公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第341回】同時テロが東京で発生したら…

太田文雄 / 2015.12.14 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 パリの同時テロを受けて、政府は海外のテロ関連情報を収集する「国際テロ情報収集ユニット」を約半年前倒しして立ち上げた。しかし、同組織で関連情報を入手したとしても、適切な対応ができるであろうか。

 ●法制上の不備
 まず、11月のパリ同時テロの直後、フランスのオランド大統領は非常事態を宣言したが、日本国憲法には緊急事態条項がないので、国家の緊急時に政府が適切な対応をするためのルールが存在しない。
 また、2000年の国連総会で「国際的な組織犯罪の防止に関する国連条約」が採択され、重大な犯罪の共謀(実行しようとする具体的合意)などを犯罪とすることを締約国に義務付けている。しかし、日本では共謀罪を新設する組織犯罪処罰法改正案が国会に過去3回提出されたものの、いずれも廃案となっている。このため、パリ同時テロのような組織的かつ重大な犯罪が計画段階で事前に察知されたとしても、内乱陰謀罪などの構成要件に該当しない限り、処罰することができない。
 さらに、平成11(1999)年に成立した通信傍受法に基づく措置も、原則として犯罪実行後に裁判官から出される傍受令状に基づいて行われるため、テロを未然に防止するための傍受はできない。今回パリでは最初のテロを発生させてしまったが、フランス政府は第二のテロを未然に防ぐことができた。しかし、日本で同様のテロが起きた場合、対応が全て後手に回りかねず、二次被害を防止することは難しい。
 テロ対策のための法改正には人権擁護団体などからの反対が予想されるが、政府は来年の参院選挙を前に世論の動向が気になるからといって、テロ対策を怠るべきではない。

 ●有効なテロ対策は?
 パリ同時テロ後の日本のテレビ番組を見ていると、「『イスラム国』に対する空爆の強化は報復の連鎖を生むために、かえってテロを拡散させる」という類いの評論が多かった。しかし、戦闘員の訓練施設や資金源となっている石油施設を空爆で破壊することは戦闘力を削ぐための外科手術として極めて有効な手段である。同時に内科的な手段としてテロを生む社会を改善するための努力は行わなければならないが、効果が出るまでには相当時間を要する。
 NHK番組で、ある解説委員が「テロを生み出す主な原因は格差」と発言、別の解説委員が「6月に東海道新幹線で発生した〝焼身自殺テロ〟も犯人の経済的不満が原因だった」と応じていた。しかし、2001年の米同時多発テロを首謀したウサマ・ビンラディンは経済的不満の全くない大富豪であった。
 さらに付け加えるなら、2020年の東京五輪の競技会場選定に当たり、テロ対策が十分に考慮されたのか疑問がある。例えばトライアスロンやビーチバレーなどが行われる予定のお台場は住民が少ないので、大病院が存在しない。大規模なテロ事件が起きれば大量の負傷者を医療施設に搬送し治療しなければならないのだが、適切に対応できるのか不安を感ずる。(了)