公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第459回】首相の改憲決意を改めて問いたい

湯浅博 / 2017.08.07 (月)


国基研企画委員 湯浅博

 

 かつてない逆風の中で、第3次安倍第3次改造内閣がスタートした。気になるのは、安倍晋三首相による憲法改正の表明に躊躇ちゅうちょがみられることだ。学校法人加計学園の獣医学部新設問題への対応や国会審議の強引な運びへの批判を受け、内閣改造後初の記者会見の冒頭発言では改憲構想への言及を避けていた。記者の質問を受けて初めて「スケジュールありきではない」と述べ、萎縮した印象を残した。戦後初めて改憲を政治日程に乗せた首相には、その矛先をまっすぐ日本国憲法第9条に向け、決然たる指導力を発揮してほしい。
 安倍首相の現実主義は、改憲論議の主導的役割を自民党の高村正彦副総裁に託し、「改憲論議は党。内閣は経済第一」と位置付けた。しかし、戦後の多くの政権がそうだったように、支持率低下によって政権の維持が目的化してしまうと、目指すべき大義が方向を見失って失速する懸念がある。
 
 ●吉田氏の轍を踏むな
 憲法を改正する戦後最大のチャンスは、サンフランシスコ講和条約が発効した昭和27年4月の日本の独立回復の時であった。占領軍の要求でつくられた新憲法の下で、それまでの日本は安全保障を考える立場を奪われていた。しかし、独立を果たした当時の吉田茂首相は改正手続きに入るべきところを、このままでは「政権がもたない」と先送りしてしまった。吉田氏は時が来れば憲法を改正すればよいと考えていたが、やがて強権的な政治姿勢が世論の批判を浴び、求心力を失っていく。
 安倍首相には同じてつを踏んでほしくない。北朝鮮の核開発や中国の軍事的な恫喝どうかつを前に、日本はいま、時代錯誤の「専守防衛」から攻撃力を含む現実的な「積極防衛」への転換を迫られている。米紙の社説ですら、「いまや憲法9条は、日本を危険にさらしつつある」と述べ、独自の防衛力と攻撃力によって対北、対中抑止を強化すべきことを強調している。とりわけ、現実離れした9条2項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」を削除することが求められる。
 
 ●首相の存在意義
 ところが、与党内ですら「積極防衛」を可能にする憲法9条改正への動きは鈍かった。おずおずと緊急事態条項の挿入を掲げて、9条という「本丸」に攻め込むことを避けてきた。「論点整理」ばかりを繰り返して、少しも前に進まない。そうした閉塞状況を横目に、安倍首相は衆参両院で改憲発議に必要な3分の2の議席を獲得した後の道筋を定め、戦争放棄の9条1項と、戦力否認の2項をそのまま残し、自衛隊の存在を追加して明記する意向を示した。
 安倍首相の真の狙いは2項の削除にあると思われるが、そこを迂回して新たな条項の追加にとどめたのは、実現可能性を優先したものだ。2項を残したままで「積極防衛」が可能かは疑問だが、それすらも後退させれば首相の存在意義は大きく減じ、自己否定につながりかねない。安倍首相の不退転の決意を改めて問いたい所以ゆえんである。(了)