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国家基本問題研究所

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科学的知見を基に被災者と共に立ち直っていきたい 櫻井よしこ

科学的知見を基に被災者と共に立ち直っていきたい

 櫻井よしこ  

 

12月15日、NPO法人のハッピーロードネット(HRN)とシンクタンク国家基本問題研究所の企画委員らとともに、福島県二本松市安達運動場仮設住宅と福島市南矢野目仮設住宅を訪れた。小雪が舞い、寒風が吹いたこの日は今季一番の寒さだった。

おのおのの仮設住宅地には約200世帯が避難しており、中学1 年生から80歳まで幅広い年齢の人びとと車座で語った。全員が、放射能汚染で現在故郷に戻れていない浪江町の人びとだ。

多くの人びとがここにたどり着くまでに避難場所を転々としていた。浪江町の約8,000人は、大震災翌日に避難を命じられ、同じ町内の北西20キロメートルの津島地区に移った。通信手段も国からの放射線量情報もいっさいないなかでの、町の決断だった。避難3日目に津島地区に隣接する葛尾村で全村避難が無線放送され、それが津島地区にも伝わった。同日正午頃、福島第一原子力発電所3号機爆発が報じられた。

不安と驚愕のなかで、浪江町は二本松市に被災者の受け入れを要請、15日朝、住民は新たな避難先に向かった。そこから先は全員が同じ行動を取ったわけではない。二本松市に向かう人、会津や郡山、県外に向かう人など、さまざまだった。そして今、彼らは問う。なぜ、事故直後に放射線量の情報はもたらされなかったのかと。

菅直人首相(当時)は自分はそんな資料があったとは知らなかったと言い張ったが、政府の手元にはSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータがあった。それを発表していれば、津島地区で高い放射線量が計測されていたことも明らかにされ、浪江町の人びとはそこを避難先には選ばず、今ほど放射能について悩むこともなかったかもしれない。

2ヵ所での対話で最も関心の高かったのが放射能問題だったのは当然で、意見交換のなかで、私は放射線量についての専門家らの見解を紹介した。危ういと恐れる前にあるいは、安全だと安心する前にできるだけ科学的知見に基づいて考えなければならない。その意味では日本も採用するICRP(国際放射線防護委員会)の基準をまず、頭に入れておきたい。それは、自然界から受ける放射線量(日本は年平均1.4ミリシーベルト)に加えて人為的要因で受ける放射線量は年1 ミリシーベルト以下に抑える。ただし、医療従事者などは五年間で100ミリシーベルト、つまり年に20ミリシーベルトまでは許容される。また、緊急時には年に50ミリシーベルトまでは許されるというものだ。

人間が浴びる放射線量は少ないに越したことはない。特に児童、幼児はできるだけ露出を少なくするよう、守ることが大切だ。しかし、職業によって、あるいは緊急度によって5年で100ミリシーベルト、1年で50ミリシーベルトまでは許されている。ICRPの基準は、それだけの放射線量を受けても健康を害する危険性が有意に高まることはないとの判断に立っているのだ。

食品のセシウム汚染についても、ガンなどの放射線治療の専門家らの考えはあくまでも冷静である。おそらく、福島の人も、東京の人も、九州の人も、一定年齢以上になれば同じ確率でガンを発症すると専門家は語る。けれど、人間は数字や理性だけの存在ではなく、心の存在でもある。そう考えるとき、国はやはり、“汚染”が指摘される食品を廃棄するのが政治的、社会的に正しいのではないかというのだ。

私たちは心の面を決して軽視しないよう努めながらも、具体的数字を軸に話し合った。多くの人の表情が少しずつ明るくなった。故郷に戻れるにしても戻れないにしても、自分がどこに立っているかを知ること自体が力を与えてくれると実感した瞬間だ。

原発と放射能の問題はこれからも長く続く。両問題を賢く乗り越えるために、被災者が最も必要とする科学的、客観的情報を発信し続け、日本人として一緒に立ち直っていきたい。

『週刊ダイヤモンド』   2011年12月31日・2012年1月7日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 918

近藤正規国際基督教大学上級准教授「日印経済関係」について意見交換

  国際基督教大学の近藤正規准教授は12月16日、国家基本問題研究所で、日印経済関係の現況と展望について語り、同研究所の企画委員と意見交換した。特に今後の展望と課題についての同准教授の主な発言要旨は次の通り。

 

外務省にインド課の設置を
  まず政治外交の課題について幾つかあげてみたい。
1) 日印外交を文言だけでなく本当の意味で「グローバルで戦略的」にする必要がある。インドが最も望んでいる原子力協定に向けての政府間協議が遅れているため、欧米や韓国と比べ戦略的な展開がない。
2) 政治レベルの結びつきを密にすべきである。05年以来、日本の首相は隔年で訪印しているが、首相以外の国会議員はあまりインドを訪問していない。
3) 外務省の南西アジア課の位置づけが高くない。将来的には、南アジア7カ国を担当する南西アジア課に代わる「インド課」を設置、対印外交を強化したい。

 

インド市場、長期的視野で
次に日本がインドでのプレゼンスを高めるための5つの経済上の課題をあげたい。
1) 日本の企業は、長期的な視野でインド市場を見ていくことが大切である。例えば、企業のインド担当者の人事査定に関連して、駐在期間を長くして、長い目で査定を行うことが求められる。成功例としてあげられる自動車会社のスズキでは、駐在員のインド滞在期間を最低5年としている。
2) 自動車や電気、電子以外の進出があまりみられない。インドの小売市場の外資開放が近いとされるが、日本の対応は消極的である。他国の多国籍企業は、インフラから日用消費財にいたるまで、幅広い投資を行っている。
3) グローバルビジネスにおけるインドの位置づけを明確にする。日印EPA(経済連携協定)や、印ASEAN、印タイとのFTA(自由貿易協定)、印星EPAなどの活用も検討し、インドを世界戦略に組み込みたい。
4) 日本企業がM&A (合併や買収)などの形で、出遅れを挽回しようとするのはいいが、その際、対象企業の不動産や金融資産などの調査活動をするデューディリジェンスを行うことが望ましい。
5) デリームンバイ産業大動脈構想(DMIC)やデリームンバイ貨物専用鉄道建設計画(DFC)は官民協調の象徴とされているが、DFCの遅れやDMICでは官民の温度差が目立っている。官民のインフォーマル(非公式)な対話の場を広げて、実現性の高いプロジェクトを進めていくべきである。

 

    中国の周辺国との関係を深める 
  インドと中国の政治・経済関係を要約すると、
1) インドからみた中国は、軍事・政治的には脅威の存在であるが、経済的には最大の貿易相手国でもある。マンモハン・シン首相の見方は、中国は信用できないが、経済的には得るものが多い、あえて喧嘩する必要はない、といったところか。
2) インドが外交上重視している国は、中国の周辺国である。日本を筆頭にベトナム、オーストラリアなどである。これらの国と経済関係を深めることにより、中国を間接的に牽制しようとしている。
3) 中国からみると、インドの存在は経済的に小さいため、あまり議論になっていない。
   

                      (文責・国基研)

   

 

対北政策で拉致被害者救出を最優先せよ 西岡力

 
PDFファイルでご覧ください。
第122 回:平成23年12月26日対北政策で拉致被害者救出を最優先せよ(西岡力)

 

 

 

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拉致問題で制裁変える必要なし 東京基督教大学教授・西岡力

 拉致問題で制裁変える必要なし

 東京基督教大学教授・西岡力  

 北朝鮮の独裁者、金正日総書記が死んだ。世界中から無辜(むこ)の民を拉致し数十年抑留し続けている事件の首謀者だった。父親の金日成氏死後、人民への配給を停止し人口の約15%の350万人を餓死させながら、核、ミサイル開発と韓国への政治工作を続けてきた。

 ≪金正日氏は指令出した張本人≫

 1974年、後継者に指名されると、いわゆる「唯一指導体制」を治安機関、党、軍、政府、工作機関、社会全般に構築し、それ以前の朝鮮労働党による一党独裁を金父子個人独裁に変質させた。表向きは金日成氏を偉大な首領としながらも、労働党の公式機構を無視し、全ての情報が自身にのみ集まり、全ての幹部が自らの指示だけを実行し、少しでも己の権威に逆らう者は、地位の高低に関係なく家族連座制で政治犯として処罰する、過酷な体制を築いた。

 外国人拉致も、このような個人独裁体制成立の過程で、金正日氏の指令によって世界規模で行われたテロ行為だった。金正日氏は76年に新しい対南工作の方針を示す演説を行い、その中で、エリートを長期間教育して「指導核心工作員」を養成しなければならないとし、「指導核心工作員」は「日本に行けば日本人に、中国に行けば中国人に、カンボジアに行けばカンボジア人になり、言語、習慣、職業問題を合法的に解決できなければならない」と理由を述べて、「そのため、外国人の教官を連れてこい」と拉致指令を出した。

 ≪指令翌年、翌々年に被害集中≫

 日本政府が認定している拉致被害者17人のうち13人は、その翌年の77年、翌々年の78年の2年間に拉致されている。拉致の対象となったのは、筆者らの調査では、日本を加えて少なくとも12カ国・地域に上っていることが判明している。そのうち、日本と韓国を除く10カ国・地域(タイ、レバノン、ルーマニア、マカオ=現中国特別行政区、シンガポール、マレーシア、ヨルダン、フランス、オランダ、イタリア)からの拉致はすべて77、78の両年に起きている。

 昨年、日本を訪れた大韓航空機爆破テロ(87年)の実行犯の元北朝鮮工作員、金賢姫氏に筆者が直接、尋ねたところ、「金正日の現地化指令については、工作機関の教官からよく聞いていました。私たちが1期生です」という具体的な証言を得た。彼女は平壌外国語大学日本語学科の学生だった80年に、「指導核心工作員」として養成されるべく選抜されている。

 76年の拉致指令を受けて、77、78の両年に世界規模で拉致が行われ、被害者を教官とするための朝鮮語教育や政治教育が行われたうえで、80年から「指導核心工作員」候補が選ばれたのである。

 「工作員の現地化」と関連して元統一戦線部幹部の張哲賢氏は、「現地化は大人になってからでは難しいので、全世界から子供を拉致したが、情緒的な安定を欠いてしまい工作員として使えず失敗、その後、金正日氏は『シバジ』すなわち外国人の男性と北朝鮮の工作員女性の間で子どもを産ませて、その子どもを母親である北朝鮮工作員が育てるよう指示した」と、驚くべき証言をしている。

 2002年9月、テロとの戦いの一環として、北朝鮮を含むテロ支援国家による大量破壊兵器保有の阻止を目標に掲げたブッシュ前米政権の強大な軍事的圧力に脅えた金正日氏は、日本からの多額の資金提供の約束と引き換えに、拉致を認めるという決断をした。

 だが、その際にも、横田めぐみさんや田口八重子さんが死亡したとの嘘の通報をし、偽の遺骨や偽造死亡診断書などを出してきた。「唯一指導体制」のグロテスクな個人独裁政権においては、独裁者本人の決裁がない限り、その責任を認めることはできない。そこで帰国させれば金正日氏の拉致指令を暴露される恐れがある被害者は全員、死亡とされたのである。

 ≪首謀者を継いだ金正恩氏?≫

 筆者らはこれまで、一度、死亡と通報された被害者たちを助け出すためには、北朝鮮に強い圧力をかけ続け、金正日氏本人を追い込むしかない、と主張してきた。

 金正日氏が死んだ今、北朝鮮の政権が息子の金正恩氏による個人独裁体制に順調に移行するかどうかは不透明だ。1994年の金日成氏死後、北朝鮮は核問題などで融和姿勢を装い、だまされた日米韓は大量の食糧と重油などを支援した。金正恩氏の後継体制が安定するには、住民らに配る食糧がどうしても必要だから、同じ詐欺的政策に出てくる可能性は高い。

 日本にとって、拉致命令を下した帳本人の金正日氏の死は、人質を取って立てこもるテロ集団の首謀者が逮捕されないまま病死し、息子が首謀者を継いだに等しく、人質全員解放という譲れない課題が進展したことにはならない。

 したがって、金正恩体制が口で何を言おうと、こちらから先に制裁を緩めたり支援をしたりしてはならない。彼らが、被害者を返すという具体的行動を取るまで圧力を継続し、父親による悪事を認めざる得ないところまで、息子を追い込むほかない。従来の方針を変える必要は全くないのである。(にしおか つとむ)

12月23日付産経新聞朝刊「正論」

金正恩政権は長続きしない 西岡力

PDFファイルでご覧ください。
第121 回:平成23年12月19日金正恩政権は長続きしない(西岡力)

 

 

 

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野田首相のアジア外交を憂慮する 田久保忠衛

PDFファイルでご覧ください。
第120 回:平成23年12月19日野田首相のアジア外交を憂慮する(田久保忠衛)

 

 

 

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梅田邦夫外務省南部アジア部長と意見交換

  平成23年12月16日(金)研究所会議室にて、梅田邦夫外務省南部アジア部長と意見交換をおこないました。

 

 

月例研究会「原発抜きで日本は生き残れるか PartⅡ」動画配信開始

平成23年11月25日(金)全国町村会館 本館にて、「原発抜きで日本は生き残れるか partⅡ」と題し講演会を開催しました。
皆様是非ご覧ください。

杏林大学田久保忠衛名誉教授(国基研副理事長)「TPPと新アジア戦略」について意見交換

   杏林大学の田久保忠衛名誉教授(国家基本問題研究所副理事長)は12月9日、同研究所で、「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)と新アジア戦略」について語り、同研究所企画委員と意見交換した。田久保教授の主な発言要旨は次の通り。
 TPP反対論に対しては三つに分類して考えたい。第一は、ペリー来航以来、日本がアメリカの陰謀でずたずたにされたという議論だ。日本がアメリカとの関係を持つようになったのは、日露戦争後からである。そのきっかけは、1)日本が日露戦争に勝利したから2)日本が満州というマーケットに重大な関心を抱いたから3)アメリカで日本人移民に対する人種差別が行われたから、などが挙げられる。日英同盟の歴史をみても明らかであり、TPP反対論者が言う、ペリー来航以来日本が骨抜きにされたという陰謀論はあてはまらず、やはり元は日露戦争にある。
   第二に、農業や畜産、電子機器、医療などの問題は、事務レベルで国益に照らして個々の交渉を進めればよいことである。

 

    ヘッジング政策へ転換
   第三に、そして最も重要なことは、TPPを戦略的にどのように位置づけるか、である。アメリカの対中政策はG2論が言われ、HEDGING (ヘッジング、保険)よりENGAGEMENT(インゲージメント、関与)政策の方が強い時期があったが、中国の様々な挑発行動や朝鮮半島の緊張からヘッジングに大きく転換してきた。これが決定的になったのが、先月のオバマ大統領のキャンベラ演説やインドネシアでの東アジア首脳会議であり、その下敷きになったのが「FOREIGN POLICY」誌に発表されたクリントン国務長官の論文「アジアの世紀」である。
   アメリカはこれまでの10年間、イラクとアフガニスタンに忙殺され、その間、中国が軍事的に大幅に増強してきた。しかし、両国からの部隊削減、或いは撤退方針が決まり、オバマ政権は豪ダーウィンへの海兵隊常駐などアジア防衛強化に乗り出した。

 

  TPPは対中戦略の一環
   TPPに反対する人は、反グローバリゼーション(ヒト、モノ、カネが国境を越える)を主張するが、大統領も国務長官も共に「法の支配や貿易ルールを順守しないのを認めるわけにはいかない」と明言している。(それでも、TPPに反対する理由はあるのだろうか)。このルールに一歩ずつ近づけ、中国を国際ルールに従わせようとすると、中国の解体は半ば必然になるのではないか。毛沢東以下の中国の指導者が嫌った「和平演変」の文脈で米政策の転換をみる必要がある。このところのハワイ―キャンベラ―ダーウィン―バリ島に及んだオバマ大統領の足跡を分析して「東南アジアと結び、中国に対する軍事的優位を保つ戦略上の重要な一要素だった、それがTPPである」(豪ローウイ国際政策研究所のアンドリュー・シアラ所長)という。こうした戦略的発想が日本には欠けている。

 

  ミャンマーは賢明な道へ
アメリカの新たなアジア戦略との関連で、指摘しておきたいのは、
  1) アメリカは予算削減、防衛費削減などに直面しているが、総合的に考えれば、まだアメリカに並ぶ国はない。従って、アメリカが衰退、或いは崩壊などという、乱暴な議論をしてはいけない。アメリカはイラク、アフガニスタンからの撤退で「内向き」になるのではないかとの懸念もあったが、オバマ大統領は「アジア・太平洋地域を犠牲にするような国防予算の削減はしない」と明言しており、アジア・太平洋地域から手を引くことは考えられない。
  2) オバマ大統領はキャンベラ演説でダーウィンに米海兵隊を常駐する方針をあきらかにしたが、ダーウィンの右目はティモール海、南シナ海、左目はインド洋に注がれ、明らかに中国に睨みをきかしている。また、インドネシアにはF16新型機24機売却を決め、バリ島からミャンマーの民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チー女史に電話するなどのシグナルを送っている。
  3) ミャンマーが一直線に民主化されるとは思わない。しかし、ミャンマーは民主化へ向かってもう引き返せない地点まできたのではないか。後は徐々に中国から引き離すだけである。インドにとってミャンマーは東南アジアの入り口にある。地政学的にミャンマーだけは中立化させたい、というのがインドの基本的な外交政策である。これが実現の一歩手前に入った、と言える。
  4) 冷戦後に出来た四つの共産主義や独裁主義国家(中国、ベトナム、北朝鮮、ミャンマー)のうち二つが中国から引き離されようとしている。残るは中国と北朝鮮だ。ミャンマーは独裁を続けても飯が食えないことに気づき、賢明な道を歩み始めたが、残る二カ国も暴走か軟着陸かの選択を迫られるだろう。
                                                                             (文責・国基研)

ニクソン米大統領の訪中と酷似したクリントン長官のビルマ訪問の真意 櫻井よしこ

ニクソン米大統領の訪中と酷似したクリントン長官のビルマ訪問の真意

 櫻井よしこ 

11月30日から3日間、ビルマを訪れたクリントン米国務長官と民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チー氏との対面の様子に、思わず目が吸い寄せられた。しっかりと抱擁し合った二人は、このうえなく息の合ったかたちでアジアの近未来を決定的に変えていくだろう。両氏の互いへの敬いと信頼の深さは、その後明らかになった米国とビルマのあいだの過去3年間の交渉からも明らかだ。

オバマ大統領がクリントン国務長官のビルマ派遣を発表したのは11月18日、東アジア首脳会議出席のために訪れたインドネシアのバリ島でだった。会見で大統領はこう語った。

「米国はビルマの人権問題に重大な懸念を抱いた。長い年月の暗黒時代のすえにビルマに今、光明が見えてきた。政治犯や少数民族、北朝鮮との緊密な関係など現在も問題点は多いが、民主主義への動きもある。米国はこの機会を歴史的転換の好機ととらえたい」

オバマ大統領は一気に語り、「昨夜、スー・チー氏と語り合った。彼女も米国のビルマの民主化への関与を支持していることを確認した」と述べ、国務長官の派遣を発表したのだ。

大統領は質問をいっさい受けず、重要発表だけでさっと姿を消したが、その手法は世界を震撼させた1971年のニクソン大統領の訪中計画発表と酷似している。似ているのは手法だけではない。国務長官のビルマ訪問の重要性はニクソン訪中の重要性に匹敵する。ビルマの民主化と中国離れが進めば、それはチベットやウイグルにも波及し、独立を視野に入れた地殻変動につながる可能性がある。民主主義と自由を掲げる諸国が一党支配と人間の弾圧を是とする中国を包囲し、中国を変えていく可能性があるのだ。

オバマ政権は発足当初から米国のビルマ政策の再検討を開始し、3年間で20回を超える秘密交渉を行ったそうだ。クリントン長官はビルマの軍事政権に制裁一辺倒の外交で応ずることの限界を感じていた、と語ったが、ビルマ軍事政権が米欧諸国の厳しい制裁ゆえに否応なく中国への依存を強めてきたのは事実だ。中国にとっては願ってもないことだった。ASEAN諸国中、最大の国土と豊富な資源を有するビルマに、中国は積極的に投資し、その国土と資源を事実上中国のものとしてきた。

一例がイラワジ川に中国が建設中だったミッソンダムである。同ダムは、建設は中国資本で中国人労働者が担当、完成後も中国が運営する。つくり出される電力は「最低でも90%は中国に送電する」という契約だ。つまり、発電量全量を中国に送ることもあり得る、というより、全量を中国に送ることを前提とした計画である。

軍事政権に替わって新政権が生まれた今年三月以来、ビルマ国内で噴き出したのは反中国の国民感情だった。経済的に中国に依存し過ぎた結果、資源も国土も奪われるという不安と不満が新政権を動かし、その動きを米国は好機ととらえた。米国は以降、ビルマ民主化のテコ入れを強めるだろう。

インドきっての戦略家、政策研究センター所長のブラーマ・チェラニー氏が語った。

「中国はインド周辺の十数ヵ所に軍事拠点を築き、いわゆる真珠の首飾り作戦でインド封じ込め体制を築きました。今、われわれは、米国、日本、ASEAN、豪州、ニュージーランド、インド、ロシアが協力し、『真珠』に勝る『金の首飾り』作戦を展開すべきです」

ビルマの民主化への大きな一歩に加えて、ロシアでプーチン氏の強圧政治が嫌われ、与党が大幅に支持を落とした下院選挙の結果などを見れば、「金の首飾り」の萌芽はすでに随所に見られる。心配なのは、野田佳彦首相も民主党政権も、今眼前で進行しつつあるこの世界戦略の大変化に気づいている様子が見られないことだ。

『週刊ダイヤモンド』   2011年12月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 916


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