公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第200回】シリア問題の重要性に目を向けよ

田久保忠衛 / 2013.07.01 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 一貫してオバマ大統領を支持してきたリベラル系のニューヨーク・タイムズ紙としては異例だと思う。6月16日付の1面で、オバマ外交が世界中から冷ややかに扱われていると批判的な記事を書いた。特に2期目に入ってからのオバマ大統領は海外での戦いに巻き込まれたくないとの気持ちが強く、大事な局面での判断はどうしても腰が引けてしまう。ただし、6月に北アイルランドで開かれた主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)で最大のテーマとなったシリア問題に関する限り、オバマ大統領の優柔不断は正当化できる。

 ●内戦を民主化運動と錯覚する愚
 2010年秋に始まった「中東の春」については、中東や北アフリカの独裁政権を民主主義に目覚めた大衆が直接打倒する美しい運動と錯覚する向きが、とりわけ米リベラル系のジャーナリズムに多い。同じくリベラル系のオバマ政権は、①「中東の春」の延長線上にシリア内戦を位置付けた②さりとて米軍の直接介入は嫌なので、昨年夏に「レッドライン」(譲れない一線)を設定し、シリア政府がそれを越えた時に米国は行動することにした③6月にシリア政府軍が化学兵器のサリンを使用し、レッドラインを越えたことが証明された④やむを得ず反政府勢力に武器を提供することにしたが、最小限の援助にとどめた―という経緯をたどってきた。
 共和党のジョン・マケイン上院議員と民主党のビル・クリントン元大統領はオバマ大統領の消極性は怪しからんと息巻いているが、この2人にも米軍を直接介入させるつもりはさらさらない。

 ●化学兵器がテロ組織に渡る危険
 オバマ大統領の態度が辛うじて正当化できる第一の理由は、「中東の春」は奇麗事で、シリア問題には別の性格があるとの疑問があることだ。シリアの事態は内乱であって、アサド政権が反政府勢力を含めた市民10万人を虐殺したと一方的に決め付け、政権側の犠牲者を数えないのは公平でない。第二に、アサド大統領が悪逆無道であったにせよ、2年3カ月以上も戦いを続けていられるのは、ロシア、イラン、レバノンの武装組織ヒズボラの支援に加え、多くのシリア国民の支持を得ているからではないのか。第三に、米国をはじめとする民主主義諸国の最大の関心は、アサド政権が化学兵器を使用する危険よりも、反政府勢力が権力を握った途端に化学兵器が国際テロリストの手に渡る危険が大きい点にある。現に、国際テロ組織アルカイダは反政府勢力に加わっていると見られている。
 G8サミットで安倍晋三首相がシリア問題で中立的立場を取ったことは国際政治上重要な意味を持つ。アベノミクスと北朝鮮にしか目が向かない日本のジャーナリズムは不勉強だ。(了)