平成21年6月24日(水)九段会館にて「訪米報告会 ー中国の台頭と日米同盟の将来ー」を開催しました。
詳報は後日HPに掲載いたします。

報告者:櫻井よしこ(理事長)・田久保忠衛(副理事長)・島田洋一(企画委員)・冨山泰(主任研究員)

会場風景
平成21年6月24日(水)九段会館にて「訪米報告会 ー中国の台頭と日米同盟の将来ー」を開催しました。
詳報は後日HPに掲載いたします。

報告者:櫻井よしこ(理事長)・田久保忠衛(副理事長)・島田洋一(企画委員)・冨山泰(主任研究員)

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◎4月13日 パトリック・クローニン(国防大学国家戦略研究所長)
Q:北朝鮮情勢について。
クローニン:金正日が権力を失いつつあるとか、権力承継の準備に入っているとの報道があるが、そうは見えない。証拠がない。
中期的には金正日は権力の座を去るので、さまざまな不測の事態に備えておく必要がある。ポイントは短期的な危機管理でなく、「ポスト金正日」戦略の策定だ。
もし北朝鮮のミサイルが日本を襲うなら、状況は一変する。
Q:どう変わるのか。
クローニン:麻生首相らと協議することになるが、米軍は北朝鮮を攻撃する可能性が大きい。金正日体制を排除する目的で武力を使わないことは決めている。(その場合でも)少なくとも北朝鮮を孤立させ、締め上げる。これは戦争行為になる。
Q:ゲーツ国防長官は「ミサイルが米領土に到来する時にのみ迎撃する」と発言した。日本がミサイル攻撃されても米国は守らないとも受け取られたが。
クローニン:それは誤解。今回のミサイル実験が米国を脅かさない限り迎撃しない、事態をエスカレートさせない、というのが発言の趣旨。日米同盟の下で日本を守るのは当然。
Q:オバマ政権は北朝鮮への対処法が固まっていないから、静かなアプローチをとっているのか。
クローニン:そういうこともあるが、加えてオバマ政権は外交や多国間機構を重視している。そうした解決法は時間がかかる。しかし、日米同盟に全く変化はない。
米国は帝国主義でないし、世界を支配しているわけでもない。この世界で日本などと共生しているので共に決定を下す。もし北朝鮮が日本を(ミサイル)攻撃するなら、日米同盟を発動する。しかし、戦争に至らない段階では、外交解決を追求しないといけない。
Q:中国の北朝鮮への影響力増大や、北朝鮮支配を懸念しているか。
クローニン:北朝鮮への対応で中国の影響力が多少強まることに取って代わるものは何だろうか。まず、中国との戦争は避けたい。注意しないと、中国と朝鮮半島をめぐって簡単にもう一度戦争になる。第二に、中国は安保理常任理事国だから、制裁の決定などに中国の賛成が必要になる。第三に、中国は少なくとも朝鮮半島の安定を望んでいる。ただ、中国が北朝鮮の非核化を完全に実現してくれると期待してはならない。「ポスト金正日」の機会を我慢強く待つべきだ。今より悪くしてはならない。体制終焉を加速させるのは今のところ米国の戦略でない。秘密作戦をするにしても、秘密は保持できない。
Q:オバマ政権による北朝鮮のテロ支援国再指定は?
クローニン:他に何が起きるかによる。今、指定解除の決定を覆すとは思わない。北朝鮮は私の知る限りテロ行為を実践していない。
Q:核技術やミサイル技術のイランやシリアへの輸出はテロ支援ではないのか。
クローニン:不拡散は「レッドライン」を越える問題であり、テロ問題より深刻。
Q:北朝鮮はヒズボラなどテロ組織を支援している兆候があると議会調査局のリポートは書いているが。
クローニン:証拠はない。情報源に疑問がある。
Q:イランの革命防衛隊への支援は?
クローニン:革命防衛隊は政府の一部であり、テロ組織の定義から外れる。
Q:日本の国際的役割を拡大するための憲法改正に反対するか。
クローニン:反対しない。日本には民主主義や日米同盟にコミットしてほしいし、主要国として自らの防衛の責任を果たしてほしい。米国は日本の選択を妨害しない。われわれは強力な日米同盟を望んでいる。
Q:「ストロング・アメリカ」と「ストロング・ジャパン」が同盟関係を強化し、中国の台頭に対処するということでよいか。
クローニン:中国との戦略的競争をどう平和的に管理するかが問題。第一に、エネルギー、気候変動、環境、経済、核不拡散など中国と協力する分野を増やす。第二に、軍事的競争が軌道を外れないようにする。つまり、関与戦略とヘッジングとバランシングを同時に行う。中国の台頭を恐れることはない。
Q:日本の軍事力強化は中国を刺激するとして、歓迎しないオルブライト元国務長官のような意見もあるが。
クローニン:民主主義だからいろいろな意見がある。
Q:米国は軸足を日本から中国に移しているような気がする。ライス前国務長官は北朝鮮核問題に関する6カ国協議を恒久機関に格上げすることを提案したし、オバマ氏も選挙戦中に二国間同盟を超えた多国間枠組みを提案した。
クローニン:同盟関係が第一であり、それを基礎に多国間の仕組みを構築するというのが超党派の考え。中国が力をつけている現実を踏まえ、それにどう対処するかが問題。協力を拡大しないといけないが、中国を信用しているわけではない。南シナ海で米調査船が中国に行動を妨害された事件が示すように、戦略的競争も増えている。この競争を管理することが日米、米韓の利益となる。
Q:1996年に中国の駐日大使は、中国は弱い時に欧米と日本にいじめられたから、強くなることが中国の目標だと言った。そうであれば、米国が何をしようが、中国は軍事費を増大し続けることになる。
クローニン:中国は今のまま進むと2050年には世界最強になるという予想もあるが、実は 10年先にどうなるか分からない。軍備増強はいつまで続くのか。相互依存の世界に中国を組み込むことは可能だ。世界は気候変動など共通の問題を抱えている。伝統的なバランス・オブ・パワー政治を超越しなければならない。
Q:米国にとって、中国は敵でも同盟国でもない?
クローニン:中国との関係は複雑。中国の強大化は懸念だが、責任あるステークホルダーになってもらう必要がある。中国は変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。
日本と中国では信頼が違う。中国は経済や環境で協力しても、軍事力を増強している。そこが日本と違う。認識される中国と、現実の中国は違う。日本国民には、日米同盟が第一であることを知ってほしい。
Q:中国が米国債を買い続け、米国財政・経済の中国依存が増大していることを脅威と考えるか。
クローニン:米国は経済戦略を真剣に考えていない。これがわれわれの弱点。米中は相互依存なので、中国がカネを一夜にして引き揚げる心配は大きくないというのが大方の専門家の見方。だから短期的には心配していない。しかし、長期的な米国経済の健全性は心配している。われわれはグローバル化された世界に住んでいるが、地政学的な世界にも住んでいる。
Q:ヘッジングが米国の対中政策の柱の一つであるなら、国防総省の「中国の軍事力」報告書今年度版からこのキーワードが消えたのはなぜか。
クローニン:口に出さなくてもヘッジすればよい。われわれはヘッジする。消えたのは、政権移行期で、まだ担当チームが出来上がっていないから。
Q:ジョゼフ・ナイは駐日大使になるか?
クローニン:ナイはきょうのワシントン・ポストに奇妙なコラムを書いたが、彼が駐日大使になるとなお予想している。ミネタの可能性も残っているが、ナイの方が同盟の強いシグナルになるし、オバマ政権との関係も強い。
◎4月13日 リチャード・アーミテージ(ブッシュ前政権国務副長官)
Q:オバマ政権の北朝鮮政策についてどう思うか。(ミサイル発射で)大統領が強硬論を述べたのに、政権の姿勢は数日後に軟化したように見える。
アーミテージ:大統領は北朝鮮を罰したかったが、安保理で中ロの反対に遭い、難しかった。経済問題脱却で中国の助けを得ないといけないこともあり、表現で妥協した。日本が北朝鮮批判で強い立場をとったのはよいことだ。
ブッシュ政権のように性急にならないのはよいことだ。オバマは多分ブッシュ2期目よりしっかり目を見開いている。北朝鮮をテロ支援国しストに載せたのはわたしだ。金正日が核兵器を放棄する可能性は極めて小さい。
ブッシュ政権で日韓との関係は傷ついた。北朝鮮は日米・米韓関係にくさびを打ち込んだ。クリントン国務長官が最初にアジアへ行った理由の一つは、その修復。イラン、アフガンでも日本の助言が欲しかったのだろう。
Q:オバマ政権の戦略づくりの中心は誰か。
アーミテージ:カート・キャンベル次期国務次官補とデレク・ショレイ(Chollet)政策企画室次長。
Q:ブッシュ政権2期目に続いて、オバマ政権でも北朝鮮政策で日本外しに遭った気がするが。
アーミテージ:そうは思わない。クリントン長官を派遣し、麻生首相を一番にホワイトハウスへ招待し、オバマ大統領がAPECを機会に訪日することは、日本重視を示す。日本は、米国がひそかに中国に接近しようとしているなどと勘ぐることなく、オバマとクリントンが日本を重視していることを額面通りに受け取るべきだ。
第二に、日本は自前の政策を作るべきだ。米国の後ろにいるのは正しくないこともある。(わたしが日本に求める)負担の分担とはパワーの分担を意味する。政策決定の分担もすべきだ。
Q:クリントン長官は訪中で米中対話の格上げを表明し、米中接近が明確になったが。
アーミテージ:同盟国でない中国と戦略対話を行うのは間違い。米中関係はどうなるか分らぬ。中国が日米より先に金融危機から回復すれば、民主主義より独裁モデルに魅力を感じる国がアジアその他の地域に出てきかねない。そうした激しい闘いがある。また、南シナ海で米調査船の活動を妨害する事件もあった。中国はオバマ大統領を振り回せるかどうかを試している。日本に対しても、尖閣問題で同じシグナルを送っている。
Q:中国に対してはどんなムチを振るえるか。中国は何を恐れているか。
アーミテージ:最も恐れているのは保護主義。次いで、米国の台湾介入。第三に、チベットとダライ・ラマだ。
Q:日米間には、中国への理解や脅威認識に大きな違いがあるように思うが。
アーミテージ:米国は中国との良好な関係を構築する試みと、中国から来るかもしれない脅威への警戒を同時にしないといけない。国防総省の「中国の軍事力」報告書は非常によくできていた。中国は日米よりだいぶ遅れている。日本が非常に重要な理由の一つは米軍に基地を使わせていること。これがないと米軍は前方展開できない。
Q:中国は同盟国でないとして、敵か友人か。
アーミテージ:分からない。経済的には日米とも中国の恩恵を受けている。しかし、チベットや海南島周辺での中国の行動は非友好的。
Q:米国は中国の人権問題に沈黙するようになってきたように感じるが。
アーミテージ:クリントン長官の訪中時の発言は間違いで、批判されている。
Q:国防総報告書から「ヘッジング」という言葉が消えた理由は?
アーミテージ:キーティング米太平洋軍司令官は、米軍の存在がヘッジだと常に言っている。今年なぜ消えたのか知らないが、詮索しすぎかもしれない。中国は今年の報告書が出た時に強く反発した。
Q:「ステークホルダー」という言葉も消えたが。
アーミテージ:ステークホルダーは(後任の国務副長官になった)ゼーリック氏が使用した言葉で、主として経済用語。中国は経済的にはステークホルダーだが、国際関係(外交問題)でステークホルダーらしいことを何もしていない。スーダンのダルフールでもイランでも役に立たない。北朝鮮でもほとんど役立たない。
Q:ゼーリック氏は論文で、日中歴史問題で米国は仲介できると書いたが。
アーミテージ:クレージーだ。日中の間に立つのは最悪。日本の側に立つのが最善。
Q:オバマ大統領は二国間同盟関係を超えて多国間メカニズムを北東アジアに構築することを提唱し、ライス前国務長官も同様な論文を書いている。どういうつもりか。
アーミテージ:提唱する政治家は遺産にしたいのだ。彼らはアジアを理解していない。アジアにはフォーラムがたくさんある。北東アジアにつくるのは時期尚早。いつかは良いアイデアになるかもしれないが。なぜ北朝鮮に非核以外の広範な対話という報いを与える必要があるか。北朝鮮は良いことを何一つしてこなかった。北朝鮮の悪い行動に報いを与えることになる。
Q:(北朝鮮問題の解決へ)どのくらいの期間を想定しているか。
アーミテージ:金正日が核放棄するとは思わないが、医者によると、脳卒中を起こした金正日がもう一度起こす可能性は、同年齢の健康な人の3倍ある。そこで、わたしなら、①北朝鮮国民に食糧・医療援助を与え、難民化するのを防ぐ②金正日後の新指導部に核・ミサイル・拉致問題で新提案を出す③中国に日米韓の北朝鮮関与に限界があることを理解させる―。米国は韓国との間に有事計画があるが、大きな利害関係のある日本を計画に十分に組み込んでいない。
Q:中国は北朝鮮港湾の50年租借権を得るなど支配を固めているように思えるが。
アーミテージ:聞くところによると、中朝関係はそれほど良くない。北朝鮮は中国を嫌っている。中国は北朝鮮の核保有を嫌っているが、北朝鮮の不安定化を最も嫌がっているので、我慢して北朝鮮と一緒に行くしかない。日米韓が各国の役割で合意したら、中国に負担分担を求めたらよい。
Q:日本はいつも歴史問題でたたかれる。これを克服するにはどうしたらよいか。
アーミテージ:日本国民は、日本がゆっくり沈んでいくのがよいのか、今日的な活動に敢然と参加するのがよいのかを決めないといけない。日本は精神分裂症的で、ソマリア沖への海自派遣などで素晴らしい活動をする一方、役割拡大の話になるといつも憲法9条を持ち出す。かつて日本の再軍備を批判したシンガポールのリー・クアンユー元首相は、今や日本が安保分野でやるべきことは多いと言っている。インドネシアのユドヨノ大統領も日本の役割拡大を訴えてきた。歴史問題を過去のものにする機会は多い。
Q:田母神前空幕長の件について。
アーミテージ:日本が国の運命をもっと背負うべきだとか、憲法9条を改正すべきだという主張には同意するが、一部の歴史的コメントは不正確。
Q:日本は非核3原則も変更すべきだ。
アーミテージ:変更してもよいが、その必要はない。第一(にすべきこと)は9条改正、第二は武器禁輸解除、核は3番目だ。
Q:オバマ大統領の広島訪問は?
アーミテージ:行ってもよいが、(原爆投下の)謝罪はすべきでない。多数が死んだことに戦りつを表明するのは良い。(日本が常に謝罪を求められるが)問題は東京にある。日本はいつも謝るから、いつも謝るよう求められる。日本はすべての戦争犠牲者に悔恨の念を表明済みだ。もう終わったことだ。日本ほど広報が下手な国はない。戦争では悪いことが常に起きる。
Q:米軍は肝心な時に日本を助けに来ないのではないかと心配する人が日本にはいる。
アーミテージ:日本に米国人がたくさんいるので、日本を防衛しないことはあり得ない。日本を守らずに米国人を見殺しにすることはあり得ない。
◎4月13日 ヘリテージ財団
発言者:スティーブン・イエーツ(チェイニー前副大統領副補佐官)、ウォルター・ローマン(ヘリテージ財団アジア研究部長)、デレク・シザーズ(同財団研究員)
国基研:米は中国との金融関係構築のため中国の軍事力増強、人権などに目をつぶっているようにみえる。オバマ政権にはどんな対中政策があるのか。
イエーツ:(NSC上級アジア部長の)ベーダーとけさ話したが、オバマ政権にはまだ政策や戦略がない。ブッシュ前政権に参加した経験で言うと、政府は日々の出来事の対応に追われるのが普通だ。オバマは理想主義的で大胆なようだが、スタッフによると、中国に関する大胆な目標を表明したことがない。北朝鮮に関しても、ミサイル発射を受けて、政権内に米朝二国間交渉を主張する声と、制裁強化や6カ国協議維持を主張する声があって、対応は定まっていない。
中国の軍事力については、ベーダーら高官は中国が南シナ海で米調査船を妨害した最近の大胆な行動を心配している。当時、楊中国外相が訪米中だった。中国の軍と外務省の関係がどうなっているのか関心を持つ人が多い。
また、中国は新基軸通貨の創設という奇抜な構想を流している。こういう国家とどう付き合うのか。オバマ政権には総合的戦略を持ってない。軍事関係者は中国を懸念しているが、どうしたらよいかまだ分かっていない。米中関係全体についても、政権発足から日が浅いので政策は固まっていない。いずれオバマ政権も(外交)政策を選択することになるが、イラクやアフガニスタンが先で、アジアはその後になる。
シザーズ:アジア政策の選択が後回しなのは、経済分野でも外交分野でも高官ポストがまだ埋まっていないことが理由の一つ。オバマ政権は国内問題への対処が先で、北朝鮮も優先課題ではない。
イエーツ:オバマ政権の当局者は「ジャパン・パッシング」でないとか日米同盟関係の後退はないと弁明するが、アジアに関する当局者との会話の8割は中国についてとなることは避けられない。それは、国連でも地域問題でも中国抜きで問題を解決できないと考えていることが一因だ。当局者は日本の助けについてそれほど弾力的に考えてこなかったし、はっきり言って、日本は解決に積極的に関与してこなかった。中国は言い分をはっきり主張する。日本には手を差し伸べても、構想や代案が出てこないことが多い。これを何とかしないといけない。
国基研:日本は同盟国としてもっと積極的役割を果たさないといけないので耳が痛い。オバマ政権だけでなくブッシュ政権にも戦略がなかったというのは意外だ。
イエーツ:米国は米中関係正常化で一つの賭けをした。それは、米国が中国を承認し、相互交流すれば、いずれ中国は変化し、価値観の違いは狭まり、協力分野は広がり、問題は自然に解決するというものだ。これは素晴らしい考えだ。なぜなら、われわれは努力しないで済み、中国と対決しなくても時間が問題を解決するというのだから。戦略がないというのは少し正確でない。時間を稼ぎ、協力を増やし、協力が意味ある変化をもたらすかを見るというのが多くの場合の戦略だった。ゼーリックの「責任あるステークホルダー」概念の背後にもそれがある。オバマ政権の高官の中にはゼーリックに近い人もいる。オバマ政権は中国を世界のアクターの一人と考え、中国国内の現実をあまり考えていないようだ。(ヒラリー発言にみるように、オバマ政権は)人権問題をあからさまに極小化しようとしている。オバマ政権がやろうとしているのは、キッシンジャー以来のリアリスト外交そのものだ。
シザーズ:環境問題は例外だ。環境問題ではリアリストと正反対のことをしている。
イエーツ:その通りだ。
国基研:1920年代、30年代に日本は間違いを犯したが、米国も犯した。米国は国際共産主義(コミンテルン)を受け入れた。日本は独伊との同盟という間違いを犯した。米国は間違いを再び犯し、中国に傾斜しているのではないか。中国の本質に気付かないといけない。
イエーツ:多くの人は中国を段階的に見る。第一段階は、国の大きさなどに「感銘」する。第二段階で、現実を知って「閉口」する。世界の圧倒的多数の人は現実の中国を見ず、まだ第一段階にある。現実を知った人は、この国の将来がどうなるか心配する。
国基研:北朝鮮の核・ミサイル・拉致問題の解決には体制転換しかないと思うが、中国は北朝鮮を支え、過去の制裁決議を履行しない。重要なのは中国にどう圧力をかけて行動を変えさせるかだ。日本は対中ODAを停止できる。米国はかつて北朝鮮金融制裁で中国の銀行も震え上がらせた実績がある。今は中国に対してどんなムチがあるか。
シザーズ:米国が中国商品の購入をやめれば、中国経済への影響は大きい。ヘリテージは自由貿易派なので(原則的に)禁輸に反対するだろうが、米国が中国を「敵」と認定すれば貿易停止というムチをふるえる。しかし、世界経済全体への影響は大きい。
国基研:中国が米国債の購入を停止したらどうなるか。
シザーズ:停止できない。中国は主に対米貿易黒字が山積して米国債を買っている。中国はドルを国内で使えない。人民元と交換できない。そこで、米国債を買うしかない。
国基研:中国が米国債購入を増やせば、米国の中国依存が強まるのでは。
シザーズ:米国の財政赤字増大で、中国マネーへの依存度は減っている。財政赤字が5000億ドルだった時に中国が米国債を1000億ドル買えば依存度は20%だが、今や財政赤字は2兆ドルに迫り中国が2000億ドル買っても依存度は下がる。米国が1兆8000億ドルの資金を米国内その他で調達できれば中国が2000億ドル買っても問題はない。そこで、財政赤字を管理できるかが大きな課題となる。
ローマン:北朝鮮ミサイル発射で、なぜオバマ政権は安保理決議にこだわって中国に拒否権を行使させることをしなかったのか。
国基研:その通り。オバマ政権の態度がくるくる変わったのは驚きだ。
ローマン:アジアがもっと心地よく日本の役割拡大を受け入れるためにはどうしたらよいか。中国の進出を相殺するには日本が出ていかないといけないが、それには何が必要か。
国基研:問題は自虐史観にある。このメンタリティーを克服しないと日本は世界に出ていけない。歴史問題では、当方の話を聞こうとしない人が米国にもいる。日本はいつまでも謝罪を要求される。米国のある友人は「オバマ大統領は仮に広島へ行くなら、犠牲者の多さに同情を示すのはよいが、謝罪すべきではない。同じように日本も謝罪すべきでない」と言っている。
米国には戦後の日本占領以来、「ストロング・ジャパン」派と「ウィーク・ジャパン」派が存在する。前者は日本を自由陣営に受け入れ、ある程度の軍事力保有を認めた。後者は日本を信用せず、軍事力を禁ずる憲法を押し付け、米国のコントロール下に置いた。彼らは日米同盟に代えて米中関係に重きを置こうとしている。
「ウィーク・ジャパン」派の一人は沖縄駐留海兵隊の司令官だったスタックポール将軍で、在日米軍の目的の一つは日本の軍国化を阻止する「ビンのふた」だと答えた。この見解はオルブライト元国務長官にも引き継がれている。
ローマン:日本は韓国とより生産的な関係を構築することが有益だろう。日韓両国とも中国と戦略地政学的なもめ事を抱えている。また、東南アジア諸国は日本に関して入り混じった体験を持ち、歴史認識は単一ではないが、日本がこれら諸国との関係を進めることは可能かもしれない。
国基研:韓国との関係は楽観している。韓国には歴史問題に公正に取り組もうとしている人々がいる。
国基研:オバマ大統領が訪日で靖国神社へ行けば、問題は解決するだろう。
イエーツ:解決するだろうが、北京には二度と行けなくなる。こうした問題で米国は比較的柔軟だが、中国はそうではない。
国基研:オバマ政権の台湾政策は?
イエーツ:基本的に馬英九政権の中台政策を支持する。馬が中国と取り決めを結べば米国は反対しない。
国基研:日本は核武装も検討しなければならなくなる。
イエーツ:オバマは核廃絶を言ったぐらいだから、核保有国が増えるのを率先して賛成しないだろう。わたしは個人的には反対しない。日本が無責任に核爆弾を他国に落としたり、アルカイダに売ったりする恐れはない。中国は日本の核武装という望まない結果を回避したい場合に限って、北朝鮮にもっと真剣に圧力をかけるのでは。
◎4月14日 ハドソン研究所シンポジウム
参加者:櫻井:、田久保:、島田、冨山、ケネス・ワインスタイン(ハドソン研究所最高経営責任者)、ルイス・リビー(チェイニー前副大統領首席補佐官、同研究所上級顧問)、セス・クロプシー(元海軍副次官、同研究所上級研究員)、エリック・ブラウン(同研究所研究員)、杉田弘毅(共同通信ワシントン支局長)、飯塚恵子(ブルッキングズ研究所客員研究員、読売新聞政治部次長)
(櫻井理事長が講演)
皆様、こんにちは。
米国で最も権威ある研究機関のハドソン研究所がこのような機会を与えてくださったことに心から感謝の意を表します。私にとって大きな名誉であり、発足間 もない日本における純粋な民間のシンクタンクである国家基本問題研究所(JINF)にとって、画期的な仕事の一つになることでしょう。また、今日のシンポ ジウムは日米関係にも少なからず貢献できると信じています。
来年、日米安全保障条約は現在の形に改定されてから50周年を迎えます。50年前、日本の最高指導者だった岸信介首相は、国内の治安を維持するために在 日米軍の助けを借りる国家は独立国家ではないとの考え方から、条約の片務性を少しでも双務性に近づけたいとの志を抱いて、それまでの安保条約改定を試みま した。当時、国内世論や野党は、安保反対を唱え激しく抵抗しましたが、私は岸首相の信念は正しかったと思います。日本は負担の分担、あるいは責任分担を果 たし、同盟関係の双務性に向かって大きな一歩を踏み出さなければなりません。
岸政権以来の歴代政権がこの単純かつ自明な方向性を打ち出せなかったのには二つの大きな理由があります。一つは、日本が米軍に占領されていた時代に連合 国軍総司令部(GHQ)から事実上日本に押しつけられた日本国憲法の効果が絶大で、しかも憲法改正の手続きが国会の3分の2の支持と国民投票による承認を 必要とするように、難しいことです。元々軍事力の保有を禁じた現行憲法の下、朝鮮戦争をきっかけに作られた自衛隊は「通常の概念」による「軍隊」ではな く、システムも法体系も普通の国のそれと異なっています。自衛隊にはROE(武器使用基準、交戦規定)がなく、警察法によって行動しなければなりません。 加えて、第九条に基づく諸々の規制、例えば専守防衛、非核三原則などの政策のほか自衛隊法、防衛省設置法が存在し、集団的自衛権の行使を禁じる内閣法制局 の解釈が自衛隊の活動を大きく規制しています。
二つ目の理由は、日米同盟が50年間続くうちに米国の軍事力への依存心が強まり、独立自尊の精神が次第に希薄になってきたことです。自らが守るべき固有 の領土に関して、「米国は日米安保条約に基づいて守るべき義務がある」と主張するのはその好例でありましょう。周囲の国際情勢に緊張感を抱かぬ日本人の無 頓着さが、日米同盟の産物だと言えるのは皮肉なことです。日本は現実がいかなるものかに目覚めなければなりません。JINF創設の理由の一つは、 pacifism(絶対平和主義)の深い眠りに陥った日本人を覚醒させるところにあります。
日本再生に必要な憲法改正は現在の日本の政治状況から見て、簡単な課題とは考えられません。しかし、与党の自民党にも野党の民主党にも憲法改正の志を 持った政治家は少なくありません。これらの人々を中心とした新しい政治に私は期待を懸けていますが、当面早急に実現すべきは集団的自衛権の行使です。「日 本には集団的自衛権はあるが、憲法上その行使は認められない」という非論理的な内閣法制局の解釈を改めるため、安倍晋三首相は専門家からなる「安全保障の 法的基盤の再構築に関する懇談会」を発足させました。同懇談会は2008年6月に集団的自衛権の行使に道を開く報告書を出しました。しかし、安倍首相は病 に倒れ、後任の福田康夫首相には報告書を実現するつもりはなく、その後任の麻生太郎首相もこの問題をすぐにも取り上げる気配はありません。JINFとして は、提言、説得を通して、速やかに「行使」への道を開きたいと考えています。
13年越しに未解決のままとなっている沖縄県普天間基地の移転は、いまだに中央政府と沖縄県との間で合意に至らず、恥ずかしい限りです。ソマリア沖の海 賊対策は海上自衛隊の派遣で中国に後れを取り、集団的自衛権の歪んだ解釈のため、新しい法案が成立するまでの期間は、護衛の対象は自国船のみに限られま す。海賊からの攻撃にも刑法上の正当防衛もしくは緊急避難の適用で対処する「異常な日本」の実情を米国人の多くは理解できないことでしょう。
21世紀の日本にとって国運を左右するほどの重大性を帯びているのは「台頭する」中国といかに対応するかです。もちろん、ボーダレス社会でヒト、モノ、 カネなどの交流を通して日中関係はますます相互依存度を深めていくでしょう。米中関係も中台関係も同じことでしょう。ここで最も重要なのは中国の本質であ る一党独裁体制、人権の抑圧、仮借のない軍事的増強をどう考えるかです。とりわけ、日本にとって中国の軍事的増強は脅威以外の何ものでもありません。
中国の軍事費は21年間にわたって連続二桁の増加を示しており、米国防総省、英国際戦略研究所(IISS)などは一貫してその不透明性を指摘してきまし た。しかし、中国側にとってはそのような米欧諸国の懸念は理解できないことでしょう。1996年に、中国の駐日大使徐敦信氏は「中国は列強の侵略を受けた が、その中で一番大きな被害を与えたのが日本だ。中国人民は苦しい歴史の中から、自分の国が弱ければいじめられるとの教訓を得た」と公言しました。昨年 12月に空母建造計画を明らかにした中国国防省の黄雪平報道官は定例の記者会見で「空母は国家の総合力の表れだ」と明言しました。中国にとっては、軍事力 の増強そのものが目的であります。軍事力は着実に外交力に反映されることを知っているのです。セオドア・ルーズベルトが言った〝Speaking softly, while carrying a big stick〟(棍棒片手に猫なで声で)を実行しているにすぎません。したがって長年にわたる軍事費の増加は、中国にとって当然の行動であり、不透明ではないのです。
中国海軍がこれまでどれだけ日本の領海を侵犯し、東シナ海で軍事的プレゼンスを背景に中間線ギリギリにいくつもの天然ガス田を開発したことでしょうか。 日本が現実に実効支配し、歴史的にも国際法上も日本の領土である尖閣諸島を、勝手に自国領だと主張してきました。1992年に国家主席名で領海法を突然公布し、領海侵犯の外国船を実力行使で退去させると宣言する国が、果たして正常な国家でしょうか。
ここで、本当に残念ながら、私は、日本人の外交的ナイーブさを白状しなければなりません。日本はあまりにも安直に謝罪を繰り返してきました。日中関係が悪化していた時期の1995年8月15日、第二次世界大戦終戦50周年記念日に当時の社会党委員長の村山富市首相はいわゆる村山談話を発表し、改めてこう謝罪しました。
「私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」
この表現が以後の日中、日韓関係で常に利用されてきました。「反省とお詫びを行動で示せ」という露骨な要求が首脳会談で示され、結果、国民の間にフラストレーションが蓄積されました。村山談話を作成した日本政府関係者の責任は重大だと考えます。
地政学的に大陸の中国と島国の日本の関係がどれだけの緊張を生むかについて、私は、米国側に十分な理解があるかどうか疑問に思います。戦後の長い日米同盟 の歴史と米中関係の間には、基本的に相違が存在するというのが大方の日本人の理解です。経済力と軍事力を背景に、アジアの代表的国家として振舞い、日本の 教科書の内容、首相の靖国神社参拝、領土権などに露骨な介入をする中国への、日本人の受け止め方と米国人の受け止め方には、相違があります。
私たちはいたずらに中国と摩擦を起こしたり、ことを構えたりするつもりは全くありません。民主化され、平和を愛好する中国との正常な友好関係を望まぬ日本 人はいないでしょう。しかし、覇権主義的中国には身構えないわけにはいきません。ブッシュ前政権時代のゼーリック国務副長官は米国が日中関係の摩擦回避に 一役買うつもりであると述べ、中国には「責任あるステークホルダー(利害共有者)」であれ、と呼び掛けました。現実の政治における米国政権の中国への傾斜を見ると、ワシントンと北京、東京と北京の間には若干の距離感の違いがあるように見えます。
日本の将来の選択は大別して三つあります。①日米同盟をさらに強化すると同時に日本の同盟上の役割を強化する、②米国との関係を弱め、日中関係を緊密に構築する方向に踏み出す、③日米同盟を解消し、自主防衛を決断する。
JINFを含めて国民の大多数はゆっくりしたテンポではありますが、①を選択しています。①の選択肢を支える人々の中にも、改憲に反対し、日本の軍事的 役割はいま以上に増やしてはならぬとの意見が一部に存在するのも事実です。しかし、①の選択は、日本国内の主流をなすと考えてよいと思います。しかしゼー リック氏のステークホルダー発言をはじめ、ここ数年の米国の政治の潮流は、米国が日本の選択として、②が好ましいと考えているかのようにみえます。
クリントン国務長官が一昨年「フォーリン・アフェアーズ」誌で、「21世紀、米国にとって最も重要な二国間関係は中国との関係だ」と書いたのは、事実そのとおりでしょう。経済の相互依存関係から判断すると、すでに米中関係は戦略的経済対話の場を政治、安全保障へと広げつつあります。実際にクリントン長官 は訪中の際に米中戦略経済対話を米中戦略対話に格上げする合意を北京側と取り付けました。さらに、コンドリーザ・ライス前国務長官は昨年の「フォーリン・ アフェアーズ」誌で、北朝鮮の核開発を論議してきた6カ国協議を「北東アジア平和安全保障メカニズム」(NAPSM)という恒久機関に切り替え、「北東ア ジアの安全保障フォーラムに向かっての第一歩」にしてはどうかと提唱しています。ライス前国務長官の意見が、果たして、どこまで、米政府を代表しているの かはわかりませんが、NAPSMは日米同盟といかなる関わり合いを持つのでしょうか。私はここで、88年前の1921年から22年に開かれたワシントン軍 縮会議を想起せざるを得ません。日英同盟が破棄され、さして意味もない四ヵ国条約に切り換えられていったあのときのことです。
GHQにはウィロビー将軍を長とする情報・公安局とホイットニー将軍に率いられた民政局がありました。前者は日本にある程度の軍事力を残さなければいけ ないとする「ストロング・ジャパン」派であり、後者はケーディス大佐を中心に、日本国憲法草案を起草し、軍事力の保有を禁じた第九条を重視する「ウィー ク・ジャパン」派であります。
これは、国際共産主義の脅威に対する認識と日本の国柄についての見方の相違によるものです。前者は日本を自由民主主義陣営の独立した一員として迎えること を正しい選択と考えました。 後者は、日本に対する不信感ゆえに自立を許してはならないと考え、アメリカの完全なる保護下に置こうとしました。1952年 4月に主権を回復して以降の日本が、前者すなわちアメリカとともに自由民主主義陣営の一員として生きていく決意をしたのは歴史が示すとおりです。
しかし、最近日本で村山談話に反する意見を公にした理由で航空幕僚長が罷免される事件が起きました。彼の真意は、国を守ろうとする自衛隊員が自国の歴史 に誇りを持たなければ防衛の責任を全うできないし、日米同盟も健全に機能しないとの点に尽きます。彼の解職に関しては、国内でも賛否の意見が分かれていま す。解職は当然だとした人々は村山談話を支持する「ウィーク・ジャパン」派であります。他方、解職を問題視する私たちは村山談話に疑念を抱く「ストロン グ・ジャパン」派です。私たちは日米同盟の強力な信奉者であり、より一層の責任を日本が果たすべきだと考えています。
歴史観の統一は個人間でも国家間でも不可能でしょう。米英両国がいまのような「特殊な関係」を構築するまでにどれくらいの長い期間を必要としたか、それは 皆様のほうがよく御存知です。そもそも、ジョージ・ワシントンは米国では建国の父ですが、英国では「植民地の反乱軍の首領」だったはずです。米英両国は二 度戦い、世界各地でもトラブルを起こした。〝Anglophobia〟(英国恐怖症)という言葉は20世紀初頭の米国にも残っていました。その両国がお互いを必要な存在と認め合い、今日のような確固たる基礎を築いたのは20世紀もかなり進んでからでありましょう。民主主義の寛容の精神に富んだ米国民の中 に、「村山談話を否定する日本人の考え方もよく理解できる」と発言する人々が増えれば増えるほど、日米関係は現在の米英の「特殊な関係」に近づくことと思 います。
「ウィーク・ジャパン」派がいまでも米国内に根強く残っているのを、私は、よく承知しています。冷戦末期の1990年に沖縄駐留米海兵隊の首脳が、在日 米軍のもう一つの目的は日本の軍事的台頭を押える「ビンのフタだ」と述べたことは、私たちの記憶に新しいのです。最近では民主党政権の外交政策に影響力を 持つと言われるマデレーン・オルブライト元国務長官が昨年出版した著書〝Memo to the President Elect〟(次期大統領への覚書)の中で日本の軍事力強化に反対し、次のように述べています。
「アジア・太平洋地域における米国の軍事的プレゼンスに異議を唱えることは、たとえ中国でもめったにしない。なぜなら、米軍は日本を守るためにアジアに いるのだが、同時に日本を抑える効果もあると考えられているからだ。日本の軍隊への制限を外せば、中国をより一層の軍備増強に駆り立てる可能性があるし、 韓国と北朝鮮を中国に接近させかねない。さらに、自立した日本の軍隊が常に米国の利益に沿って行動すると想定することもできない。安倍(晋三元首相)が新 憲法制定を訴えたセールスポイントは、日米同盟重視よりナショナリズムだった。進駐軍に押し付けられた憲法に代えて、真に日本的な憲法をつくろうと彼は強調していた」
このような見方は、戦後の日本が国家として他国に比べていかに「異常」であるかを知らない論評であると言わざるを得ません。米国、韓国、中国が共通の日 本批判の歴史観で日本を封じ込め、結果、日本が「普通の国」になれずに身動きもできない状態に陥り続けることが、今後の日米関係にプラスかマイナスか賢明 な皆様方にこれ以上の説明は不要と思います。日米関係の輝かしい将来を熱望しつつ、このプレゼンテーションを終わりたいと思います。御静聴ありがとうございました。
クロプシー:非常に興味深いプレゼンテーションだった。米国のまじめなアジア観測者であれば、日本が「普通の国」を超える国になるのは日本にとっても、アジアの安全保障にとっても、日米同盟にとってもよいことだという点で大方の意見が一致するだろう。このことがアジア専門家以外にどれだけ知られているかは難しい問題だが。
米国のアジアでの全般的な目標は、基本的には欧州でも同様なのだが、一つの国にその地域を支配させないことだ。それがあったからこそ日米同盟は成功した。中国の動きをみると、日米同盟は今後ますます意味あるものになる。
かつての中国海軍は基本的に沿岸海軍だったが、今後、中国の海洋防衛はどこまで広がるのだろうか。第一列島線から第二列島線へ、さらにそれを越えて広がるのだろうか。中国は空母も持つようになり、戦略ミサイルの射程も伸ばしている。加えて、第三国(つまり米国)の西太平洋へのアクセス妨害を公然と試みている。西太平洋はまさに米国の利益が懸かっている地域であり、だからこそわれわれは日米同盟を強化しようとしている。
櫻井:中国の軍事力増強はよく分かっている。今日、日中の軍事支出の比率は1対3だ。過去20年間に中国の軍事費は19倍になった。つまり今後10年間で、日中の比率は1対30になる。一方、日本の防衛予算は毎年2%ずつ減っており、これが続けば10年間に20%の削減となる。どうにかしないと日中の軍事バランスが大きく崩れる。これをどう埋めるか。米国だけに頼るわけにいかない。自ら努力しないといけない。日本の一般国民も少しずつ分かってきたように思える。
クロプシー:私が時々心配になるのは、米国民は米海軍の規模縮小を分かっていないことだ。米国では予算の関係で軍艦の建造が25%減り、海軍が過去5~6年維持してきた軍艦313隻の保有目標を今後10~12年間は達成できなくなった。この種の事実が日本だけでなく米国でもはっきり認識されれば、日米の共通の利益にかなうだろう。
櫻井:本日のプレゼンテーションで言ったように、米国には、日本に軍事力強化を許せば軍国主義になるという根強い意見がある。そういう意見は現状を反映していない。米国民の間に日本への理解が広がることを望む。普通の国になる努力を同盟国に批判されるのでは困る。
クロプシー:米国民の間に日本の軍事大国化への根強い恐れがあるかどうか確信を持てないので、同僚に判断をゆだねたい。わたしにはそういう感じはしない。そういうことを言う人がいるかもしれないが、それは多数意見ではない。大半の米国民は日本が近代的な自由民主主義国家であることを理解している。
田久保:日本が普通の国になる筋道を申し上げる。安倍元首相が「戦後レジームからの脱却」を唱えたのは正しい。安部氏は集団的自衛権の行使に踏み切ろうとした。戦後の首相として初めて、憲法改正も高く掲げた。改憲を目指したのは、マッカーサーにもらった憲法では国際環境の変化に対応できないことを知っているからだ。いずれ、国基研が理想とする首相がまた登場すると思う。防衛費の増加はその時に当然実現する。
米国に「ウィーク・ジャパン」派がいるのは歴然たる事実だ。具体名を挙げるなら、1990年に沖縄の第三海兵師団のスタックポール司令官が「ビンのふた」という言葉を使った。冷戦終了直後には米国の有力研究所が「日本を抑え込め」というタイトルの報告書を出した。こういう人々が日本の野党やマスメディアに大きな力を持っている。
ワインスタイン:アジアでの日本の役割拡大に関連する問題を取り上げたい。田久保さんは安倍氏を改憲論者の例に挙げたが、安倍氏は首相就任直後に中韓との関係強化のため北京とソウルを訪問した。
櫻井:前任者の小泉元首相は毎年の靖国参拝のため中国との良好な関係を持てなかったが、日中両国とも相互交流を望んでいた。安倍氏は指導力を発揮して中国を訪問し、関係を劇的に改善した。それが正しかったかどうか分からないが、政治的考慮から中国へ行った。中国の前に韓国を訪問しようとしたが、日程の調整ができなかったと記憶している。
ブラウン:わたしは「ストロング・ジャパン」を強く支持する。中国が村山談話を利用して日本に付け込もうとしているやり方には同意しない。中国問題は重要だが、日米はミャンマーやイランなどでも協力を探れるのではないか。
田久保:日本の外務省には外交で目立ちたくないという姿勢があるが、政権が新しくなることで米国に協力できると思う。ミャンマーについては、日本政府は(米国と)少し違った感覚を持っているが、米国に同調してきたはずだ。イランについては、米国の安全保障は日本の安全保障なので、疑問の余地のない協力関係がこれから出てくると思う。
杉田:米国では中国との関係強化を唱える人が増えてきた。経済や地球温暖化の問題で、G8やG20に代わって米中によるG2を唱える人が特に民主党系の人にいる。日本はどうすべきか。取り残されてはならない。
オバマ大統領は核兵器廃絶を提案した。日本は被爆国なので核廃絶に反対できないが、同時に、オバマ政権に対しては、慎重に事を進めて日本を北朝鮮の脅威にさらさないよう言わないといけない。日本の安全は米国の核抑止力に基づいているので、核廃絶を宣言すれば北朝鮮は抑止力低下と受け取る。
要は、冷戦後、日米間で安保分野での利害が異なってきているのではないか。今や米国は中国との関係改善を試み、北朝鮮と二国間関係を結ぼうとしているかもしれない。
冨山:安保分野で中国への対応が日米で異なってきたのではないかとの指摘に同意する。2009年のペンタゴンの「中国の軍事力」報告書を読んで驚いたのは、「ヘッジ」というキーワードが消えたことだ。過去3年間の報告書は中国の軍近代化の動機は不明と指摘した上で、「不明なことに対してはヘッジする」と書いていた。ところが本年版は「域内の同盟・友好国と協力して事態を見守り、政策を適宜調整する」と書いてあるだけだ。米国では中国への警戒が薄れたのではないか。
田久保:オバマ大統領の核廃絶提案に米国民の多数が同意するか疑問だ。オバマ提案には無条件に賛成できない。中国や北朝鮮は軍事力こそ外交力と考えている。日本の国家としての欠陥は、安全保障の力が経済力に比べて著しくアンバランスであることだ。
米中は経済で相互依存を強めていることは事実だ。それは日中、中台、中韓も同じだ。しかし、中国や北朝鮮は人権問題で米国と一致できるのか。中朝はいかに貧しくとも仮借のない軍事力を増強してきた。
戦前、米国の北京駐在公使だったマクマリーは、国務省に覚書を送り、中国を利用して日本を封じ込めようとすることの危険性を訴えた。その覚書(の内容)は実現しなかったが、今も貴重な資料として残っている。この考え方は戦争中の駐日大使グルーや戦後の米外交の立役者ケナンに共有されている。日米は、中国について共通の認識を持っていれば大きな誤りを犯さない。
櫻井:1920年代や30年代に日米ともパートナー選びで間違いを犯した。日本は独伊との同盟を選んだのが間違いだった。米国はコミンテルンを受け入たのが間違いだった。その後、米国は日本でなく中国に傾斜した。どの国も敵にする必要はないが、どの国を戦略的パートナーにするかについて、正しい選択をしないといけない。20年代、30年代のような間違いを繰り返したくない。
飯塚:北朝鮮の脅威に関する認識が今や日米で違ってきた。第一に北朝鮮のミサイルは米国に届かない。日本だけが標的になっている。第二に、米国の主な関心は核拡散にあり、北朝鮮の核保有を受け入れる人が増えているのではないか。日本の主張はあくまで北朝鮮の核放棄だ。そのため、日本は米国に頼らず。自立が必要になってきている。しかし、日本が自立というと核武装化かと心配する人が多い。
櫻井:日本の政治家は国民が軍備増強に反対すると思っているが、実際には、日本は他国並みに普通のことをすべきだと考える国民が増えている。政治家がこの問題を提起すれば、国民の支持を得られるのは確かだ。
クロプシー:大方の米国民は核のない世界になればよいと思っているのではないか。しかし、同時に、世界には条約や法を順守しなければならないと考えている国ばかりではないことを知っている。なかでも北朝鮮はその好例だ。だから米国民は、他国が核廃棄合意を守るかどうか信用できないと懐疑的になるだろう。総論賛成、各論に深刻な疑問といったところだ。
櫻井:オバマ政権で国防予算が少し増えても、F22の生産が中止され、空母の配備数が減る。これは中国に間違ったメッセージを送らないか。F22の生産中止で第5世代の戦闘機が日本に売られなくなり、空母の運用が減ることになれば、どうなるか心配だ。
クロプシー:空母が11隻から10隻へ減らされた上、新型空母の就航も遅れると、9隻しかなくなる事態も想定される。それは、友好国にも中国にも非常に疑問のあるシグナルを送ることになる。あなたの懸念をわたしも共有する。
ブラウン:歴史問題に戻りたい。村山談話に関してだが、われわれは皆、反論の余地のない事実を知っていると思う。米国民は第二次世界大戦について反論の余地のない事実を覚えている。20世紀に何が起きたかを覚えている。だからこそ、前へ進むことが有益だ。前へ進むことは日米が軍事関係を話し合う上で有益だが、中国に対する非伝統的な戦略能力の構築を話し合う上でも有益だ。中国の新世代は、日本をアジアのモデルと見るかもしれない。21世紀の日米戦略関係を築くには、単なるハードウェアを超える必要がある。
櫻井:わたしが村山談話に言及した理由は、日本が国際社会に積極的に貢献しようとする時に中国が歴史問題で日本を心理的に縛り、日本を内向きにするからだ。なかでも政治家や官僚は何も言わず、米国に追随するだけとなる。日本も米国も間違いを犯したが、中国も犯した。間違いを犯したのは日本だけではない。この点を理解してほしい。さもないと、日本人は意気消沈して何も言わなくなる。意見の違いはあって当然だが、米国には理解してほしい。
ブラウン:将来を築くには過去を忘れることが必要ということわざもある。米国人は今、日本人と協力して仕事をしている。この関係は過去に邪魔されていない。
櫻井:未来志向の国ばかりではない。いつも過去を利用する国がある。
田久保:シーファー前駐日大使は日本の軍事費増大を支持するストロング・ジャパン派だが、同時に田母神前空幕長を批判するウィーク・ジャパン派でもあった。シーファーさんが「日本の立場に立てば、田母神の言うことは同意しないが理解できる」と言えば、日米同盟は盤石となる。
島田:同盟関係の健全な発展には、共通の敵に対する共通の戦略が不可欠だ。北朝鮮は明らかに共通の敵の一つだ。核、拉致、人権、ミサイル問題を解決するには体制転換しかない。中国は北朝鮮の主な支援国であり、中国にどう圧力をかけるかが重要なファクターになる。その意味で、中国の銀行への金融制裁は正しい対応だった。しかし、ヒル国務次官補の登場で、米国は宥和政策に転じた。日本では共産党と社民党がヒルの大ファンだ。
一方、数日前、民主党の小沢代表は訪日したマケイン上院議員に「アフガンへの米軍増派に反対する。アフガン問題は軍事的手段で解決できない」「北朝鮮問題で中国にもっと頼るべきだ」と言った。こうした発言は笑止千万だ。もしオバマ政権がヒルの立場を取り、日本が小沢の路線をとるなら、少なくとも保守派の観点からすれば、日米関係は破滅する。
◎4月14日 ラリー・ニクシュ(議会調査局アジア専門官)
ニクシュ:北朝鮮は6カ国協議を以前2回ボイコットしたが、「6カ国協議に決して戻らない」という今回の表現は、以前より多少はっきりした言い方に思える。三つの理由が考えられる。それは、①6カ国協議での日韓の立場が北朝鮮に不利な方向に変化したこと(韓国は盧武鉉時代に北朝鮮の立場に同情的だったが、李明博になって変わった。日本は拉致問題だけでなく核検証問題でも自己主張を強めた)、②6カ国協議復帰と引き換えに中国からもっと援助を引き出すこと、③オバマ政権に圧力をかけ、6カ国協議の外で米朝二国間を開かせること―の三つだ。
Q:6カ国協議に戻らないと北朝鮮は存続できないのでは。
ニクシュ:中国から援助をもらえば存続できる。ほかに、イランとの核・ミサイル協力(年間20億ドル)や、違法ビジネス(偽札、偽タバコなどで10億~20億ドル)の収入源もある。しかし、軍は全体として、近代兵器を確保できないため劣化しつつある。兵士は栄養失調のため体格が小さく知的にも発育不良。
Q:オバマ政権は今回の北朝鮮の決定にどう反応する?
ニクシュ:政策見直しのバロメーターは変化した。北朝鮮との接触をどう継続するか(ニューヨークの国連代表部を通じたルートをどう使うか、ボズワース特使にどんな役割を与えるか)、北朝鮮を協議に引き戻すため交渉上の譲歩を申し出るかどうかなどを思案するだろう。オバマが検討するかもしれない譲歩としては、①核検証を後回しにし、非核化の「第二段階」(寧辺無能力化と重油提供)を終わらせるための条件としない、②核廃棄の最終合意以前に外交関係を正常化する―などが考えられる。
Q:譲歩はよい考えか。
ニクシュ:第二段階を終わらせるのは、よいことかもしれない。第二段階はすでに8割方終わっている。北朝鮮は再処理作業を再開すると言っており、使用済み核燃料から2~3カ月でプルトニウムを再び抽出できるようになる(1万4000本の燃料棒から核爆弾1~2個分のプルトニウムを抽出できる)。再処理施設の無能力化の反転は原子炉の無能力化の反転より迅速にできる。原子炉の再稼働が可能かどうか不明。可能としても1年はかかりそうだ。
Q:ジョーンズ大統領補佐官(国家安全保障担当)はオバマ大統領にどんな助言をすると思うか。
ニクシュ:北朝鮮に関するジョーンズ補佐官の立場はほとんど知らない。しかし、オバマ政権は明らかに6カ国協議を進展させ、歩み寄って交渉をまとめたいとを望んできた。同政権は北朝鮮と、場合によっては国務長官レベルの高官接触を検討する意向があった。今回の北朝鮮の発表によって、オバマ政権の立場が変わるかどうかはまだ分からない。
Q:中国は北朝鮮への姿勢を硬化させるか。
ニクシュ:安保理議長声明は2006年の北朝鮮制裁決議の厳しい実行を求めている。北朝鮮が寧辺の施設を再開するなら、日 米は中国が今後数カ月間に何をするか監視すべきだ。中国はこれまで何も実行してこなかった。貿易や投資はむしろ増えた。日米は中国が北朝鮮船舶の臨検、北朝鮮・イラン間の航空機運航阻止、貿易信用の提供停止、中国企業の対北朝鮮投資の中断など、制裁を実行するよう求めるべきだ。
Q:なぜ中国は北朝鮮をそれほど強力に支えているのか。北朝鮮を中国の一部と思っているからなのか。
ニクシュ:中国が北朝鮮への影響力を拡大したいと思っているのは明らかだ。中国軍部は北朝鮮軍部とつながりを今でも持っている。金正日の脳卒中以降は、後継指導部に影響を及ぼしたいと考えている。
ところで、北朝鮮が核放棄の見返りに求めているのは、米朝関係正常化ではなく、米国の核脅威がなくなることだ。すなわち、米韓同盟の解消、場合によっては在日米軍の撤退、日本周辺からの米海軍の撤収だ。(北朝鮮専門家の)セリグ・ハリソンが最近の訪朝で、プルトニウム放棄の見返りに米朝正常化と貿易信用供与を提案したところ、「プルトニウムはすべて兵器化したので、もうない」との答えだった。北朝鮮から引き出せるものは限界に近づいているのではないか。
日本は拉致問題を核討議や6カ国協議から切り離すべきだ。米国に頼りすぎることなく、北朝鮮を直接相手にすべきだ。米国を通して得られるものも限界に近づいているかもしれない。
Q:北朝鮮の強硬姿勢は金正日の健康問題と関係があるか。
ニクシュ あり得る。金正日が脳卒中で倒れた後、①国内の治安維持が強調され、「経済改革」が後退し(自由市場の規制強化、中国貿易商人の行動制限、南北共同事業の開城工業団地の部分的閉鎖)、義弟の張成沢が治安担当の党行政部長に復帰した。②軍の役割が目に見えて拡大した(ヒルとの昨年10月の会談に将軍が同席し、開城の韓国人ビジネスマンの交渉相手が北朝鮮の役人ではなく将軍に)。軍は核問題に関する立場を直接発表するようになった。
Q:米朝正常化に対する議会のチェック機能は?
ニクシュ:大使館予算の承認権限、大使人事の承認権限、残る制裁の解除権限がある。
Q:中国の北朝鮮への影響力は?
ニクシュ 中国は長男の金正男をよく知っており、機会があれば、金正日の後継者として売り出そうとするするかもしれない。次男、三男より影響力を行使できると思っているのでは。
Q:北朝鮮を甘やかしたのは中国と2期目のブッシュ政権だ。北朝鮮にはあらゆる手を使って圧力をかけるしかないのでは。
ニクシュ:ブッシュ政権の北朝鮮への譲歩(金融制裁解除、核申告からのウラン濃縮・核拡散の除外、テロ支援国指定解除)はすべて中国が求めたものだ。過去2年間の中国のブッシュ政権に対する影響力は大きかった。
Q:米国には中国へのムチがある。例えば、米国の金融制裁は北朝鮮と取引をする中国の銀行に圧力をかける意味で、非常に効果的だった。米国には中国に新たな制裁を科す政治的意思はあるか。
ニクシュ:もし北朝鮮が寧辺の核施設の稼働を再開するなら、オバマ政権は制裁を再び科すことを検討するかもしれない。金融制裁を手がけたスチュアート・リービー(Stuart Levey)財務次官が今も財務省に残っている。北朝鮮と商売を続ける中国の銀行への再制裁は、オバマ政権でもあり得る。
Q:上院民主党に対北朝鮮強硬派はいるか。
ニクシュ:北朝鮮核問題に関与している議員自体が極めて少ない。強硬派は思い付かない。しかし、北朝鮮の今回の発表をきっかけに、強硬な議員が民主党にも出てくるかもしれない。
◎4月14日 ケビン・ドーク(ジョージタウン大学教授)
Q:歴史問題で日本はこれまで萎縮してきた。「日本人は悪い人間だ」と攻撃され、日本人が国際的に発言できなくなっている。
ドーク:わたしは、日本人の価値観は民主的だと思う。日本人がもっとはっきり発言すれば、世界の民主主義はよくなる。だから、もっと日本に強くなってほしい。
Q:日本と中国、韓国などは歴史認識で一つになり得ないと思う。日中間では、中国が考えを押し付ける形になっている。米国にも中国と同じような、第二次大戦時の敵味方の考え方が残っているのではないか。慰安婦問題でマイク・ホンダ議員提出の決議が下院本会議で可決された。これは何とかならないか。
ドーク:米国で最近「文化戦争」というのがあり、犠牲になったのは真実だった。メディアや政治家、学会でも真実を言うことができなくなった。真実を信じない人は、歴史問題に参加する意味がない。だから私は、慰安婦問題や歴史問題の前提の方から考えようとしている。その一つが「真実を信じるか」「真実を言えるか」という点だ。
Q:慰安婦問題でも、下院公聴会で元慰安婦だという女性の証言に誰も疑問を投げかけない。これも真実を考えなくなった、ということか。
ドーク:被害者の立場だけで、真実を信じない社会になっている。日本人が客観的に、科学的にアプローチすると、歴史の無視と批判される。
Q:靖国神社の問題などは、日本の伝統文化に対する無知が対立の原因になっている。日本には霊を祭って拝む伝統文化があるのに、それを分からない人が「A級戦犯が埋葬されている」と書いている。
ドーク:靖国神社の問題は単なる日本の伝統の問題ではない。もっと普遍的な、人間の、死や神に対する態度がそこに表れる。靖国参拝に反対する人は、多分、神に反対する人だ。台湾の李登輝元総統は、日本人ではないのに靖国に参拝した。だから、これは普遍的な問題なのだ。米国で靖国参拝への反対意見の方が多いのは、学者やジャーナリストに世俗的な考えが多くなったからだ。
Q:米国にはいろいろな宗教があるから、神道にも寛容というわけではないのか。
ドーク:戦犯の人が靖国に祭られていることについて、「戦犯は神でない」という主張がある。カトリックでは、罪を犯した人でも、死ねば「神」になるかもしれない。その神とはGod(創造主)でなく聖人の意味だ。神道の神とはカトリックの聖人の意味を持っているのではないか。私は(神道の)神をgodと翻訳することに不満を持っている。靖国はおかしな宗教でなくて、どこにでもある、人間の精神的要求を満たす宗教のように思う。
生きている人には、死んだ人を裁く資格がない。戦犯と言われた人も、実は天国に行ったかもしれない。裁くのは人間でなく、神の役割だ。だから、人が死ねば靖国で尊敬するのは当たり前ではないか。(神に)裁かれなければ。
これを日本の雑誌に書いたところ、「この人たちが全員よい人間だと思っているのか」と批判された。わたしは、まさかそんなことは言っていない。わたしは裁かないだけ。裁かなければ、皆が善人という立場をとるしかない。
Q:日本は間違いこそ犯したが、どの国よりも人間的な政治をしてきた国だと思っている。日本の価値観が世界に広がれば、21世紀の世界はもう少し良くなると思っている。だからこそ、日本についてもっと発言したいし、皆に聞いてほしい。それにはどうしたらよいか。
ドーク:クリスチャンの中では、いちばん純粋な者がいつも十字架にかけられる。日本が完全に純粋というわけではないが、例えとしては(歴史問題で)それが当てはまるように思う。日本が十字架にかけられるのは、割合よい国である証拠だと思う。
Q:日本人は自分の意見が少ないか、遠回しに言う。中国人はドッと出てくるし、お金も出す。ところが日本が自己主張すれば「戦争を反省していない」と言われる。このジレンマが大きな悩みだ。
ドーク:遠慮して最初の戦いに負けるかもしれないが、最後には勝つと思う。人間は倫理的に行動することが重要だ。心配なのは、日本が世界の国から圧力をかけられ、自暴自棄になることだ。1930年代にも日本が孤立して世界から圧力がかかった。日本は頑張って我慢し、長い目で見て、倫理的に自然法にかなうようにやれば、大丈夫だと思う。
Q:(スターリンと手を結んだ)フランクリン・ルーズベルトの没価値観的な政治はよくなかったと思うが、ルーズベルトは今どう評価されているか。
ドーク:「リベラル・ファシズム」というのが最近の評価。同タイトルの本に書いてあるように、ファシズムはもともと社会主義(から生まれた)現象だった。ヒトラーもムソリーニもそうだった。著者によると、米国にもリベラル・ファシズムの現象があった。
今日ではヒラリー・クリントンが進歩主義者を自称しているが、最近のテレビ番組のパネルディスカッションで、進歩主義はさかのぼればファシズムを生んだ、という結論になった。
◎4月15日 チャック・ダウンズ(北朝鮮人権委員会専務理事)
ダウンズ:北朝鮮の今回のような反応は予想していた。北朝鮮は米国に新大統領が登場するたびに、交渉の基盤を元に戻す。北朝鮮がヒル国務次官補と交渉したのは昨年夏までで、それからすべての合意をぶち壊し始めた。ヒルは北朝鮮がそんなことをするとは思いもよらなかった。
北朝鮮は60年の交渉の歴史で何度もこれをやってきた。北朝鮮は、希望を与え、惑わし、だまし、期待させ、新大統領の登場が近付くと、すべてをぶち壊す。北朝鮮は昨年8月にそれを始めた。ブッシュ大統領を退任前に困らせるためと、新政権と対等の立場で交渉に入り、譲歩を強いて、ブッシュ政権から取ったよりたくさん取るためだ。ブッシュ政権からはテロ支援国指定解除を取った。従って、北朝鮮に現時点で対決姿勢を取っているのは、オバマ政権が弱腰すぎてテロ支援国再指定はできないと考えているからだ。
米国は北朝鮮をテロ支援国に再指定すべきだ。昨年夏、女性スパイが韓国の脱北者組織に送り込まれ、黄長燁らを暗殺しようとした。テロリストの派遣ほど大きなテロ行為の証拠はない。にもかかわらず、ブッシュ政権はテロ支援国指定解除の路線を変えなかった。
ミサイル発射もテロ行為だ。シリアへの支援はテロ行為だし、協力相手のイランもテロ支援国リストに載っている。北朝鮮をリストに再び載せるべき理由はたくさんある。
Q:ブッシュ政権が柔軟路線に転じたのは、強硬路線は結果が出なかったと考えたためか。金融制裁はうまくいったと思うが、ブッシュ政権はそうと認識しなかったのか。
ダウンズ:認識しなかった。彼らは米国内での政治的インパクトが気に食わなかった。米国では、ブッシュ政権が何かを達成したとは考えられていない。北朝鮮は、米国民が条約や協定を欲しがることを知っている。米国民は条約など文書に調印することが成功と思っている。政府が文書をまとめられなければ、米国民は何もなかったと思いがちだ。
あなたが言うことは正しい。ブッシュ政権の最初の6年間は、北朝鮮に圧力をかけることに大成功した。金融制裁ほど成功したものは過去60年間恐らくなかった。
北朝鮮は最近、中朝国境で米国籍の女性記者2人を拘束したが、これは意図的だ。北朝鮮は「人質」2人を比較的丁重に扱い、米国の建国記念日か感謝祭かクリスマスに合わせて、米特使の派遣と引き換えに2人を返還すると発表し、そこから北朝鮮との新しい交渉のサイクルが始まるだろう。すべては北朝鮮の計画通りに進む。
Q:「6カ国協議に決して戻らない」という北朝鮮の発表をどう分析するか。
ダウンズ:北朝鮮は昨年6月以降、6カ国協議に出ていない。いまさら何を注目するのか。北朝鮮はブッシュ政権のテロ支援国指定解除で、取りたいものを取った。その時点で、すべての合意からの離脱を計画し始めた。北朝鮮が6カ国協議に戻らないのは、北朝鮮としては自明のことだ。6カ国協議がスタートした時、北朝鮮は参加を嫌がったので、中国は北朝鮮の参加を取り付けるため金を払わねばならなかった。中国序列2位の呉邦国全人代委員長は6カ国協議の第二ラウンド(筆者注2004年2月)に北朝鮮を参加させるため、平壌を訪問(筆者注2003年10月)して5000万ドルの小切手を手渡した。北朝鮮は常に譲歩と金を得る手段として6カ国協議を利用する。
(6カ国協議に戻らないという発表は)いつもの行動で、大したことではない。
ダウンズ:(4月5日の)ミサイル発射は明らかに軍事的理由によるもので、北朝鮮に長距離攻撃能力があることを示そうとした。金正日はいつも西側の民衆の反響(public reception)をもてあそぼうとする。通信衛星の打ち上げだと主張したのはそのためで、思惑通りに北朝鮮に衛星打ち上げの権利があるか否かの議論を米国で巻き起こした。しかし、世界中に北朝鮮ほど通信を妨害しようとしている国はない。そんな国が通信衛星の打ち上げを主張するのは笑止千万だ。
Q:オバマ政権はミサイル発射を懲罰すると言っていたのに軟化した。なぜ政策が変わったのか。
ダウンズ:オバマ政権は北朝鮮に相矛盾するシグナルを送っている。ボズワース特使は北朝鮮に辛抱強く対応するというシグナルを送るが、ホワイトハウスは北朝鮮に厳しそうな言い方をする。北朝鮮はそこに、政策調整の欠如を見て取る。
Q:米朝二国間交渉での北朝鮮の究極的な目標は何か。
ダウンズ:目標は常にプロセス自体にある。真の目標はしばしば国外でなく国内にあり、金正日の路線に誰もが従わなければならないという印象を国民に与えることにある。金正日は交渉の結果より、権力の掌握に関心がある。金正日が望んでいるのは、外部世界との関係改善ではなく、権力を高めて諸勢力を操る立場に立つことであり、そういう立場に立つと見られることだ。そのために交渉を利用する。だから交渉をプロパガンダに使い、交渉の席を立つといういつものやり方をたどる。
米朝核軍縮交渉の狙いも同じ。北朝鮮は在韓米軍撤退や米韓同盟廃棄を要求するかもしれないが、米国がそれをのむとは思っていない。交渉目的は要求の実現にない。目的は、北朝鮮国内では金正日の力を見せつけること、国外では、議論に影響を与え関心をそらすことにある。
Q:金正日の健康状態が今回の決定にどれほど影響を与えたと分析するか。
ダウンズ:金正日は昨年8月17日ごろ深刻な脳卒中に見舞われ、9月半ばまでに(一時)統治不能状態になった。新夫人の金オクが面会を管理し、一部の案件で義弟の張成沢が金正日に代わって決定を下すこともあったと思う。独裁者は体力の衰えを感じるほど強硬路線をとるようになる。金正日が短期間にあれほどやせたのには驚いた。断じてダイエットではない。どの息子も後継者の地位を固めていない。信頼できるのは張だけで、金正日には難しい状況だ。張が後継者になるのが最も自然だが、軍をコントロールしていない。しかし、金正日も当初は軍との関係は弱いとされていた。北朝鮮では、指導者が軍をコントロールするのは、はたで見るより容易なのかもしれない。
Q:息子以外が後継者になることがあり得るのか。
ダウンズ:非常にあり得る。張はその経歴、金一族との関係を生かし、金正日に代わって発言していると考えられるまでになった。あるいは、息子の一人をトップにして「摂政」になる可能性もある。息子のうち、長男の正男は後継者になる関心がないように思える。正男はマカオなどでの生活を楽しんでいる。
Q:中国は、これまで支援してきた正男を後継者にして、北朝鮮をもっとコントロールしようとはしないか。
ダウンズ:中国がそれを試みるとは思わない。中国は張に影響力を及ぼそうとする可能性の方が大きい。中国は、平壌で決定が下される時に「誰かを部屋の中に置いておきたい」(情報をすぐに得たい)と常に考えている。しかし、韓国は中国が北朝鮮の新たな支配者になることを嫌っているので、中国は影響力をどう行使するか気をつけなければならない。ただ、北朝鮮が中国当局者を部屋の中や部屋のすぐ近くに置かないという決定を既に下したとは思わない。
Q:米国は、中国が金正日政権崩壊時の混乱を収拾し北朝鮮に影響力を拡大するのを容認するのでは。
ダウンズ:ホワイトハウスが金融危機など他の問題に忙殺されれば、スタインバーグ国務副長官などが「北朝鮮は中国の仕事だ」と言い出しかねない。
Q:北朝鮮問題で、中国に銀行に再び金融制裁を加える用意が米国にあることをうかがわせるものが何かあるか。
ダウンズ:唯一あるのは、強硬派のスチュアート・リービー財務次官がオバマ政権でも留任を求められたことだ。その意味は誰も知らない。
◎4月15日 キム・クワンジン(金光進=北朝鮮の対外保険総局幹部としてシンガポールで銀行・保険業務に従事。2003年、家族と共に亡命。チャック・ダウンズが手掛ける北朝鮮保険金詐欺訴訟で証人に)
金:1970年代、人民経済から軍需産業が分離され「第二経済」が出現した。第二経済は金正日と側近のための資金管理・経済活動を担うので、私は「宮廷経済」と呼んでいる。人民経済は内閣が管理。宮廷経済は党や軍が管理。分離以前、朝鮮外国貿易銀行が唯一の外為銀行だったが、分離以降は労働党39号室や軍需産業など主要部門が各自の外為銀行(例:39号室は朝鮮大聖銀行)を持つようになり、その数は約20になった。
Q:米金融制裁で北朝鮮にどんな影響が出たか。
金:北朝鮮経済と北朝鮮体制は今やハードカレンシーで支えられている。①そのルートが遮断され、金正日に資金が入らなくなった②ハードカレンシーを生む頼みの綱の宮廷経済を直撃した③外国貿易銀行は依存度の高かったマカオとの取引ができなくなった④シンガポール、モンゴル、ベトナムからも送金がなくなった。
Q:バンコ・デルタ・アジア(BDA)以外に、中国のどの銀行が最も北朝鮮に関与しているか。
金:中国銀行。ほかに招商銀行、 Industrial銀行も。北朝鮮は瀋陽、丹東、珠海、上海、マカオ、北京で活動している。
金正日の個人資金・重要資金の多くは中国銀行が扱っている。商取引は招商銀行で。
Q:中国が金正日を締め上げようとすれば可能か。
金:商品の80%は中国から入ってくる。国境が数カ月閉鎖されれば、北朝鮮はもたない。
Q:金正日の資金のうち、どれほどが違法取引(麻薬、偽タバコなど)によるものか。
金:額は知らない。政府はコカイン生産にも絡んでいる。ミサイルなど売れるものは何でも、誰にでも売る。
Q:日本の制裁は宮廷経済にどんな影響を与えたか。
金:日朝取引の額はそれほど大きくないが、それでも中古車、自転車などは日本から入っていた。それがカットされ、人民経済には影響ないかもしれないが宮廷経済には影響を及ぼした。対日輸出(マツタケ、魚)は39号室所属のDaehungが独占しており、日本の制裁でその金が39号室に入らなくなった。
Q:在日朝鮮人からの送金は金正日にとって大きいか小さいか。
金:送金額は減っていると思う。在日は送金しても家族に届かないので送らない。
Q:なぜ中国の銀行を送金に使うのか。
金:顧客の秘密を守る「裏送金」を引き受けてくれるから。
◎4月15日 マイケル・オースリン(AEI常任研究員)、ダニエル・プレトカ(AEI副理事長=外交・国防政策担当)
Q:中国をどうみるか、米政府は中国をどうみているかについて、意見を聞きたい。
オースリン:中国が重要なプレーヤーで、今後もっと重要になるだろうということは皆が分かっているが、中国が果たしてパートナーになるかどうかは米国で十分に理解されていない。中国に関与すれば中国から前向きな反応があるとわれわれは期待しているが、実際にはそうなっていない。中国からは、軍備増強の理由について納得できる説明はない。
米国の対中傾斜は、そうと決まったわけではない。米国には対中接近を唱えるグループもいるが、それに懐疑的で同盟関係を心配するグループもいる。中国の役割増大という現実を認識することと、アジアの自由拡大・安定向上の目標を放棄しないことのバランスを取ることが必要。
Q:日本のできることは憲法の制約で限られている。安倍元首相は改憲を試みたが果たせなかった。理由の一つは歴史問題で中国など周辺国に批判されるためだ。日本は「普通の国」になる資格があるのに、いつも歴史問題を蒸し返される。日本は憲法を改正し、自衛隊を普通の軍隊にすることが必要だ。それには歴史問題を解決しなければならない。これについてどう思うか。
オースリン:日本の戦後の貢献は、戦前・戦中期から政府と社会が変わったことをはっきり示している。世界第二の経済大国が人為的な憲法上の制約を受けているのは無意味だ。しかし、決めるのは日本国民だ。安倍氏は改憲の試みに大きな支持を得られなかった。過去の問題に関する中韓の政府公式見解には同調しない。日本は明らかに謝罪を繰り返してきた。中国はそれを政治利用している。いまだにこれが議論になっているが、過去の問題の取り扱いを日本に指示することは国際社会の役割ではない。アジアには日本の役割拡大を望まない国もあるが、米国はそれに同調すべきでない。
プレトカ:戦争中の苦しみはもはや今日的な意味をもたない。もう終わったことだ。日本は国家安全保障の責任、同盟上の責任に投資しない限り、米国が望むパートナーにはならない。憲法は現代日本の制約になっている。
Q:オルブライト元国務長官は最近の著書で、①日本が自主防衛に向かうと中国を刺激して軍備を一層増強させ、南北朝鮮を中国側に追いやる②在日米軍の駐留は日本を守ると同時に日本を抑えるためでもある―と書いた。こういう発言が出てくるからこそ、わたしは言っているのだ。
プレトカ:彼女はバカだ。オルブライトは中国に資金援助されている人々の間をうろつき、中国に資金援助されている大学に籍を置き、中国に支援されている会議に出席し、中国の発言力が強い環境に身を置いている。中国はオルブライトに金を払って強い発言力を持たせようとしている。中国は欧米のシンクタンクや大学に出資しており、例えばブルッキングズ研究所に1200万ドルを初期出資し「中国(研究)センター」を作った。これはAEIの年間運営予算の約4割に当たる。日本は1980年代に出資したが、今は政府も企業も出資しようとしない。
オースリン:もう一つの問題は日本の代弁者がいなくなろうとしていることだ。(80年代に日本の研究資金を受けた)年配の世代が引退しようとしている。ワシントンの中国傾斜はチャイニーズ・マネーだけが原因ではない。人口動態的な変化がある。10年後には、民主的で安定した日本の役割を評価する発言者はほとんどいなくなる。オルブライトが根本的に間違っているのは、1930年代の日本を見ていることだ。われわれは(オルブライトと違って)日本の憲法改正や役割拡大が必要と考えるが、そう考える人は数がだんだん限られてきて、言い分を通すことが難しくなってくる。
◎4月15日 ブッシュ前政権高官(匿名を条件に会見)
Q:オバマ政権の中国政策は?
元高官:政権の関心は、国内問題(経済、福祉、医療)優先。アジア外交でそれほど大きな変化はない。国内政策を通すには、外交問題で共和党と対立しない方がよい。オバマは政治資産を国内政策に使い、外交ではリスクを冒さないだろう。オバマが金正日と会うシナリオはない。中国政策でも大した変化はない。
アジア政策の中心はスタインバーグ国務副長官とキャンベル国務次官補。二人とも、中国を国際社会に導くには日米同盟のしっかりした基盤が必要という立場だ。
外交の優先課題は、①人間が引き起こした災害(「テロとの戦い」という表現はあまり使わない)②地球温暖化③中国の大国化―の順。温暖化(および経済危機、北朝鮮)が大事だから中国との連携が必要という考え方もあるが、スタインバーグは中国こそ米国の協力を必要としているとの考えから、クリントン長官の初訪問国に日本を選んだ。
対日でも「あまりリスクを冒さない外交」をする。北朝鮮ミサイル発射問題では、最初から安保理決議ではなく議長声明になると計算していた。決議を主張したのは建前であり、本音ではロシアとの関係を「リセット」したばかりで、北朝鮮の反発も招きたくなかった。
Q:オバマ政権の政策は中国傾斜ではないのか。
元高官:クリントン長官の訪日を訪中より前にしたのは、日米関係は米中関係より近いという意識の表れと思う。中国との価値観の違いは大きい。
温暖化問題では、米中はかなり対立すると思う。中国がCO2削減目標に同意しないと、米議会は関連法案を通さない。温暖化問題はまた、貿易問題になる。中国への技術移転は知的財産権の保護で難しいからだ。
一方、中国は世界経済危機で米国への反発を強めた。これは米中戦略対話に反映されるだろう。
米中のコンソーシアムは簡単にはできない。いずれにしても、米中戦略対話が閣僚級で、日米戦略対話が次官級では、見た目が良くない。
(訪日した)クリントンには、対日要求は何もなかった。日本の政局混乱で、自衛隊のアフガン派遣は頼んでも仕方がないという考え。
駐日大使は第一候補がノーマン・ミネタ元運輸長官、第二候補がジョゼフ・ナイ。ホワイトハウスは、駐日大使には政治的大物(国内政治的に影響力がある人)がよいと思っている。ナイは政治的影響力が少ない。また、オバマは学者をあまり重用しない。
駐中国大使はデイリー・シカゴ市長の弟が最有力。
Q:歴史問題にこだわらず前へ進めという意見があるものの、中国は歴史問題を引き続き言ってくる。これをどう解決したらよいと思うか。
元高官:米国の学界に保守系の日本専門家はほとんどいない。一方、一般国民は、歴史問題で日本を信頼できないとはほとんど考えていない。歴史問題は歴史家に任せるべきだ。
中国の台頭に対抗するには民主主義国の連携が重要だ。特に韓国をどう扱うかが重要になる。
Q:日米同盟が中国を中心とする多国間機構に取って代わられる可能性は?
元高官:中国の台頭は戦略的チャレンジだが、長期的な問題なのであまり注目されない。米国にとって喫緊の課題は経済危機であり温暖化であり中東・南西アジアだ。スタインバーグやキャンベルは中国のチャレンジを後回しにして中国との協力を拡大する立場ではないが、オバマ大統領やバイデン副大統領の立場は分からない。
米国が中国寄りになることはないと思うが、日本にも頑張ってもらいたい。(日米同盟を強化するには)集団的自衛権の行使容認など、日本の前向きなバックアップが必要だ。
◎4月16日 ジェームズ・プリスタップ(国防大学国家戦略研究所上級研究員)
プリスタップ:オバマ政権はブッシュ政権の対日政策を基本的に継承すると思う。政策に大きな違いがあるとは思わない。
Q:オバマ氏は就任前にフォーリン・アフェアーズ論文などで、アジア外交の転換を主張しているが。
プリスタップ:アジア政策を転換するとはおもわない。いま転換することは米国の利益にならない。クリントン長官のアジア訪問が日本で始まり(給油のため)日本で終わったことや、政権発足間もなく麻生首相がワシントンでの首脳会談に招かれたことは重要だ。米国の長期的な国益の観点からみて、基本的なアジア政策にほとんど変化はないだろう。米国のアジア政策は日本に始まり日本に終わる。日米同盟は米国の地域戦略・世界戦略の基礎だ。湾岸戦争でもアフガン戦争でも、最初に投入された部隊は日本(横須賀)から来た。米軍は横須賀から地球の半分をカバーしている。日本は戦略的位置にある。これは変わらない。
日米両国とも、中国が今後50年間の戦略的チャレンジであることを理解している。日米が協力しなければ成功しない。協力すれば、中国を正しい方向へ持っていく大きなチャンスが生まれる。オバマ政権に入るキャンベル(国務次官補)やグレグソン(国防次官補)やミシェル・フラワノイ(国防次官=政策担当)もそう考えている。同盟関係に対する非常に強いコミットメントがある。
オバマ政権は、非伝統的な安全保障問題(気候変動、人身売買・麻薬取引)では多国間協力に焦点を合わせるが、伝統的な安全保障問題では引き続き同盟関係に基礎を置くと思う。米国の対日・対中政策は一貫しており、何よりもまず同盟関係だ。
鄧小平の改革開放以来、日米ともよく似た中国政策を追求し、中国に関与して責任あるステークホルダーにしようとしてきた。同時に、中国は独裁国家で、不透明な軍備増強を続けているので、同盟の仕組みを通じたリスク管理が必要となる。オバマもこれを理解していると思う。米国は中国への関与を深めるかもしれないが、それは中国が汚染・環境悪化などの問題の根源だからであって、全体として(アジア政策に)大きな変化があるとは思わない。
Q:クリントン長官の訪中で、米中は戦略経済対話を始めることになったが。
プリスタップ:それはよいことだと思う。同盟関係を通じて地域に取り組むという伝統的なやり方が変わることを意味しない。中国には多くの戦略的懸念があり、そうした問題(例えば核兵器削減)で中国に関与しなければならない。
戦略対話では軍事力透明性の問題も取り上げないといけない。中国は(米軍に対する)アクセス妨害能力を開発し、台湾近海から第二列島線までその能力を広げようとしている。歴史的に見て、米国のアジア戦略はアクセスの上に築かれてきた。中国の妨害能力開発は、米国の基本的な国家安全保障上の利益への挑戦だ。この深刻な戦略問題を中国と討議すべきだ。
Q:ヘッジングは引き続き米国の中国政策の柱の一つと考えてよいか。
プリスタップ:よい。中国政策を扱う際の問題は、国務省、国防総省、商務省、実業界、議会それぞれに中国政策があり、一緒にするのが難しいことだ。しかし、ペンタゴンの懸念は本物であり、なくならない。外交レベルで話をするなら「協力」だが、安保レベルでは「監視」だ。
Q:ではなぜ今年のペンタゴン報告書からヘッジングという言葉が消えたのか。
プリスタップ:なぜ消えたのかは知らない。ヘッジングという言葉の使用をめぐってはかねて議論があった。私は個人的にはヘッジングより「リスク管理」という言葉の方が好きだ。株で一つの会社への投資はリスクがある時に別のところにも投資するようなものだ。(言葉が消えたことが)重要とは思わない。中国向けかもしれない。中国はいつも「ヘッジングという言葉は嫌い」と文句を言ってくるから。
Q:①「日米中正三角形」論②ブッシュ政権の台湾独立反対③北朝鮮テロ支援国指定解除―について。
プリスタップ: (日米中)米中が接近しても、正三角形にはならない。日米同盟は(米戦略の)基本。中国のような独裁国家を日本と対等に扱うことは不可能。米国は日本が中国ともめ事を起こすのを好まない? それは好まない。日中が良好な関係になるのは米国、日本、中国の利益になる。しかし、正三角形にはならない。
(台湾独立)現状の一方的変更に反対するブッシュ政権の政策は続く。中台関係改善は安定のために好ましいが、同時に中国もある時点で真に良好な関係を望んでいることを示さなければならない。政治関係が好転しても(台湾対岸の)ミサイルの数は増え続けているからだ。
(北朝鮮)テロ支援国指定解除は大きな戦略的誤りだった。同盟国日本をないがしろにし、代わりに何も得られなかった。
われわれは金正日の後を追いかけるのをやめ、金正日に協議復帰の見返りを与えるべきでない。北朝鮮の体制転換に関心がないことを明確にし、5カ国が協議を続ける一方で、北朝鮮の復帰を待てばよい。
中国は北朝鮮制裁決議を実行していない。貿易は逆に増えた。米国の目標は非核化だが、中国の利益は第一に安定、第二に北朝鮮の継続で、非核化は多分3番目。
6カ国協議が長期中断する間、米国は同盟国への防衛約束を明確にすることが重要。そして、北朝鮮がどう出るかを見る。それにはリスクがあるが、どこにでもリスクはある。北朝鮮が核兵器放棄のつもりがあるか、ますます疑問に思う。病気の金正日はミサイル発射で、自分が依然としてボスであり、米国へミサイルを発射できる力があることを示した。核兵器を放棄すれば、金正日の立場は弱まる。
(同盟関係)同盟関係や施設利用協定がないと、米国は東アジアや東南アジアでの効果的な作戦が難しくなる。また、日米中3国対話構想には懐疑的だ。やるなら議題は環境とか温暖化であって、安全保障問題ではない。
Q:二国間同盟を超えた北東アジア多国間機構の構想について。
プリスタップ:(ライス前国務長官がフォーリン・アフェアーズ論文で触れた)「北東アジア平和安保メカニズム」は朝鮮半島の平和なくしてあり得ず、朝鮮半島の平和は北朝鮮が核兵器を持ち続ける限りあり得ない。従って、実現が非常に難しいことは誰もが分かっている。ライス氏は(ブッシュ政権の)「遺産」となるものを探していた。任期が残り8~9カ月になると、この構想への言及も減った。実現しないと分かったからだ。
Q:米国は北朝鮮のミサイル発射に強硬姿勢を取ったかと思えば、急に軟化した。オバマ政権の北朝鮮政策はどこにあるのか。
プリスタップ:あちこちにある。キャンベルやグレグソンはまだ就任していない。ボズワースはパートタイムだ。どこに政策があるのか分からない。国連に持ち出しても中国がいて、制裁決議は通らない。
「6カ国協議に戻らない」という北朝鮮の発表は復帰の値段をつり上げるための戦術だ。
Q:中国は長期的に見て北朝鮮の事実上の支配を狙っているのでは?
プリスタップ:中国がそれを望んでいるとは思わない。北朝鮮が扱いにくいことは中国も分かっている。北朝鮮に影響を及ぼそうとしていることや、北朝鮮国家の存続を助けようとしていことは確かだが。
米国の視点(不拡散の視点)から見ると、北朝鮮の安定はそれほど悪いことではない。北朝鮮が不安定化し、政府が崩壊し始めれば、大量破壊兵器(WMD)を管理できなくなる可能性が大きい。それは皆の利益にならない。
Q:北朝鮮崩壊時の対応について。
プリスタップ:米韓軍は有事の計画を更新してきたが、もっと心配なのは政治的、外交的な調整だ。米国はまず韓国と、次いで難民問題などで日本と調整する必要がある。政軍を含む全政府レベルで計画づくりを始めないといけない。中国とも協議が必要だが、まず同盟国間で合意がなければならない。
Q:2期目のブッシュ政権はイラクや中東に忙しく、台湾や北朝鮮問題への関心を失ったように見えたが。
プリスタップ:それはない。朝鮮半島や台湾海峡の情勢は米国に戦略的影響を及ぼすので、「どうぞ勝手に」とはならない。それをやったら同盟国としての信頼を失う。
Q:台湾住民の意向に反して馬英九総統が中国との統合を進めたら?
プリスタップ:台湾の総統が住民投票なしに中国と政治的に和解することは考えられない。住民投票なしに中国と合意しても、政治的に維持できない。
Q:台湾には、中国に事実上植民地支配されることを懸念する人もいる。日米は国益の観点から、台湾が中国の勢力圏に入ることを阻止しないといけないのでは。われわれにはその用意がある。
プリスタップ:われわれにあるとは思わない。台湾住民が何らかの政治的合意を支持すれば、その民主的判断を覆すのは難しい。いずれにせよ、現実問題として、中台統一の兆候はみえない。
Q:台湾の独立を認めない理由は何か。
プリスタップ:米国は台湾をめぐって中国との紛争に巻き込まれたくない。中台のどちらの側に対しても紛争につながるような行動をとることを奨励しない。
Q:台湾人は中国に統一される不安を感じている。台湾の現状を守るため台湾人を支持することは、日米にとって良いことだし、民主主義世界にとっても良いことだ。
プリスタップ:台湾の民主主義を精神的、政治的に支持することは変わらない。台湾の将来を決める上で、住民の声を聞かないといけないのは確かだ。
Q:米国は戦争で独立を勝ち取った。台湾にそれをさせないのか。
プリスタップ:それが民主的選択でも、どういう結果を招くが予想がつかない。台湾を支援することと、中国との関係を管理することのバランスを取らないといけない。簡単な答えはない。
◎4月16日 ロバート・サッター(ジョージタウン大学客員教授)
サッター:米国では馬英九総統の対中姿勢が広く支持されているが、支持者の中でも、中国の影響力増大で米国の影響力が低下するのを懸念する人と、それほど深刻に考えない人に分かれている。私は前者に属するが、米国に何ができるか悲観的だ。なぜならオバマ政権は中国とのもめごとを避けことに集中し、台湾にテコ入れする気がないからだ。馬政権も中国の気に障らないように、テコ入れを望んでいない。
過去にこういうことがあると、米国は台湾に防衛用兵器を売ったり、アジア太平洋経済協力会議(APEC)や世界貿易機関(WTO)に入れたりしてテコ入れした。しかし、オバマ政権は劇的なことはしない。台湾は経済的に中国に依存し、外交的には国際活動に中国の許可を求め、軍事的には中国の有利に向かいつつある。台湾の政権は中国の反感を買わないよう気をつけ、中国はかつてないほど台湾に影響力を持つようになる。
この変化は台湾海峡情勢の打開につながるかもしれないので米国は支持すべきだとの意見も一部にある。
米国は従来、台湾海峡のバランスが大事で、バランス維持に米国の役割が大きいと考えてきた。しかし、今やそのバランスが変化し、米国の影響力が減ってきた。台湾にとって、米国より中国の方が重要になってきたように見える。
一方、米国の協力国は中国に対する危機管理計画(コンティンジェンシー・プラン)を持つこと(ヘッジング)が必要だ。台湾海峡情勢の変化を受け、台湾がヘッジに一役買うかを問わないといけない。台湾高官は口ではヘッジすると言っているが、行動は過去のヘッジングと違う。
Q:中国が台湾を吸収すれば、地域にどんな影響があるか。
サッター:すぐに吸収はない。台湾での抵抗が強い。民進党の背後に40%の住民がいる。馬総統も吸収を望んでいるとは思わない。しかし、はっきりしない状況は続くだろう。
Q:台湾が平和的に中国と一緒になることは?
サッター:あり得るが、すぐにはならない。
Q:陳水扁前総統夫妻が不正資金容疑で捕まり、同じ疑惑の馬総裁が捕まらないのでは、台湾の司法の公正さに疑問符が付く。
サッター:馬総裁の額は陳に比べてずっと少ないのでは。汚職の種類が違うとワシントンでは見られている。
Q:台湾が中国の影響下に入ると、日米関係にどう影響するか。
サッター:日米関係の強化が必要になる。日本が米軍基地は不要と言い出すと大変だ。
台湾が(中国の影響下に入ることを)選択するなら、それに合わせないといけない。民主的に選ばれた政府に、路線を変えるよう強制できない。
Q:台湾が米国から武器を大量に購入して中国と戦う意思を示すなら、支援するか。
サッター:防衛力の強化は支援するが、独立(戦争)は支援しない。挑発的すぎる。愚かだし、米国にとって危険だ。中華帝国が崩壊すれば(独立は)うまくいくかもしれないが、予見し得る状況の下ではうまくいかない。
Q:ブッシュ前大統領が陳前総統に腹を立てた理由の一つは、コミュニケーションが十分でなかったためではないか。台湾のワシントン駐在代表が台湾の声をうまく伝えなかったのでは。
サッター:陳前総統はそう言っているが、馬鹿げている。陳水扁は中国を非難することで再選を果たそうとした。自らの再選のために米兵の命を危険にさらそうとした。こんな人物はつぶさないといけないとパウエル(国務長官)やアーミテージ(副長官)も考えた。コミュニケーションはよかった。米台は互いに何を考えているかよく分かっていた。陳水扁は議会の親台湾派を分裂させた。
Q:中国の影響力が強まると、日本で非核3原則の見直しや自主防衛力の強化を求める声が強まるかもしれない。
サッター:日本が「普通の国」になることは支持する。日本の核武装は安定を損ねるので賛成しないが、防衛力の強化はよいことだ。日本が憲法9条の改正を選ぶなら、それもよい。それが安定を損ねるとは思わない。
Q:米国の「核の傘」に確信を持てなければ、国の存続のため核兵器を持つのは正当な権利だと思うが。
サッター:米国はアジアで防衛の責任を負おうとしている。(経済危機の中で)国防予算は減っていない。米軍が海外で戦う意思も衰えていない。これが続く限り、心配はいらない。
Q:ペンタゴンはF22の生産中止と、空母の削減を発表したが。
サッター:F22よりF35など別の航空機に資金を回す方がよいと判断したという話だ。空母については、総数よりどこに配備されるかが重要だ。
◎4月16日 ダン・ブルメンソール(AEI常任研究員)
Q:米国は台湾と距離を取りつつある感じだが。
ブルメンソール:馬総統の当選以来、「問題は減り、心配することはあまりない」というのが公式見解。しかし、私はそうは思わない。中国はミサイルを増やし続け、武力行使を放棄していない。中台経済統合は進んでいるが、台湾の民主主義は深化し、台湾人意識も強まっている。中国の選択は、それを現実として受け入れるか、武力を使って変えるかの二つに一つだ。
Q:現状が続けば、台湾はいずれ中国の一部になると思わないか?
ブルメンソール:中国が武力を行使しない限り、なるとは思わない。台湾人が反対するから? その通り。馬が仮に中国との統合を望んだとしても、台湾人が反対する。そもそも、馬が中国との統合を望んでいるとは思わない。民主主義国の指導者で、主権を他国に譲り渡したいと考える者はいない。台湾を(中国の)1省にしたいと考える指導者はいない。
Q:「ステークホルダー」政策はオバマ政権で継承されるのか。
ブルメンソール:ステークホルダー政策と呼んでも何と呼んでもよいが、一方で中国と包括的に関与し、他方で中国の意図が分からないのでヘッジするという総論では、民主党と共和党の間にコンセンサスがある。問題は各論だ。この二本柱のバランスをどう取るか、オバマ政権はまだ答えを出していないと思う。
Q:対北朝鮮外交で中国を動かすムチとなるものは何か。
ブルメンソール:日本の再軍備(憲法9条の改正、自主防衛力強化など)だ。中国はそれを最も恐れている。6カ国協議は失敗したので、どの国も対抗措置を取る権利がある。
日本は主権国家なので、米国に仮に反対する人がいても、阻止できない。
核保有は別問題で、米国の視点からは、アジアに核保有国はこれ以上増えてほしくない。日本や韓国やオーストラリアが次々に核武装するのは、米国の利益にならない。決定を下すのは日本だが、憲法9条も集団的自衛権もそのままで、核保有は飛躍しすぎではないか。
Q:北朝鮮のミサイル発射前に、ゲーツ国防長官が米国領土に飛来するときにだけ撃ち落とすといったのは、日本を守らないという意味か。
ブルメンソール:そう取られるので、まずい言い方だった。日米同盟の下で、米国には日本を守る義務がある。
Q:中国の空母建造決定を危険と考えるか。
ブルメンソール:空母保有は中国がグローバルパワーになることを意味する。誰もそれを拒否できない。中国の海軍力増強で、米国は第二次大戦後初めてグアムやハワイを脅かされる。中国にはシーレーン防衛などで弱点もある。中国と軍事的競争が続いている。米国と同盟国に有利なバランスを保つ必要がある。
Q: F22の生産中止と空母の削減方針をどう思うか。
ブルメンソール:アジアにはよくない。特にF22は日本の防衛にぴったりだ。政策担当者は中国の脅威を現実問題として見ていないようだ。
Q:台湾には、中国軍増強を前に、台湾海峡の軍事バランスを維持する意志があるか。
ブルメンソール:軍には非常に強い意志があるが、政治組織は(中国への対応をめぐり)分裂している。
Q:米国には台湾に対する中国の影響力拡大を受け入れる傾向にあるのか。
ブルメンソール:そういう傾向はない。そもそも中国の影響力は(中台の政治的接近という意味では)拡大していない。
◎4月17日 リチャード・フィッシャー(国際評価戦略センター上級研究員)
Q:中国の軍事力増強の脅威度は?
フィッシャー:地域的・世界的なバランス・オブ・パワーを懸念する者にとって、今は危険な時期だ。中国の軍事的拡張は資源の探求、シーレーン防衛、宇宙へのアクセスを目的としているようだが、忘れてならないのは、中国政府は共産党と軍の連合体であり、互いの生き残りのために、他国を犠牲にして決定が下されるということだ。中国は軍事力や経済力を得るにつれてそれを政治的影響力に転化し、自分たちの所有物とみなす価値のある物を獲得するために他国を押し出すことを恐れない。中国の戦略的野望は月や月の向こうにまで広がる。いったん月に軍事的な足場を築くと、月と地球の間の宇宙空間を支配する立場に立ち、地上の軍事的・政治的決定を左右する好位置につく。
米新政権は近視眼的で危険な決定をした。4月6日に発表された米軍削減計画は、航空優位を犠牲にし、中国の弾道ミサイルに対抗する新防衛技術を犠牲にし、中国が2020年代までに空母4~5隻を持つ時に今後40年間の米空母保有数を犠牲にするものだ。
もし中国が地球軌道や月を軍事利用したら、日本は宇宙へのアクセスをどう確保するのか。また、中国が北朝鮮やイランに及ぶ勢力圏を築き、インド洋に軍事的拠点を築いたら、日本はシーレーンをどう守るのか。これらは非常に深刻な問題だ。
Q:台湾は対中宥和政策の犠牲になるのではないか。
フィッシャー:われわれは台湾でフィリピンの経験を繰り返す危険がある。米国はフィリピンから基地を撤去し、フィリピンとの関係を基本的に放棄した。
今日、海南島は中国の弾道ミサイル原潜(SSBN)の基地になった。南シナ海はSSBNの湖になった。フィリピンを放棄したのは非常に近視眼的な決定で、その結果、南シナ海の支配権を中国に譲った。台湾で同じプロセスを繰り返そうとしている。
Q:中国軍増強の動機は?
フィッシャー:21世紀半ばまでに世界の支配的な軍事大国になること。西太平洋の米軍事力を無力化する能力は2015年までに持つだろう。この時までに、宇宙能力とアクセス妨害能力(偵察・通信衛星、ASBM、長距離攻撃機、潜水艦)が一緒になり、米海軍は西太平洋にアクセスできなくなる。2020年代までにアクセス妨害能力は他の地域に運ばれ、加えて中国は空母と第5世代機を持つので、海と空と宇宙の支配能力を持つようになる。
Q:F22の生産中止の理由は?
フィッシャー:F22の生産を中止し、同盟国への売却を拒否する軍事的な道理はない。オバマは予算削減しか目にない。中国とロシアは第5世代戦闘機の積極的な開発計画を持っているので、アジアや欧州の抑止力向上にF22は400~500機必要だ。(生産が継続される)F35は対地攻撃志向で、(F22が優れている)空中戦能力は二の次。F22とF35は相互補完機として設計されたもので、代替機にはならない。
中ロの第5世代機は空中警戒早期管制機(AWACS)への差し迫った脅威。F22の生産中止は大きな誤り。日本は国産の第5世代機開発予算を3倍に増やし、2020年までに配備できるようにするしかない。米国が同盟国へのF22売却を拒否したのは愚かだ。
また、日米は、次世代ミサイル防衛のKEI(Kinetic Energy Interceptor)を多目的ミサイルとして共同開発し、ミサイル防衛のほか、衛星攻撃、対艦弾道ミサイル攻撃にも使えるようにすべきだ。KEIは弾道ミサイルとしての射程は1500キロあるが、憲法解釈の変更で日本も保有できるはずだ。
Q:中国への抑止として日本の核兵器保有を支持するか。
フィッシャー:支持する。将来の日米同盟は、主要同盟国が中国に対して自前の抑止力を開発するのを米国が積極的に助けることによって、役割が明確になる。日本は核兵器能力を持つべきだし、米国はそれを助けるべきだ。
Q:あなたの考えは多数意見ではないでしょう。
フィッシャー:多数意見ではない。
◎4月17日 米中経済安保再検討委員会
発言者:キャロリン・バーソロミュー委員長、マータ・マクレラン・ロス上級政策分析官
Q:オバマ大統領が国内経済政策を優先すると、米国の国家安全保障に影響しないか。
バーソロミュー:オバマ大統領は経済危機に集中する必要に直面しているが、世界的に有名なクリントン国務長官の起用からうかがえるように、世界における米国の大きな役割に対する大統領の関心は薄れていない。ゲーツ国防長官の提案(F22の生産中止など)はさまざまな防衛上の必要を調和しようとしたもので、米国のプレゼンスや決意の弱体化を意味するものではない。しかし、海外では地域問題への米国の参加が少なくなると受け取られている。(その懸念を)オバマ政権に伝えることは大切で、オバマ政権がそれを聞くことは大切だと思う。
ゲーツは(イラクやアフガンでの)戦争の性質と(調達する)兵器システムをもっとよく結合させようとした。ゲーツ提案は政権と議会の議論の始まりであり、議会がF22の生産を復活させることもあり得る。
Q:委員会は中国の軍事的脅威をどう評価しているか。
バーソロミュー:この問題はじっくり観察している。委員会の3月の公聴会は中国の軍事ドクトリンについてだった。中国は長年台湾に焦点を絞ってきたが、今では台湾以遠を見ているようにみえる。そこで、デービッド・セドニー国防次官補代理を証人に呼んだ。彼は訪中から戻ったばかりで、中国側と軍事協力について前向きな議論をしたようだが、公聴会のわずか4日後に南シナ海で、米調査船が中国海軍に活動を妨害される事件が起きた。興味深いのは、セドニー次官補代理も国務省のノーリス次官補代理も証言で、米中関係について非常に楽天的な評価をしていたことだ。証言が事件後だったら、別の評価を下していたのだろうか。この種の出来事がたくさんある。(中国に関しては)高いレベルの懸念が存在する。懸念の一つは中国の意図が不透明なことだ。
議会では中国の軍備増強に懸念が増している。問題は増強の意図であり、世界との付き合い方だ。「海洋」「宇宙」「サイバー」のどの問題も心配している。
委員会は8年前に発足したが、かつては(対中)タカ派、強硬派、冷戦主義者、偏執症と見られていた。ところが、3年ほど前から、政府の証人がヘッジングの重要性を強調するようになった。「ヘッジングが重要」と言葉では言わなかったが、ヘッジングが政府の対応の一要素と語るようになった。最初に使ったのは国防総省の証人で、国務省も少なくともその概念には賛成した。
アナリストの中には、中国を敵として扱えば敵になるという人がいる。ばかげている。われわれがどう扱うかにかかわりなく、中国はなるようになる。中国には将来、平和的で協力的な国家になってほしいが、そうなると想定するのはナイーブだ。われわれはヘッジングをし、われわれの望み通りにならなかったときに使う防衛力を確実に持っておく必要がある。
Q:3年前には何が起きたのか。
バーソロミュー:恐らく中国(の行動)がより目立つようになったのではないか。中国が衛星攻撃実験に成功したことで、予想外の能力を持つことが判明した。
ロス:米空母キティーホークの近くで、中国潜水艦が探知されないまま浮上する出来事もあった。
バーソロミュー:サイバー問題も認識されるようになってきた。われわれがサイバー活動への懸念を取り上げるようになったのは、3年前にレノボがIBMを買収し(技術流出が心配され)た時だ。
中国はアフリカや、(米国の裏庭である)中南米でも活発に行動するようになってきた。これらは中国の自信を反映しているようだ。
Q:民主党と共和党で中国の脅威認識に違いはあるか。
バーソロミュー:ないと思う。国防予算・軍事問題に関しては共和党系と民主党系で分析・見解に違いがあるが。私は人権問題で中国問題に入った。
ロス:中国問題は利益団体がいかに政策に影響を及ぼすかの代表的ケース。国防、人権、環境、気候変動などの利益団体や、世界秩序をゼロサムゲームと見る人、拡大するパイと見る人がそれぞれ中国問題を議論するが、政党の路線に従うわけではない。
バーソロミュー:米国は中国に国債を買ってもらわないといけないので、懸念する問題で圧力をかけられないという人がいる。しかし、数週間前に委員会で証言した学者は「中国は米国債を捨てられない。米国債を吸収できる国は中国以外にないからだ。中国は米国債を保有しながら価値を下げることもできない」と言っていた。
バーソロミュー:こちらから質問がある。北朝鮮は今後どうなるか。オバマ政権が後押ししている考えかどうかは知らないが、シンクタンクの世界では(核問題の解決には)体制転換しかないという意見が再び増えてきた。
国基研(島田):核・ミサイル・人権問題の解決には体制転換しかない。北朝鮮を弱らせるには、北朝鮮援助を続ける中国に圧力をかけることが必要。日米が共同して中国の銀行に金融制裁を課せば、絶大な効果がある。麻生首相はその用意がある。オバマ大統領に用意はあるかが問題。
金正日には驚きを与えることが重要。昨年8月、脳卒中を起こしたのは、2日前に解除されるはずだったテロ支援国指定が解除されず、腹を立てたためだった。金正日の脳に次から次へと衝撃を与えるのがよい。金融制裁は大きな衝撃になる。
バーソロミュー:金正日の死後、何が起きるか。変化や開放があるのかが、われわれの関心だ。
国基研(島田):東ドイツの崩壊では後継者問題は起きなかった。西ドイツに吸収されただけだ。北朝鮮も、韓国に吸収されればよい。
バーソロミュー:経済危機のため、中国に圧力をかけられないのでは、というところから今日の議論は始まった。人権問題をめぐっても、中国の協力を北朝鮮問題で得なければならないので人権問題で圧力をかけられないと言う人がいた。人々は行動しない口実に経済危機を使っている。そういう意見の人ばかりでないことを示すため、発言し続けないといけない。
◎4月17日 ウィリアム・コーエン(クリントン元政権国防長官)
Q:中国の台頭など世界情勢の変化をどう見るか。
コーエン:中国は米国債を大量に保有するなど無視できない関係にある。しかし、それは米国と日本の関係を変えるものではない。日本との安全保障関係はアジア・太平洋地域の頼みの綱だ。日本は強力な同盟国であり、特に防衛政策を引き続き調整する必要がある。中国は力の届く範囲を引き続き拡張するだろう。空母建造も示唆しており、これが世界の安保情勢にどう影響するか注目している。中国とは建設的な関係を持ちたいし、北朝鮮・金融危機・地球温暖化などの問題では中国の参加がないとほとんど何もできない。
Q:中国と協力する際、その国柄や軍事的意図をどの程度考慮に入れるか。
コーエン:国防総省の報告書が指摘するように、中国軍の(近代化)計画は不透明で、軍事費の実態も分からない。中国は情報の一層の開示が必要だ。透明性が向上すれば、中国を国際社会に建設的に統合できるかどうかを判断できる。現時点では、その判断を下せない。
中国の軍事的意図について議論をしても、意図はいつ変わるか分からないので、能力について知ることが重要だ。中国軍が究極的に活動範囲を広げることは、天然資源確保の必要もあり、不可避だろう。われわれは同盟国との関係を強化し、中国が拡大する力を攻撃的に使わないよう期待するというシグナルを送る。
私は日本に対して、より「普通の国」になるよう求めてきた。日本が何をすべきかについて、国内で議論があることは承知している。しかし、(日本は)歴史から逃れることはできないが、歴史の陰に隠れることもできない。日本が地域の安全保障で役割を拡大し、責任を分かち合うべき時はきた。日本は単なる経済大国ではなく、世界の安定に貢献する義務を有する国として、世界での役割を見直さないといけない。
北朝鮮に関しては、米国は日韓と綿密に政策を調整すべきだ。米国は北朝鮮を協議に場に戻すのに熱心すぎて、北朝鮮に有利な条件をのむ傾向があった。国連安保理の北朝鮮制裁決議があっても、実行されないなら、法の支配への侮辱だ。中国とロシアには果たすべきもっと大きな役割がある。
Q:北朝鮮の今回のミサイル発射直後、国基研は緊急提言を発表し、その中で、中国が安保理決議を実行しないなら政府開発援助を停止するよう麻生内閣に求めた。米国には、中国に安保理決議を守らせるため、どんなムチがあるか。
コーエン:米国にとって必要なのは、中国との意思疎通の太いパイプを保つことであり、何かをしなければならないと公然と口に出すのは生産的でないと思う。外交ルートで非公式に率直に話し合うのがよい。
Q:北朝鮮に国際社会の期待に沿う行動をとらせるには、中国と連携することが大切か。
コーエン:中国との連携は重要だが、日米韓が一致した立場をとることがもっと力になる。
Q:中国は安保理決議を実行せず、陰で北朝鮮に援助を与えて、金正日を延命させてきた。われわれが望む行動を中国にとらせるためにはどうしたらよいと思うか。
コーエン:日米韓の団結しかない。中国は北朝鮮の核武装を望んでいない。それは中国の利益に反する。後継体制が不明なまま金正日政権が崩壊することも中国の利益に反する。北朝鮮難民の大量流入も望んでいない。そこで、中国の立場は、北朝鮮に圧力をかけるが、かけすぎない、というものになる。中国は6カ国協議の継続を望んでいるが、この協議はうまくいかないことを認めるべき時だ。われわれの立場を強固にし、中国がどう出るかを見るべきだ。もっと多くのことをする必要があると中国に気付かせるためには、目に見える形ではなく、水面下で強いメッセージを送るべきだ。
Q:脅威の概念は能力と意図に基づくという話だったが、能力はともかく、意図はどのように判断するのか。
コーエン:意図は安全保障の基礎にすべきでない。安全保障の基礎にすべきものは、潜在敵国の能力だ。意図は1日で変わり得る。相手の能力が測定できれば、それに匹敵する能力の保有を主張できる。しかし、どの国も軍事費を潤沢に支出できるわけではない。日本としては、米国、オーストラリア、インドなど民主主義国との関係を強化することで、どの国にも匹敵する能力を単独で持たないで済むのだ。
平成21年5月18日 衆議院第二議員会館にて、「北朝鮮の瀬戸際外交~日本の圧力外交は正しかった~」と題して、 西岡力東京基督教大学教授・島田洋一福井県立大学教授・軍事評論家佐藤守元空将が報告をおこない、司会は理事長櫻井よしこが務めました。
皆様是非ご覧下さい。
平成21年6月5日(金)に発表した
「北朝鮮への新国連制裁決議に関する緊急声明
わが国は新安保理決議に対応した国内法制の整備を急げ」について、
産経新聞(6月6日付)が記事を掲載しました。

産経新聞(6月6日付)
平成21年5月29日(金)に発表した
「全面制裁で北朝鮮の核開発を阻止せよ——いまこそ集団的自衛権と非核三原則の見直しを——」について、産経新聞(5月30日付)・読売新聞(5月30日付朝刊)が記事を掲載しました。

産経新聞(5月30日付)

読売新聞(5月30日付朝刊)
北朝鮮への新国連制裁決議に関する緊急声明
わが国は新安保理決議に対応した国内法制の整備を急げ
平成21年6月5日
5月25日に北朝鮮が強行した核実験に関し、国際連合安全保障理事会で制裁決議の採択が模索されている。現在、日米両国は、貨物検査の義務化と金融制裁を柱とした制裁決議の採択を主張していると報じられている。
当研究所は、国連安保理がこうした新たな制裁決議を採択することを支持する。
しかしながら、こうした決議が採択された場合、以下に述べるとおり、日本は決議の支柱となる貨物検査に関して、実効的な措置を講じることができない。決議を主唱し、採択に努めた旗振り役の日本国が、日本海を含む自国周辺海域などで実施される貨物検査活動に参加せず、活動に伴うリスクを、米国など他の国連加盟国に負担させながら傍観すれば、国際社会から厳しい批判を浴びることは必定である。
以上の理由から、当研究所は、日本国が以下の措置をとることを緊急提言する。
1 貨物検査の実施に必要な国内法を整備すべく、防衛法制の抜本的改正を図る
2 集団的自衛権行使に関する憲法解釈を是正する
3 防衛法制に関する「ポジ・ネガ反転」を図る
1 貨物検査の実施に必要な国内法を整備すべく、防衛法制の抜本的改正を図る
わが国が貨物検査を実施する根拠法としては「周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律」が整備されている。しかし、同法が規定する船舶検査活動は、法律の名称のとおり、「周辺事態に際して実施」されるものである。このため「周辺事態」と認定しないかぎり、同法を根拠とした船舶検査活動を実施できない。
現在、周辺事態以外でも船舶検査活動を可能とすべく、与野党間で同法の修正が模索されているが、かかる一部修正では、実効的な措置を講じることは不可能である。
なぜなら、同法が定める「船舶検査活動の実施の態様」(第5条)とは「船舶の航行状況を監視すること」に始まり、「必要な限度において、当該船舶に対し、接近、追尾、伴走及び進路前方における待機を行うこと」に留まっている。活動の中核たる「乗船しての検査、確認」については、「船舶(軍艦等を除く。以下同じ。)の船長又は船長に代わって船舶を指揮する者(以下「船長等」という。)に対し当該船舶の停止を求め、船長等の承諾を得て、停止した当該船舶に乗船して書類及び積荷を検査し、確認すること」(括弧内も条文ママ)と定めている。
つまり、対象船舶の「船長等の承諾を得て、停止した」船舶しか検査できない。ならば、「求めに応じない船舶」に対し、何が許されているか。同法は「これに応じるよう説得を行うこと」を定めるに過ぎない。要するに「説得」しかできない(別表参照)。
しかも、同法で可能な武器使用は「自己又は自己と共に当該職務に従事する者の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合」に限定されている。加えて、刑法の正当防衛または緊急避難に該当する場合のほか、「人に危害を与えてはならない」と規定する。
これでは、対象船舶に停船を命じることもできなければ、そのために威嚇射撃を実施することもできない。およそ実効的な措置をとることは不可能である。
貨物検査活動に対応する国際社会の取り組みとして、PSI(大量破壊兵器拡散防止構想)が存在する。現在80カ国以上が、PSIの活動の基本原則や目的に対する支持を表明し、実質的に参加・協力している。日本政府も、日本国としてPSI阻止訓練を主催するなど「PSIの活動に積極的に参加してきている」と主張する。
だが、その内実は「積極的」とはほど遠い。なぜなら、他国主催の阻止訓練では、その多くが「机上・指揮所訓練への参加」であり、実動訓練ではない。過去、実動訓練に参加したのは、海上保安庁の巡視船や、警察庁・警視庁及び税関職員特別チームである。肝心の防衛省・自衛隊は「各種会合に自衛官を含む防衛省職員を派遣するとともに、海外で行われるPSI阻止訓練にオブザーバーを派遣し、関連する情報の収集などを行ってきた」(「防衛白書」平成20年版)に過ぎない。その他、防衛白書が記録した参加活動は「展示訓練」と称するパネル展示に留まる。これで「主体的かつ積極的な役割を果たしてきている」(防衛白書)と言えるだろうか。
防衛白書は「たとえばPSI海上阻止活動の際に、海自艦艇や海自・空自航空機による警戒監視などの情報収集活動によって得た関連情報を関係機関や関係国へ提供し、さらに、海上警備行動が発令された場合には、海上保安庁と連携の上、海自が容疑船に対して実効的に乗船・立入検査を行いうると考えている」とも述べている。
逆に言えば、自衛隊が取り得る措置は「関連情報を関係機関や関係国へ提供」することだけであり、「海上警備行動が発令」されない限り、「容疑船に対して実効的に乗船・立入検査」を実施することができない。
海賊対処のため、すでに発令されている海上警備行動を法的根拠として「容疑船に対して実効的に乗船・立入検査」する方法も考えられるが、海上警備行動では、外国船舶を防護するための武器使用ができないと有権解釈されているなどの制約があり、実効的な措置をとることは困難である。
これらの問題点を解消すべく、以下の抜本的な防衛法制の改正を図るべきである。
2 集団的自衛権行使に関する憲法解釈を是正する
上記で指摘した問題が生じるのは、日本国憲法第9条の解釈として、集団的自衛権行使が許されないとの制約があるからである。船舶検査活動に際して、停船命令や威嚇射撃などの措置を取り得ないのも、それらが集団的自衛権行使につながるおそれがあるからに他ならない。PSIで情報提供や展示訓練しかできないのも、以上の制約による。
米国その他の関係国は、PSIに関し、その訓練を含め、軍事活動と捉えている。このため、上記憲法解釈を是正しないかぎり、海上自衛隊は実効的な参加ができない。海上保安庁の巡視船等を活用した共同行動を模索する動きもあるが、ともに実効的な参加はできない。ちなみに、海上保安庁法は「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」(第25条)と明記しており、海自同様、海保も軍事行動はおろか、軍事訓練に参加することも許されていない。
3 防衛法制に関する「ポジ・ネガ反転」を図る
国際慣習法上、「軍艦」には「臨検の権利」が与えられている。条約上も、古くから「公海に関する条約」第22条が、また、「海洋法に関する国際連合条約」第110条が、それぞれ「臨検の権利」を規定する。ところが、わが国は、国際法上の義務と権利を遂行すべき国内法を整備してこなかった。海賊対処に関して、海上警備行動を発令せざるを得なかったのも、このためである。
諸外国では、これら国際法を直接の根拠として軍隊が活動できる法制度になっている。いわゆるネガティブ・リストで軍隊の行動を規律する。つまり、国際人道法条約などで禁止された事項以外は、原則自由である。もちろん当該国政府の命令や規則には縛られるが、たとえ明示的に規定した国内法がなくとも、必要な活動が可能である。軍隊の活動領域が、当該国の施政下以外の敵国領地に及ぶこと、あるいは敵の侵攻などにより、たとえ自国内でも行政機能が麻痺している可能性が高いことなどが、その制度趣旨である。
他方、わが国では、自衛隊が警察予備隊として発足した経緯もあり、国際法上は軍隊として位置づけられるべき自衛隊を縛る法制が、警察法の延長線上で規定されている。このため、ポジティブ・リスト(根拠法令)を整備しなければ活動ができない。仮に、武力行使や武器使用を伴わない活動であれば、「教育訓練」や、防衛省の「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」(防衛省設置法第4条)と称して強行することも不可能ではない。だが、武器使用を含めた実効的な措置は取れない。このような法的制約を課す国は日本以外にはない。
近年、インド洋上での給油活動やイラク派遣に際して、いわゆる特措法を制定せざるを得なかったのも、以上の理由による。新たに特措法を制定するか、現行法制を一部修正するなどして法的根拠を整備しないかぎり、自衛隊は必要な活動に従事できない。このため、新たな事態が生起するたびに、法整備に要する期間が失われ、日本国としての迅速かつ実効的な貢献を阻むことになる。
日本国は今まさに、その問題に直面している。なお弥縫策を重ねることは国益を損なう。
今回の事態を奇貨として、わが国は防衛法制のいわゆる「ポジ・ネガ反転」を図り、現状のポジティブ・リストからネガティブ・リストへと抜本改正すべきである。
国家基本問題研究所
櫻井よしこ
田久保忠衛
潮匡人
遠藤浩一
大岩雄次郎
島田洋一
高池勝彦
冨山泰
西岡力
