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冨山泰

【第421回】「外堀」埋めて「本丸」攻略狙った安倍首相

冨山泰 / 2017.02.13 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 安倍晋三首相とトランプ米大統領の初の首脳会談(2月10~11日)は、現時点ではこれ以上望めないほどの成果を上げたと言ってよいと思う。安倍首相は、同盟関係を軽視する発言を繰り返してきたトランプ大統領から、①日米同盟はアジア太平洋地域の平和と繁栄の基礎②日本に「核の傘」を提供③尖閣諸島は対日防衛義務を規定した日米安全保障条約第5条の適用対象―という確認を取り付けた。しかも、それを両首脳の共同声明に盛り込み、トランプ大統領のコミットメントが後退しないように文書化した。

 ●閣僚級接触も重視
 ワシントンに同行した安倍政権の主要閣僚は、トランプ政権のカウンターパートと個別に会談し、親密な関係の構築に乗りだした。麻生太郎副総理兼財務相はペンス副大統領と会い、マクロ経済政策の調整や投資、貿易などに関する新たな日米経済協議を主導することで合意した。岸田文雄外相はティラーソン国務長官と会談し、日米同盟の重要性と両国の協力強化を確認した。1週間前に訪日したマティス国防長官は稲田朋美防衛相との初顔合わせを終えている。
 トランプ政権のこれら要人は共和党本流の安保観の持ち主だ。安倍政権はトランプ政権要人が大統領に影響を及ぼすことを期待し、副大統領や主要閣僚との関係を深めて「外堀」を埋める戦術とみられる。今後、麻生副総理とムニューチン財務長官、世耕弘成経済産業相とロス商務長官が同様な関係を築ければ、トランプ大統領の日本に対する為替操作批判や自動車市場閉鎖性批判に歯止めがかかる可能性もある。特に日米の政権ナンバー2同士による経済協議の開始は、トランプ大統領が経済と安保の「取引」を狙う危険を減らすだろう。
 安倍首相は「本丸」に単身乗り込み、トランプ大統領から同盟関係重視の言質を引き出した。トランプ大統領はホワイトハウスでの公式会談後、フロリダ州の別荘に安倍首相を招き、共にゴルフを楽しむとともに、夫婦水入らずの食事で歓待した。この破格の待遇から安倍首相に好感を抱いていることはうかがえるものの、トランプ大統領が首脳会談で日米安保・経済関係の重要性を本当に理解したのか依然として不明である。

 ●「一つの中国」で豹変
 トランプ大統領は安倍首相との会談の前日、就任後初めて中国の習近平国家主席と電話で会談し、習主席の求めに応じて「一つの中国」原則の尊重を明言した。就任前、同原則に疑問を呈したのは熟慮の末でなかったことを疑わせる豹変ひょうへんぶりで、トランプ大統領の外交的発言の軽さを浮き彫りにした。
 トランプ大統領が得意の「取引」を行って、「一つの中国」原則の尊重と引き換えに中国から貿易不均衡、南シナ海、北朝鮮核開発問題などで譲歩を取り付けた気配はない。トランプ外交は引き続き予測不能だ。対日外交でも、安心するのは早い。(了)