公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第447回・特別版】瀬戸際に立つ米中「休戦」

湯浅博 / 2017.06.26 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 湯浅博

 

 骨の髄まで大国主義の中国は、二国間協議が思い通りにならないと、共同文書を拒否し、記者会見も平然とボイコットする。ワシントンで開催された閣僚レベルの米中外交・安全保障対話がそれだった。同じ時期にハノイで予定されていた中国とベトナムの国防当局高官による国境防衛交流プログラムも、中国側が一方的にキャンセルした。ともに南シナ海の一時の静けさが幻想に過ぎなかったことを示している。

 ●頭をもたげたゼロサムゲーム
 米中間の衝突の火種は、貿易、南シナ海、サイバー空間などいくつも転がっている。トランプ米政権は4月の米中首脳会談以来、北朝鮮の核開発を阻止するために、それらの深刻な摩擦をひとまず覆い隠してきた。習近平中国国家主席が北の核開発を止められなければ、この一時的な「休戦」はたちまち崩れるだろう。ジョン・ボルトン元米国連大使ら共和党保守派はすでに、トランプ政権の行き過ぎた「中国依存」は、オバマ前政権の「戦略的忍耐」と少しも変わらないと不満をぶちまけているほどだ。
 オバマ政権時代の米中戦略・経済対話は外交・安保、経済など四つの対話に分けられたから、6月21日の外交・安保対話は対立がより鮮明になった。会議後の米側会見でティラーソン国務長官は、北朝鮮企業と取引している中国企業が多いことから、まず「資金源を断つ努力」を要求した。トランプ政権は中国の制裁に実効性がなければ、米国が独自に北と取引する中国の企業や金融機関への「二次的制裁」に踏み切るとの立場だ。
 今回の対話でティラーソン長官とマティス国防長官は、北朝鮮問題での協力と引き換えに南シナ海問題で譲歩することはないと改めて詰め寄り、中国の楊潔篪国務委員や人民解放軍の房峰輝統合参謀部参謀長と激しく対立した。元来、トランプ大統領が掲げる「米国を再び偉大に」は、習主席のいう「中華民族の偉大な復興」とは相反するもので、妥協の余地ないゼロサムゲームが頭をもたげたというべきだろう。

 ●南シナ海波高し
 南シナ海を「核心的利益」と考える中国はまた、6月22日までの3日間を予定していたベトナムとの軍関係会議でも、中央軍事委員会の幹部が訪問を短縮して帰国した。南シナ海の領有権をめぐる対立で、2014年夏にベトナムの排他的経済水域(EEZ)内への中国の石油掘削リグ搬入をめぐって起きたような小競り合いの再燃が予想される。
 すでに米国の共和党内からは、北朝鮮に関連する「二次的制裁」を求める声が大きくなっている。オバマ前政権でテロ対策担当の財務次官などを歴任したデービット・コーエン氏はワシントン・ポスト紙で、中国の中規模銀行から二次的制裁を実施するよう求め、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説は、この制裁をトランプ氏が真剣か否かを測るテストだと指摘している。南シナ海での妥協のない米中対立と米国の独自制裁は実現性を帯びてきた。(了)