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2010.10.27 (水) 印刷する

【詳報】 月例研究会 「避けられない北朝鮮有事―日米韓はどう対処すべきか」

国家基本問題研究所は平成22年9月17日、東京・永田町の全国町村会館で月例研究会「避けられない北朝鮮有事―日米韓はどう対処すべきか」を開催しました。研究会では、櫻井よしこ理事長の問題提起を受けて、韓国の代表的な保守派ジャーナリスト趙甲済(チョ・カプチェ)氏が基調講演をし、西岡力企画委員と洪熒(ホン・ヒョン)元韓国駐日公使(国基研客員研究員)がパネリストを務めました。会員218人、一般38人、国会議員1人(長尾敬民主党衆院議員)、議員秘書1人、役員7人が参加しました。詳細は以下の通りです。


左から、櫻井理事長、西岡企画委員、趙甲済氏、洪熒客員研究員

櫻井 北朝鮮情勢が急変した時に、韓国はいかにして自由統一をし、日本や米国はどのような援助の手を差し伸べることができるのかを考えてみたいと思います。

 韓半島(朝鮮半島)情勢は非常に流動化しています。現状維持から現状打破に行くしかない、いろいろな要因が蓄積されています。この情勢はいま急にできたのではなく、遠くアヘン戦争以来で、東アジアは大激動期を迎えています。西洋の帝国主義勢力の進出後、これに対抗する過程で日本が明治維新で最初に自らの意志で近代化し、東アジアの主導権を握りました。東アジアでは何度も戦争が起きましたが、そうした戦争の一因は韓半島に強力な統一国家が存在しなかったことでした。太平洋戦争が終わってから東アジアに新しい歴史が始まりました。韓半島の軍事境界線だった38度線は理念の境界線に変わりました。65年前の起きた韓国戦争(朝鮮戦争)は休戦状態でなお続いています。

1945年から韓半島の南と北は正反対の方向に歩み始めました。北はスターリン、毛沢東と組んで社会主義独裁の道を65年間歩みました。南は米国と同盟関係を結び、日本と友好関係を維持しながら、海洋勢力、自由民主主義国家と友達になりました。外交というのが友達を作ることだとすれば、北朝鮮は世界で一番質の悪い友達と付き合うようになり、韓国は一番質の良い友達と付き合うようになりました。65年間南北が正反対の方向へ進んだ結果が、今日の南北の差なのです。北朝鮮は1945年から65年間、昔へ逆戻りし、韓国は65年間前進したので、南北に130年の差ができました。いま北の生活レベルは、学者たちの調査によれば、130年前の1880年代よりも悪くなったという統計があります。

1人当たりの国民所得は韓国が2万ドル超で、北は推定300ドルです。寿命は韓国が平均80歳で、北は公式発表では65歳です。同一民族が休戦ラインを挟んで平均寿命に15歳の差がついたのは世界の歴史上初めてでしょう。金日成と金正日は社会主義独裁を通じて北の住民一人当たり15年の命を奪ったのです。私は1945年生まれなので、もし北で生まれたら今年で人生を終えねばなりません。身長でも、韓国の男の平均は174センチで、アジアでトルコを除けば一番長身です。北は推定160センチです。1945年の平均は166センチでしたから、韓国は8センチ伸び、北は6センチ低くなりました。南北の間に130年の差がついたというのは決して言葉の遊びでありません。

こういう極端な格差が65年間も続いたこと自体が奇跡であり歴史の例外です。しかし、この例外は永遠には続きません。例外を作ったのは金日成、金正日の強力な支配体制であり、独裁の強さはヒトラーのナチス独裁、スターリンのソ連以上です。1980年代にソ連に脱出した脱北者たちがソ連は天国のようだと言いました。

この歴史の例外をつくった金正日政権が今、崩れかかっています。アヘン政争以来の東アジアの大激変の中で、最後まで変わらなかった北が変わろうとしています。金正日の健康は2008年の夏以降、急激に悪化し、1週間のうち正常な仕事ができるのは2~3日といわれています。そもそも、北では非常に些細な問題でも全て金正日の許可がいるので、1人支配体制の下で金正日は毎日徹夜して仕事をしなければ追いつきません。その金正日の健康が悪化したのは、北の政権の心臓部に大きな病気が生じたことになります。

過去2年間、北の政権では異常なことが連続しました。これこそ金正日の状態が正常ではないことを反映しています。例えば、9月上旬に開催されると発表された労働党代表者会が(月末まで)延期されました。

金正日は過去30年間以上、個人独裁を行ってきました。その結果、党の指導体制は麻痺し、政治局常務委員で残ったのは金正日1人でした。1人支配体制では、政策が失敗すれば、その批判は独裁者が1人で背負わないといけません。金日成が死んで16年経ったが、金正日の政策は、経済も外交もすべて失敗しました。その結果、金正日への尊敬心と恐怖感が弱まりました。

1990年代後半の大飢餓で、100万~300万人程が餓死しました。配給が止まったので、生き残るための手段として人々が開拓したのが市場です。人口2300万人のうち、配給で生きているのは400万人で、残りは市場で生きています。人口の70~80%を占める市場勢力ができたのです。市場の出現は数百万の餓死・犠牲によるものです。北では韓国戦争のような戦争がもう一度起きたわけです。

人間が生き残るための執念と努力で生まれた市場は、金正日勢力がいくら抹殺しようとしても、成長を続けました。昨年、金正日は市場勢力を抹殺するため貨幣改革を行いました。貨幣改革で物価が上がり、市場を通じて部品を調達していた国営企業も麻痺しました。金正日は貨幣改革を事実上後退させて市場を再開し、貨幣改革の責任者を銃殺したそうです。韓半島で変化をもたらす最も重要なことは、北で市場勢力が大きくなり、それにより金正日の権力が弱化しつつあるということです。

市場は人々を鍛え、教育し、覚醒させる機能を果たします。市場を通じて賢くなった人々は、ある段階まで進むと自由を求めるようになります。韓国でも、経済発展でできた中産層がある段階で民主化を要求しました。

こういう変化に対応するために金正日が開催を発表した党代表者会が(本日の段階で)まだ開かれていないのは非常に複雑な状況が起きたためだと思います。大半のメディアは今回の代表者会で3代目の後継者が公式に発表されると予測しましたが、代表者会の目的は、党の機能の回復、政治局のメンバーの選出だと考えます。

金正日の死後は今回再建された政治局が権力をいったん引き継ぎますが、政治局の中で権力闘争が起き、遠からずその中の一人が第一人者として現れると思います。ソ連でスターリンの死後にフルシチが権力を握ったように、金正日の妹の夫である張成沢が次の権力者の最有力候補だと思います。

金正日の死は、金日成の死よりはるかに大きな衝撃を北の住民に与えると思います。恐ろしい指導者に支配されてきた住民の恐怖感は大いに緩和され、党上層部では路線闘争、権力闘争が起き、人民もより良い暮らしとより自由な経済活動を要求するようになると思います。北の社会の上と下で変化の要求が結合すれば、急変事態が起こると思います。北の変化に決定的な影響力を及ぼせる国は韓国と中国です。

中国は朝鮮半島に領土的野心はないと思います。しかし、北が急激に崩壊して、韓国の影響力が中朝国境を越えたり、米軍が国境まで迫ったりする事態は防ごうとすると思います。

一方、韓国内の政治状況は分裂しています。世論調査によると、統一のチャンスがあれば、それを利用して統一すべきだと考える勢力は30%、北に同情的な勢力は30%、残り40%はどっちつかずです。これは、金大中、盧武鉉両政権の10年間に親北左翼勢力が強くなった結果です。

金正日の死後、北は開放に向かうと予測できます。韓国を侵略して共産化することに全力を尽くしてきたこれまでの政権と違って、次の政権は住民の暮らしの改善を最優先課題にすると思います。体制の開放が進むと、人とモノの往来が増え、韓国の圧倒的な影響力が市場勢力に及ぶようになり、北の変化を促進する可能性が出てきます。

問題は韓国の政治的リーダーシップです。韓国が自由統一を通じて奴隷状態の北の住民を解放し、統一国家をつくって先進国に進むという確固たるビジョンと目標を持った政党や指導者はそう多くありません。こういう状況で国基研が昨年9月、日本は韓国による「自由統一」を支持すべきだという提言を出したことは、韓国に大きな刺激を与えました。

金正日の健康が悪化した過去2年間、自由統一という言葉は実感を持つようになりました。勇気と犠牲精神さえあれば、韓国は自由統一を成し遂げられるという自信感が増しています。過去百数十年間の東アジア史の大きな流れは、近代化であり民主化でした。北もこの流れに抵抗できません。

多くの韓国人は、南北分断は日本の植民地統治に責任があると考えています。従って、南北分断を解決することは、日韓関係の最大の宿題を解決することになり、日本の国益にとってもよいことです。

韓国保守派の願いは、統一され強力で自由で繁栄した国をつくることです。そのためには韓米同盟と韓日友好が必要です。統一韓国は韓米同盟にとどまるべきです。強力で自由で繁栄した統一韓国は、日本ともっと親しくなり、中国の自由化にも役立ち、北東アジアと世界の平和と安定に大きく寄与すると思います。そのために今足りないのは経済力でなく韓日の政治家たちの勇気と犠牲精神、ビジョンです。

櫻井 韓国の人々が朝鮮半島の分断は日本の植民地支配のせいだと言っているのは知っています。しかし、これは、日本が戦後65年も過ぎて、われわれがいま駄目なのは米国に占領され、憲法を変えられ、教育を変えられたからだと言うのに等しい。いまだに占領のせいにするのは、日本人が意気地なしの証拠です。韓国の人々にも、趙甲済さんは勇気ある発言をしていただきたいと思います。

西岡 国基研は昨年9月11日に民主党新政権に対して「新政権は北朝鮮急変事態に備えよ――韓国による自由統一推進を戦略目標とし中国の半島支配を防げ」という提言を出しました。この提言は、韓国の特に保守派の言論界で注目されました。その提言を携えてわれわれは昨年12月に訪韓し、政府・軍・情報機関、言論人、運動家、脱北者たちと議論を交わしました。その結果、朝鮮半島は現状維持ではなく変化の時代を迎えており、その最大の理由は金正日政権の弱体化にある、という認識で一致しました。

弱体化の原因として趙さんは金正日の健康悪化を挙げましたが、もう一つ、金正日の個人資金の問題もあります。北の幹部を支えているのは金正日の個人資金で、海外の口座に約40億ドルあるといわれますが、その財源の一つだった日本の朝鮮総連からの送金は安倍元政権以来止まっています。韓国からの送金も李明博政権になってかなり止まりました。決定的なのは、米国が金正日の個人資金を扱っている朝鮮労働党の39号室を標的に、金融制裁に踏み切ったことです。側近たちや政治警察、軍幹部らへの配給ができなくなる事態に、金正日は頭を悩ませています。

問題は、北朝鮮の変化がどこまで行くのか、ということです。日本の一部には、朝鮮半島は分断されたままがいいという意見もありますが、現状維持(分断の固定化)はあり得ません。中国共産党の影響を受けた北朝鮮が生まれ、韓国が韓米同盟から抜けて、半島全体が中国の属国になるという最悪のシナリオか、韓国による自由統一しかないのです。金正日政権が弱体化しつつあることは、われわれにとりチャンスでもあるがピンチでもあります。韓国が韓米同盟を維持し、日韓基本条約を維持し、核拡散防止条約を維持するなら、韓国による統一は日本の国益に一番かなうのです。逆に、金正日の死後、米国が日韓両同盟国を頼りにできず中国共産党との話し合いで東アジアの秩序を維持する状況になれば、日本がフィンランド化(中国の属国化)する可能性さえあります。

 まず、韓国は保守派も反日か、と日本の皆さんによく聞かれます。韓国人は皆反日感情を持っていると信じ込んでいる日本人が多いのに驚きます。実は、韓国人の「反日」は単なる感情ではなく、(主に共産主義のプロパガンダによってつくられた)イデオロギーの作用なのです。言葉は人間の思考や行動を支配するので、用語は非常に重要です。(共産主義勢力が日・韓を離間させるための)イデオロギーの作用を感情という用語で表現するのは正確な捉え方ではありません。現に南北に130年の差がついたのは、イデオロギーや価値観が原因です。今目撃しているそのイデオロギーや価値観の力を否定する人があまりにも多い。

ヨーロッパでの東西冷戦が終ったのに、アジアの冷戦はもっと複雑に続いていますが、これ以上韓半島の現状維持はできません。中国は自分たちの思いのままに現状を変えようとします、黙っていれば中国の狙い通りになってしまう。われわれがこの状況を良い方向へ持って行くためには、日本と韓国が何をビジョンとして共有でき、その過程で何をエネルギーとして利用できるのかです。

自由統一は韓国だけの問題でなく、韓国の力だけではできません。米国や日本と一緒にやりたい。そういう気持ちが韓国の保守派には強いのです。


満員の会場

櫻井 韓国の李明博現政権は北朝鮮有事にどのような備えをしているのでしょうか。米国と何を相談し、自力でどこまでやろうとしているのでしょうか。

 李政権の支持率は50%前後で、民間人出身の大統領の任期半ばにおける平均支持率の約2倍です。高い支持率の理由は、経済危機を乗り越え、韓米・韓日関係を比較的うまく管理し、金正日にだまされていないためです。対北政策は積極的というより消極的ですが、これまでの政権のように北に一方的に利用されることはありません。

問題は、急変事態に備える対北政策は積極的な統一政策が求められるという点です。韓国政府にこれまで、対北政策はあったが統一政策はありませんでした。北からの侵略阻止を目標にしたため、守りの政策でした。守りの姿勢は国民にも影響し、それが、自由統一支持勢力が30%にとどまっている原因です。大統領の任期は1期5年のみなので、長期的な政策を大統領が打ち出すことは難しく、与党がそれを管理しないといけないのに、今の与党ハンナラ党は李大統領よりも消極的です。

にもかかわらず、金正日の死後、北に大きな変化が起きた時、韓国人の積極的なDNAが目覚め、韓国人が自由統一を目指す可能性は高いと思います。7世紀末に新羅が韓半島を統一した後、1300年間に韓半島が分断された期間は全部合わせても100年足らずであり、分断は歴史的にみて非常に不自然です。韓国人の民族主義、人道主義、正義感を引き起こす政治家が登場すれば自由統一へ走るでしょう。

自由統一は経済的にも韓半島はもちろん日本にも利益になることです。統一は南北7000万人の大きな市場が登場することを意味します。鉱物資源の豊富な北と優秀な2300万人を得ることになります。北の工場、港湾、住宅など施設を全部新しくすれば、今の韓国よりもっとよくなります。統一は無から有を創造するもので、北東アジアの新しいフロンティアです。

櫻井 中国は、北朝鮮に自分の影響力を残した政権を作っておきたいという意向を明らかに持っています。北朝鮮有事の際に中国の力をどのようにストップできるのか、そして、韓国を中心に米国と日本がどのように自由統一を支えられるのか、という点を論じてほしいと思います。

西岡 自由統一のカギは、人口の80%を占める市場勢力を自由民主主義の側につけることです。そして、20%の労働党や軍の幹部を孤立させ、心理戦を仕掛けて弱体化させるのです。逆に中国は、金正日が排除された後、赤化統一路線でない労働党の独裁を維持しながら影響力を高めようとして、20%を取ろうとする。そして80%を取り込もうとするでしょう。

いま一番しなければならないのは心理戦だと思います。北朝鮮の国民や幹部に働き掛けることです。自由がどういうものであるかを教え、真実を伝えるため、韓国では風船にビラを付けて北朝鮮に大量にまく国民運動が今春から始まりました。今後は、真実を伝えることを越えて、北朝鮮が中国側に行かないようにどう心理戦を展開するかの検討が必要だと思っています。

 北朝鮮問題は中国共産党問題です。北は自力で生き残ることはもはや不可能で、野蛮な体制を生かしているのは中国です。歴史上最も失敗した金正日体制を利用する中国とどう闘うか、ということです。中国と敵対するより、中国の考えを変えるべきです。アジアで続く冷戦に、われわれは血を流さずに勝てると思います。朴正煕元大統領は「韓国は反共の防波堤ではなく、大陸への自由の波だ」と言いました。これこそ、われわれが取るべき戦略だと思います。中国人を自由にすることで、中国の東進は止められると思います。

 自由統一を単なるスローガンにせず、この言葉で国や人を動かすべきです。北の体制がいつ崩れ、いつ統一されるかではなく、北の体制をいつ倒し、いつ統一を完成するか、でなければなりません。自由民主主義国の資金や情報、メディアを動員しさえすれば、北を解体し統一することは容易です。北に風船ビラを飛ばす活動をしているのはわずか5人ほどですが、北が南北軍事会談でこの問題を議題にするよう提案してくるほど、大きな効果を上げています。北は嘘で固めた偽りの共和国ですから、真実の力で打つと、深刻な打撃になります。

北に対する中国の影響力を防ぐのは、真実に目覚めた北の住民がすべきことです。北の住民は投票を通じて、中国側に立つか、韓国と統一するかを選択することになります。自由の側に立った北の住民が中国の干渉を排除します。

櫻井 米韓対中朝という構図ができつつある中で、日本は韓国と一緒に政府レベルで何ができるかということについて話をしてほしい。

西岡 北朝鮮有事の際、周辺事態法が定める後方支援の枠組みの中では、自衛隊は実質的に何もできないというのが、専門家の見立てです。しかし、自衛隊には能力がある。特に潜水艦を見つける能力は世界一といわれます。日本は韓米軍をどうサポートできるのかを政府レベルで話し合わなければなりません。

それをすると、日韓の左翼は日本の再侵略と批判するでしょうが、日本政府は歴史認識の一致を求めないよう韓国側に言うべきです。そして、自衛隊による韓米軍支援を積極的に議論しながら、拉致被害者の安全確保を自衛隊が行うことについて了解をお願いしたい。

 民主主義国ですから、各人が歴史認識を表明することは自由ですが、それを他人に強いることは不可能です。話は自由にしながらも(自分と異なる)歴史認識に過敏に反応せず、過去は過去の問題として議論するにとどめ、未来に関する議論を量的に増やすことで、日韓関係を未来志向にすることが望ましいと思います。

中国については、韓国には中国を敵に回すと困る事情があります。韓中貿易の額は日韓、韓米貿易の合計額を上回ります。中国は漢族の政権の時に韓半島を侵略したことがありません(毛沢東が「義勇軍」を送った韓国戦争だけが例外)。韓国は中国のよい文化的影響をありがたく感じています。

しかし、中国の支配下で生きることを受け入れる人は、金正日を含め、韓半島に1人もいないと思います。韓国の反日感情は誇張されています。韓国人の中国への反感も強く、中国からの独自路線を確立する意志の強いことを申し上げたい。

従って、統一後、あるいは統一過程での韓国外交は、韓米同盟と韓日友好を基本に、中国とは歴史的な親善関係を回復することになると思います。歴史的な親善関係の回復とは、北に対する中国の領土的、政治的、軍事的野心を克服することを意味します。

中国も変わりつつあります。1人当たり所得が1万ドルに達すれば、中国社会自身が民主主義体制を拒否できなくなると思います。そうなれば、日中、韓中関係は今よりよくなります。過去150年間、民主主義国家同士の戦争はありませんでした。日韓が協力して韓半島の自由統一を目指すことは、中国の民主化を助け、刺激する意味と目標を意味します。

櫻井 歴史的にみて、中国の北朝鮮に対する野心は並々ならぬものがあると思わざるを得ません。北朝鮮は鉱物資源の宝庫でもあります。中国は、かつて朝鮮半島北部にあった高句麗王朝は中国の地方政権だった、つまり中国の一部だったと主張していますが、ほかの国々に対する侵略をみると、皆そこから始まっています。その意味で、中国には最大限の備えをしておいた方がよいと思います。しかし、あくまでも韓国を中心にし、韓国を支援するということを改めて肝に銘じたいと思います。

質問 日韓併合100周年の菅直人首相談話についてどう思いますか。また、拉致問題の解決策はありますか。

 日朝対話で拉致問題を解決できる時期は過ぎました。北の新しい状況をつくる過程で解決の機会をつかめると思います。韓国の一般国民は菅談話に好意的で、一部に不十分という不満はあったものの、大きな批判や反発はありませんでした。個人的には、併合は過去の問題であり、両国間の話題を未来に向けるべきだと思います。

 菅談話については残念に思います。せっかく100年の話をするなら、100年も植民地支配下にある北の解放について話をすればよかったと思います。拉致問題の解決には創造的なアイディアが必要です。われわれは北を変えられる多くの手段を持っています。その手段を有効に使えば、解決できると思います。韓国の保守派は韓国人が拉致されたのと同じように日本人拉致を解決します。国籍によって差をつけることはあり得ません。(了)

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