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西岡力

【第438回・特別版】保守中道連合失敗で韓国が最悪の選択

西岡力 / 2017.05.10 (水)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 5月9日、韓国で大統領選挙が行われ、左派「共に民主党」の文在寅候補が41.1%の得票率で圧勝した(開票率99%現在、以下同)。2位の保守派「自由韓国党」の洪準杓候補が24%、3位の中道派「国民の党」の安哲秀候補が21.4%だった。
 4月初めには安氏が保守票を集めて1位の文氏と並んだが、その後、テレビ討論の失敗などで急速に支持を失った。一方、洪氏は4月初め一桁台の支持率に低迷していたが、保守票を奪い返して急浮上した。4位は朴槿恵大統領の弾劾訴追に賛成した中道保守「正しい政党」の劉承旼候補(6.8%)、5位は極左「正義党」の沈相奵候補(6.2%)だった。

 ●反韓史観の広がり
 韓国で伝統的な地域対立の要素はかなり薄れ、文氏は全国で満遍なく支持を集めた。洪氏の基盤である慶尚道でも、人口の多い釜山では洪氏を抑えて1位、洪氏が1位だった大邱、慶尚北道、慶尚南道でも2位につけた。洪氏を支えたのは60歳以上の高齢者だった。それ以外の年齢層では全て文氏が1位だった。国民全体の左傾化と保守派の弱体化が今回の選挙の特徴だ。
 保守派弱体化の根本原因は、1980年代以降、韓国社会に拡散した左傾民族主義に基づく「反韓史観」だ。文氏は「積弊清算」を公約したが、その「積弊」とは現代韓国を主導してきた主流勢力全体を指す。反韓史観は主流勢力こそが清算すべき親日派とその末裔だという革命思想に立つ。
 文氏は「親日勢力が解放後も依然として権力を握り、独裁勢力と安全保障を口実にしたニセ保守勢力は民主化以後も私たちの社会を支配し続け、そのときそのとき化粧だけを変えた」「わが国の政治の主流勢力を交代させなければならない。…既存のわが国の政治主流勢力が作ってきた古い体制、古い秩序、古い政治文化、このようなものに対する大清算、そしてその後に新しい民主体制への交代が必要だ」と1月に出した著書に書き、積弊清算のために政府に調査委員会を設置すると公約した。人民裁判的な主流勢力攻撃が本格化するだろう。

 ●新聞が世論扇動
 保守派を弱体化させたもう一つの原因は、韓国の反共自由民主主義勢力の司令塔だった保守系の新聞(朝鮮日報、東亜日報)が、左派に合流して朴大統領弾劾を煽る虚偽報道を続けたことだ。その結果、世論の8割が弾劾を支持した。主要5候補の中で弾劾の不当性を訴えたのは洪氏だけだった。つまり、弾劾賛成の8割と得票率24%の洪氏以外の4候補の支持者がほぼ重なっていた。
 保守派にとって最悪の「文政権」成立を阻止する唯一の道は、4月初めに安氏が文氏と支持率で並んだ時に、安氏と洪氏の連合、すなわち保守中道連合を実現することだった。20年前、金大中氏が初めて左派政権を作ったとき、保守派の金鍾泌氏と連合した。ある保守派リーダーは「仲の悪い二つの勢力を連合させるには(日本の幕末に薩長同盟を実現した)坂本龍馬のような英雄的な人物が必要だったが、韓国には龍馬がいなかった」と語った。(了)