公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第440回・特別版】中国に甘いトランプ政権

冨山泰 / 2017.05.15 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 北朝鮮の核問題で中国の協力取り付けを最優先するトランプ米政権のアジア外交で、中国への甘い対応が目に付く。米政府外においても、4月26日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説に見られるように、北朝鮮が非核国家になるのであれば、金正恩体制に代わる親中政権の樹立を容認してもよいとの意見まで出てきた。中国の戦略に沿ったアジアの新秩序づくりを米国が後押ししかねない状況だ。
 
 ●「航行の自由」作戦却下
 トランプ政権の中国への融和的対応は、南シナ海をめぐって最も顕著である。米太平洋軍司令部は3月下旬、南シナ海で中国が占拠するスカボロー礁から12カイリ以内を米軍艦が通航する「航行の自由」作戦の実施を国防総省上層部に申請したが、却下された(5月3日付ニューヨーク・タイムズ紙)。
 オバマ前政権は、中国による外国船の通航権妨害を許さないとの立場から、南シナ海で2015年10月、2016年1月、5月、10月の4回にわたり航行の自由作戦を実施した。その間にも中国による南シナ海の軍事拠点化は進むばかりだ。しかし、トランプ政権は発足から約4カ月たった現在、まだ航行の自由作戦を行っていない。
 一方、ジュネーブで今月開催の世界保健機関(WHO)総会に台湾が中国の妨害で参加できなくなった。この件に関し、米国務省スポークスマンが「台湾の参加を強く支持する」との声明を出したが、トランプ政権が中国に台湾の参加を認めるよう強く働き掛けた形跡は見当たらない。
 さらに、トランプ大統領は米フロリダ州での4月初めの米中首脳会談以降、ツイッター投稿やCBSテレビなど主要メディアにおける発言で、北朝鮮問題での中国の協力と引き換えに、経済問題で譲歩の用意があると繰り返し発信してきた。
 
 ●北朝鮮に親中政権樹立?
 トランプ大統領が北朝鮮に対して定めたレッドライン(越えてはならない一線)は、米本土を核攻撃できる能力を持つことだ。もし中国が本気で金正恩政権に圧力をかけ、核・ミサイル開発を断念させるか、北朝鮮の体制変革につなげることができるなら、米国の国益上、一連の対中譲歩もあり得なくはないだろう。
 そのことはしかし、わが国に深刻な影響を及ぼしかねない。ウォール・ストリート・ジャーナルの社説が言及するような、北朝鮮に非核・親中政権を据えるという米中合意は、韓国に左翼政権が誕生した今、朝鮮半島全体に中国の影響力が強まるということだ。北朝鮮の脅威に代わって、中国の中長期的な脅威が増大する。
 日米両国にとって最善のシナリオは、北朝鮮の現体制崩壊後に、核兵器のない自由民主主義の統一国家が朝鮮半島に誕生することだ。そのことの意義を、価値観を共有する同盟国として、日本はトランプ政権に強く説いていかなければならない。(了)