公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

櫻井よしこ

【第20回】日米同盟空洞化に抵抗する駐在武官の催し

櫻井よしこ / 2010.01.12 (火)


当研究所では、週一回のリポート「今週の直言」の会員向け配信を平成21年9月7日から開始致しました。当研究所の企画委員らが執筆し、法人会員・賛助会員の方には毎週月曜日にEメールかファクスでお届けします。個人会員の方はホームページの会員専用ページでご覧下さい。会員専用ページに掲載したリポートは、2週間後に公開します。

理事長 櫻井よしこ

1月19日、駐日米国武官が主催する予定の「ホームパーティー」がある。8日時点ではまだ関係者への招待状は届いていない。が、鳩山政権の空虚な安全保障政策に危機感を抱く人々は、その招待を前向きにとらえ、日米の絆の確認につなげたいと期待する。

式典のない安保改定記念日
言うまでもなく1月19日は、50年前、当時の岸信介首相が米国のホワイトハウスで日米安保条約改定の調印式に臨んだ記念日だ。岸が安保改定に向けて行った準備は真剣かつ徹底していた。入念な対米交渉に加えて、東南アジア歴訪で、アジアにおける日本の地位の重要性を米国に印象づけた。国内では防衛力強化を目標に「国防の基本方針」を定め、第1次防衛力整備3か年計画(1958~60年)を決定した。対等な安保条約を求める限りは、自力を強める意思を明示し、米国の眼前で実行する必要があることを知悉ちしつしていたのだ。

岸はしかし、国内で苛烈な抗議運動に直面した。「殺されようが何されようが絶対必要」と思い定めて、法案の自然成立に必要な30日目の6月19日を、30万の群衆が取り囲む官邸で迎え、その4日後、新条約の発効を見届けて辞任したのは周知のとおりだ。日本の大戦略を描くことの出来た岸であればこそ、文字どおり命を懸けての安保改定だった。

その日から50年、日米間の溝は深い。本来なら、調印記念日を両政府で厳粛に祝ってよいはずだ。しかし、いま、式典を考える雰囲気さえ存在しない。鳩山民主党の、岸のそれとは対極にある、虚ろな日米対等論を疑問視する米国政府は、いまや日本政府とまともに話し合うことは可能なのかと疑っている。1月9日、北沢俊美防衛相が、日米両首脳は50周年を機にそれぞれ声明を発表する方向で調整中だと明らかにした。まさに苦肉の策である。

危機感抱く軍関係者
この現状に強い危機感を抱いているのが、日米関係の重要性と強大化する中国の軍事力の脅威を実感している日米両国の軍当事者らである。日米関係の空洞化が中国に誤ったメッセージを与える危険性を、彼らは十二分に知っているからだ。

武官主催の会というささやかな催しに期待が集まるのも、それが政治の齟齬そごを埋めようとの相互の意思確認への肯定的な動きととらえられるからだ。それにしても、いま、日米同盟はあまりに頼りない細い絆で支えられているにすぎない。日本に死活的に必要な日米同盟を空洞化させる、大戦略なき鳩山民主党に政権与党としての資格がないのは明らかだ。(了)
 

PDFファイルはこちらから
第20回:日米同盟空洞化に抵抗する駐在武官の催し(櫻井よしこ)