2024年3月の記事一覧
リンクしている欧州、中東、アジアの紛争 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
ウクライナ・ロシア戦争は膠着し、中東ではイスラエルによるイスラム原理主義組織ハマスへの攻撃が止まらず、中国は台湾が実効支配する金門島海域に海警船を常駐させ、フィリピン船には嫌がらせを行っている。日本の報道では、こうした世界各地の紛争が個別に伝えられているが、3者はリンクしていると捉えることが妥当であろう。 過去にも連動の事例 2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を併合した際、中...
基地跡地利用を視察する能天気な知事 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
2月2日から3日間、玉城デニー沖縄県知事はフィリピンの米軍基地が返還された後の跡地利用を視察した。在比米軍基地が返還されたのは冷戦終結直後の1991年であり、台湾有事が予測される現在と国際情勢は全く異なる。 台湾有事の際の住民保護に責任を有する県知事としては、基地跡地利用の視察よりも、沖縄県民保護の実動訓練を優先すべきではないのか。 米軍を撤退させて後悔した比軍 1991年にフィ...
トランプ政権復活可能性に戦々恐々の欧州 三好範英(ジャーナリスト)
米大統領選挙は、トランプ前大統領が共和党大統領候補指名へ向けて大きく前進し、予想される民主党のバイデン大統領との一騎打ちでも勝って、政権に復帰する可能性が現実味を帯び始めている。ウクライナ支援の停止を示唆し、かつて北大西洋条約機構(NATO)からの脱退にも言及したトランプ氏が大統領に返り咲いたら、欧州の安全保障に甚大な影響を与えることは不可避だ。欧州各国は戦々恐々と、大統領選の行方を注視している。...
トランプ政権復活は双務同盟への機会 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
今年の米大統領選挙の共和党候補決定へ向けた1月15日のアイオワ州党員集会で、ドナルド・トランプ前大統領が圧勝し、次期大統領に選出される可能性がますます否定できなくなってきた。 トランプ氏といえば、現職の大統領だった2019年に「米国は日本が攻撃されれば戦うが、米国が攻撃されても日本はソニーのテレビで見ていられる」と発言したことで有名である。この発言は片務性の同盟に甘んじている日本に対し「健全...
日本は「安保ただ乗り者」になるな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
新年早々、能登半島地震と、救済に向かう海上保安庁の航空機と日航機の衝突事故が起き、メディアは関連報道ばかりである。一方で、昨年12月23日にはインド洋で日本企業所有のタンカーが攻撃された。1月3日、米政府は日英など12カ国と共同声明を出し、各国商船への攻撃を続けるイエメンの親イラン武装勢力フーシ派に警告を発したが、声明で攻撃をやめる相手ではない。 12月23日のタンカー攻撃の後、インド海軍は...
商船護衛不参加なら湾岸戦争の二の舞いに 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
イスラエルを訪れたオースチン米国防長官は12月18日、イエメンの親イラン民兵組織「フーシ派」による船舶攻撃が続いている紅海周辺で各国の商船を護衛する多国籍部隊を発足させ、護衛活動を「繁栄の守護者作戦」と命名した。米軍主導の海洋安全保障の枠組み「多国籍海洋部隊(Combined Maritime Forces=CMF)」の下で、紅海とアデン湾を活動海域とする「多国籍任務部隊(Combined Tas...
米中首脳会談後も赤い警告灯は消えず 湯浅博(国基研企画委員兼研究員)
先の米中首脳会談による「雪解け」ムードにもかかわらず、台湾海峡から南シナ海にかけての海域ではなお、赤い警告灯が点滅している。 11月15日にサンフランシスコ近郊で開催された首脳会談で、習近平中国国家主席は台湾に対して軍事行動をとる計画はない―との心強い誓約を披歴した。それから4日後の19日、中国空軍の戦闘機、早期警戒機など9機が台湾海峡の中間線を超え、これまで通りに台湾を威嚇した。これら空軍...
自衛隊ポジティブリスト法体系の弊害 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
11月19日、イエメンの親イラン民兵組織「フーシ派」は紅海で日本郵船が運行する自動車運搬船を拿捕した。また25日には、アラビア海でマルタ船籍の貨物船がイラン製無人機による自爆攻撃を受けたとの報道もあった。イスラエル・ハマス戦争が継続する限り、こうした事案が将来とも生起する可能性がある。アデン湾に海賊対処のために海上自衛隊は護衛艦や哨戒機を派遣しているが、2011年をピークとして海賊件数が減少してい...
対中情報戦と主権防衛で後れを取る日本 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
11月18日にオーストラリアのマールズ副首相兼国防相は、日本の排他的経済水域(EEZ)内で潜水作業をしていた豪海軍フリゲート艦に中国駆逐艦が14日にアクティブソナー(音波探知機)を作動させ、潜水員の耳を負傷させる危険な行為をしたと公表した。 これより先、フィリピン政府は9月26日、フィリピン漁船の漁を妨害するため中国の海警や海上民兵によって設置された障害物を沿岸警備隊が撤去したとして、その画...
海底インフラの防護担当に防衛省も 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
11月11日の産経新聞は、先月バルト海で起きた天然ガスパイプラインと通信ケーブルの破壊に「中国船が関与か」「意図的の疑いも」と報じた。本年2月に台湾と離島の馬祖列島間を結ぶ通信用の海底ケーブルが切断されたことは10月10日の「ろんだん」で「誰が海底ケーブルを防護するのか」と題して記述したが、我が国の徳之島でも、今年1月に海底ケーブルが断線したことによりインターネット接続、電子決済ができなくなるとい...
台湾軍と自衛隊の直接交流を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
岸田文雄首相は11月3日、フィリピンのマルコス大統領との首脳会談に臨み、4日にはフィリピン議会で演説して「自由と法の支配を守り抜く」との決意を示した。5日にはマレーシアでアンワル首相と首脳会談を行い、自衛隊とマレーシア軍、海上保安機関間の共同訓練など海洋分野の協力強化で一致したと報じられている。日本から台湾、フィリピン、マレーシアに連なる第一列島線の防御を強化するための外交と評価される。また10日...
政府認定者だけが拉致被害者ではない 荒木信子(韓国研究者)
21日、東京都庁前の都民広場で「『お帰り』と言うために〜拉致被害者・特定失踪者家族の集い〜」(主催=特定失踪者問題調査会、後援=東京都・特定失踪者家族会)が開かれた。 集会の主要部分は、政府認定拉致被害者と特定失踪者の家族の訴えだった。39名の被害者と失踪者の家族約50名がスピーチをした。被害者、失踪者は写真の中で時が止まったように若いが、その親の世代はもう上京が難しく、きょうだいも高齢化し...
ハマスの奇襲はイスラエル情報機関の失敗か 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
イスラム武装組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃したことに関して、イスラエル情報機関の失敗とする論調が多い。真相は未だ判明していないが、過去に「インテリジェンスの失敗」(Intelligence Failure)」と評されたことが実際には「政策の失敗」(Policy Failure)であったことが多かった事実を指摘したい。 「失敗」とされる事例の実態 今世紀初頭に起きた「インテリジェンスの...
イスラエルを見て我が国を正せ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
イスラム武装組織ハマスの攻撃に対するイスラエルの対応を海外メディアで見るにつけ、我が国に欠落している重要な幾つかの点を感じる。 それは戦っているイスラエル兵士の為の献血に何時間も待って祖国のために貢献しようとする一般市民の姿であり、海外に長年住み続けているユダヤ人が家族を現地に残して予備役の招集に積極的に応ずる姿である。 日本では「戦争になったら逃げろ」と説く人物が保守系テレビ番組のレ...
誰が海底ケーブルを防護するのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
日本は海外とのインターネット通信の99%を海底ケーブルに頼っているため、ケーブルを切断されれば、通信上の鎖国状態となる。それほど重要なインフラであるにもかかわらず、その防護を政府機関のどこが担当しているのか明確になっていない。 平成11年に定められた総務省設置法の3条には任務として「情報の電磁的方式による適正かつ円滑な流通の確保及び増進」が明記されているので、総務省の所掌といえる。 本...
首相推奨のカットオフ条約は時代遅れ 奈良林直(東京工業大学特任教授)
国連総会出席のためニューヨークを訪問した岸田文雄首相は9月19日、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約=FMCT)ハイレベル記念行事に出席し、以下の趣旨のスピーチをした。 「私は、唯一の戦争被爆国・日本の責任ある政治家として、また被爆地広島出身の首相として、いかに道のりが遠く厳しくても、『核兵器のない世界』に向けた歩みを着実に進めていきたい。しかし、現在の国際情勢に照らせば、...
修学旅行は産業遺産情報センターへ 瀬尾友子(産経新聞出版編集長)
加藤康子氏(国基研企画委員)がセンター長を務める東京・新宿の産業遺産情報センターは、端島炭坑(軍艦島)で話題になることが多い。NHK番組「緑なき島」に代表される史実に反する報道や、それを基にした韓国や日本のメディアによる「戦時労働者の嘘」の拡散だ。 だが、産業遺産情報センターの見どころはそこではない。世界遺産「明治日本の産業革命遺産」を紹介したセンターには、メディアが報じない、そして教科書が...
NHKに改めて望む公平・公正性の確立 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
9月19日、東京・新宿にある産業遺産情報センターを櫻井よしこ理事長はじめ国基研の有志約10名が訪れ、加藤康子センター長(国基研企画委員)の案内で見学した。同センターは一言で言えば、明治の日本人が開国以来の短期間で産業立国を築いてきた足跡を全国23カ所の「産業遺産」でたどる展示である。その遺産の一つとして長崎県の端島炭坑(俗称・軍艦島)が展示されている。 軍艦島での朝鮮人虐待を捏造 昭和...
対馬市の核ごみ処分場調査請願の意義 奈良林直(東京工業大学特任教授)
9月12日、長崎県の対馬市で、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場の選定に必要な「文献調査」の受け入れを促進する請願が市議会で採択された。調査に応募するかどうかの最終判断は比田勝尚喜ひたかつなおき市長に委ねられており、27日までの市議会会期中に判断すると見られる。 文献調査は処分場設置に必要な調査の第1段階で、既に北海道の寿都すっつ町と神恵内かもえない村...
露朝軍事技術移転は継続協議か 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授)
9月13日、ロシア極東部の宇宙基地で北朝鮮の金正恩総書記とロシアのプーチン大統領が会談した。多くのマスコミは、この会談で北朝鮮からロシアへの武器提供が決まるかのように報じていた。しかし、すでに7月末のロシアのショイグ国防相訪朝時に、ロシア軍がウクライナ戦争で使う自動小銃、砲弾、ロケット砲弾、地雷、冬用軍服などの提供は合意が成立し、自動小銃10万丁をはじめとする引き渡しが実際に始まっていた。金総書記...
小泉訪朝から21年で思うこと 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)
平成14(2002)年9月17日、小泉純一郎首相が北朝鮮を訪問した。あれから21年、当時「救う会」全国協議会の事務局長だった私にとっては、ついこの間の出来事のように感じられる。しかし今、私が大学で教えている学生はそのころ生まれた子たちである。最近取材に来る若い記者さんも当時小学生だったとか、もうそういう時代になっているのだ。私たちの世代が共有しているあの日の衝撃は、歴史の彼方に遠ざかりつつある。 ...
国交相は常に公明党で良いのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
9月13日に第2次岸田再改造内閣が発足した中で、国土交通相がまた公明党から出ていることに疑問を感じる。民主党政権が終了した2012年から約10年、連続して国交相は公明党である。公明党の若手の中には、防衛大学校准教授であった人物などもおり、その主張に違和感を覚えないこともあるが、党全体としてはいわゆる「平和の党」として自民党の安全保障政策の足を引っ張る主張が目立つ。そのうちの特に2点を指摘したい。 ...
中国は露朝「ならず者同盟」に参画するか 名越健郎(拓殖大学特任教授)
北朝鮮の金正恩総書記がロシア極東を訪れてプーチン大統領と会談し、軍事協力の強化で合意したことで、露朝の連携が今後、東アジアに脅威をもたらすのは間違いない。やや距離を置く中国が露朝に同調し、「三国枢軸」を築くかどうかが焦点になる。 露は大量破壊兵器技術供与に慎重 筆者らが最近オンラインで会見したロシア人の朝鮮問題専門家は、ロシア軍がウクライナ戦争の兵力不足を補うため、北朝鮮軍を義勇軍とし...
安倍派新体制に萩生田氏の覚悟を問う 有元隆志(月刊正論発行人)
自民党最大派閥の安倍派(清和政策研究会)は塩谷立・元文部科学相を「座長」とする集団指導体制を8月31日に発足させた。新たな意思決定機関として、松野博一官房長官、萩生田光一党政調会長、世耕弘成参院幹事長らいわゆる「5人組」を中心とした15人の「常任幹事会」を設置した。 安倍晋三元首相の暗殺から1年以上経っても次期会長を決めることができず、「安倍派」の名称も残った。安倍元首相に近かった衛藤晟一元...
要警戒のBRICS拡大、背後に人民元浸透作戦 田村秀男(産経新聞特別記者)
ウクライナ戦争勃発後、先進7カ国(G7)による対ロシア制裁にくみしない発展途上国が「グローバルサウス」と称されるようになり、存在感を増している。G7とロシアの対立で中立を装う中国はこの機に乗じて、中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカの新興5カ国で構成するBRICSを踏み台に、人民元決済のグローバルサウスへの浸透を狙う。 中国の策略が部分的にせよ結実したのが、8月24日、南アフリカのヨハ...
中東欧の対中脅威認識が変化 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
8月20日から1週間、チェコの首都プラハで米国防総合大学(NDU)が主催した卒業生の安全保障セミナーに参加した。当初ルーマニアの首都ブカレストで行われる予定であったが、ウクライナとの国境付近にロシアのミサイルが飛来するに及び、急遽プラハに変更された。約100名の卒業生が参加した。 8月20日はソ連軍による1968年のチェコスロバキア(当時)侵攻の55周年に当たり、開催に協力したチェコ国防省・...
中国の「時限爆弾」に対処する日米韓合意 湯浅博(国基研企画委員兼研究員)
迫りくる独裁国家群の脅威は、歴史的な不和を引きずる民主国家を強力な結束へと導いた。8月18日、ワシントン郊外の米大統領別荘キャンプデービッドで開催された日米韓3カ国首脳会談は、覇権主義的な中国に対して軍事面の「抑止」と経済面の「リスク回避」で結束することで合意した。北朝鮮、ロシアと枢軸関係にある中国が、差し迫った衰退によって対外強硬策へ向かう危険性があるだけに、日米韓が「インド太平洋を越えた協力」...
核抑止論は破綻せずウクライナで立証された 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
6日の「原爆の日」、広島市の松井一実市長は平和記念式典で「核抑止論は破綻している」と訴えたが、ウクライナ戦争で核抑止論は逆に立証されていると言える。 米の支援小出しは露の核への恐れ 米国のジョー・バイデン大統領は、ロシアのウクライナ侵攻が迫っていた2021年12月の段階で、本来、曖昧にしておくべきであった米軍派遣を「検討していない」と述べた。これがロシアのウラジミール・プーチン大統領を...
NATOやインドと進む軍事協力 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の反対によってNATOの東京連絡事務所設置が「将来検討」となってしまった。 しかし7月末には、航空自衛隊の宮崎県新田原基地でフランス航空宇宙軍の主力戦闘機ラファール等と空自が共同訓練を行い、同軍参謀長ミル大将も訪日した。また6月には、沖縄東方海域で日仏米の海空軍が共同訓練を行い、日本からヘリコプター搭載母艦...
安保3文書の進捗状況を監視する仕組みを 江崎道朗(評論家・麗澤大学客員教授)
昨年12月、岸田文雄政権は、「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定し、防衛力の抜本強化に乗り出した。 今回の国家安全保障戦略の特徴は、防衛力を抜本強化するだけでなく、防衛力以外の方策も明確に打ち出していることだ。日本を守る力は防衛力だけでない。次の五つだと同戦略は指摘している。 日本を守る五つの力 第一に外交力。ロシアによるウクライナ侵略でも明らかなように、友好国、同志国を...
プーチン大統領が朝鮮戦争参戦を認めた意図 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授)
7月27日の北朝鮮の朝鮮戦争「戦勝」70周年記念閲兵式にあたり、ロシアのプーチン大統領が祝辞を寄せた。訪朝したショイグ国防相が持参した。その中でプーチン氏は「数万回の戦闘飛行を遂行した飛行士を含むソ連の軍人も、朝鮮の愛国者と共に肩を組んで戦いながら、敵の撃滅に重みのある寄与をした。この過程に結ばれた戦闘的友誼の歴史的経験は、高貴な価値を有しており、政治と経済、安全分野においてロシアと朝鮮民主主義人...
「防衛白書」から「安全保障白書」に格上げすべし 織田邦男(国基研企画委員・麗澤大学特別教授・元空将)
7月28日、令和5年度版防衛白書が公表された。昨年12月の国家安全保障戦略(以下「安保戦略」)など3文書の決定後、初めて刊行される白書である。 初めて安保戦略を策定した2013年以降、約10年間における安全保障環境の変化や、我が国の防衛力強化の取り組み、3文書決定に至った経緯や概要を本文の前に特集している点、また、防衛省が主管官庁である国家防衛戦略(以下「国防戦略」)について、本文とは別に特...
最高裁トイレ訴訟判決めぐる問題点 松浦大悟(元参院議員)
体は男性、心は女性の経済産業省トランスジェンダー職員が女子トイレを使用させてほしいと要求したところ、勤務するフロアから2階以上離れた女子トイレの使用しか認められず、人事院に処遇の改善を求めたものの退けられたため国を訴えていた裁判で、最高裁はトイレの使用制限をした国の対応は違法だとの判決を出した。 この訴訟は個別事案であり、直ちに公共施設全体に適用されるものではないという補足意見は付いたが、既...
英の高温ガス炉開発と日本の国際貢献 奈良林直(東京工業大学特任教授)
英国は、脱炭素の切り札として原子力利用の政策を鮮明にし、中でも高温ガス炉に着目して、「新型モジュール炉(AMR)研究開発・実証プログラム」を進め、2030年代初頭までに高温ガス炉の実証炉の運転開始を目指している。 日本原子力研究開発機構(JAEA)と英国国立原子力研究所(NNL)のチームが、英国の高温ガス炉実証炉プログラムの基本設計を行う事業者として採択されたことが、7月19日に報じられた。...
ドイツの「対中戦略」が持つ意味 三好範英(ジャーナリスト)
ドイツのオラフ・ショルツ政権は7月13日、ドイツ初の「対中国戦略」(以下「戦略」)を閣議決定した。 従来、ドイツにとって中国は、市場や投資先といったもっぱら経済的関心の対象でしかなかったが、2000年代の中ごろ、中国資本によるドイツ先端企業の買収を直接のきっかけに、政治、安全保障における負の側面も無視できなくなってきた。中国が権威主義の価値観と体制を強化し、グローバルな影響力を増大させるのに...
進む印仏の軍事協力 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)
インドとフランスの軍事協力が進んでいる。インドのモディ首相は7月14日、フランスの革命記念日パレードに主賓として招待され、同日マクロン仏大統領と首脳会談を行った。今年は「印仏戦略的パートナーシップ」の25周年に当たり、共同声明では、防衛・安全保障や経済、エネルギーなどの分野で協力を進めていくことへの相互認識が示された。併せて、印仏関係の今後25年間の将来を示す「ホライズン2047:印仏戦略パートナ...
中国が狙う自衛隊の分散 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
7月20日から4日間の日程で中露統合軍事演習「北方相互作用(Northern Interaction)2023」が日本海で実施された。今回の軍事演習は、これまでのように中露の軍艦が単に並行して航行するといったものではなく、二つの点で大きく進化していることが特徴である。一つ目は、日本海に面する基地を持たない中国人民解放軍が、ロシアのウラジオストク近郊にある航空基地にY20輸送機、KJ500早期警戒機...
スウェーデンNATO加盟の軍事的意義 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟は、トルコのエルドアン大統領が容認に転じたことで実現する運びとなった。バルト海のゴットランド島がスウェーデン領であることから、ロシアの飛び地であるカリーニングラードに司令部を置くバルチック艦隊への監視能力が高まり、かつバルト海がNATOの「湖」になるとするメディアの論調が多い。しかし筆者は、こうした地理的な利点に加えて注目すべき3点を指摘したい。 ...
ワグネル反乱が呼び込む中露枢軸の劣化 湯浅博(国基研企画委員兼研究員)
ロシアの軍事会社ワグネルがモスクワに反旗を翻した時、ロシアの「無制限」のパートナーである中国は、控えめな反応に終始した。予測不能なロシアに対しては、過去の経験から静観する方が妥当であるとの慎重な判断からだろう。ただ言えることは、習近平中国国家主席がプーチン・ロシア大統領を支える「賭け」のリスクが、これまでよりも高くなってきたということだ。 即座の反応を控えた中国指導部 クーデターへの早...
中国軍事研究の第一人者・平松茂雄先生を追悼する 黒澤聖二(国基研事務局長)
7月5日、現代中国研究の泰斗、平松茂雄先生が逝去された(享年87歳)。一つの時代が過ぎたという寂寥せきりょうの感を禁じ得ない。 平松先生は静岡県浜松市で昭和11年に生まれ、慶應義塾大学大学院政治学専攻博士課程を修了(法学博士)。防衛庁防衛研究所研究室長を経て、杏林大学教授として多くの学生を指導された。筆者も先生の教えを受けた1人で、海上自衛官として市ヶ谷で勤務していた時、大学院研修の誘いがか...