公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第279回】安倍首相は日本のチャーチルたれ

田久保忠衛 / 2014.12.29 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 国際情勢の1年間の推移を回顧するに当たって、勝海舟が述べた「着眼大局、着手小局」(物事を大局的に見て、小さなことから着手する)がいかに大切かを改めて痛感している。12月25日に国家基本問題研究所は米国、中国、インドの戦略家を招いて「戦後70年―国際政治の地殻変動にどう対処するか」をテーマに久しぶりの国際シンポジウムを開催した。中国の国際政治学者が直前になって欠席を伝えてきたが、どうしてそうなったのかの詮索はどうでもいい。自由に意見を表明できる民間の地政学者が、当面の問題を扱う役所の立場を超えた大局観を話し合った。

 ●米の指導力低下
 討議に参加した立場から所感を述べると、国際秩序は、①戦後の米ソ両陣営が対立した冷戦②ソ連崩壊後に現出した米国だけが飛び抜けた一極時代③中国が地域大国から世界大国を目指し、米国が国力の相対的衰退(中国、インド、ブラジルなどの国力増大)の中で指導力を低下しつつある現状―へとゆったり変化してきた。
 米国のオバマ政権が残り2年間で「世界の警察官」に復帰するとは考えにくい。とすると、中国とは軍事衝突を回避しつつ、日本などとの同盟関係を強める2路線方式を続けないわけにはいかない。中国も、米国との間で「新型大国関係」を築きつつ、近隣諸国に対しては経済関係を強め、時には恫喝外交を推進するだろう。

 ●「核の傘」の幻想
 日本は、引き続き米国との関係強化を図りつつ中国に対応しなければならないし、現に安倍政権はその通りを実践しているが、問題は米国だ。登壇した米国のウォルドロン・ペンシルベニア大学教授が提示した「東京が攻撃されたときに米国は核兵器を使用して同盟関係を守るか」との疑問はリアリズム(現実主義)の核心を突いていると思う。
 核兵器を自国の防衛以外に使うバカな国があると思うかね、という設問に日本の政治家はどう回答するのか。中国の軍事的脅威にどう対応するかの問題と、米国はぎりぎりの瀬戸際で日本を助けてくれるかどうかを、日本はこれから自らに問い続けていかざるを得ない。
 このような議論は役所レベルではとうてい行われない。きょう、あすの問題をいかに利口にさばいていくかの作業を続けている向きにとっては、あまりに「現実離れ」しているとしか考えられまい。意識しているかどうか知らないが、日本の政治家は役所に引きずり込まれている。チャーチル(元英首相)やドゴール(元仏大統領)の着眼は大局的であり、哲学が備わっていた。安倍晋三首相には日本のチャーチルになってほしいのだ。(了)