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髙橋史朗

【第391回・特別版】疑問だらけの「慰安婦」登録申請資料

髙橋史朗 / 2016.08.05 (金)


国基研理事・明星大学特別教授  髙橋史朗

 
 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「世界の記憶」(記憶遺産)に旧日本軍の慰安婦に関する資料の登録を申請した共同申請書の抜粋がウェブサイトで8月3日に公開された。申請主体になったのは8カ国・地域の14の市民団体で構成される国際連帯委員会と、英国の帝国戦争博物館である。

●「世界の記憶」申請主体は日本の団体
 申請された資料は2744件で、その半分以上(1449件)は、慰安婦の証言、慰安婦の絵画、治療記録などの記録物である。次に多いのが、慰安婦問題解決のための活動資料(732件)で、2000年に東京で行われた模擬裁判「女性国際戦犯法廷」などの訴訟文書や、1992年にソウルで始まった水曜デモ、学生による陳情ハガキ等の活動記録が含まれている。
 さらに、慰安婦関連の公文書(560件)も申請されているが、最も注目されるのは、中国が様々な批判を考慮して、前回申請した関連文書を大幅に削減したことである。昨年末の日韓合意により、共同申請を主導してきた韓国政府も挺身隊問題対策協議会(挺対協)を核とする民間団体主導に方針転換した。このため、中韓両国政府に代わって、日本の「女たちの戦争と平和資料館」と「日本の戦争責任資料センター」が大きな役割を果たし、日本の資料が中心となった。

●中に女性国際戦犯法廷の文書も
 申請資料の基本的問題点は以下の通りである。第一に、弁護人不在のまま昭和天皇と日本国を「人道に対する罪」で有罪とした女性国際戦犯法廷や日本の下級裁判所の文書が記憶遺産としてふさわしいか。
 第二に、客観的に検証されていない元慰安婦の口述記録や、現在も継続中で評価が定まっていない活動の資料が記憶遺産としてふさわしいか。
 第三に、元慰安婦の大半が賛成している日韓合意に反対する、政治的に偏った市民運動団体と研究者による申請は、記憶遺産制度改革の包括的見直しの視点として指摘されている「申請意図の中立性」などの観点から問題がある。
 第四に、女性国際戦犯法廷や「平和の少女像」(慰安婦像)などの「世界的意義」が強調されているが、前提となっている「慰安婦20万人」「軍の強制連行」「性奴隷」はいずれも歴史的事実に反し、安倍晋三首相も国会で明確に反論している。
 第五に、「地域的意義」が強調されている「平和の少女像」は、各地で地域社会を分断し、無用の混乱を招いている。
 このほか、女性国際戦犯法廷を開く契機となった元慰安婦の描いた「昭和天皇が木に縛り付けられて目隠しされ、三つの銃が向けられている」絵や、韓国で359万人の観客動員を記録した映画「鬼郷」のモチーフとなった「燃やされている少女たち」という事実に反する元慰安婦の絵が登録申請されている可能性が高い。これらの慰安婦の絵の歴史的価値について冷静な議論が求められる。
 制度改革論議の方向性が決まり、ユネスコの国際諮問委員会に登録の是非について勧告を出す来年1月の登録小委員会に向けて、昨年11月に「南京虐殺」関連文書が登録された二の舞とならぬように、対応を急ぐ必要があろう。 (了)