公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第42回】「日米同盟が基軸」を肝に銘じよ

田久保忠衛 / 2010.06.14 (月)


副理事長 田久保忠衛

今世紀にアジアで主要なプレーヤーになる国は中国、インド、日本の三カ国であることに異論はなかろう。キッシンジャー元米国務長官は、さらに一カ国を加えるとなると、インドネシアだと言っている。そこで目を付けなければならない点は二つある。一つは、四カ国の中で日本だけは世界の常識である「軍隊」を持っていないことだ。システムが戦前の軍隊と違うし、自ら進んで戦えないような規制を次から次へと自衛隊に課してきた。二つ目は、米国もまた太平洋国家であり、米国が中国と緊密な関係になるかどうかによって日本の運命も決まってくることだ。

米の対中政策は「関与」と「保険」
この二つの認識が自民党政権時にだんだん希薄になってきた上、民主党政権になってからは消え去ってしまった。鳩山由紀夫前首相のトンチンカンに懲りてか、菅直人首相は所信表明演説で「日米同盟を外交の基軸」にするなどと述べている。が、事の本質をどの程度理解しているか甚だ疑わしい。

国際社会の中で日本がいかなる位置を占めているかの構図が正確につかめない原因の一つは、米国の対中政策にあると思う。米国は中国に対して、国際社会になじませようとする関与政策と、万一の事態に備える保険政策を同時に実行しているにもかかわらず、そのいずれか一方だけを見ている人が多いように見受ける。さらに複雑なのは、米国は中国との駆け引きで、ときには関与の面を、またときには保険の面を強く打ち出すから、余計に分かりにくい。

日本が口つぐむ中国の脅威
いまの米中関係は若干緊張気味だ。いろいろ原因はあるが、中国が近海防衛型の海軍を外洋展開型に大きく転換する実態がますますはっきりしてきたからだ。6月5日にシンガポールで開かれた「アジア安全保障会議」でゲーツ米国防長官は、中国が南シナ海で「航海の自由を阻む武力行使や行動をすることに反対する」とズバリ指摘した。これに対して中国の馬暁天・人民解放軍副総参謀長は、南シナ海で違法な偵察行動をしているのは米国だと反論した。外交上は関与政策を取っているものの、サヤ当てが続いている。南シナ海だけでなく、日本に関係のある東シナ海まで中国海軍の進出に脅かされている日本が、与党の民主党を先頭に「中国の脅威」は口にしない。

日本の政界と異なり国際政治では、米中両国の間でいい世渡りをしようとしても、そうは問屋が卸さない。日米同盟関係が破綻の兆候でも見せたら、アジアの国際秩序は一変する。 (了)

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第42回:「日米同盟が基軸」を肝に銘じよ(田久保忠衛)