公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第394回】バイデン発言と日本国憲法

島田洋一 / 2016.08.22 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 8月15日、バイデン米副大統領がトランプ共和党大統領候補を揶揄やゆして、「核兵器を持てない日本の憲法を我々が書いたことを彼は理解していないのか」と発言したことが、日本で話題となった。
 例えば、岡田克也民進党代表は「(日本の)国会でも議論して(現憲法を)作った。米国が書いたというのは、副大統領としてはかなり不適切な発言だ」と述べ、「(GHQ=連合国軍総司令部=が)草案を書いたかどうかというよりは、70年間、憲法を国民が育んできた事実のほうが重要だ」と反発している。しかし、この反発は二重の意味で筋違いだ。
 
 ●「米国が書いた」は明白
 まず現憲法の草案は、20人程度のGHQ要員が10日弱の間にまとめたもので、その後の修正も全て占領軍の指示か承認を受けている。戦争放棄を定めた憲法9条について言えば、立法者意思すなわち占領軍の意思は明白に日本の弱体化にあった。
 バイデン氏が示唆する通り、現憲法は占領軍が押し付けたものである。ただし、戦後70年間、憲法が改正されていない責任を米国に押し付けることはできない。
 衆参両院でそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成が必要という憲法改正発議要件は、出席議員の3分の2で足りる米国より確かに厳しい。しかし、例えば平成25年11月27日の国家安全保障会議(NSC)設置法案の採決では、参院で賛成が総議員の約88%(定員242人中、213人)に達した。総議員の3分の2は、実現不可能な要求ではないのである。
 ところが、憲法9条の改正となると、野党議員の大半と与党議員の相当部分が反対ないし消極的なままである。安全保障の脆弱な土台(9条)を放置して上物(NSC)だけ整備してどうするのか。

 ●「核兵器保有は違憲」は誤解
 一方、核兵器について日本政府は、①自衛のための必要最小限度の実力保持を憲法は禁じておらず、核兵器であっても、その限度にとどまるものであれば、保有も使用も違憲ではない②しかし、政策上の方針として、日本は非核三原則を堅持し、原子力基本法の原子力平和利用規定、核拡散防止条約(NPT)の非核兵器国としての義務によって、一切の核兵器を保有し得ないことにしている―という公式見解を表明している。
 つまり、憲法上、日本は核兵器を持てないとのバイデン発言は不正確である。
 なお、昭和45年(1970年)2月のNPT署名に当たり、時の佐藤栄作内閣は「条約第10条に『各締約国は…異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認めるときは…条約から脱退する権利を有する』と規定されていることに留意する」との声明を発し、NPTを脱退する権利を確認している。また佐藤首相は国会答弁で、非核三原則と米国の核抑止力への依存がセットである旨の発言もしている。
 米国の核抑止力に依存できないなら、日本独自の抑止力も考えねばならない。仮に核兵器を持たないとするなら、通常兵器でいかに強力かつ効果的な抑止力(打撃力)を整えるのか、政治家は答えを示さねばならない。(了)