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湯浅博

【第196回】「強い日本」に憲法96条の先行改正は必須

湯浅博 / 2013.06.03 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 湯浅博

 

 戦うべき時に攻めの姿勢を放棄すれば、政局運営の主導権が離れていくことは憲政の常である。自民党が参院選の公約原案に憲法改正の発議を定める96条の先行改正を盛り込まず、守りに入ってしまった。安倍晋三首相は憲法改正で「強い日本」にするとの決意を前面に打ち出して参院選に臨もうとしていたのではなかったのか。

 ●揺らぐ指導力への期待感
 安倍首相は96条の厳し過ぎる憲法改正の発議要件を、衆参各院の総議員の「3分の2以上」の賛成から「過半数」に緩和することを参院選の争点に考えていた。だが、96条を先んじて改正することに批判の声が出ると、「国民の支持が高いとは言えない」と釈明するようになった。自民党内に選挙に不利という誤判断が蔓延し、公明党の消極姿勢や日本維新の会の失速も背景にある。
 選挙が近づくと萎縮してしまうのは、第一次安倍内閣の時に惨敗した参院選へのトラウマなのだろうか。いま国民が求めているのは、民主党政権が掲げた「生活が第一」や「新しい公共」などという空疎なキレイゴト政治ではない。東日本大震災や尖閣諸島の危機に直面して、国家主権と国民の生命を断固守ろうとする政治指導力である。安倍首相には小手先の甘言ではなく、臓腑に応える決断力が欲しい。
 自民党の公約原案には「国防軍の保持」など骨太の公約のほか、「発議要件を衆参それぞれの過半数に緩和」が掲げられているが、先行改正は明記されていない。7割に達する安倍政権への支持率は、経済改革のアベノミクスと合わせて、強い政治への期待感である。96条をまず改正しなければ、憲法の他の条項の改正は極めて難しい。96条の先行改正を公約に盛り込まなければ、首相への信頼が揺らぐ。

 ●事実上の改正阻止条項
 もともと96条は、日本が二度と米軍に逆らうことのないよう、憲法草案に改正しにくい仕掛けを織り込んだものだ。「憲法とは、国家権力を縛る法である」という古い憲法観を掲げる護憲派にとっては、この改正条項が格好の改正阻止条項になった。彼らは、改正手続きを厳格にしないと政権が変わるたびに憲法が改正される、と煙幕を張る。
 だが、国会が両院の「総数」の過半数という発議要件を満たすことは容易でない。米国も上下両院の3分の2以上の賛成で発議できるが、実は定足数(過半数)の3分の2で足りる。つまり、総数のわずか3分の1を超える賛成があれば、発議は可能なのだ。
 両院の総数の3分の2以上の賛成と、国民投票が必要な日本国憲法の改正こそが世界一難しいのである。自民党は参院選のトラウマにおびえることなく、自立日本の「国のかたち」をつくるという政権の大義を貫いてほしい。(了)