平成24年1月31日(火)星陵会館にて、 「どうすべきか 金正恩の北朝鮮」と題し月例研究会を開催しました。
詳報は後日掲載致します。

平成24年1月31日(火)星陵会館にて、 「どうすべきか 金正恩の北朝鮮」と題し月例研究会を開催しました。
詳報は後日掲載致します。

日本の歴史的遺産が負のかたちで今日なお台湾政治を動かしている
櫻井よしこ
これまで複数回、台湾の総統選挙を取材したが、今回は日本の台湾統治の後片づけは終わっていないという特別な想いを抱いて帰国した。敗戦後の日本は戦後の台湾事情に関しては基本的に無関係で過ごしてきた。台湾だけでなく日本が戦前かかわった国々の国内政治にはなんの介入もしなかった。それは当然のことではあるが、はたしてそれでよいのかと考えさせられた。
総統選挙は国民党の現職、馬英九氏の勝利に終わった。勝因は現状維持を求める台湾人の意思の反映、野党候補の蔡英文氏が争点を絞り切れなかったため、などと分析された。
じつは今回の選挙は、台湾人の政党である民進党が初の女性総統候補の蔡氏の下で国民党を追い上げ、際どい接戦になると見られていた。であれば、勝つためになりふり構わぬ買収や選挙妨害もありうるとの懸念から、公正選挙監視委員会がつくられた。民進党が軸になってつくった同委員会は米仏蘭豪加などに日本も加わって7ヵ国26人で構成した。監視団は投票前から台湾入りし各地を調査した。
委員会は選挙を「おおむね自由だったが、公正ではなかった」と結論づけた。公正ではなかったとした理由の一つが国民党のすさまじい財力の影響だった。
国民党はおそらく世界一の金持ち政党だ。中央研究院社会学研究所所長の蕭新煌(シャオ・シンホァン)氏が語る。中央研究院は国民党が1921年に創設、国共内戦のすえ、49年に国民党が台湾に逃れてきた際に中央研究院も台湾に移った。歴史的に親国民党ではあってもその反対ではないと考えてよい研究所である。
そう問うと、蕭氏は笑って、自分たちは純粋な研究機関で、どの党にも肩入れしていないと語った。その蕭氏が国民党の資産についてこう語る。
「国民党は財力のほとんどを国共内戦で使い果たして台湾に逃れましたが、その後台湾で巨万の富を築いたのです」
尾羽打ち枯らして逃れてきた台湾で、国民党はいかにして富を蓄積したのか。そこに日本が深く絡んでいる。国民党は台湾に中華民国政府を打ち立て、日本政府、企業、個人らが残していった財産を次から次に接収した。彼らの財力の基盤は日本の資産なのである。
国民党はまた49年から87年まで38年間も台湾全土に戒厳令を敷き続けた。かくも長きにわたって戒厳令下にあった国は台湾のほかにないだろう。その間、国民党はおよそなんでもできた。たとえば、開発計画を決め、その事前知識に基づいて土地を安く買い、値上げ後に売るなどは朝飯前だ。
国民党の資産は、膨大過ぎることと外部チェックが働かないように複雑な構成になっているために、全容把握はきわめて難しい。いくつか、優れた研究がなされており、その中に国民党の株式配当による収入は年間約1億ドル(約80億円)という数字があった。別の調査では、2000年から07年までの約8年間で、国民党は証券売却で約11億ドル(約880億円)の利益を得たとも報告されていた。ただしこれらはいずれも「少なく見積もって」という前提付きである。
全容解明にはなお道遠しなのだが、国民党の資金・資産が膨大なことはわかる。それが各地の国民党支部を通じて全国に配られ、利権配分の基本的枠組みとなっていると見られる。
その構図の中で2,300万人の国民は暮らしているのだ。日本の資産が国民党の財政基盤をつくり、党と政府が一体の国家体制の下で国民党はいよいよ権力を強めた。その枠組みの下での選挙であれば、選挙自体が国民党の圧倒的有利になる。日本の歴史的遺産が負のかたちで現在の台湾政治を動かしているのである。
同様のことが朝鮮半島についてもいえる。日本がこうした国々に今も深い関心を抱き、民主主義国家建設に力を貸し続けなければならないゆえんだ。
『週刊ダイヤモンド』 2012年1月28日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 921
国会の付帯決議で日印原子力協定交渉妥結を
平林博日印協会理事長は1月20日、国家基本問題研究所で「日本とインドの戦略的グローバル・パートナーシップ」について語り、同研究所企画委員と意見交換した。この中で、平林理事長は、懸案となっている日印原子力協定交渉において、インドが核実験を行った場合に原子力協力をストップできることをどう担保するかが問題になっているとし、妥協策として、「日本が原子力協力をストップしうることを協定に明文化することはインドが受ける可能性はないので、協定に書き込むことには固執せず、別途、国会批准の際の付帯決議でその旨を宣言することでもよいのではないか」との個人的見解を明らかにした。
平林理事長によると、米印原子力協定でも核実験と原子力協力のリンクにインドが強く反対したため、結局アメリカは協定の中に条文化することは諦め、米国国内法で処理することで妥協した。つまり、仮にインドが核実験を行った場合、アメリカは、協定の条文に基づくのではなく、米国国内法に従って原子力協力をやめる、ということである。
日本でも協定にこの趣旨の条文を挿入することではなく、協定本体はそのままにして、国会の付帯決議を行えば、インド側も反対する理由がない、と同理事長は語った。さらに、同理事長は、国会の付帯決議には法的拘束力はないが、国会の決議であるから一定の政治的重みはあるし、過去において法律や条約を国会で承認する際に付帯決議はよく用いられた、と述べた。ただ、法律によらず国会の付帯決議で処理するやり方については、NPT加盟国でないインドに対する原子力協力につき根強い反対論があるので、実現が難しいとの見方もある由である。
インドは輸出管理規制外に
また、大量破壊兵器拡散防止のための輸出管理政策では、経済産業省が北朝鮮やイランの企業とインドの企業(国防省と関係の深い)を同列に置き、日本企業が取引をやめるように指定している。この点について、平林理事長は、インドといえども信用はならないとの意見もあるが、「アメリカは徐々に指定から外してきている。日本も段々外すのでは」との見通しを述べた。
平林理事長は、駐印大使(1998-2002年)、駐仏大使(2002-2006年)、査察担当大使(2006-2007年)などを務めている。インド関係で、現役時代から言い続けていることとして、平林理事長は 1)インドは中国に対して対抗意識があり、包囲網を固めたいと思っているが、公に言うのを嫌う。非同盟という遺伝子ともいえるDNAもあるので、インド側の微妙な感情を配慮する必要がある 2)印パと言わないで欲しい。英語で「ハイフナイゼーション」、両国をハイフンで結んで欲しくないとの思いが非常に強い。要するに、インドはパキスタンとは民主主義や軍事的な体制で全然異なっており、格が違うのだ、という自負がある、ことをあげた。 (文責・国基研)

ゲーテが三大詩人から落ちた訳
比較文化史家、東京大学名誉教授・平川祐弘
三国同盟を結んだ枢軸国の人道に対する罪の問題と、独日伊の文学史的地位の敗戦後の変動について、私見を述べたい。
私は学校時代を敗戦前後に過ごしたが、当時は第一外国語は英語で、高校から習う第二外国語はドイツ語だった。ドイツ語の威信は明治以来、旧制高等学校や帝国大学で非常に高く、ドイツ語は教養のため、英語は商業のためと思われていた。ドイツにはゲーテ、カント、ベートーベン、マルクスなどがいたからでもあったろう。
≪贖罪でドイツ文化に自信失う≫
昭和23年、旧制高校に入ったときは、私も当然、ドイツ語を選んだ。それでも、大学に進学してからはフランス語を中心に学んだので、昭和20年代の末、フランス政府の奨学金で留学することを得た。戦勝国アメリカへ渡った当時の日本人が肩身の狭い思いをしたのに比べて、日本と同じく敗戦国だったドイツやイタリアや、形式的には戦勝国だが実質的には敗戦国だったフランスで長く遍歴時代を送った私は、歴史に対する見方がいつしか世間一般とずれてしまった。おかげでオリジナルな見方も出せるといえば出せるのだが、そんな一例を示したい。
世界の三大詩人はダンテ、シェイクスピア、ゲーテと、以前は相場が決まっていた。ところが、この文学史番付が近年変わってゲーテの名が落ちてしまった。なぜか。ゲーテが優れていないからではない。ドイツ人は、ユダヤ人虐殺という人道に対する罪を自国人が犯したがために意識の根底から動揺し、かつて誇りとしていた自国の人文主義文化に対する自信を喪失、過去の大作家をも尊重しなくなってしまったからである。
彼ら自身が尊敬しなくなったからには外国人が尊敬するはずはない。日本でも秀才は独文科へ進学しなくなった。それやこれやでわが国の高等教育を風靡(ふうび)したドイツ語は、平成の日本では見るかげもない。若き日にゲーテの『詩と真実』を自分の青春と重ね、『ファウスト』を習うことで人間の自律性を尊び、『イタリア紀行』を読むことでアルプス以南の地に憧れた私としては淋(さび)しいかぎりだ。
≪鴎外、漱石が尊重される日本≫
複数の外国語に堪能な旧制高校出身の土居健郎博士と、このことでお話ししたことがある。同じく敗戦国民といっても日本人は幸福だ、と精神医学者の立場から意見を述べられた。ゲーテすらも重んじなくなったドイツと違って、わが国では鴎外や漱石は尊重されている。
人間は自国の近代古典を読むことで文化的アイデンティティーを保ち得、それによって精神の安定も保ち得る。鴎外や漱石を読まない人でも、司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読むことで明治日本の国造りを肯定し、自国の過去をポジティブに評価することで日本人としての自信を持ち得る。すくなくともニヒリスティックな反日文化人になることはない。
それが日本の場合だとするならば、同じく枢軸国であり、敗戦国でもあったイタリアの場合はどうか。
イタリアには根源的な自信喪失などは見られない。なるほど、かつては少年の必読書であった『クオレ』は、戦後は遠ざけられた。その過剰な愛国心鼓吹が嫌われたのである。だが、それ以外に変化は見られない。イタリア文学は国内ではもとより海外でもダンテ、ボッカッチョをはじめもてはやされている。いま東京大学で第二外国語で志望者数が増えている西洋語は、イタリア語なのだそうである。
≪変わらずもてるイタリア文学≫
そこで私は考える。独日伊の三国を同等に悪と見なしたことがそもそも間違いではなかったか。イタリアも日本と同様、ナチス・ドイツと同盟を結んだことが悪の烙印を押された最大の理由ではなかったか。ユダヤ人殲滅(せんめつ)という人道に対する罪を犯した意識はイタリアの通常の人には少なかった(ナチスに協力しユダヤ人殲滅に手を貸した人はムソリーニのイタリアにもいたが、そのような少数者はペタンのフランスにもいたのである)。
大観すれば、イタリアも日本も通常の国として普通の戦争を戦ったまでなのである。当時の国際法で戦争は犯罪ではなかった。それだから罪の意識は希薄なのだ。20世紀の世界で、独裁者が暴虐を振るい、桁違いの多数の人を殺したという点では、強制収容所のドイツのヒトラーと比肩さるべきはイタリアのムソリーニではなく、ラーゲリのロシアのスターリンと、「労働改造」の中国の毛沢東なのである。
第二次大戦前後で世界文学史の番付で最大の変動は、戦前はダンテ、シェイクスピア、ゲーテの三巨頭であったのが戦後はゲーテの名が脱落したことだが、それと同様、20世紀の世界政治の三大悪人はヒトラー、ムソリーニ、東条ではなくて、別の巨頭の番付ができてしかるべき時期が来ているように思われる。東条英機は愚かだったかもしれないが、そんな悪の大物ではなかったからである。(ひらかわ すけひろ)
1月27日付産経新聞朝刊「正論」
野田君、これじゃ身は削れない
評論家・屋山太郎
通常国会が始まった。焦点は来年度予算案と社会保障と税の一体改革である。消費税増税については、民主党は平成21年の衆院選で「やらない」と言った、自民党は22年参院選で「10%を公約した」と、互いに相手の不正直を追及しているが、財政上、国際経済上も消費税増税を見送れる状況にはないだろう。両党の意図が怪しいことについては、後述する。
≪予算の別勘定はまやかしだ≫
まず来年度予算案だが、実質96・7兆円というのは過去最大で、これによって国の借金は1000兆円を突破した。切らねばならない箇所を切れず、約束したことを追加したのだから、当然だ。民主党は「コンクリートから人へ」と国造りの基本方針を転換することで総選挙に勝利した。勝ったのだから、わが道を邁進(まいしん)するというのが政権の役割だ。その象徴が八ツ場ダム建設の中止だったが、国土交通省の担当者の巻き返しに遭って前田武志国交相が工事進行に固執した。こうなると、整備新幹線3カ所の着工まで一気呵成(かせい)に押し切られるのは当たり前だ。
96・7兆円ではあまりにも過大だということで、このうち3・8兆円は東日本大震災復興費への別枠に、2・6兆円は基礎年金の国庫負担の財政不足分に充て「年金交付国債」という別枠にするという。こうして本体は90兆3300億円、前年比2・2%減に収めたという。借金は、償還期限が違おうが将来入る見込みがあろうが、その時点で借金ならみな借金だ。2つを別勘定にして予算から外すというのは、ごまかしだ。
野田佳彦政権が姑息(こそく)な手段を取らされたのは、各省が無駄な予算を切れず、これまでの要求に加えて、民主党の新規政策を上乗せしたからだ。それ以前、自民党政権時代から、各省は省益を追求し、それを黙認してもらう代わりに、各大臣の新政策を上積みする慣行を重ねてきた。予算が足りなくなると増税で賄うパターンだった。しかし、自民党時代の末期から消費税増税に対する忌避が激しくなり、足りない分は国債を発行するという悪習が染み付いた。
≪公務員制度改革はやれるのか≫
だからこそ、民主党は21年衆院選で、「任期中には消費税は上げない。徹底的に無駄を省く」と公約した。その象徴が「天下り法人の廃止(取り潰し)」と「渡り根絶」である。なぜ天下り法人が出現するかといえば、これは公務員のピラミッド型人事と密接に関係している。同期をはじき出すのに受け皿の法人が必要なのだ。この構造を、野田氏自身、「シロアリ体質」と糾弾している。したがって天下り法人をなくすには、公務員終身制など天下り不要の人事制度に改変する必要がある。
中曽根康弘氏は国鉄改革をするのに全官僚を叱咤(しった)して3年かかった。小泉純一郎氏は郵政改革に政治生命を賭(と)し4年かけた。
30万人から成る団体の構造を変えるのには、内閣を挙げて3年からの労力が要るのに、鳩山由紀夫政権は小沢一郎幹事長とともに無為に過ごした。菅直人政権ときたら、天下り問題に全く目を向けなかった。3人目の野田氏一代に公務員制度改革という大仕事を託すのは無理だ。かといって、野田氏を免責するつもりもない。
野田氏は国家公務員の給与を平均約8%削減する改革法案を国会に提出してはいる。今回の改造内閣では岡田克也副総理が一体改革とともに、「102の独立行政法人を4割統廃合し、17の特別会計を11に整理する」と宣言した。公務員の給与約8%削減と独法の4割統廃合で増税の前提をクリアしたと言わんばかりだが、これはとんでもないまやかしである。
≪何もしないのが「統廃合」≫
そもそも、民主党は21年の衆院選のマニフェスト(政権公約)では、国家公務員の総人件費の2割削減を掲げたのではなかったか。ところが、実現しそうなのは給与の約8%カットだけである。しかも、同党は国家公務員への労働基本権の一部付与を立法化することも条件として求めている。これでは切り込み不足も甚だしい。
岡田氏の独法4割統廃合というのもまやかしである。統廃合というのは役所言葉で、何もしないということを意味する。麻生太郎政権時代、地方分権推進委員会に首相が「国の出先機関は二重行政の批判があるから原則廃止」と命じた。ところが、出てきた答申は、「原則統廃合」で以来、出先機関は1ミリも変わっていない。
野田首相は増税の前提となる公務員制度改革をすっ飛ばして遮二無二、消費税増税に走っている。「不退転の決意」は結構だが、自らが財務省の言いなりになっているという自覚はないのか。
このありさまを捉えて、自民党の谷垣禎一総裁は「公約では増税しないと言ったのに二枚舌だ」と攻撃している。しかし、谷垣氏自身は「責任ある野党として10%程度の消費税は必要だ」と断言していたのである。現在の反対論は手続き論にすぎない。いま解散して勝っておかないと9月以降は総裁の座にはいないから、という思惑も絡んだ私利私欲だろう。(ややま たろう)
1月26日付産経新聞朝刊「正論」
中国に引き込まれるか、再選の馬総統
櫻井よしこ
1月14日、諸国の先頭を切って台湾の総統選挙及び立法院選挙が行われた。与党国民党の馬英九氏が再選を果たしたが、得票数は4年前の総統選挙での756万票より67万票少ない689万票にとどまった。国民党が立法院で得た議席は113議席中64。法案成立に必要な過半数は押さえたが、憲法改正も可能とする全議席の4分の3に肉薄した前回より、大幅な議席減となった。
他方、野党の民主進歩党(民進党)は初の女性総統候補、蔡英文氏を担いで前回を65万票上回る609万票を得た。立法院の議席は現有の32から40へと善戦したが、国民党には及ばなかった。
台北の町で聞いた人々の声は、馬氏再選で中国との関係が悪化する心配は、民進党の蔡氏が当選した場合より少なく、他方、馬氏も国民党も前回より大幅に支持を減らしたために、「好き勝手」は出来ない、民進党によるチェック機能が高まると見る人々が目立った。
争点は専ら経済だったが、果たして現在の台湾にとってそれでよいのか。外交は中国との関係維持という角度で取り上げられた。台湾海峡の向こう岸には、中国が台湾に照準を合わせた1400基以上のミサイルが据えられており、核も搭載出来る。だが、こうした軍事的緊張の実態や安全保障の脅威は殆ど論じられずに、対中経済交流の維持・発展を、2人の候補はどこまで実現出来るのかなどという論点が主だった。
中国の最も厳しい軍事的脅威の標的となっている台湾で、安保問題が論じられない選挙戦は真の意味で異常である。台北駐日経済文化代表処元代表の許世楷氏は、台湾人は軍事的真空意識の中に在ると語る。
「海峡対岸のミサイルは台湾人皆が知っています。けれど、そのことを考えて暮らすのは心理的に非常な負担です。忘れてはいないけれど、多くの台湾人は正常な生活を営むために考えないようにしているのかもしれません」
「公正ではなかった」
台湾の中央研究院、社会学研究所の所長蕭新煌(シャオシンホァン)氏は、今回の選挙で国民党が勝利した理由のひとつが、この恐怖ファクターだと指摘する。中国からの離反には軍事的脅威の代償が伴うと恐れさせて投票に影響を与える意味で、台湾の総統選挙の隠れた主役は実は中国なのである。
96年に李登輝氏が台湾で初めての自由な民主主義的選挙で総統に立候補したとき以来、中国は露骨な介入を実施してきた。その手法は武力による威嚇から、経済に絡めた利益誘導と、非協力者への恫喝の組み合わせへと、大きく変化して今日に至る。私の台湾総統選挙の取材は今回で4回目だが、中国の介入の形が変わる中で、介入の度合いは年々、高まっていることを実感する。
台湾の民主主義を守るために、今回、日米欧の有志が構成する「台湾公正選挙国際委員会」(ICFET)が組織され、私もその一員として選挙を見詰めた。
ICFETの結論は、今回の選挙は「開かれてはいたが、公正ではなかった」というものだ。
何が公正で何が不公正かは見えない部分が多い。しかし、目に見えない不公正の典型が、誰も語ろうとしない中国の軍事力への恐怖である一方、目に見える不公正の典型が、中国政府の働きかけによると断言してよい大量の投票が行われたことだ。中国に立地する台湾企業の経営者らが一斉に社員に帰国し投票するように勧め、休暇に加えて旅費を支給したのだ。当初、旅費の5割が補填されるといわれたが、重慶など幾つかの市の台湾人社員には全額が支給されたという。結果、他の地域の労働者が残り5 割分を請求するなどといった動きが相次いだ。
このような方法で少なくとも20万人が帰国し、投票したと推測される。実際彼らがどの党に投票したかはわからない。しかし、事前に国民党の馬氏を支持するよう勧められていたであろうことは想像に難くない。中国に進出した台湾企業と中国当局の結びつきの強さを考えると、この投票斡旋行動の背景に中国共産党の意向が強く働いていたと見るべきであり、外国政府のこのような形での介入は、選挙の公正性に疑問を突きつけるものだ。
蕭氏は右の例を含む資金ファクターも馬氏の当選を後押ししたと分析する。氏が強調するのは国民党の資金の信じ難い潤沢さだ。蕭氏が語る。
「国民党は世界で恐らく最も金持ちの政党です。資産の全容は正確には把握出来ていませんが、台湾経済の特徴は数多くの政府関連企業、なかんずく、国民党関連企業が大きな役割を果たし、国家経済の重要な部分を占めていることです。台湾は党と国家を切り離せない合体国家だと言わなければなりません」
やがて中国の支配下に
普通の国では政党イコール国家ではない。だが、台湾は事実上、国民党が国家になっているというのだ。国民党の資産は不動産、株、債券など多様な形で保持されているが、株取引によって得る利益だけでも、控え目に見ても年に1億米ドル(約80億円)に上ると蕭氏は指摘する。この潤沢な資金で国民党は全国の支部を維持し、資金も仕事もそこを介して配られるというのだ。
シンクタンク「新台灣國策智庫」がまとめた「未完の民主化--台湾の選挙における不公正と異常について」の報告書には、国民党の証券取引による利益に関して、もっと大きな数値が記載されている。
これは08年3月に「エコノミスト・デイリー」紙の編集長らが発表した国民党の資金の特別調査報告書の中の数字だという。それによると、 2000年から07年の8年間に、国民党が売却した証券の総額は113億米ドル(約9040億円)、利益は11億米ドル(約880億円)だったという。
同報告書には、日本の敗戦後、大陸で中国共産党と戦った当時、蒋介石は国民党の資産の多くを戦費に使い、台湾に逃れてきたときには財政は疲弊しており、国民党の財政委員会の記録には8億米ドル(約640億円)もの資金不足が記録されていたという興味深い記述もある。
国民党の財政は台湾に逃れてきてから目覚ましく回復した。これは実は日本の個人、企業、そして政府が残していった資産の多くを国民党が所有するに至ったからだとも説明されている。
国民党の資産形成は如何にして可能だったのか。果たしてそれは公正な方法によるのか。中国の軍事的脅威にどのような戦略で対処するのか。こうした大事な問題から目を逸らし、目の前の経済だけを論じていては、台湾は軍事力への恐怖と中国依存の経済によって、やがて中国の支配下に引き込まれてしまう。心底、心配になった今回の選挙結果だった。
『週刊新潮』 2012年1月26日号
日本ルネッサンス 第494回
韓国による朝鮮半島の平和統一の支持を野田政権は宣言すべきだ
櫻井よしこ
北朝鮮の金正恩氏ほど、世界がその実像を知らない指導者はいない。なんといっても、約20年も前に「金王朝」の料理人だった人物の解説が今も各種メディアで珍重されるのである。
だが、人となりが正確にわからなくとも、金正恩新指導部の展望がいかに危ういか、それによって日本の安全保障体制がどれほど圧迫される展開となるかについては、明確に想像できる。
金正日総書記の死後、北朝鮮は急いで正恩氏を朝鮮人民軍最高司令官とし、正恩氏の後ろ楯の中心人物で正恩氏の叔父の張成沢氏が、昨年12月24日、正日氏の遺体が安置された平壌の錦繍山記念宮殿に突然、四つ星の大将として現れた。
正恩氏と張氏は共に軍歴がない。いわば軍には素人の指導者をトップに就けるかたちで正恩体制が急ごしらえされたわけだ。しかし、この体制はおそらく長続きしない。
脱北者の証言を聞くたびに驚くのは、あの閉鎖社会で、党や政府の高官でもない庶民がじつによく海外事情を知っているという事実である。北朝鮮の上層部は軍人も含めてなおさら海外情報に通じており、独裁政権の展望のなさを知っている。どんなかたちを整えようが、北朝鮮の国民の大半を筆頭に軍、労働党の幹部らを含めて新政権を支え抜こうという人間は少ない。
正恩氏が2010年に爆風軍団と通称され、自身が直轄する朝鮮人民軍内務軍を創設したのは、そうした自覚ゆえであろう。内務軍は北朝鮮の国家安全保衛部や人民保安部の上部機関として、恐怖の支配構造の頂点に立つ機関となった。
だが、正恩氏を「卓越した領導者」「金正恩同志はすなわち金正日同志」として崇める新指導部は、早くも食糧調達で迷走の様相を見せ始めている。昨年12月末に、米国に食糧支援を要請して拒絶され、一方、同時期に、国民に外貨使用禁止令を出したのだ。
現在、北朝鮮の国民にとって、外貨といえば中国の人民元であることから、外貨使用禁止令は人民元の使用禁止、つまり中国と距離を置くことを意味する。中国排除と米国接近を、性急なかたちで明らかにしたのだ。この正恩外交の未熟さが北朝鮮外交の迷走となって、北朝鮮を舞台にした米国と中国、米韓日と中国の対立を促進する危険性は大きい。
たとえば、米国が食糧支援にも応じず、恒例の3月の米韓合同軍事演習に踏み切れば、正恩氏はまたもや核実験を強行する危険性もある。その北朝鮮とイランが協調することもある。
周辺諸国にとっては正念場なのだ。北朝鮮および朝鮮半島がどうなるかではなく、どうするかを、考えなければならない。日本にとって最善の展開は、朝鮮半島を韓国による自由統一へ導くとともに、同半島への中国の介入を断固阻止することである。
驚くことに、韓国人の多くが、大半の日本人は朝鮮半島の分断継続と弱い韓国を欲していると信じている。
そうではなく、朝鮮半島の安定と自由体制は、日本にとっても非常に重要なのだと言明し、実際に韓国の自由統一を支持する具体策を準備すべきだ。日本政府がその意図を明確に韓国側に伝え、これから予想される種々の難局で常に韓国を支える体制をつくっていくことによって、日韓間の不幸な歴史を書き換える好機とすべきだ。日本がそのような戦略を打ち出せば、北朝鮮を越えて韓国にもすでに深く浸透ずみの中国の影響を殺ぐことにもなる。
そのために野田政権がすべきことはまず、米韓両政府が09年に発表した韓国による平和統一を目指すという共同宣言への支持を宣言することだ。これは宣言するだけで、きわめて大きな政治的力を発揮する。次に、早急に集団的自衛権行使に踏み込むことだ。そこまでできれば、野田政権こそ日本の政界再編の中心軸となっていくと思う。
『週刊ダイヤモンド』 2012年1月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 Number 920
世界中の『指導者交代ラッシュ』で『日本』の正念場
櫻井よしこ
国際政治はいつの時代も首脳の資質に左右される。1981年に誕生した米国のレーガン大統領は、79年に政権を奪取した英国保守党のサッチャー首相、さらには82年に首相となった中曽根康弘氏らと社会主義体制のソ連邦と対峙した。
自由と民主主義陣営が冷戦に勝利して、ユーラシア大陸のアジアには5つの一党支配の社会主義・共産主義国が残った。中国、北朝鮮、ベトナム、ミャンマー、ラオスである。
冷戦終結から約20年、私たちは再び、国際政治の大変革の時期を迎えている。現在は、5つの国々の内、今に至るまで他国に脅威をもたらし続ける一党独裁の2つの国、中国と北朝鮮との闘いが激しさを増している。それは歴史の前進か後退かを巡るせめぎ合いだとも言える。自由を尊重し、法治と民主を基盤にした透明な国家運営を推進するのか、一党独裁と軍事力で国民の声を圧し一握りの権力者を主軸に国家を運営するのかを決する闘いでもある。
闘いの主役は諸国の首脳だが、アジア、太平洋、ヨーロッパの主要国首脳は今年、軒並み交代する可能性がある。
北朝鮮にはすでに三代世襲の金正恩新指導部が誕生した。その影響は、後述するように米中の対立を深め、最悪の場合、軍事衝突につながりかねない。日米韓対中国という対立の構図はすでに明確になりつつあり、日本政府は最悪の場合も想定して、覚悟と準備を整える局面だ。
台湾では、今週末の1月14日、総統選挙が行われる。中国寄りの国民党・馬英九氏の再選か、台湾の現状維持を目指す民進党の蔡英文氏の勝利か。結果は中国の台湾併合と、南シナ海、東シナ海、インド洋への進出をさらに促すか阻むかを決する要因となるもので、極めて重大である。結果次第では、日本、ASEAN、米印豪諸国は中国と先鋭的に対立する構図に追い込まれる。
3月4日はロシアの大統領選挙だ。プーチン首相の強権政治に国民は強い批判を表明しているが、プーチン氏の大統領への返り咲きは現時点では堅いと見られている。
だが、プーチン氏のロシアにも、2010年末にチュニジアで始まり、エジプト、リビアなどの独裁政権に崩壊をもたらした中東のジャスミン革命の波が達している。ロシアや中国にとって、この民主化運動ほど恐怖の種はないはずだ。恐れる余り、彼らは国内だけでなく、対外政策においても弾圧と強硬策に走る。彼らの弱点こそ日本の強みであることを忘れてはならない。
4月11日は韓国の総選挙だ。昨年10月のソウル市長選挙では骨の髄からの左翼といわれる朴元淳氏が勝利し、韓国における左派勢力の浸透振りを見せつけた。4月の総選挙、12月の大統領選挙での与党ハンナラ党の敗北と左翼の野党の勝利が予測されるゆえんである。
4月以降、フランスの大統領選挙、EUの債務危機の震源地となったギリシャの総選挙も予想される。
10月には中国の指導者が胡錦濤氏から習近平氏に代わり、11月6日には米国の、12月には前述のように韓国の、大統領選挙が続く。
その間にわが国の総選挙はいつ行われてもおかしくはなく、今年末の首相が野田佳彦氏か否かさえ、予測出来ない。
こうしてみると、指導者交代で、結果を見通すことが出来るのは中国とロシアのみ、北朝鮮の世襲政権を加えると、一党独裁、もしくはそれに近い体制の国々である。
日本、米国、韓国、欧州、台湾という民主主義と自由を旨とする国々においては、国民が自由であるが故に、予測は難しい。また、後述する米国の事例のように、安全保障上の危険が明らかでも、財政規律が優先されるなど、政策も思い通りにいかない場合が多い。
経験不足の金正恩
予測も難しく、手続きに時間がかかるにしても、民主主義を選んだ国々が直面する最大の脅威は、一党独裁で覇権主義の中国である。南シナ海、東シナ海、インド洋ではすでに中国の異常な軍拡が深刻な摩擦を引き起こしている。昨年12月の金正日の死去と正恩体制の誕生は、この軋轢を、軍事衝突を含む米中対立へと先鋭化させる危険性を含んでいる。最悪のシナリオは先に指摘した日米韓対中国の衝突だ。経験不足の金正恩指導部の拙劣な外交が、直接の引き金にもなり得る。
金正恩後継体制の下で朝鮮労働党機関紙の労働新聞などが1月1日に掲げた新年共同社説はこう明記した。
「偉大な金正日同志の遺訓と政策を寸分の狂い、一歩の譲歩もなく無条件であくまで貫徹し、その道では絶対に変化はあり得ないというのがわが党の確たる意志である」
従来路線をこのうえなく頑迷に守り抜くという決意は、とりわけ中国に向けられたと見るべきだ。中国が求める開放路線も核放棄も、絶対にない、北朝鮮を変えようとは考えるなと、警告しているのである。
金正日の中国嫌いには定評があったが、それをストレートに実践しようとしたのが、12月30日、金正恩が全国民向けに発令した外貨使用禁止令であろう。この場合の外貨は、ドルでも円でもなく人民元に他ならず、強い中国排除の思考を反映させた指示である。だが、それでも北朝鮮は中国に頼らざるを得ない。
2010年の中朝貿易は09年比で約30%増えて34・6億ドル、対ロシアの1億ドル強とは比較にならない。北朝鮮の食糧や日用雑貨は8割が中国製品だ。人民元の使用禁止後の方策は全く見えない。
北朝鮮の外貨稼ぎの柱のひとつ、武器輸出も中国の黙認なしには不可能だ。国連安全保障理事会の北朝鮮の武器密輸に関する10年から11年の年次報告は、摘発された10件中4件が中国経由の密輸だったと明記した。
それ以前の09年9月、シリアに向けた化学兵器開発用の試薬と14,000着の化学防護服を積んだ貨物船、同年11月、コンゴ共和国向けの戦車用部品を満載したコンテナ、さらに同年中、イラン向けのロケット弾用の信管約12万点と弾頭約11,000点を積んだコンテナは、いずれも大連または上海経由で出航したことが判明している。
中国は北朝鮮による武器装備及び化学兵器の拡散を黙認することで、金政権の経済基盤を事実上支えてきた。中国の黙認なしには、北朝鮮は米露に次ぐ世界第3の化学兵器大国にもなり得ず、外貨の多くも稼げなかったといえる。そこまですでに北朝鮮は中国に搦めとられているのである。
政権の世襲に反対であるにも拘わらず、中国が正恩氏への世襲を認めた理由はただひとつ、北朝鮮を着実に中国の影響下に置き、朝鮮半島全体を自身の勢力圏とすることだ。
中国に搦めとられるのを避けるために、金正恩新指導部が昨12月28日、金正日総書記の告別式のころに、米国に食糧支援を要請していたことが判明した。
金正日総書記の遺訓として、核の放棄はあり得ないと明言し、正日総書記の死去に弔意を示さなかった日本を「わが人民と軍隊は決して許さない」と非難し、韓国政府は「永遠に相手にしない」と罵詈雑言を浴びせ、脱北を試みる者は射殺せよと命じる新指導部の要請を米国が拒んだのは当然であろう。経験不足で強硬路線の正恩体制の早期破綻が予測されるゆえんだ。
朝鮮半島情勢が根本から揺らぎ、米中両国を巻き込む大戦略のせめぎ合いが眼前で進み始めたいま、日本こそ、命運をかけて自国の未来を切り拓くことに叡智を結集すべきときなのだ。
中国の海
いまこそ、朝鮮半島を韓国の下で自由統一に導き、中国の介入で新たな異形の独裁政権が誕生する事態を防ぐべく、日本が発言し、行動しなければならない。朝鮮半島の南北分断の歴史をここで打ち止めにし、統一は、南北両国民のためにも、韓国による自由統一でなければならないというのが、日米韓が共有すべき目標である。韓国主導で隣国の危機を乗り切ることを支援出来れば、日韓、日朝の過去の歴史の負の側面はあらかた消えるだろう。日本が過去の歴史を真の意味で乗り越え、新たな関係を築く局面なのである。日本政府はいち早く、韓国の自由統一と中国の介入の阻止を日本国の方針として発表すべきである。
当然、中国の思惑は全く異なる。中国、韓国を訪れて1月6日に来日した米国のキャンベル国務次官補は、中国政府が正恩体制についての情報共有を断ったと語った。中国は北朝鮮と1961年以来、50年間にわたって軍事協定を結んでいる特別な関係にある。それだけに、他のどの国よりも北朝鮮に介入する資格があると、これまでにも示唆してきたことを考えれば、中国が日米韓と連携することはないと考えておくべきであろう。
経験不足の正恩氏の中国排除の方針が早晩行き詰まることを、中国は他国同様、見通しており、介入の機会を見定めようとしているのだ。
こうした動きを察知しているからこそ、正恩氏は2010年朝鮮人民軍に内務軍を設け、秘密警察である国家安全保衛部や、一般の警察を管轄する人民保安部などへの捜査、取り締まり権限を与えた。求心力を高めるべく、恐怖政治の恐怖度をさらに上げたのである。
それでも正恩体制の支配は崩れるだろう。中国はその北朝鮮を経済、軍事両面において囲い込むことによって、米韓の影響を排除し、事実上の支配体制を敷こうとするだろう。それは20世紀初頭まで続いた中国と朝鮮半島の関係である冊封体制に、北朝鮮を事実上引き戻すことであり、まさに歴史に逆行する。
中国の在り方自体が歴史の逆行そのものである限り、中国は対北朝鮮政策の先に韓国への影響力の強化と支配権の確立を、当然、目論むと考えるべきだ。
すでに中国は北朝鮮の日本海側の最北の港、羅津港に60年間の租借権を得ており、青島を拠点とする北海艦隊は対馬海峡を通ってこの羅津港に出入り出来る。羅津を出る中国の艦船の眼前には佐渡島と新潟がある。佐渡島にも新潟市にも、中国は広大な土地を求めようとするなど、拠点作りに熱心である。
羅津港を出た中国艦船は、或いはそのまま、津軽海峡を横切り、北上して、北極海に向かう。北極海海域で、中国はアイスランドに広大な土地を求める動きを見せた。中国が食指を動かした土地の面積が余りにも広く、アイスランド政府が介入して白紙に戻したが、中国の野望は明らかだった。
こうした動きにようやく米国が反応し始めた。国防総省が北極海の安全保障に関する報告書を発表し、カナダとの防衛協力を拡大させつつ、北極海での米軍の作戦行動に必要な装備の在り方などを2012年中に検討し、14年までに行動計画を策定する旨、発表した。
つまり、中国はあらゆる海域に国際社会の予想を超えるスピードとスケールで進出しつつあるのだ。そうした中で、中国の東シナ海及び日本海への顕著な進出は、北朝鮮に出現した新しい事態とも相まって、韓国包囲の態勢を作りつつある。同時に日本海が日本人の予想以上に中国の海と化しつつある。
日本の側に大義
日本をはじめ、台湾も韓国も、南シナ海問題を抱えるASEAN諸国、さらにはインド、豪州も、米国の軍事力に依拠する現実から目を逸らすことは出来ない。
オバマ大統領は1月5日、新国防戦略を発表し、「二正面戦略」を放棄し、アジア・太平洋を重視するとの立場を明確にした。これは2011年以来、「米国は太平洋国家」であると高らかに宣言し続けてきた米国の決意を示すもので、アジア諸国にとって大いなる安心材料であるなどと、さまざまな解釈がなされている。けれど、実態をよく見ると、米国依存の安全保障が容易ならざる問題に直面していることは明らかだ。
1月6日の「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は、社説で、米国政府は昨年、2021年までの10年間で4,500億ドル(約36兆円)の国防費削減を決定したが、それ以前に3,500億ドル(約28兆円)分の武器装備用の予算を削減した。加えて、議会で財政赤字削減についての合意が得られなければ、軍事費はさらに5,000億ドル(約40兆円)削減される状況にある。これで米国の安保政策は維持出来るのかと厳しく警告した。
一連の決定で、米国の軍事費はGDP比で去年の4・5%から10年後の21年には2・7%に低下し、1940年の水準に戻るというのだ。
軍事費の大幅な削減を削減と言わずに戦略的転換と言いかえるのは、単なる言い訳にすぎないということであろう。
スリムになっても、米国は軍事的に素早く、効果的に展開するとオバマ大統領は強調した。米軍が予算削減後も機動的かつ効果的に展開出来る状況は、日本をはじめとする同盟国の協力なしには困難な時代が着実にやってくるということだ。
如何に軍事力を削減しても、米国の安全保障が脅かされることはないが、米国に依存する国々、とりわけ、日本の安全保障への負の影響は死活的である。その意味で日本は、戦後初めて、自らの力で自らを守らなければならない局面に立たされている。そのためにあらゆる意味で軍事力の強化を急がなければならない。日本の闘いは一党独裁の強圧国家との闘いであり、21世紀の普遍的価値観は日本の側に大義のあることを示している。いまこそ、戦後日本の在り方を根本から変え、21世紀の国際社会に貢献するときだ。
『週刊新潮』 2012年1月19日号
日本ルネッサンス・拡大版 第493回