公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第284回】諜報組織の創設を

太田文雄 / 2015.02.02 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 今年に入って、イスラム過激派による欧州のテロ事件と日本人人質事件が発生した。これらの事件を通じて感じるのは、普通の国にはあって日本にはないインテリジェンス(諜報)組織の必要性である。
 インテリジェンス源は大別するとヒューミント(HUMINT=人的情報)、シギント(SIGINT=信号情報)、ジオイント(GEOINT=地理・空間情報)、オシント(OSINT=公開情報)があるが、日本にはヒューミントの専門組織が欠落している。このため、事件発生のたびに他国に人質救出へ協力を求めなければならない。
 インテリジェンス活動は、相手の情報を取得する行動であるが、相手も我が国の情報を取ろうとするので、それを阻止するのがカウンター・インテリジェンス(防諜)活動である。日本にはカウンター・インテリジェンスを専門とする組織も欠落している。
 
 ●日本に欠落するヒューミント
 今回のようにテロ組織を相手にする場合、専門的なテロ組織であればあるほど電話等で交信しないため、シギントの収集手段で活動を察知することは難しい。電話等で交信する場合でも、移動式のシギント探知装置とアラビア語等を解する語学要員の養成が必要であるが、こうした機能も我が国には欠落している。
 また偵察衛星や航空機から察知できないように、活動は屋内等で行うであろうから、ジオイントで収集することも困難であろう。従って、昔からの手段である人によって情報を収集しなければならない。米国の中央情報局(CIA)、英国のMI6、フランスの対外治安総局(DGSE)、イスラエルのモサドのような、突撃作戦も遂行できるヒューミント組織は我が国に存在しない。
 こうしたインテリジェンス組織がなければ、人質の居場所を突き止め、解放するといった作戦は遂行できない。ヒューミントを主任務とする首相直属のインテリジェンス組織の設立が望まれる。
 内閣官房には内閣情報調査室があるが、同組織は主としてオシントの分析で、ヒューミントまでは行っておらず、しかも上級職は各省庁からの寄せ集めである。内閣情報調査室に本籍を置く生え抜きの上級職員の採用と終身雇用により、勤務者に誇りを持たせることが必要である。

 ●防諜組織も必要
 フランスでの新聞社襲撃テロ事件の直後に、ベルギーでは過激組織をテロ実行直前に急襲し、事件の未然防止に成功した。おそらく国内で電話等を傍受してテロ組織の全体像を把握し、決行直前を狙って逮捕したものと思われる。
 こうした任務はカウンター・インテリジェンス組織でなければできないので、各国とも専門の組織を持っている。英国には2006年の航空機同時爆破未遂事件でテロ集団を一網打尽にしたMI5があるし、イスラエルにはシンベットがある。米国では国内でテロを起こしそうな人物の交信を「愛国者法」により傍受できるが、日本では個人のプライバシー保護の観点から、そうしたことはできない。カウンター・インテリジェンス組織の設立とともに、そうした法律の制定も急務である。(了)