公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

名越健郎

【第434回】米露は対立演出の一方で関係調整も

名越健郎 / 2017.04.17 (月)


国基研企画委員・拓殖大学海外事情研究所教授 名越健郎

 

 4月12日のティラーソン米国務長官の訪露では、米軍のシリア政府軍基地への攻撃をロシア側が「違法」と非難するなど、対立がクローズアップされた。トランプ米政権が対露融和外交に乗り出すとの当初の予測は吹き飛び、「米露の信頼関係は(オバマ前政権時代より)悪化している」(プーチン・ロシア大統領)とされる。トランプ、プーチン両政権とも国内政治対策上、米露対立をむしろ望んでいるが、一方で戦略関係を安定させておきたい事情もある。米露関係の重層的構造にも着目すべきだ。

 ●トランプ政権は対外関与拡大も
 ティラーソン長官はラブロフ外相と5時間会談し、その後プーチン大統領と2時間会談した。会談の詳細は公表されていないが、シリア問題で平行線をたどったものの、双方は関係改善へ作業部会と特別代表を設けることで合意した。米露関係をこれ以上悪化させたくないという判断が双方に働いたようで、関係調整の動きも今後出てこよう。
 国内的には、両政権とも一定の米露対立を必要としている。国内政治の混乱に見舞われているトランプ大統領は、シリアへの巡航ミサイル攻撃で支持率がやや上昇した。今後は孤立主義的外交を改め、一転して「強い大統領」を誇示して対外関与を強める可能性がある。昨年の米大統領選挙で、トランプ陣営がロシアと結託したとの疑惑を退けるためにも、現時点で対露融和外交は展開できない。
 プーチン大統領にとっても、愛国主義を政権維持の基盤に据えてきた手前、一定の米露対立があった方が都合はいい。ロシア国内ではイスラム過激派のテロや腐敗に反発する若者のデモが広がっており、求心力を高めるには、外交的な緊張感をあおろうとするだろう。

 ●事情苦しいプーチン政権
 一方で、トランプ政権の対外関与拡大はロシアにとって悩ましいところだ。米国がシリアに干渉すると、今後は軍事作戦のフリーハンドを握れないことになる。習近平中国国家主席も先の訪米でシリア攻撃に「理解」を示しており、中露連携は取りにくい。シリアのアサド政権の化学兵器使用にロシアが関わった疑惑の国際調査も進みつつある。
 トランプ政権が対外関与を強化すれば、国内総生産(GDP)が米国の7%にすぎないロシアがそれに対抗するのは困難だろう。トランプ大統領自身、「ロシアとの関係改善は困難だが、少なくとも(関係改善に)挑戦していく」と述べており、対露関係で新味を出すことを放棄していない。
 プーチン・ティラーソン会談では、対立の一方で歩み寄りへの一定の密談が行われた可能性がある。それは、かつての米ソ・米露関係でもしばしばみられた現象だ。(了)