公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

山田吉彦

【第462回】中朝漁業権取引は対北制裁の抜け穴

山田吉彦 / 2017.08.28 (月)


国基研理事・東海大学教授 山田吉彦

 

 北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受けて、8月5日、国連安全保障理事会は、北朝鮮に対する新たな制裁決議を全会一致で採択した。この制裁では、同国からの石炭、鉄鉱石、海産物の輸入禁止や、北朝鮮労働者の受け入れを現在の水準より増加させないこと、北朝鮮との新規合弁事業の禁止などが盛り込まれた。特に石炭、鉄鉱石、海産物の輸入禁止が徹底されれば、北朝鮮の輸出の3割以上を停止させることになり、同国の経済を事実上まひさせることも可能だろう。
 大韓貿易投資振興公社の調べによると、北朝鮮の海産物輸出は約1億1200万ドル(2015年)で、貴重な外貨獲得源となっている。イカ、ナマコ、甲殻類が中心で、95%以上は中国に輸出されている。そのため、中国が北朝鮮からの海産物輸入を禁止すると、北朝鮮の水産業は壊滅状態になる。しかし、中朝間には、その抜け穴となる経済取引が既に存在する。北朝鮮は同国沿岸の日本海での漁業権を中国に売っているのだ。

 ●6億円の操業許可契約
 韓国KBS放送によると、昨年、北朝鮮は中国浙江省の水産業者との間で、イカ漁の最盛期である8月1日から10月30日までの3か月間、300隻の中国漁船に対し1隻当たり200万円相当の金額で、日本海の北朝鮮管轄海域における漁場で操業を許可する契約を取り交わした。この事例は氷山の一角であり、1000隻以上の中国漁船が北朝鮮海域での漁業権を取得していると考えられている。この手法を使えば、中国は北朝鮮から海産物を輸入しなくても、北朝鮮の海産物を入手することが可能なのだ。
 日本海に姿を現す中国船の規模は大きく、この海域で操業する日本のイカ釣り漁船が30~180トン、北朝鮮漁船が5~50トンであるのに対し、中国漁船は300トン級が中心であり、1000トンを超える大型船も含まれている。北朝鮮から操業許可を得た中国漁船は、契約期間中、可能な限り魚やイカを獲り続ける。そして、水揚げした海産物は、船内や北朝鮮の沿岸都市・元山にある大型の水産加工場で冷凍にされ、運搬船や北朝鮮経由の陸路で中国へ運ばれる。

 ●海産物禁輸は有名無実に
 この漁業権取引を停止させなければ、北朝鮮からの海産物輸入禁止も有名無実となってしまう。むしろ北朝鮮にとっては、小型船で獲った海産物を輸出するより、効率的な取引となるだろう。さらに中国船は、北朝鮮海域の漁期を終えると日本海の日本の排他的経済水域(EEZ)に侵入し、不法操業を行っていることが、石川県の漁師により確認されている。
 日本政府は、漁業権取引も海産物取引の一環として規制対象とすることを国連安保理に念押しすべきである。北朝鮮の無謀な軍事挑発行為を阻止するとともに、日本海の漁場を守るためにも、早急な対応が必要である。(了)