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【第407回・特別版】過激左派が主導した韓国の反大統領集会

西岡力 / 2016.11.15 (火)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

 

 11月12日、ソウル中心部の車道は朴槿恵韓国大統領に抗議するために集まった人々で埋まっていた。警察発表で26万人。集会の主催者は、全国民主労働組合総連盟(民主労総)など多数労組と挺身隊問題対策協議会(挺対協)など運動組織その他の連合体だ。

 ●並外れた資金力
 まず驚いたのは彼らの資金力だ。車道のあちこちに大型スクリーンが設置され、世宗大王の銅像がある車道真ん中の広場に大型臨時舞台が設置された。音響施設も据えられ、車道や広場のどこに座っていても舞台で展開されるやり取りが映像で見え、鮮明に音も聞こえる。
 集会は有名な歌手やグループが2~3曲を歌い、その間にさまざまな関係者が発言をする形式で進められた。まさに無料の野外コンサートという雰囲気だった。左派のソウル市長が主催者の労組などに多額の資金支援をしているという。
 車道の中心には、全国から集まった労組員らが同じ色のジャンパーなどを着て座っている。労組も平素の過激な政治的主張を抑制して「朴槿恵退陣」「朴槿恵下野」というスローガン以外は叫ばない。
 その周囲には、家族連れや高校生を含む一般国民が楽しそうな顔をして座っている。ベビーカーを押し、幼児を連れた若い家族も目立つ。鉄パイプなどを持つ過激なデモ隊の姿は見えない。若い女性グループは歌手やグループが登場すると熱狂的に拍手をして一緒に歌う。警察も大統領官邸から1キロ離れた交差点に車両を集中して警備したが、集会に対してはほとんど干渉しない。そのようなソフトな雰囲気が史上最高の参加者を集めた理由だ。

 ●岐路に立つ韓国
 しかし、主催者の主張はかなり過激な親北左派だ。彼らは舞台に野党指導者を上げず、挺対協代表、セウォル号連帯委員会代表(沈没した旅客船の遺族と連帯して反体制運動を進める団体)、労組員など主として女性活動家が朴槿恵政権の政策を全面否定する発言を続ける。北朝鮮の軍事的脅威や世界の経済競争の激しさなど韓国が置かれた困難な状況を考慮せず、財閥と腐敗した保守政治家が国をだめにしたという単純な2分論で煽動する。
 繰り返し歌われた主題歌の一つ「これが国か」は「下野、下野、朴槿恵すぐ下野せよ、下獄、下獄、朴槿恵を下獄させよ」「セヌリ党(与党)や朝鮮日報(有力紙)、お前たちも醜悪な共犯だ、解体してやるぞ」という過激な革命歌だった。それを作詞作曲した尹ミンソク氏は、1992年、北朝鮮工作員が作った地下党の傘下組織に加入し、金日成をたたえる歌を作って摘発された活動家だ。
 集会主催者は、朴槿恵大統領が退陣するまで今後も毎週土曜日に集会を開くと予告した。彼らの影響下で大統領が辞任すれば革命前夜的な雰囲気で大統領選挙が行われ、過激な左派が次期大統領となる危険がある。
 韓国の自由民主主義体制を守る保守勢力が朴槿恵支持グループを排除して再生できるか。野党より左にいる集会主催勢力が政局を主導し続けるか。暴力による辞任強要でなく、憲法秩序を守る弾劾手続きに進めるかどうかが分水嶺だ。(了)