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石川弘修

【第313回】地道な努力を励ます第2回「日本研究賞」

石川弘修 / 2015.07.06 (月)


国基研企画委員・事務局長 石川弘修

 

 国家基本問題研究所が昨年創設した「寺田真理記念 日本研究賞」の第2回受賞者が決まった。
 今回の日本研究賞には、愛媛大学法文学部人文学科のエドワード・マークス准教授の「レオニー・ギルモア:イサム・ノグチの母の生涯」が、日本研究奨励賞にはハワイ大学マノア校のデイヴィッド・ハンロン教授の「Making Micronesia: A political biography of Tosiwo Nakayama」(ミクロネシアをつくる トシヲ・ナカヤマの政治的経歴=邦訳なし)がそれぞれ選ばれた。推薦委員などから推薦された40点余の候補作品から選ばれたものだ。

 ●マークス愛媛大准教授らが受賞
 マークス准教授の「レオニー・ギルモア」には、彫刻家の息子イサムや、イサムの父で日本人の詩人、米次郎の陰に隠れていたイサムの母で、米国人女性のレオニー・ギルモア(1873~1933年)の人生が、母と息子や娘との間で取り交わされた手紙や、関係者の証言、資料館に保存されていた書簡など膨大な資料を駆使して描かれている。
 別の女性の元に走った米次郎の裏切りに苦しんだ日本での生活、日本人排斥が広がる米国でシングルマザーとして生きる厳しい生活の中にあっても、イサムを芸術家として育てる信念は日米文化の相違を乗り越えて揺らぐことがなかった。経済的に恵まれなくても決して惨めにならなかったのは、強い精神力があってのことだろう。「母親の愛情を芸術にまで高めた女性」との評価も作品の中で紹介されている。
 一方、奨励賞を受賞したハンロン教授の「ミクロネシアをつくる」は、日本人の父親を持つナカヤマが、西太平洋の広大な領域を占める島嶼群をミクロネシア連邦として独立国家にまとめ上げ、自ら初代大統領に就任、8年間にわたり国を導いた過程を追っている。ナカヤマは、日本との絆を意識し、米国という巨大な存在を相手に、島嶼国家の存在価値をいかに高めていくかを考えていた。南方の島々への日本の関心を改めて呼び覚ますきっかけになる作品ともいえる。

 ●地味な研究に光
 マークス、ハンロン両氏とも、地味な調査、研究が認められたことは意外だったようで、「感謝したい」と率直に喜びを表した。特にマークス氏は、翻訳者が手弁当で協力する苦境にあっただけに喜びもひとしおで、賞金の1万ドルを翻訳者と分かち合いたい、と言う。日本研究賞が、国境を越えた地道な努力を一層励ますことになることを切に願いたい。
 国基研では、歴史認識や安全保障・外交問題、価値観そのものをめぐる国内外の間違った議論に対してはシンポジウム、意見広告、「今週の直言」などを通して反論を展開しているが、その一方で、日本への深い理解を示す海外の研究や作品が僅かであっても存在することを喜び、そうした作品に日本研究賞を贈り続ける決意を新たにしている。(了)