公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第464回】概算要求に見られる防衛意識の低下

太田文雄 / 2017.09.04 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 平成30年度予算案の概算要求で、防衛予算の要求額が過去最大の5兆2551億円となった。しかし、防衛省概算要求資料の過去の推移グラフを見ると、防衛予算は平成15年度から24年度まで10年連続して減少し、平成25年度から微増に転じてやっと平成14年度のレベルに戻ったにすぎない。早速、中国外務省は「高い警戒に値する」と表明したが、1989年以降、数年前まで四半世紀にわたって国防費2桁の伸び率を示してきた国にとやかく言われる筋合いはない。

 ●見当たらぬ敵基地攻撃能力の調査研究
 現防衛相の小野寺五典氏は、今年3月末に政府に対して敵基地攻撃能力保有を提言した自民党安全保障調査会の提言検討チーム座長であった。しかし、概算要求には「将来の弾道ミサイル迎撃体制についての調査研究」の項目はあっても、これまでの国会答弁で違憲ではないとされてきた敵基地攻撃の調査研究は見当たらない。
 8月29日に日本上空を通過した北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星12号」は単弾頭であった。しかし、7月に日本海の日本の排他的経済水域(EEZ)に通常より高く発射するロフテッド軌道で撃ち込まれた大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14号」は、パキスタンの弾道ミサイル「アバビ―ル」の多弾頭(MRV)技術を導入している。複数のミサイルが同時に発射される飽和攻撃に加えて、ミサイルの多弾頭化が進めば、防御側の迎撃はさらに難しくなる。
 9月3日には北朝鮮が6回目の核実験を強行した。米本土への核攻撃能力を確保すれば、米国の核抑止力に頼って防衛を全うしようとしている我が国にとって深刻な事態となり、それは間もなく現実になろうとしている。今、日本が敵基地攻撃能力の調査研究に着手しなかったらどうなるのか。

 ●既にある巡航ミサイル装備能力
 海上自衛隊のイージス艦は米海軍のそれと同様にMk41垂直発射システムを装備しており、今回概算要求に盛られたイージス・アショア(イージス艦ミサイル防衛システムの陸上配備型)と同じく、トマホークのような長射程巡航ミサイルを装備できる潜在力はある。あとはトマホーク専用の収納容器Mk14キャニスターを追加し、指揮管制システムにトマホーク発射を可能とするソフトウエアを入れればよい。
 敵基地攻撃は正当防衛の一手段であるのに、その能力の保有を阻んでいるのは現憲法に由来する「専守防衛」の呪縛である。昨今の厳しい安全保障環境にもかかわらず専守防衛の基本姿勢を見直さないのは、国民のみならず政治家の防衛意識の低下の表れではなかろうか。
 8月29日の火星12号発射兆候を官邸は事前に把握していたと思われる。同盟国からの情報提供と推測されるが、それを可能にしたのは秘密保護法と、集団的自衛権の行使により然るべき貢献を約束した安保法制の成立であろう。これらに反対した朝日新聞をはじめとするメディアや野党の防衛意識の欠如も指摘したい。(了)