公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第454回】劉氏死去で日米議員に対応の差

島田洋一 / 2017.07.18 (火)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 中国民主活動家でノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏の死去(7月13日)をめぐって、安倍晋三首相とトランプ大統領の対応はほぼ同じだった。肉声で強いメッセージを発することはなく、死去を悼む当たり障りのないコメントを出したのみである。しかし、日本の国会と米議会の対応には大きな違いがあった。

 ●すぐに反応した米議会
 米議会では、下院外交委メンバーのクリス・スミス議員(共和)が自ら委員長を務める小委員会で在米の中国民主活動家らを招いた公聴会を14日に開催した。共和党のエド・ロイス外交委員長、民主党のナンシー・ペロシ院内総務も出席して、劉暁波氏の死が超党派の重大関心事であることを印象付けた。
 死去前日の12日には、テッド・クルーズ上院議員(共和)が本会議場で演説し、「(北朝鮮の独裁者)金正恩氏ですら(北朝鮮で拘束されていた米国人学生)オットー・ワームビア青年を最後に故郷へ帰した。(中国国家主席の)習近平氏も同程度の人権感覚は示せるはずだ」と劉暁波夫妻の即時出国を求めるなど、議員による意思表明も相次いだ。
 スミス議員はマルコ・ルビオ上院議員(共和)と共に「中国に関する議会政府委員会」(CECC)の議長と共同議長を交代で務めている。同委員会は議会が2000年に創設し、超党派の上院議員9人、下院議員9人、大統領が任命する政府幹部職員5人で構成される議会と政府の横断組織である。1400人以上に上る中国人「政治犯データベース」を公開し、年次人権報告書も出している。
 ルビオ、スミス両議長は、同委員会として劉霞夫人の出国実現に全力で当たる方針を明らかにしている。このように米議会においては、行政府も巻き込みつつ、中国の人権問題を追及するシステムが作られており、それらを足場にした議員の動きも速い。

 ●人権に無関心の日本の国会
 翻って日本の国会はどうか。野党がこの間、学校法人加計学園の獣医学部新設問題をめぐり閉会中審査を政府にのませたが、安倍首相の教育行政介入「疑惑」を大スキャンダルに育てようと騒ぐばかりで、中国や北朝鮮の問題を取り上げる一片の意思も感じさせない。恥ずかしいばかりの内向き姿勢である。
 また劉暁波氏の危篤が報じられた12日、与党の女性国会議員団9人(団長=野田聖子衆院議員)が中国側の招きで訪中した。女性の中国副首相の「女性政治家は、同じことをするにも男性より多くの努力が必要だ」といった型通りの挨拶に、「議員団全員が深くうなずいていた」などと報じられた。報道された限りでは、議員団が劉氏の問題を取り上げた形跡はない。
 女性議員団がこのタイミングで訪中して、同じ女性である劉霞夫人の解放、出国を求める以上に喫緊の論題があるだろうか。これでは、露骨な人権抑圧を続けても外交に何の影響も及ばないと高をくくる中国に利用されに行ったに等しい。政府が静かな外交で成果を上げるためにも、国会はうるさい存在でなければならない。とりあえず、日本版「中国に関する議会政府委員会」を早急に作ったらどうか。(了)