公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

松田学

【第106回】震災復興財源の答えは増税なのか

松田学 / 2011.09.12 (月)


大樹総研特別研究員 松田学

「震災復興の負担を将来世代にツケ回してはならない。だから復興国債を今の世代で償還すべく復興増税を」―。もっともらしい理屈だが、ちょっと待ってほしい。

将来世代へのツケ回しを言うなら、高齢世代への社会保障給付で膨らんできた赤字国債の方ではないか。こちらはなんと60年償還。借り換えを続け、3世代にわたり負担をツケ付け回している。60年とは本来、将来世代に資産を残す建設国債について正当化される償還期間だ。将来世代に資産を残さず、財政法が禁じている赤字国債を、特例法で発行することに踏み切った際に、建設国債と同じ償還期間としたことには、もともと正当性がなかった。

建設国債も無駄な公共投資の財源にするなら避けるべきだが、被災地や東北地方の復興は明らかに将来世代に貴重な資産を残す。建設国債の考え方が最もふさわしい。60年償還どころか、100年償還でもおかしくない。それによって多額の増税は不要になる。

眠っている資産を有効活用せよ
そもそも財政規律の問題とは、超高齢化社会を迎える日本がそれに対応できる税制の構築を怠ってきた問題にほかならない。ムダの削減も大事だが、それとは桁違いの「不都合な真実」から何十年も目をそむけ、社会保障の国民負担を先送りしてきた政治に不作為の罪がある。財政規律を理由に震災の復興財源にまで制約を課すのは筋違いだろう。論理の混同が横行している。

必要なのは、物事の理非と事柄の区別をきちんとわきまえた、筋の通った経済財政運営ではないか。震災復興は、次の日本を組み立てる上でも、日本経済がデフレから脱却する意味でも、日本のチャンスになるものだ。それは、世界最大の対外純資産と巨額の「凍結金融資産」を抱える日本が、これを有効に活用できるかどうかにかかっている。

ドサクサ紛れの増税論
おカネはうまく回してこそ増えていく。日本経済はこのままでは高齢化で資産取り崩しの局面に入り、巨額の国債残高を維持できなくなる。その前に、資産を有効なおカネのフローとして国内で回すことで、新たな資産を形成する回転を強化しておくべきだろう。長らく続くデフレ経済は、日本にとってそれが可能かつ必要であることのシグナルだ。リーマン・ショック後に八方ふさがりの欧米とは異なり、震災後の日本にはマネーの有効な行き場所が生まれた。

社会保障財源としての消費税増税の道筋を明確化することで財政規律は確保される。いま政治に問われているのは、ドサクサ紛れの増税論ではなく、日本の資産ストックを生き返らせ、国家再生の軌道に日本を乗せるためのビジョンと戦略の方であろう。(了)

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第106回:震災復興財源の答えは増税なのか(松田学)