公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第465回・特別版】正念場を迎えた北朝鮮核問題

西岡力 / 2017.09.04 (月)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 9月3日、北朝鮮が6回目の核実験を強行した。私はその前日に北朝鮮内部とつながる情報源とソウルで会って、次のような話を聞いていた。
 「金正恩が7月か8月に、人民軍作戦部に『米国に最大限の圧力をかけよ。核実験もせよ。ミサイルももっと発射せよ。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も撃て。SLBMを搭載できる大型潜水艦(まだ原子力潜水艦の製造技術はないので、原潜ではない)を造れ。100発同時に撃てば米国も迎撃できない。米国に軍事的圧力を徹底してかけ、交渉に引き出せ』と指示した。北朝鮮が経済力で韓国に追いつくことはもはや不可能だ。同じアジアの共産国であるベトナムにも追いつけない。金正恩は米国と談判するしかない。北朝鮮を核保有国と認めさせ、平和協定を結び、米軍を撤退させるつもりだ」

 ●トランプ大統領と「談判」の賭け
 同じ情報源は5月に、「北朝鮮は4月下旬に核実験を行うことを準備した。100キロトン級のこれまでにない威力の実験で、小型化された核弾頭の実験だ。これに成功すれば弾頭の小型化は完成する。実験の数日前に中国に通報したところ、国境を封鎖すると脅されて、金正恩の妹、金与正が中国は金正恩政権を倒そうとしていると忠告したので金正恩は実験を延期した」と語っていた。
 今回の実験の威力は日本の防衛省の推定で70キロトンだというから、5月の情報も信憑性が高い。つまり、金正恩は中国が国境封鎖をすると脅しているにもかかわらず核実験を強行し、実験を成功させたことになる。国連安保理で北朝鮮への石油供給の禁止が決議され、北朝鮮の出稼ぎ労働者の雇用も大幅に制限されるだろう。それを承知の上で、トランプ米大統領と最後の談判をするという賭けに金正恩が出てきた。

 ●拉致被害者救出は譲れない
 金正恩の足元も不安定だ。韓国の情報関係者によると、朝鮮労働党中央の幹部や秘密警察に当たる国家保衛省の幹部が頻繁に連絡してきて、自分が韓国に亡命した場合の処遇について真剣に質問するという。今年は夏の水不足のため秋の米とトウモロコシの収穫はかなり悪いと予想され、来年春には餓死者が出るのではないかという声が北朝鮮内部から聞こえてくる。
 トランプ大統領は、米国本土まで届く核ミサイルを北朝鮮に持たせた大統領として歴史に名を残すことは避けたいはずだ。徹底した対北朝鮮経済封鎖を実施し、それに同調しない中国とロシアの企業には2次制裁を科して、国際金融システムから追放する措置を取るだろう。それでも金正恩は核ミサイルの開発を放棄しないだろうから、軍事行動、すなわち金正恩を除去する「斬首作戦」の準備を進めるはずだ。
 事がそこまで及んだときに、金正恩は自分の命を守るために中身のある交渉に応じるはずだ。そのときが勝負だ。日本は米国と足並みを揃えて北朝鮮に最大限の圧力をかけながら、拉致被害者全員の帰国を対北要求の譲れない線として死守しなければならない。いよいよ正念場だ。(文中敬称略)