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湯浅博

【第245回】日本の国家目標を世界に伝える憲法要綱英訳版

湯浅博 / 2014.05.07 (水)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 湯浅博

 

 憲法を国民の手に取り戻すことを狙いに、産経新聞が「国民の憲法」要綱(起草委員長・田久保忠衞国基研副理事長)を世に問うて1年が過ぎた。今度はその英訳版を出して、なぜ、いまの日本に新しい憲法が必要なのかを内外に訴えている。「性奴隷」や「戦争神社」など日本を貶める言葉が中韓に使われる現状に対し、この英訳版で「日本がいかなる国を目指しているか」が世界に正確に伝わるだろう。

 ●外国識者が憲法改正に理解
 日本は海を隔てて中国、ロシア、北朝鮮という核保有国や核開発を進める重武装国家に囲まれている。とりわけ、尖閣諸島で国家の領土と主権が日常的に脅かされる現実がある。ところが、現行憲法の中核をなす「戦争の放棄」条項は、戦闘を封じる抑止力を阻害し、国家の自立にタガをはめている。要綱ではこれを民主国家で一般的な「国防」条項に改め、軍の保持によって「独立自存の道義国家」へ道を拓(ひら)いた。
 要綱英訳版を読んだ英エクセター大学のジェレミー・ブラック教授は、憲法は恒久的に変えてはならないという従来の護憲主義を「世間知らずの幻想である」と断じた。むしろ、占領下で書かれた現行憲法を、日本が「現状に合わせて改正するのは主権国家として健全で合理的なことだ」と評価した。インド政策研究センターのブラーマ・チェラニー教授も「日本の憲法は米国人に押しつけられたもので、しかも一度も修正されていない。奇妙なことだ」と述べて、改正を推奨する。両氏とも改憲反対派との言論戦を歓迎し、「その議論こそが民主国家の証し」と歓迎している。

 ●期待される論議の高まり
 日本はサンフランシスコ講和条約により主権を回復した段階で、憲法改正を目指すべきであった。それは日米同盟があっても、決して矛盾しない。むしろ、日米安保条約に自立性と双務性を加味して、真の同盟につながっていくからだ。
 護憲勢力はいまだに、第9条のおかげで日本が戦争に巻き込まれずに済んだと世間を欺いている。日本が戦争に巻き込まれなかったのは、欠陥憲法の穴を埋める日米安保条約で米国の軍事力が控えていたからだ。日本はこれまで、9条2項を「平和主義」と読み替え、非核3原則と専守防衛で安全神話をつくった。実際には兵器システムの発展で、攻撃力なき防御は難しい。しかも、「集団的自衛権は保持しているが行使できない」という理不尽な政府解釈により、国連憲章が認める権利行使まで否定した。戦後の日本は、自ら主権を守るための抑止力を破壊してきたといえる。
 「国民の憲法」要綱は「軍の保持」を明記することでそうした不毛な議論を排除した。同時に要綱は、15条で「国際平和を誠実に希求」しつつ「国際法規に従って、国際紛争の平和的解決に努める」と国際協調を誓っている。要綱英訳版をきっかけに、日本が真の主権、独立、名誉を取り戻すための憲法改正論議が高まり、それが改正推進のテコになることを期待する。(了)