公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第436回】中露の北朝鮮擁護を許すな

湯浅博 / 2017.05.01 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 湯浅博

 

 戦争の犠牲もいとわぬ「瀬戸際政策」は、北朝鮮が長く対米外交に使ってきた得意手である。それを今回の朝鮮半島危機では、逆に米国のトランプ政権が用いているように見える。オバマ前政権が「戦略的忍耐」を名目に、北の核開発を放置してきたツケの処理である。ティラーソン国務長官が国連安保理閣僚級会合で「いま行動することに失敗すれば災いを招く」と警告したのは、その崖っぷちにあるのは米国だけでなく世界であることを強調する狙いからだろう。
 
 ●米の目標は原油禁輸
 トランプ政権が対北制裁強化へ向けて重視しているのは中国であり、次いでロシアである。ティラーソン長官は北の貿易の90%が中国相手であることを強調し、「中国だけが北朝鮮に対する独自の影響力を持つ」と対中圧力のレベルを上げた。中国が原油の対北禁輸を「人道的な惨事が起きないレベル」に限定しようとする逃げを断ち切る狙いだ。中国原油が北の軍用機と軍用車両を動かしていることを考えれば、原油の禁輸は外せない。ロシアが中国原油の減った穴を埋めようとする行動への警告でもある。
 米国が言う対北制裁の「全ての選択肢」の中には、軍事オプションの前に金融制裁がある。米国は2005年に、マカオにある銀行バンコ・デルタ・アジアが北の資金洗浄に使われているとして、この銀行を締め上げた。今回、トランプ政権が北と取引のある中国の金融機関に同様な「二次的制裁」を発動すれば、中国の金融界は大混乱に陥るだろう。閣僚級会合に出席した王毅中国外相の「(全関係国が)平静を保って自制し、挑発的な言動を避けるよう求める」との発言は、そうした不安の裏返しである。
 
 ●強権国家のごまかし
 安倍晋三首相が先に訪露した際、プーチン・ロシア大統領も王外相と同じく「冷静で建設的な対話」を求め、平和の使徒を装った。ロシアは原油輸出の肩代わりが指摘され、日本が入港を禁止した北の貨客船「万景峰号」による定期航路の運航まで受け入れようとしている。安倍首相がプーチン大統領にこれら懸念を伝えたか否かを明らかにしないのは遺憾である。
 2013年にオバマ前政権がシリア攻撃に踏み切りそうになると、プーチン大統領は両者に仲介案を示して「アサド政権を守るのではなく、国際法を守ろうとしているのだ」と聞こえのよいことを言った。それが方便であることは、既に国際規範を無視してグルジアに軍事侵攻していたし、やがてウクライナからクリミア半島を奪取したことをみれば明らかだ。
 中国もまた、オバマ前政権のシリア攻撃回避を「オバマ弱し」と判断し、南シナ海の人工島建設に乗り出したことを想起すべきだろう。習近平中国国家主席が今回の半島危機で、米国と北に武力行使をしないよう呼びかけるのも、トランプ政権が中国にかけようとしている負荷を避けるためだ。
 強権国家は米国が隙をみせれば力を誇示し、締め付ければ方便でごまかそうとする。中国とロシアについてはその発言でなく行動をもって判断すべきで、トランプ政権の瀬戸際外交には同盟国の支えが必須であろう。(了)