にどこから進めていくか、という提言をお願いしたい。

田久保 (ポイントは)国際情勢への緊張感です。日清戦争後の三国干渉で、ロシアが朝鮮半島に進出してきたことに、秋山兄弟は戦慄するような緊張感を持った。その結果、日露戦争の勝利という大偉業を達成できた。ところが、戦後の憲法体制の下で、辛いことは米国に任せきりとなり、この緊張感がなくなってしまった。米国が日米同盟を切ってくれれば、日本中に緊張感が走ると思います。そこで本当の日本が生まれるのですが、その前に日本はつぶれてしまうのではないか。国際環境の厳しさと、日本があまりに能天気であることの差がいかに大きいかを政治家に知らせることが必要です。そのために国基研をスタートさせ、だんだんと影響力を持つようになってきました。そのことをご報告して、私の具体策の提示としたい。

 米国の国防戦略を 4 年ごとに見直すQDRという報告書の最新版は、いわゆる二正面作戦の概念を放棄し、アフガニスタンでの戦争中は日本防衛に駆け付けることは無理であると事実上宣言しました。また、核戦力に関するNPRという報告書は、原潜搭載のトマホーク核ミサイルを退役させるとし、日本に差し掛ける「核の傘」が事実上なくなることになりました。なぜ日本政府は米国に何も言おうとしないのでしょうか。本当に日本は大丈夫なのでしょうか。

島田 日本は傍観者的でなく、積極的に攻めの姿勢で外交をやっていかないといけないと思います。抑止力イコール攻撃力ですから、日本が北朝鮮に対して、米国からある程度自立した抑止力を持つには、北朝鮮を攻撃できる力(敵基地攻撃力)を持たなければならない。また、北朝鮮政策の王道は、北朝鮮の崩壊を促すことであり、日本が意外な制裁をして金正日に再び脳卒中を起こさせるという「前向き」な政策が必要です。中長期的な効果は分からなくても、瞬間的に金正日が驚く制裁措置なら、何でもやるべきです。

質問 南シナ海では中国の勝手気ままな行動に対して米国は強い態度を取るようになったが、尖閣諸島もある東シナ海で日中紛争が起きた時、米国はどう対応するでしょうか。

田久保 尖閣に中国人が上陸したり、その保護のため中国艦隊が出てきたりしたら、まず日本がこれを排除しないといけない。日本に排除する気がないのに、米国が助けてくれることはあり得ません。南シナ海では、ベトナムもフィリピンも中国と一戦を交えることも辞さない覚悟を示したから、米国が乗り出してきたのです。東シナ海でも、事態の深刻さを認識した日本の政治家が少数でも立ち上がり、国民にも火がついて、燎原の火のように燃え上がってくれたらよい。日本がそういう意志を示せば、米国は本格的に日米安保条約を発動すると思います。

櫻井 仮に米艦隊が東シナ海に出動しても、中国の潜水艦による攻撃が可能なことが分かっている今、日米の側は軍事的に尖閣を守れるのでしょうか。

 自衛隊の実力は「守り」に限定すれば、世界最高レベルです。尖閣であれどこであれ、日本の防衛に大きな不安はありません。特に尖閣の関連では、P3Cを中心に100機近い対潜哨戒機があり、最新鋭のP1もほぼ完成しているので、中国の潜水艦はそれほど大きな脅威ではありません。
一方、中国が南シナ海で島々の支配を拡大しているのは、米軍がフィリピンその他から撤退したからです。普天間をはじめ在日米軍基地が国外移設になれば、同様のことが東シナ海で必ず起きます。(了)

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