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西岡力

【第347回】 北朝鮮の核に対し自前の抑止力を検討せよ

西岡力 / 2016.01.12 (火)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

 

 北朝鮮が4回目の核実験を行った。日本の安全保障にとって重大な危機だ。核兵器に対する最大の抑止力は核兵器だ。日本は世界最大の核保有国である米国と軍事同盟を結び、いわゆる「核の傘」に入って抑止力を保持している。今回の核実験直後の日米電話首脳会談で、オバマ大統領から「あらゆる手段で日本を守る」という確認があったという。
 しかし、2014年12月、国家基本問題研究所が主催した国際シンポジウムでアーサー・ウォルドロン米ペンシルベニア大学教授は、核の傘の保証は信じられないとして、次のように警告している。
 「ワシントンは日本が攻撃されたら、必ず守ると公言してきました。しかし、アメリカ人として、私はこの言葉を信じません。アメリカは同盟国を守るために本当に核兵器を使うでしょうか。答えはノーです」
 そしてウォルドロン教授は、日本が「最小限核抑止力」(核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を常時1隻航行させ、自国が核攻撃されたら相手国に報復できる態勢)を持つことを提案した。

 ●北の実験目的は核兵器の小型化
 北朝鮮の核開発は1950~53年の朝鮮戦争の直後に最高権力者金日成の肝いりで始まり、1960年代以降に本格化したもので、北朝鮮軍事戦略の中枢に位置する。多くの専門家が語るのとは違って、冷戦崩壊後に体制維持のため核武装をしたのではない。
 北朝鮮は、朝鮮戦争で勝てなかったのは在日米軍基地があったからだと総括している。次に戦争をする時には、核を含むいろいろな手段で在日米軍基地を攻撃して機能不全にするとともに、核ミサイルで日米両国の政府と国民を威嚇し、在日米軍の参戦を妨げようともくろんでいる。
 その観点からすると、今回の実験目的は「水爆」開発ではなく、既に彼らが保持している核爆弾をミサイルに積めるよう小型化するためだったと分かる。北朝鮮の最終目標は米本土に届く核ミサイルを実戦配備することだ。そこから逆算すると、今回、中国などとの関係が悪化してもどうしても実験をしなければならない技術的課題があったと想像される。従って、小型化に有益な技術として2重水素、3重水素を使った強化型爆弾の実験を行った可能性は十分にある。

 ●日本は北朝鮮の核攻撃圏内
 2015年2月、米ジョンズホプキンス大学のジョエル・ウィット研究員は「プルトニウム型核兵器は中距離ミサイル・ノドンや長距離ミサイル・テポドン2号に搭載するのに十分なほど小型化された」と主張していた。ノドンは実戦配備されており、今や日本本土は北朝鮮の核攻撃圏内に入っていると思うべきなのだ。
 脅威とは能力と意思のかけ算である。既に北朝鮮は日本を核攻撃する能力を持った可能性が高く、指導者金正恩は衝動的かつ攻撃的性格で日本を攻撃する意思がある。日本は抑止力をいかに持つか真剣に考えるべきであり、今こそウォルドロン教授の提案を真剣に検討すべき時だ。(了)