公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研 講演会

2011.05.19 (木) 印刷する

【詳報】 月例研究会 「日本は復興する」

国家基本問題研究所は平成23年4月26日、東京・永田町の全国町村会館で月例研究会「日本は復興する」を開きました。登壇者は、櫻井よしこ理事長、政治評論家の屋山太郎理事と、渡辺周(民主)、稲田朋美(自民)の両衆院議員でした。会員359人、一般61人、国会議員8人(前職1人を含む)、議員秘書3人、報道関係2人、役員9人、スタッフ9人の合わせて451人の参加で会場は満席、熱気に包まれました。詳報は次の通りです。

櫻井 大地震、大津波、原子力発電所事故という人類が初めて直面する三重苦の真っただ中に、わが国はあります。どの人物、組織、国家も、危機の時に真価が問われます。残念ながら、少なくとも現時点で、わが国は持てる能力を発揮している状況にありません。

しかし、2600年以上続いてきた、世界に冠たる文明大国・技術大国であるわが祖国が、この災難の中で潰れることを許してはなりません。どうしても復興を成し遂げ、立て直しを実現しましょう。どういうことを念頭に置けば復興を実現できるのかを、屋山さんから。

屋山 私は終戦の時に中学一年生でした。東京大空襲で焼け野原になって、昨日まであったものが全部なくなりましたが、父親の「やり直すしかないだろう」の一言で、物質的な愛着が吹き飛んだ気がしました。3月11日の地震の時、私は電車に乗っていて、ものすごく揺れましたが、乗客は誰も騒がない。その時、戦後のあの時代を思い出して、日本精神は残っているとつくづく思いました。

ゴルフの石川遼が今年の獲得賞金を全部寄付すると発表し、外国でも大きく報道されました。戦後初めて日本人の気持ちが一つになったのだと思います。日本人はいざという時にこうなる、と私は希望を持っています。

過去20年間の日本の停滞は、戦後積み上げてきた既成の制度が硬直化したためであり、(停滞から脱しようと)いくらもがいても駄目でしたが、今回の災害は「災いを転じて福となす」絶好のチャンスだと思います。

東京電力は今、電力を5000万キロワットしか供給できず、夏の最盛期に1000万キロワット不足します。原子力発電所の新設は30年ぐらいできないだろうし、火力発電所を造るにも5~6年かかるので、自家発電をいろいろやっても、電力は足りません。そこで、東電管内の電力を使う企業に、国内での移転を促す政策を取るべきです。

研究開発関係の企業なら関西へ、IT(情報技術)関係なら九州へといった具合に、分散する必要があります。それをせず、東京に一極集中したまま東京が大地震に見舞われると、日本自体の存続が危うくなります。東電の電力供給を無理に増やすのではなくて、出られる企業は出てもらうべきなのです。

甲子園の夏の高校野球は電力使用のピーク時に当たるので、テレビ中継をやめたらどうかという意見もありますが、やめる必要はありません。高校野球は日本人の一体感を醸成する一つの文化です。被災地の高校を皆で応援するのは非常に重要なことです。

二点目は農業の再生です。今、日本の農業は生産性がべらぼうに低い。日本には250万人の農民がいますが、農地規模がフランス並みに大きければ、25万人で今ぐらいの生産ができます。そのくらい効率性のある農業をしないと、現役の農民が年金の保険料を払えず、農村の老人が年金をもらえなくなってしまいます。

農業の効率化には、たった二つのことをすれば足ります。一つは「農地の売買を自由にする。ただし(農地以外への)転用は認めない」ことです。今は農地の売買にくだらない制限があって、高齢化した農民が売るに売れないから、耕作放棄地にしてしまう。今や耕作放棄地は40万ヘクタールとなり、全農地450万ヘクタールの1割近くに達しています。

もう一つは、農業協同組合(農協)の設立を自由にすることです。日本の米価は1俵当たり1万3000円ほどですが、うち3000円は農協にいろいろな名目で取られる手数料です。設立を自由にして商社などが参入すれば、農村の構造改革は一挙に進むと思います。それを日本全国でやると大変だから、非常事態の東北地方だけでもやればいいと思います。

最後に、復興のカネは国が出すが、計画づくりは地元にやらせることです。「東北復興院」という名でも何でもよいが、その仕事が終わる時には、東北地方は道州制の「東北州」になっているという形にして、大きな束で地方分権を進めていく方がよいのではないかと思う。国が全部を決めるのは無駄です。(震災復興を)国の形を変えるスタート台にしたい。われわれは道州制の入口に立っています。

渡辺 屋山さんの言うように、一極集中の分散化は考えなければいけないことです。首都圏の直下型地震や東海地震が起きる可能性から、西日本に行政機能を持った「第二の首都」的なものをつくることは検討しなければいけない。

半面、今回の地震で日本の産業基盤が海外に流出することは阻止しなければいけません。そのためには税制優遇措置も必要になるでしょう。当面の課題は原発事故の収束と復興ですが、中期的には、産業基盤の流出を阻止する方策を考えなければいけないと思っています。

現在、電力の原子力発電への依存度は約3割です。液化天然ガス(LNG)とほぼ同じです。しかし、原発の新設や運転再開で地元自治体の同意を得るのは、かなり先になるでしょう。「脱原発」を言うなら、エネルギー資源をどうするのか。海外に依存するのではなく、日本国として資源を自前で確保することを、政治家は考えなければなりません。

残念ながら、太陽光や風力は基幹エネルギーになり得ません。これら自然エネルギーは日本の電力量の1%にすぎないのです。であれば、(海底資源が眠る)尖閣諸島(の実効支配を強化すること)を含め、資源を確保し権益を守っていくことが絶対に必要です。

第3に、米国から土壌と大気の放射能洗浄チームが近く来日します。既に米国の原子力専門家が30~40人来ているし、海兵隊の放射能特殊部隊も130人ほど入っています。私たちは今回、日米同盟(の重要性)を強く確信しました。米国は核兵器を最初に造った国ですから、やはり核のノウハウを一番持っています。米国との同盟をしっかり考えていかなければいけません。

対日評価は悪化しています。あらゆる誤解、風評が流れて、放射線検査を受けないと日本からの輸入を認めないという国まで出てきました。その間に、中国あたりに市場のシェアを奪われかねないことを考えると、日本政府が国産品の品質確認にカネを出すと同時に、外交力を発揮して、農産物を含む国産品が安全なことを世界中に伝えることが大事です。

周囲にいるのは善良な隣人ばかりではありません。この機に乗じて日本のシェアを奪ってやろうとか、中国のように日本の土地や企業を買いあさろうという国が必ず出てきます。政府も地方自治体も、他国がどんな魂胆で日本にアプローチしてきているのか(警戒を怠ってはなりません)。こんな時だからこそ、しっかり国土を守り、しっかり取引を監視することが肝要であると考えます。

稲田 今回の震災で最も衝撃を受けたのは、原発の事故です。今まで、原発は安全と言われてきました。いったん事故があると原発は長期間止まるとされ、安全性は確認されていると信じていました。

ところが、実はそうではなかったことが分かり、先日、衆院経済産業委員会で海江田万里経産相に「日本の原発の安全性は世界で一番ですか」と聞いたところ、「今まで一番と思っていたが、そうでないことが今回分かった」という答えでした。二番ではだめなのかといえば、やはり二番では困るのです。世界で一番を追求していくのでないと、今の政府に任せられないと申し上げました。

実は原発の技術は世界でどんどん発達しているにもかかわらず、日本は新技術の取り入れに後ろ向きで、屋上屋を重ねるような検査をしているのではないか、ということも今回分かりました。

私の地元の福井県には、福島原発と同じ沸騰水型原子炉、福島とは違う加圧水型原子炉、自民党政権下で推進してきた高速増殖炉の「もんじゅ」という3種類の原子炉がありますが、もんじゅも大変危険性は高いということが今回勉強して分かりました。つまり、民主党政権の対応を責めるだけでなく、自民党がずっと行ってきた原子力政策をきちんと反省する姿勢もわが党に求められているのではないかと痛感しています。

同様に、尖閣だけでなく、資源、領土が外国に取られようとしている問題でも、わが党が領土を守ることを先送りにしてきたことを反省せず、民主党を責めるだけでは駄目ではないかと思っています。

原発事故で電力不足の問題が起きてから、石原慎太郎東京都知事は「夜中に自販機で買ったジュースを飲まないといけないのか。パチンコをしないといけないのか」という趣旨の発言をしましたが、私も基本的に同意見です。

今回の災害で、貪欲に豊かさを求めてきた戦後の生き方を振り返り、謙虚に考え直す機会にしなければいけないと思っています。農業は難しい問題で、改革をしながら(日本の農業を)守っていかなければいけないと思っています。

櫻井 震災が突き付けているのは国家安全保障問題そのものです。私たちが苦しんでいる時に、周辺諸国も動いています。同情の言葉を掛けてくれますが、国家は同情だけで済みません。会場に航空自衛隊出身の宇都隆史参院議員(自民)がいるので、気づいた点を問題提起してくだされば、と思います。

宇都 安全保障の観点から考えなければならないことの1点目は、原子力という国家の存続にかかわるリスクを抱える施設を1民間企業に預けていてよいのかという問題です。原発をテロやゲリラからどうやって守るのでしょう。

現在の法体系では、自衛隊は警護出動等で原子力施設を守れるようにできていません。格納施設は非常に頑丈だから携行ミサイルぐらいでは壊れないという話を聞いたことはありますが、今回の事故で、原発を壊すのにミサイルはいらず、施設に忍び込んで電源スイッチを切ればよいことが分かりました。こんな危険度の高い施設を使っているという認識が必要だったと思います。

しかし、原発は危ないから要らないと言ってしまったら、戦争をするきっかけになる自衛隊は持たない方がよいというのと同じ論理で思考停止に陥ってしまいます。原発を持った上でいかに安全に使っていくのかを考えなければなりません。

もう1点は、陸海空3自衛隊は現在24万人体制でこの国を守っていますが、その半数近い10万6000人が災害現場で任に当たっています。被災地で自衛官が頑張っている姿が日夜報道されていますが、自衛隊は災害派遣のためだけにある組織ではありません。残る14万人がぎりぎりの人数で国防の警戒任務に当たっていることに目を向けてほしいと思います。

現在、ロシアの行動、中国の行動、竹島周辺の韓国の行動が非常に活発になっています。今までの防衛体制が十分だったのかという検証をして、改善につなげられた時に、われわれは初めて後世の人間から災いを転じて福となしたと言われると思います。

櫻井 菅首相も一生懸命にやろうとしていると思いますが、その気持ちと行動が一致しないのが現実です。現実の政治を見ながら、われわれは何をしたらよいのでしょうか。

屋山 震災対応で最もスピード感があったのは軍隊です。自衛隊も米軍も非常にスピードがあった。震災に遭った「民」も(復興への)意欲を見せた。一番もさっとしているのは「官」です。

私は昔から官僚内閣制をやめろと言ってきましたが、官が民の分野に食い付いていると、民は力を発揮できないのです。原子力安全委員会、東電、経産省の原子力安全・保安院といった「原子力村」の人たちは昔から一体となっています。経産省幹部が天下りしている東電を(経産省外局の)資源エネルギー庁が監督することはあり得ません。

民主党が天下り根絶を唱えたので応援してきましたが、成果ゼロですから、これ以上応援できません。(今回の原発事故で)天下りはこういう弊害を生むという証拠が出ました。官僚は退職したら天下りしなくても年金で食えるシステムにしないと、利権あさりは根絶できません。また、民主党には、「脱官僚」とは官僚と話さないことだと思っている人もいます。政治家は官僚の知恵をもっと利用すべきです。

櫻井 日本国が国家としての力を発揮し得ていないことが問題です。菅首相は新しい会議を作るばかりで、実質的な動きをほとんどしていません。形を整えるのに精力を費やして、震災から1カ月半の間に会議が23前後でき、何とかアドバイーザーが36人もいます。こうなると狂気の沙汰ではないかと思うのですが。政府が機能するにはどうしたらよいのでしょう。

渡辺 会議をいっぱい作ると責任が分散され、どこに決定権があるのか分からなくなり、結果として意思決定ができなくなります。今やるべきことは、会議の数を減らし一つにすることです。また、今は非常時ですから、官僚であろうとなかろうと、使える人なら使うべきです。官僚機構には依存しないが、官僚は積極的に使うべきです。

櫻井 それをどうやって実現するのですか。

渡辺 誰が何をしているか分からないことについては、民主党内にも違和感があります。会議を整理することは提言しています。

稲田 「政治主導」自体はよいことです。自民党政権下で官僚にすべてを任せ、大臣はお飾りのようだったのを改め、首相官邸が政治主導をするのはよいことだと思います。ただ、民主党政権がやっていることは全く違います。政治主導と口では言いながら、実際には政治主導ができず、官僚を使いこなすこともできていないのでは。官僚は優秀で、日本随一のシンクタンクですから、それを使いこなさないといけないと思います。

天下りを根絶しなければならない理由は、許認可を与える所管省庁が将来の天下り先の企業に甘くなり、行政がゆがむ恐れがあるからです。原子力問題では、経産省の中に保安院がありますが、院長に質問をしてもまともな答えがほとんど返ってこず、不安になります。これでは保安院でなく不安院です。

政治主導を唱えて、せっかく国家戦略室を作ったのに、何の機能もしていません。

中枢の官僚は、政権交代時に総入れ替えしないといけないのではないでしょうか。つい最近まで自民党の下で働いていた官僚が、民主党に忠誠を誓えると考える方がおかしい。今、中枢の官僚は民主党にそっぽを向いています。菅さんに怒鳴られたり、頭ごなしに言われたりするから、もう菅さんのところに行きたくないというのです。日本の国にとって本当にもったいないことです。そういう基本的なところから、官僚システムを考え直すべきだと思います。

櫻井 わが国のシステムが抱える問題を見ると、日本の再生・復興は並大抵のことではありません。しかし、それは、私たちに働きがいがあるということです。そこで、どこから始めるのがよいか、日本再生の具体案に入っていきたいと思います。

今回の震災で分かったのは、この国で一番機能しているのは自衛隊と警察と消防だということでした。天皇陛下は国民向けのお言葉で、(救援活動の労をねぎらう組織として)自衛隊を一番前に置かれたことで、皇室と自衛隊の壁を取り払ってくださったと思っています。まともな国家には、その基盤に国軍があります。自衛隊を自然災害にも国防にも対処できる国軍とすることが、真の意味での日本再生になるのではないかと思うのですが。

渡辺 憲法の中に「国軍を持つ」と書くのが理想ですが、現実問題として憲法改正のハードルは高いと思います。そこで、安全保障基本法を制定し、その中に、日本は自衛権を有する独立国家だから、当然軍隊を持つということを書き込むべきです。そして、軍隊の任務は領土と国民の生命・財産を守ることにあり、今回のような災害にも対処すると明記すべきです。同じことを考えている議員は民主、自民両党にいるので、近い将来、基本法の制定は可能と確信しています。

稲田 私はやはり憲法改正だと思います。昨年、尖閣問題が起きて、自分の国は自分で守るべきだと考える若い人が増えました。福井の大学で講義をしていますが、憲法改正となると賛成者は減ります。

しかし、憲法には、自分の国は自分で守らないと書いてあり、諸外国の公正と信義に信頼して日本の存立を図ると書いてあると説明し、では中国や北朝鮮やロシアは公正と信義の国ですかと聞くと、皆「違う」と答えます。若い人の意識はどんどん変わってきています。民主党にも私たちと同じ考えの人はたくさんいます。憲法改正は困難な道ですが、尖閣の問題、震災の問題が起きた今だからこそ、政治家が発信すべきだと思います。

櫻井 憲法改正の第一の壁は、衆参両院それぞれ3分の2の賛成で発議すると定める96条です。しかし、この国難を日本国の再生につなげるとしたら、最も難しい課題である憲法改正に挑まずして、どうやって再生できるのか、と思います。

戦後、一つの政党が両院で3分の2を取ったことはないので、国民は事実上憲法を論ずることができない状況にあります。そこで、96条を改正する議論を始めることが国難を克服する第一歩になると思うのですが。

屋山 鳩山由紀夫内閣は反米政策のために支持率が75%から20%へ急落しました。その反対に、国民の外交意識に関する内閣府の毎年の調査で、米国に親しみを感ずる人は、いつも60~70%だったのに、鳩山政権末期に8割に達しました。

一方、尖閣沖の中国漁船体当たり事件を菅内閣が隠蔽したことで、中国嫌いの人が9割に増えました。加えて、今度の震災救援における米軍の「トモダチ作戦」を見て、誰が本当の友達かが国民によく分かりました。国民意識は民主党政権のおかげではっきりしたとも言えます。

仮に国会が9条改正を発議しても、国民投票で賛成は過半数に届かないかもしれません。しかし、民主党と震災のおかげでハードルはかなり下がったのではないでしょうか。今度の震災で国民の心が一つになったのを見ると、戦後の日教組教育は何てことなかったと分かりました。震災以来、国民に希望を持てるようになったので、憲法改正を正面から議論してもよいのではないかと思います。

櫻井 戦後初めて、日本国民は同盟国がいかに頼りになるか、そして、そうでない複数の隣国がいかに注意を要する相手であるか、注意をしないとどこまで付け込まれるかが分かってきたと思います。注意をしても力がないと付け込まれてしまうことも、見えてきた気がします。

中国は外交政策を変えてきている感もありますが、日中関係の進め方について注意点を田久保忠衛副理事長に話していただきたい。

田久保 台湾の李登輝元総統が震災後いち早く日本に忠告をしていました。産経新聞の台北特派員が書いているところによると、「首相が現地を視察する時は官房長官と統合幕僚長を連れて行け」と。これは、日本の国の形をどうしたらよいか、の根本に触れているのです。

自衛隊の最高指揮官である首相の下で、文民と制服組が対等に位置するのが民主主義国のシビリアンコントロールです。戦後、自衛隊は不当におとしめられてきました。これを正すのが憲法改正です。9条をいきなり改正するのが難しければ、96条の改正から入っていくのもよいと思います。

第二に、日本は大震災を「想定外」にしていたことがはっきりしました。他にも想定外にしているのは、戦争と、国際テロとの戦いであります。私は、民主党の姿勢も自民党の姿勢も気に食わない。軍事と外交は表裏一体で、軍事力をバックにごり押しの外交をしてくる国があるでしょう。それにやられた被害は、目に見えなくても大変大きなものがあります。

これを想定外にしておいてよいのか、はっきりさせようではありませんか。国際テロとの戦いについても、日本以外の民主主義国は大きな力を割いていますが、日本は全然考えないで来た。こういう点からも、戦後体制からも脱皮はやはり必要です。

中国のような独裁国では、トップの考えが一夜にして変わります。過去1年余りの間に米中関係と日中関係は非常に悪くなりました。中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)にそっぽを向かれ、インドには反感を持たれています。中国はそれをどうやら悟り始めたようで、一党独裁のオオカミが急に猫なで声を出すようになるかもしれない。それにだまされると、とんでもないことになります。

今回の震災ではっきり分かったのは、日本は米国と組まなければいけないということです。左の立場から日米同盟に反対する人々は雲散霧消するでしょう。保守派の中にも、戦後の連合国軍総司令部(GHQ)の支配に憤慨している人がいます。私もそうです。

しかし、外交というのは「(国家は)いかに生き延びるか」が肝要です。一番強く、価値観が一緒で、経済摩擦は比較的小さい国とけんかするのは愚かです。国家生存の手段としては、米国と組むのが一番いいのです。

はっきりさせておかなければならないのは、李登輝さんのデッサンのように、強い日本をつくることです。そのための手段として日米同盟が一番有効であることを確認しておきたいと思います。「強い日本」と「強い米国」の同盟は理想です。

櫻井 日本にとって大事なのは、米国との関係を大切にする一方で、中露などに対しては、なるべく友好的にしながらも、わが国の立場を強くし、隙を見せない国家になることです。日米、日中、日露関係のほか、日本を一方的に悪者とする歴史観を払拭することも大事です。

渡辺 米国との関係では、安倍(晋三)政権時に示された集団的自衛権の4類型に関して、他国のミサイルが日本上空を通ってグアムに向かって飛んで行ったとき、これを撃ち落とせるかという問題があります。

また、国連平和維持活動(PKO)では、自衛隊の保護下に入った者でなければ(その者を守るため)武器使用ができない、あるいは、公海上で並走している同盟国艦船に敵国が攻撃してきた場合に(自衛隊は)反撃できないという制約があります。同盟国に対して最大限の協力ができるように、これらの問題の整理をすることが第一だと思います。

また、中国の膨張主義の中で、インド、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムなどアジア諸国は皆、領有権をめぐって煮え湯を飲まされています。東シナ海で起きていることが南シナ海でも起きていますが、残念ながら中国を敵には回せない。

ただ、今まで外務省の政府開発援助(ODA)担当者は外国に手みやげ代わりにお金を出してきたけれども、震災の影響もあって(対象を)絞らざるを得ません。それならば、日本と一緒になってアジアの中でやってくれる国に対して戦略的にODAを出して、有効に使うことです。そして、対中国という共通認識を持った上で、アジアの国々と同盟を作らなければならないと考えています。

普天間の問題は、当初は辺野古の宿営地(キャンプ・シュワブ)の中に造るはずだった基地を沖合に出すと言っていますが、私は青い海を潰してまで造るよりも、当初の案で行くべきではないかと思います。

近い日の北朝鮮の崩壊や、空母建造により覇権を狙う中国の脅威を考えて、日本が今まで検討段階で(採用)できなかったものをしっかりと整理していくことです。アメリカとの結び付きは、今回の震災で強くなったと思います。また、国民の理解、世論の支持を得られるだろうと確信しています。

櫻井 憲法改正も、日米同盟の緊密化という意味での普天間問題の解決も、簡単な問題ではありません。それを実現するためには、万人から石を投げられても、自らの政治生命を懸ける、あるいは自らの人生を懸ける覚悟をもってやる人がいなければなりません。(関東大震災後の復興計画を立案した)後藤新平でさえ当時は強く批判されました。今、他人の批判を恐れることなく、わが身をなげうって問題提起のできる政治家がいるのかどうか。

稲田 残念なのは、安倍元首相のおっしゃった「戦後レジームからの脱却」が貫徹できなかったことです。根本的な問題は、憲法の改正にあります。これは困難だけれども果敢にやっていかなければいけないと同時に、既存の法整備の中でも政治家が勇気さえあればできることは多くあります。

例えば集団的自衛権ですが、「持っているけれども行使できない」などというばかげた内閣法制局の解釈を変えれば、日米同盟はより強固なものになります。また、(日本の「植民地支配と侵略」を一方的に謝罪した)村山談話の撤回は不可欠です。

新潟にある中国総領事館の土地(取得)問題も、領事館の設置には政府の許可が必要ですので、あまりに広い土地については許可しないとか、あるいは尖閣の問題も、(日本国民の)立ち入り禁止を解いて自衛隊の施設を置くなど、政治家に勇気さえあれば今すぐできることです。

しかし民主党では、外国人地方参政権に賛成し、自衛隊を暴力装置呼ばわりした人が再び内閣に入り、また、小沢一郎元代表は胡錦涛中国国家主席との握手の見返りに天皇陛下を政治利用しました。

一方で、自民党も(日本とドイツの交流開始150年を記念する)「日独決議」に賛成しています(歴史観の偏りと事実誤認のため自民党議員40人が本会議採決を欠席)。また、(自民党は)韓国への「朝鮮王室儀軌」引き渡し協定に反対はしましたが、その理由を部会できちんと述べたのは宇都さんだけです。日韓併合は違法であって、奪われたものを返させるのだというのが韓国の主張ですが、そんなことを認めれば、国際法上の正義に基づいて解決した戦争被害(の請求権問題)を蒸し返すことにつながる。だから反対だということを、自民党総裁に言ってもらいたいけれども、そこまで行けていないわが党はやはり問題です。

自民党内では主権回復記念日を制定しようという議連ができ、そこに総裁も来て、「戦後レジームからの脱却」を言うのであれば、今私が申し上げたことに本気で取り組まなければならないと思います。

櫻井 憲法を論じること、国のあり方を論じること自体が、単に国内の体制を変えるということだけではなく、海外に対して、中国に対しても米国に対してもそれぞれ深い意味を持つメッセージを伝えることになります。それが、回り回ってわが国の安全保障の土台を堅固にすることにつながっていくのだろうと思います。

最後に、被災者をどうやって助けていくのか、具体論をお話しください。

屋山 後藤新平さんは帝都復興院総裁になって4日目に4原則を出し、地主の権利を制限することと、予算を国家予算の2倍に相当する30億円とすることを盛り込みました。それは大風呂敷と言われ、結局は5分の1ほどになりましたが、風呂敷が小さくなっても同じ方向性を示すのがリーダーです。菅首相は、お座敷を10個作って皆に考えさせています。そこまではいいのですが、「責任は自分が取る」と言わないから、誰も動かないのです。

私は今回の復興に、30兆~40兆円という税収と同じくらいの金がかかると思っています。それ(を賄うに)は、不景気の時に増税するのは経済学の常識から言ってあり得ないので、災害復興無利子国債を発行し、それを買った人は相続税を減額することにすれば、タンス預金が何十兆円も出てくると思います。

また、まとまったお金を渡して好きに使ってもらうようにできる特別立法が必要だと思います。地域によって、必要なものは全く違います。ある地域は漁船を買って港を整理し、ある地域では誰も住まない土地を買収して、家を建てるという場合もあるでしょう。国が干渉せずに地域に任せればいい。霞が関で計画を立てては絶対に駄目です。まず金を出して、後で精算してもらうというやり方で、40兆~50兆円の無利子国債を出すのがいいのではないかと思っています。

櫻井 日本の個人資産は借金を引くと1100兆円弱あります。無利子国債を買えば相続税を減額するという恩典があれば、多くの人が持っている東北を助けたいという気持ちも充足させられ、魅力が増します。1000兆円の1%が出てきたとしても10兆、2%でも20兆、10%なら実に100兆も出てくるので、財源として大きなものになります。そこには夢もあるし、具体的に計画が進んでいくのではないでしょうか。

そのようにして復興を成し遂げ、片方では憲法改正問題をきちんと論じ、他方で日米同盟を強めていく。中国に対しては友好的に振る舞うけれども、わが国が今弱っている状態につけ込むことはゆめゆめ許さないという固い意志を見せていく。

ロシアに対しても同様です。韓国とは仲良くしたいけれど、竹島にあまり無理無体なことはするな、というメッセージも送っていく。こういうことを内外共にしっかりとやっていけばわが国は必ず再生できると思います。会場の皆さんからのご質問、ご意見をお受けします。

質問 10年ほど前、上智大学の渡部昇一先生が論文に、「憲法は占領下に作ったものだから、無効だとして破棄して作り直せばいい。憲法がなくなったら困るということであれば、代わりに明治憲法を使い、その間に新しい憲法を作る」と書いていましたが、それは今、無理でしょうか。

稲田 例えば、戦後に国会決議で「教育勅語」を廃止したように、国会決議で憲法廃止の宣言をする、あの憲法は主権が制限されていた占領下に押し付けられたものだから、そもそも正当性に問題があり無効であるという宣言をするというのは、理論的には考えられます。ただ、現実問題として、戦後この憲法を使い続けてきた事実からすると、それを国民に理解してもらうのは難しいと思います。

渡辺 私の持論では、日本の近代史・戦後史は必修科目にすべきです。近代史を知らずして、真の国際人にはなれないし、今の社会を変えていくこともできません。占領下にどういう経緯があったのか、今はややもすると日本の国の生い立ちが全く分からない、憲法がどうなっているかも分からないということがあります。明治以降130年の日本近代史を必修にして、日本について話せる、あるいは分かっている日本人をつくることが必要ではないかと思います。

櫻井 会場の西川京子(前自民党衆院議員)さん、憲法改正についてご意見があればお伺いします。

西川 占領下で、国際法上認められていない、戦勝国が押し付けた憲法を日本は受け入れてしまいましたが、ドイツは見事にこれを拒否して、独自の憲法を作りました。当時の政治家などがどういう思いで受け入れたのか、本当に細かい事情は私には分かりません。

その中で戦後、「お天道様が見ているから悪いことはしてはならない」といった、日本人の最も大事で基本的な道徳観が学校教育の中で全く教えられてきませんでした。いわば心を育てる教育は全くなおざりだったといってよいと思います。この10~20年、親殺し子殺しなどいろいろなことが起こり、国民の多くがどこかで「日本人は大丈夫なのだろうか」という思いを持っています。

その日本人の持っている一番大事なもの、一番素晴らしいものを、今回の震災で肉親を失い、最も厳しい状態にある人たちが、私たち日本人に気付かせてくれたのです。日本の2000年の歴史の中では戦後の期間はわずかです。

保守というのは、何千年も培ってきた国柄の中で受け継がれたものを守ることだと思います。ここ数十年で出てきた思想的なもので変わっていくなどというのは国家ではない、と私は思っていますので、今回はチャンスではないでしょうか。まさに「禍転じて福となす」で、日本の常識は世界の非常識と、マイナスの意味でずっと言われてきましたが、むしろ積極的に日本の常識(道徳観や自然観)を世界の常識にすべく発信して行くべきでしょう。

そのためには安全保障の問題も含めて、国家再生の基本である憲法改正を目指すべきであり、この時に憲法論議を始めなかったら、これから永久にできないと思います。

質問 近代日本は、明治維新、日露戦争、大東亜戦争、そして今回の東日本大震災と、四つの大きな国難に出合っています。その国難を乗り切らなければいけない時に、かつて市民運動をしていた人が日本の国をどうマネージできるのですか。自分を捨てて日本の国を救おうという人を中心に大同団結して、本来の政治をやっていただきたい。今、政治家は全く(本来の)政治をしていません。櫻井先生を中心にやっていただきたいと思います。

櫻井 私は国家基本問題研究所に大変な責任があるので、ここで頑張ります。民主党も自民党も駄目、国民が知りたいのはこの国難を具体的にどうやって政治の力で乗り切っていくのか、というご意見でしたが。

渡辺 被災地では、がれきだらけの小学校のグラウンドを、両親が涙を流しながら自分の子どもの手掛かりを探しています。その姿を見ると、「国会で政争に明け暮れている人たちは一体何なのだろうか」と思います。

私自身はそういう運動に一切関わっていませんが、とにかく今やるべきことは震災復興であり、日本中・世界中のあらゆる英知を借りてそこにすべてを投入する。それ以外のことは生死の問題ではないから後回しでもいい。今、厳しいご指摘をいただきましたが、私たちはそういう認識ですし、他党にも呼び掛けている
ところです。

稲田 私は先日被災地へ行き、政治の役割とは何だろうと考えました。それは、「日本は大丈夫だ。皆さん方が今必要だと思うことを、思い切ってやってください。その責任は国家がきちんと取ります」というメッセージを出すことだと思います。それには、自民党も民主党もありません。トップのメッセージ発信が重要ではないかと思います。

櫻井 渡辺さんが問い掛けたことは、全員が共有している疑問だと思います。政治にしっかりしてほしい、菅さんに本当にやる気とアイデアがあるのなら応援したい、この混乱の中で総理大臣を替えることは一層の混乱を招くということで、最初の1カ月ほど様子を見ていましたが、この政権ではかえって混乱が長引き、立ち直れないのではないかと思い始めました。

今、一番大事なことは、とにかく原発事故を抑え込むことです。それなしには復興もできません。しかし、政治がリーダーシップを取って、現場を信用しながら、米国の手も借りながらしているかというと、どうもそうではない感じがします。

では、具体的に私たちがどのように介入していくのか。菅首相を引きずり下ろすのか、それとも原発だけ切り離して担当部署をつくって、そこにすべてを任せるのか。いろいろなやり方があると思いますが、やはり民主、自民の心ある人たちの団結によって新しい動きをつくっていくことだと思います。ただ、派閥争いになりがちで、本当のことが理解されない、目指す方向に行かないかもしれないのが難しいところです。

渡辺 原発事故については米国やフランスから専門家が来て、4~9カ月で安定化させるという東電の工程表作成にも関わっているといわれています。そこは、変なプライドは捨てて、考え得るすべての地球上の英知を集めてやるべきことをやっています。

政界再編について、首相にリーダーシップがないといった世論はわれわれもよく分かっています。ただ、どこかの段階までは菅首相にやってもらうしかない。しかし、政治は結果責任ですから、本人がしかるべき形で決断されると思います。直ちに明日、明後日どうなるという話ではありませんが、ある程度の原発事故の収束を考えることが最優先です。

質問 日中関係の1000年以上の歴史に対して、日米関係はまだまだ浅い。いろいろなことを考えた上で、同盟関係を考えていくべきではないかと思います。

櫻井 日本と中国の関係は、聖徳太子の時に初めて日本国が周辺諸国の中で対等な関係を結んだのです。その後、文化の交流はありましたが、基本的に中国とはほどほどの距離を保って、日本は日本文明を築き上げてきました。日本と中国が(関係を)再開するのは、やはり明治維新後です。そのように考えると、文化文明で言えば多くのものを共有していますが、かといって、中国とそれほど深い関係があるという認識でなくてもいいのではないかと私は思っています。

屋山 石平さんという日本に帰化した方の『私はなぜ「中国」を捨てたのか』という本によれば、彼が1980年代に北京大学にいたころは、中国は非常に親日的だったそうです。日本がお手本のようにされていて、彼も中国を日本のような国にしなければならないと思い、日本に留学したそうです。90年代に入ると、日本人は残酷でどうしようもないということが流布され始めました。

もしそれが本当で、中国人が戦争の記憶をずっと持っていたのなら、80年代にけろりとなくなるはずがなく、彼が言うには、それは中国共産党の反日教育の結果なのです。ですから、日中関係が昔はよくて今は悪くなったというのではなく、その関係を利用して権力を掌握している人たちがいるということではないかと思います。

質問 今の無能な内閣を替えるのはいつ頃がふさわしいか。いつ不信任案を出すべきだと思いますか。

稲田 菅首相の下では、国民は絶対に一つになれません。菅首相が総理大臣である限り、日本の復興は無理だと思います。なぜなら、家族も地域社会も国も、守ろうという強い意志がないと守れないからです。菅首相は、守ろうという強い意志のあるリーダーではないのです。だから、一日も早く退陣していただきたいし、(民主党と自民党の)大連立には反対です。なぜなら、国家観の違う人と一緒に改革はできないからです。ですから、私は、解散・総選挙は原発問題の見通しが立てばすぐにやるべきだと思っています。

櫻井 会場の皆さんのご意見から伝わってきたのは、とにかくこれは国難であり、何とかしたいにもかかわらず、現実が動いていない。そのためにわれわれは何をしたらいいのかという、一種の憤りと熱意であったように思います。私たちは、危機をチャンスにするということを忘れずにいたいと思います。

私たちは国会議員ではありませんから、菅さんをいつ辞めさせるかということについて具体的に動くことはできませんし、国家基本問題研究所も政局の先端を走るなどという働きはしないつもりです。それは、私たちの仕事ではないと思っています。しかし、この国難をどうにかてこにして、どんなに落ちようが必ず這い上がってみせる。日本国が素晴らしいモデル国家となって、国際社会に範を示すことのできる高みに必ずもう一度立ち上るのだという決意で頑張っていきたいと思います。

神様は乗り越えられる人にだけ困難を与えるのですから、決して希望を失わず、日本国はこの困難をばねにもっと素晴らしい飛躍をするようにというメッセージと受け止めようではありませんか。(了)

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