公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第240回】核のオプションは放棄できない

湯浅博 / 2014.03.31 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 湯浅博

 

 西太平洋の海洋覇権を狙う中国が、対米核戦略がらみで南シナ海を聖域化することが現実味を帯びてきた。米太平洋軍のロックリア司令官が3月25日の上院軍事委員会の公聴会で、中国は射程7500キロ以上の長距離弾道ミサイルを搭載した潜水艦を年内に完成させるとの見通しを明らかにしたからだ。
 米議会の諮問機関である米中経済安全保障調査委員会はすでに、中国が戦略ミサイル原潜を開発し、海南島を基地とする配備計画があることを報告していた。今回のロックリア証言では、「おそらく年末までに、初めて海洋配備の核抑止力を持つ」と配備の時期を明示した。司令官が指摘するのは、弾道ミサイル「巨浪2型」(JL2)搭載の新型「晋」級戦略ミサイル原潜(SSBN)と見られる。

 ●中国ミサイル原潜年内完成の波紋
 このニュースは日本であまり注目されなかった。しかし、中国が敵に探知されにくい潜水艦配備の核ミサイルを持ち、米国の核攻撃に報復できるようになれば、核戦力における米国の対中優位が揺らぐだけでなく、SSBNが潜航する南シナ海が「中国の海」になることを意味する。
 中国は2013年版の国防白書(同年4月発表)で、核兵器を相手より先に使用しないとする「先制不使用」の記述を削除し、「核兵器による攻撃を受けたときには核ミサイルを使用し、断固として反撃する」と決意を表明していた。この頃から報復核攻撃能力を獲得する自信ができてきたものと見られる。
 冷戦期のソ連はオホーツク海に核ミサイル原潜を配備し、米海軍を近づけさせない聖域とした。これによってソ連は米国と同等の核抑止力を維持することができた。中国がフィリピンなどと領有権問題で対立する南シナ海を「核心的利益」と主張しているのも、彼らの聖域化戦略と無縁ではなかろう。

 ●西独首相の知恵に学べ
 中国が対米報復核攻撃能力を持てば、日本を守る米国の「核の傘」の信頼性が弱まったと中国は考えかねない。すると、日本を標的とする中国の中距離核ミサイルが不気味な存在になる。
 冷戦さなかの1975年の欧州で、当時のソ連が東欧に中距離核SS20を配備したことがあった。この脅威を受けて西独のシュミット首相らが米国に働きかけ、1984年から米中距離核のパーシング2の配備で対抗した。やがて米ソは中距離核の相互撤去で合意する。
 いまの日本が中国の中距離核を深刻にとらえているとは思えない。中国は日本が核兵器保有のオプションを取らないよう、米国などから研究用に提供された高濃度プルトニウムを危険視するキャンペーンを展開してきた。安倍晋三首相は3月下旬のオランダ・ハーグでの核安全保障サミット直前に、これら核物質の返還を明らかにした。結果的に、中国の核を抑止する日本のオプションの一つが中国によって打ち砕かれたことにならないか。
 日本としては、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」という非核三原則の三つ目を「撃ち込ませず」に変更して、シュミット方式で中国の中距離核を撤去させることも視野に入れるべきであろう。(了)