国家基本問題研究所は平成23年11月25日、東京・永田町の全国町村会館で月例研究会「原発抜きで日本は生き残れるかPartⅡ」を開きました。9月12日の研究会の続編で、北海道大学大学院工学研究科の奈良林直(ただし)教授が基調報告を行いました。パネリストは他に、原発・エネルギー問題に詳しい自民党の甘利明衆院議員と民主党の石井登志郎衆院議員で、国基研の櫻井よしこ理事長が司会役を務めました。参加者は272人(会員215人、一般25人、国会議員・議員秘書・前議員秘書各1人、報道関係者10人、役員8人、招待者1人、スタッフ10人)でした。
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奈良林 「福島第一原発の事故の教訓と世界最高水準の安全性確保への道」ということでお話しします。この世界最高水準というのは、野田佳彦首相が掲げている目標でもあり、これをいかに達成するかをお話ししたい。
まず福島原発事故から引き出せる教訓をまとめてみました。第一は、津波の侵入を防いで、重要な機器、非常用電源、電源盤、バッテリーを海水から守ること、つまり、海水が侵入しないようにすることです。二番目は、幾つもの手段で事故の収束に必要な電源を確保することです。今回はこれができませんでした。三番目は、原子炉を空焚きにしないこと。空焚きにすると水素が発生して、これが水素爆発に結びつきました。多様な冷却源を確保して、原子炉を冷却することが非常に重要です。
四番目は、万一事故が起きても放射能を漉(こ)し取って周辺に放射能を飛散させない「フィルター付きベント」を設置することです。実は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で欧州にたくさんの放射性物質がまかれましたが、欧州の原子力発電所の運転再開に当たって、スペインを除く全ての国がフィルター付きベントを付けています。これが福島に付いていれば、周辺の放射能被害はほとんどなかったと思います。五番目は、制御室での事故の事態を把握して、外部との通信・データ送信を常に確保すること。今回、携帯電話が全く使えなくなり、電源も喪失して通信設備が使えなくなって、原子力発電所の中央操作室と本部との連絡すら取れなくなってしまいました。
六番目は、立ち遅れた原子力規制の抜本的改革と、自衛隊を含めた国の原子力防災体制の強化が必要です。最近、欧州を視察して、真剣に安全確保に取り組んでいる姿を目の当たりにしたので、私自身の反省も含めて、原子力規制の抜本的改革という言葉を使わせてもらいます。七番目は、原子力教育とエネルギー安全保障の対策が必要です。私は大学にいるので、新潟県知事から「原子力分野に優秀な人材が入らなくなると、原子力発電所を持っている地元としては困る」と言われ、原子力教育を依頼されました。
福島の事故では、まず1号機と3号機で水素爆発、2号機で格納容器の破損が起きました。4号機は3号機からの貰い水素で爆発しました。1号機から6号機まで、電源がどうやって失われたかですが、非常用のディーゼル発電機は6号機以外、全滅しました。高圧の電源盤も、6号機以外は全部濡れてしまい、電気を供給できなくなりました。パワーセンターといって、いろいろな機器に電気を供給する設備(一般家庭のブレーカーに相当)は、かなりのものが津波の被害を受けています。直流電源バッテリーは1号機、2号機、4号機でひどい状態になり、これが失われたために、制御盤の機能が失われています。緊急の炉心冷却装置もいろいろな問題が起きました。
大震災直後の3月28日に、私は原子力学会のチームFで、循環注水システムというのが大事だと提案しました。その後、ようやく6月に政府と東京電力はその採用を決めました。結果的にこれが冷温停止の切り札になりました。水をリサイクルして再び冷却に使う。
水を垂れ流しでどんどん流すから、みんな海に流れてしまうのです。それを防ぐには、東北地方にたくさんあるゼオライトという物質を使って水をきれいにして、また冷却をするということで、年末に冷温停止が達成できるというところまで来ています。
次に抜本的改善策の一番目ですが、それはフィルター付きベントです。フランス、ドイツ、スイス、フィンランド、ノルウェーなど多くの国の原発に付いています。放射能をフィルターで漉し取り、ヨウ素やセシウムを100分の1から1000分の1に落とす能力があります。
具体的に言うと、津波翌日の3月12日に1号機でベントをしています。これはスクラビングベントといって、圧力抑制室の水に潜らした後のベントで、放射能も少しだけ出ています。ところが2号機で格納容器が破損してから大気中に出てしまった放射性物質は何十倍ものひどい量になりました。つまり、フィルターや水で漉していない物質が大気に出てしまったことによって、3月15日に放射能が大量に出てしまった。風向きがこの時に飯舘村を向いていたのです。フィルター無しで格納容器が破損してしまったことが、これだけの災害を生んだのです。
欧州を調査して分かったのですが、フィルター付きベントは、放射性物質を漉し取って飛散を防止するほか、格納容器が過圧力になって破損するのを防ぐ役割があります。1号機、2号機、3号機はベント操作が非常に遅れたために、格納容器の圧力が上がってしまいました。1号機は1日後、3号機は3日後に水素爆発を起こし、2号機では格納容器の破損が起きました。2号機が水素爆発しなかったのは、1号機が爆発した時に、2号機の天井に石が飛んできて穴を開けているのです。それからフロアードパネルという窓が衝撃で開いてしまって、2号機はそこから水素が出るような構造になりました。
スイスやフランスでは、フィルター付きベントのシステムは周到な準備がされていて、例えば電気がなくてベントができない場合に、離れた所でハンドルを回して安全に手動でもベントできるようになっています。ベントの手順書もしっかりできています。
それから、ヒートシンク(冷却源)といって格納容器や炉心の熱を除去するための工夫では、スイスの場合、地下水を汲み上げて、炉心や格納容器の冷却に使う設備ができていました。
実は福島原発の1号機にもアイソレーション・コンデンサーという冷却系が付いていて、これをちゃんと使えば事故収束ができたのです。しかし、バッテリー切れで制御盤の機能が喪失して、冷却機能が失われてしまいました。2号機、3号機も、バッテリー切れでRCIC(Reactor Core Isolation Cooling system)という隔離冷却系が使えなくなって、これが事故の本質的な原因となっています。アイソレーション・コンデンサーが福島で動いていれば、事故はもうこの段階で止まっていました。1号機が事故を起こさなければ、放射能を持った瓦礫が2号機、3号機に飛びませんでしたから、消化ホースもすぐ繋げて、2号機、3号機の事故もすぐに収束できたはずです。これが福島の悲劇です。
今、ウェスティングハウス社が中国の上海から車で5時間ぐらいの所に建設しているAP1000 と呼ばれる次世代の軽水炉があります。これは格納容器の外側を二重構造にして、間に空気が流れるようにして、何もしなくても核燃料が冷却されるようになっています。それと上にプールが用意してあり、消防車が来なくてもバルブが開くだけで格納容器を外から冷やすようになっています。
ところで、今どうなっているかというと、電源の津波対策については、日本の各電力会社は巨大なガスタービン電源車を配備し、開閉所を高台に設置して、事故の時に電気を送る仕組みをちゃんと作っています。北海道電力の場合、開閉所を津波が絶対に来ない標高85mの所に設置し、雪で架線が切れないように野ざらしにせず、鉄筋の建物の中に入れています。中部電力は、菅直人前首相に浜岡原発の停止を命じられて大変悔しい思いをして、今、徹底的に安全性を高めるために、ガスタービン発電機や電源盤を高台に置く取り組みをしています。
次世代の機能を現在の原子炉に付けるには、例えば圧力抑制プールを冷やせばいいのですが、冷却塔を付けるように各部門に働きかけています。中部電力は重要な機能の冷却に空冷を採用しています。それから、ヒートシンクに関しては、中部電力が浜岡原発で、原子炉建屋のそばまで海水の取水槽を伸ばし、ここから速やかに冷却水を確保できるような取り組みをしています。浜岡原発を止められた意地で、必死になってしっかりしたヒートシンクを用意しているのです。
米国では「運転中保全」と言って、原子炉が動いている時に点検をします。運転中に機器の保全をやって、しっかりした点検をする。日本は2カ月ぐらい運転を止めて、分解点検をして、また組み立てる。それを真面目にやって、4階建てのビルぐらいの高さ10メートルの書類を作らせる。書類を作る方も、検査する方も大変です。
米国の原発では「TARGET ZERO ACCIDENTS」(安全第一)という標語を掲げて、一生懸命働いた人をワインパーティーで褒め、広報誌に掲載するということをしています。その昔、日本には、良くやった人を表彰して、皆の前で拍手してやるという文化があった。米国から調査団が来て、日本のよいところを取って、ちゃんと働いている人が元気になる仕組みを取り入れたのです。それを今、日本は失ってしまった。
フィンランドでも、原発の運転中に保全をします。タービン、モーター、メイントランスなど大きなものは全部予備品があって、定期検査はわずか1週間でやってしまいます。動いている間にメンテナンスをして、状態監視保全といって安全上重要な機器を重点的に、プライオリティーを決めて検査をするというのが欧州です。
それから米国の原子力規制委員会(NRC)には駐在検査官がいて、いつでも発電所の立ち入り検査ができるようになっています。究極の安全目標を、電力会社と国民と政府が共有するのです。国民の安全を守って、しかも原子力発電所の信頼性を高めて運転するのは共通の目標なのです。ですから電力会社はNRCの検査官が来るのを拒まない。検査する方は、コンピューターのLANのケーブルを繋いで、電子データを全部閲覧できるようになっています。それから点検が行われているということをミーティングで知れば、たちどころにその立ち会いもできる。緊張感を持った合理的な検査が実際にできている。
最近視察したフランスでは、深層防護という考え方で原子力発電所が設計されています。これは原子炉の安全を守る根本的な思想で、軍と同じように、攻められて一つやられても、またその外側にセーフラインを持つという考え方です。フランスはこういう仕組みを持って、テロや地震や津波や洪水に対する防護をいかにしっかりやっているかという説明を聞いてきました。
また、事故が起きた時に、政府、電力会社、それから軍、これが一体となって事故を収束する態勢がしっかりできています。いつ事故が起きても、大統領の下に全ての情報が集まり、的確な指示を出して事故を収める。3月 11 日にこれが日本でできていれば、福島の事故は1日で終わっていました。
スイスも同じです。軍が機材を空輸する態勢が既にできています。日本はまだできていません。スイス軍の基地には、電源車、ポンプ、モーター、電源盤などが備蓄されていて、万一発電所がやられても、軍が運んできます。
私が本日提案させていただきたいのは、自衛隊が大きな災害救助船を持つことです。自衛隊は今、事故の時に小さな船で大変な支援をしていますが、国民にほとんど知られていません。空母とは言いません。本当は原子力空母が電気を供給するのが一番いいのですが。あれ外部のエネルギー源が要りませんから。ただ今の日本からすると難しいと思います。そこで、まず災害優先。電源、バッテリー、モーター、ポンプを持ち、ガスタービン電源を搭載したヘリを迅速に発電所に送れる仕組みにする。それから医療、病院、除染、水、食糧、宿泊・会議・通信機能を備えた災害救助船を用意しておく。この平時の備えがいざという時に役に立つと思うのです。
国際原子力機関(IAEA)の調査団には、日本は特別な訓練をしていたが、儀式的で真剣さが足りなかったのではないかと指摘されています。また、IAEAから2007年に、日本の原子力規制機関は原子力安全委員会、原子力安全・保安院、資源エネルギー庁と幾つもあって、どこが責任を持つのか分からないという質問を受けています。ところが日本政府から返事がないまま、福島の事故が起きてしまいました。事故の時はあの体たらくで、どこが指揮命令系統を出すか、その備えができていませんでした。4年前に指摘されていながら準備ができていなかったというのが、今回の反省事項だと思います。
ストレステストについては、年末に結果が出るのを評価することになっていますが、最終的には多分、来年4月ごろになると思います。欧州と違う点は、欧州ではエネルギー安全保障の関係から、駄目な原子炉だけを運転停止にするのですが、日本はいったん全て止め、ストレステストをやって合格しないと再起動を認めないので、国家の危機を招いています。さらに、評価方法の最後に政治的判断というのが入っているので、曖昧さを含んでいると思います。
エネルギー安全保障の話をさせていただくなら、ドイツはフィードインタリフ(固定価格買取制度)という太陽光発電の誘導政策を採用しましたが、10年間かけて太陽光の発電寄与度はわずか1.9%です。原子力発電に匹敵する19%にするには100年かかってしまう計算です。で、太陽光発電の設備容量は原発と同じぐらいですが、太陽光発電は太陽が照っている時しかできないので、月に15日ぐらいしか寄与できない。ものすごいお金を投入しても、こんなものです。ですから、再生可能エネルギーだけで、あるいは太陽光だけで有効電源を賄うなどというのは妄想に近い。全くの夢です。
化石燃料の埋蔵量はどんどん減っています。今、世界人口は70億人ですが、2050年には100億人になるといわれている。そういった時に、どうやってエネルギーを供給するのか。どうやって日本はエネルギーを確保するのか。エネルギーの奪い合いに日本は勝ち残れるのか。簡単に原子炉を諦めたら、国家の危機が生まれる。これが私の考えです。
高速増殖炉を使って燃料をちゃんとリサイクルすれば、2570年分のエネルギーがウランから取れるのです。人類にとってこういう非常に有益なことを、かなりのところまで技術開発ができているのに、放棄していいか、しっかり考える必要があると思います。
欧州では2003年と2006年に干ばつが起きて、5万人が亡くなりました。これは二酸化炭素(CO2)だけではなく、それ以外の地球温暖化ガスも影響しているかと思いますが、少なくとも異常気象が起きている。CO2を出さない原子力は温暖化対策の切り札の一つでもあります。
サウジアラビアの王立キング・アブドゥルアジス大学から、原子力教育をしてほしいという依頼が北海道大学に来たので、学術交流協定を締結しました。サウジアラビアは日本の石油総輸入量の28%を占める国ですが、その産油国サウジアラビアが、いずれ石油は出なくなるのを知っていて、30~40年先に国が立ち行くように、今から原子力発電所を10~20基とか建設したい、そのため日本に教育をお願いしたい、と言ってきたのです。
それからマレーシアはこれまで天然ガスを輸出してきた国です。ところが経済発展が非常に好調で、間もなく天然ガスが不足し、輸入しなければならなくなります。そこで、2021年までに原子力発電所を2基造りたいので、原子力を教えに来てほしいと頼まれ、今年の7月に行きました。学生たちには、福島の原発事故の情報を全部説明しました。そして学生たちに津波に強い原子力発電を考えるよう課題を出しました。若者は前向きになるといいアイデアが出てきます。一つのアイデアは、杭を打ってその上に原子力発電所を建て、津波は原発の下を通り抜けるようにする構造です。帰国して総長に報告したところ、工学部出身で津波や土木が専門の総長は「これは理にかなっている」と講評しました。インセンティブを与えたらこういうことをちゃんと考えるのですから、原子力教育は大事です。
まとめますと、福島の事故はしっかりした事前の検討がなされていれば、早期に収束できました。スイスとかフランスでは、スリーマイル島事故、チェルノブイリ事故の教訓を生かして、冷却源の強化やフィルター付きベントを設置していました。それをしなかった日本は猛烈に反省しなければいけないと思います。
福島の事故の教訓を生かして、世界一の安全性を確保し、そういった原子力発電所をしっかり世界に輸出していくことが大事だと思います。太陽光など再生可能エネルギーだけでは原子力を置き換えるほど十分なエネルギーを賄えません。原子力を置き換えれば国家の死を招きます。再生可能エネルギーと原子力の両者を将来にわたってしっかり使い続けるべきだと思います。
それから原子力教育です。日本と世界の原子力発電の安全性を確保するため、技術開発のため、そして原子力は安全を重視しなければいけないという「安全文化」を世界に広めるために、原子力教育が重要です。事故を起こした日本だからこそ、世界中に安全性の確保を呼びかける義務があります。
甘利 日本のエネルギー政策の過去いちばん大きな転換点は、1973年のオイルショックの時でした。その直前までの電源構成比率、つまりどういうエネルギーで電気を作っているかという比率は、石油が71%、水力が17%で、原子力は2.6%ぐらいしかありませんでした。そこにオイルショックが襲ってきて、しかも石油の輸入の9割は中東からでしたから、中東で何か発生すると日本が失速することが分かったのです。
日本はエネルギー安全保障に世界でいちばん弱い国であることを思い知らされたわけです。エネルギー安全保障というのは、世界中のいろいろな国で政治的、社会的、経済的な変化、動乱が起きても、安定的にエネルギーを確保できるということです。
そこで幾つかのことをやりました。一つは石油の備蓄です。5000億円かけて、今、官民で180日分あるのです。石油が来なくなっても半年は何とか回っていくということに建前上はなっています。もう一つは原子力発電です。原子力発電というのは、1回燃料を装填すると、継ぎ足さなくてそのまま動いてくれます。石油の備蓄分では半年しか動かないのに、原発は年単位でそのまま動くのです。そこで日本のエネルギー安全保障の強力な武器になったのです。
電源構成比率は「3.11」の直前に原子力が29%、天然ガスが29%、石炭が25%となり、どれか1つに事故が起きても他がカバーするという態勢になったわけです。この態勢を将来どうするかということですが、昨年6月に鳩山政権下でエネルギーの基本計画の見直しをして、原子力の比率を一挙に53%へ引き上げることにしました。なぜそんなに増やしたかというと、その前に鳩山由紀夫首相が国連で温暖化ガスの排出を2020年までに1990年比で25%削減すると絶対できない数字を掲げてしまったために、化石燃料の比率を約10%ずつに抑え、計画中の原発は2020年までに全部運転できることにしないとつじつまが合わないというので、そういう計画を作ったのです。
それから9 カ月後に3.11が起きたわけです。菅直人首相は脱原発に舵を切った。どうやって脱原発をするのかというと、菅さんは再生可能エネルギーを20%に増やすと言った。再生可能エネルギーというのは水力と新エネルギーのことで、今は水力が6~7%で、新エネは1%ぐらいしかないのですが、それを合計20%に持っていく。そして、その計画を2020年に実現するというのです。そのために日本中の戸建て住宅のうち、まともに日照を確保できる戸建住宅の6割、2,000万戸に太陽光パネルを張ると宣言したわけです。
これはできません。できませんけれども、仮に菅さんの計画ができたとしても20%ですから、残りの80%をどうするのでしょうか。化石燃料で全部やればCO2を出し放題になりますし、第一、エネルギー調達ができません。やはりそこそこの分は、相当の長期間、原子力発電に頼らざるを得ないのです。だとしたら、安全な原発がいいか、古い原発がいいかという選択になります。古い原発を新しいものにリプレースをしていく。その方が安全に決まっているわけですから、そういう政策と向かい合わなければならないと思います。
日本が原発は嫌だといって止めても、世界はどんどん造っていきます。今、世界で稼動中の原発は440基ですが、2030年ごろには恐らく1000基になります。その時、中国沿岸部に、ずらっと原発が並ぶわけです。すると、日本の技術やノウハウを生かした原発と、日本のノウハウが何ら関与しない原発のどちらが並ぶのがいいのか、という話になります。
我々は原子力の研究に引き続き取り組み、より安全な原発を開発し、事故の経験を踏まえてより安全な運転を確保し、それをノウハウとして世界中に供給をする責任があると思います。それが世界に心配をかけた日本の責務だと思います。日本の経験を生かした方が、よその国の原発はより安全になる。それに貢献していくのが日本の仕事だと思います。
石井 私どもは民主党内で、原子力バックエンド問題の勉強会というのをやっています。バックエンドの問題というのは核のゴミの問題です。原子炉で発電をすると、使用済み核燃料というゴミが出ます。これをどうするかという問題です。これに関して、もう今は当初の計画からどう考えても無理だろうという問題点が幾つかありますので、提起させていただきたいと思います。
自民党政権は、使用済み核燃料をリサイクルするという核燃料サイクル路線で突っ走ってきました。そこで、高速増殖炉「もんじゅ」でしっかり実験をしていこう、そして六ヶ所の再処理工場をしっかりと回していこうということで、計画が立てられました。
もんじゅは1967年に初めて実用化予測が出されました。その時は1980年代後半に実用化するということで計画されていました。1982年に少し計画を遅らせ、2010年代に実用化することになりました。1987年には、もう少し先に延ばし、2020~30年に実用化すると言いました。95年にナトリウム漏れの事故があって、2005年のいちばん新しい原子力政策大綱では、2050年に実用化というふうになりました。
この40年間に、実用化の時期が70年も先送りされたのです。ですから、実用化が本当にできるのかを検証しないといけないということがまず一つあります。ちなみに、もんじゅの予算は今日まで1兆810億円で、高速増殖炉関係の予算は全体で2兆989億円かけられたということです。六ヶ所の再処理工場は各原発で使った燃料を再処理して、高濃度の放射性廃棄物をガラス固化体にし、最終処分するものを作ったりする所ですが、これも1989年当初は1997年に実用化すると言っていたのが、今日では2012年に稼動したいと言っているような状態です。ちなみに、ここにかかった予算は、昨年時点で2兆1930億円。当初計画の7600億円の約3倍になっています。
最終処分地の問題もまだ決着していません。地質調査は北海道と岐阜で行われていますが、それは、最終処分地には絶対せず、地質を調査するという名目でやられています。特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律が平成11年から12年に成立して、平成12年の閣議決定で、平成20年代前半をめどに最終処分地をどこにするかおおかた選定すると言っているのですが、今の時点ではまだ決まっていません。
さらに深刻なのは中間貯蔵の問題です。2011年3月時点で約1万3900トンの使用済み核燃料が日本中の原発の燃料プールに保管されています。燃料プールの総容量が2万トンですから、7割ぐらいが埋まっています。原発が今まで通り運転されると、使用済み核燃料が毎年1000トンずつ出るわけですから、単純計算すると、7~8年で中間貯蔵施設がいっぱいになってしまうわけです。
中間貯蔵施設がいっぱいになると、ゴミを置いておく所がないので、原発を止めなければいけないことになってしまうわけです。今までは、六ヶ所を動かして再処理をするからゴミは減っていくという説明だったのですが、再処理の部分で滞っているので、原発が止まる可能性があるということです。
こうした状況の中で、原発立地選出の議員や、私や馬渕澄夫代議士などが呼び掛けてスタートさせたのが、原子力バックエンド問題の勉強会です。400人の民主党全議員に呼び掛けたところ、80人が登録し、精力的に勉強しています。政府は今、原子力政策大綱の見直しをしています。私たちはこれにしっかりと影響を及ぼすような形で提言をまとめようと思っています。
現実的にどういう選択肢が取れるか。ここから先は私見ですが、プールに入れるだけではなく、キャスクという大きな魔法瓶のようなものに中間貯蔵して、最終処分に関しては一時期棚上げにすることを考えなければいけないのではと思っています。
ただ、高速増殖炉を止めるとなったら、関係の職場で働いている2000~3000人の雇用をどうするか。高速増殖炉にかけた2兆円や六ヶ所の3兆円がもったいないという議論も起こるでしょう。もしくは核燃料サイクルをするために電気料金を上乗せして、利用者からもらっている積立金が3兆6400億円あります。それをどうしてくれるのかという話もあります。
54基の原発内部の中間貯蔵は、六ヶ所に持っていって再処理をすることを前提に置かせてもらっています。ですから、再処理をやめることになったら、そこはもう核のゴミになるから、今すぐ持っていけと地元自治体に言われるかもしれません。青森県での中間貯蔵も、六ヶ所で回すことを前提に置かせてもらっています。それをやめることになれば、青森県が黙ってはいないと思います。
また、ウランは可採年数が80~100年と言われています。そのためフィンランドなどは、原子力は一時的なエネルギーで、22世紀から別のエネルギーをやると言っています。ですから最終処分については、使用済み核燃料をリサイクルせずに捨てる「ワンスルー」でやるという結論を出しているわけですが、我が国はリサイクルの夢をここで捨てるかどうかを考えなくてはいけないと思います。
様々な安全対策を講じても、事故の可能性はやはり1億分の1は残る。その現状を国民に示して、最終的な合意を図っていかなければいけない。なかなか難しい問題で、竹を割ったような結論が出るとは思っていません。
櫻井 来年出す提言の方向性ですが、六ヶ所を止めれば各地の原発から出る使用済み核燃料の処理ができなくなるので、その自然の結果として原発は止まる、あるいは原発を止めるということが民主党の方針になりそうだということですか。
石井 私が申し上げたことが、民主党の方針とパラレルなものかは、今の時点では分かりません。六ヶ所やもんじゅを止めることを提言するかどうかも決まっていませんが、仮にそうなった場合には、中間貯蔵の容量を増やさないと、使用済み核燃料の置き場がなくなってしまうということを申し上げたのです。
櫻井 そうしますと、このエネルギー政策の中で、原子力発電をどう位置づけようというのでしょうか。
石井 これは私見ですが、(代替エネルギーの)何らかのイノベーションがない中で原子力発電をやめるという選択は取りにくいと思います。ただ、私の論点は、フィンランドやスウェーデンなどが取っているワンスルーという方式を、我が国も視野に入れるべきではないかということです。
櫻井 ガラス固化の安定稼動について、確かに六ヶ所では問題が起きたから今は止まっているわけですが、彼らは温度管理その他いろいろな試行錯誤をして、かなりいいところまで来ているというのが、私が専門家から得た情報です。奈良林先生はその辺、詳しくご存知でしょうか。
奈良林 ガラス固化体を作るメルター(溶解炉)は、かなり安定的な運転ができる見通しが得られるところまで来ていると思います。ただ、なぜ今までこれだけの時間がかかってしまったかというと、本質的な問題がもう一つあるのです。
実は、原子炉の中で燃料が燃えていく間に白金族というプラチナの親戚みたいなものがいっぱいできて、メルターの下の方にたまってしまいます。メルターは電気を流してガラスを溶かす装置ですが、電気を通すと白金のほうに電気が流れてしまって、ガラスの方に行かない。これが安定的な運転ができなかった理由です。
これがなぜ起きたかというと、フランスの場合には、この1つ手前に沈殿槽といって、白金を沈殿させて、残りの部分をガラスと混ぜるという設備になっているのです。日本では少しコストダウンをした時に、このタンク(沈殿槽)を取ってしまったのです。だから根本的な問題はそこから始まっています。
しかし、ひとたび計画書を出して国の認可を得ているので、タンクを付けさせてくださいといっても、地元も国も認めない。だからずっと苦労しながら、タンク無しで白金も一緒に混ぜながら処理することをやっています。この白金は放射性物質を含んでいるのですぐには使えませんが、工業的な触媒としては有用なのです。例えば燃料電池の車の白金の触媒に使えます。インゴット(鋳塊)にして保管しておけば、100年後にレアメタルになって、国の宝になるのです。そういう視点での取り組みが、今は全然できない状態です。それが根本的な問題です。
それから高速増殖炉ですが、中国がもうじき運転を始めます。日本がやめても、世界各国はこの技術開発にしのぎを削っています。それだけのメリットがあるのです。
高濃度廃棄物は、最初は放射能が非常に強いのですが、40年で1000分の1、150年で1万分の1になります。800年で10万分の1、3000年で100万分の1です。ウラン鉱石と同じレベルになるのは1万年とか2万年とかそういうオーダーになりますから大変なのですが、800年ぐらいのオーダーなら、日本は2000年の歴史があるわけですから、ちゃんと管理できると思います。
どうやってやればいいのかですが、私は1000分の1になるまでの40年間をかけて、しっかり方向性を見いだす。その議論をしながら、再処理の技術をちゃんと堅持して、埋設処理の技術をしっかり開発すべきだというふうに思います。なぜそれがいいかというと、ガラス固化してステンレスの容器に貯めると、建物の中に保管できるのです。既に青森県に貯蔵施設があって、これは空気で冷えますから何も要りません。空気が自然に入って、自然に暖かい空気が出てくるので、電気も使わない。こうして保管している間に、埋設はどうすればいいのかという議論をすべきだと思います。
今見ていますと、日本では原子力に反対するための反対になっていて、先ほど紹介した欧州のように、いかに原子力を安全に使うかというベクトルが揃った議論ができていないのです。ですから先ほどのタンクの話でも、計画にないから追加を認めず、それでさんざん苦しませておいて、何年たってもガラス固化ができないのだからやめてしまいなさいというのは、おかしな議論です。
もんじゅは15年間ぐらい稼働を止められてしまっています。フランスの実験炉では32年間に30回ぐらいのナトリウム事故を起こしています。これは実験炉なのです。どこが弱いか、どこが漏れやすいかというのを実験で確認していく。フランスでは30年間ちゃんと安全を確保しながら動かしているのです。日本では1回ナトリウムが漏れただけで、止めてしまった。止められたがゆえに成果を出せない。それで、やめさせるための議論と、推進する議論が対峙してしまって、それによって日本の科学技術が進歩しない。これが私いちばん根幹的な問題だと思います。
甘利 使用済み燃料のリサイクルは、燃料の有効利用とは別の側面がもう一つあります。それは、厄介な部分は分離して燃やしましょう、ゴミを減らしましょうというものです。ウラン燃料というのは、1回装填して使い終わると、プルトニウムが発生します。これは半減期がかなり長いのです。このまま捨てると長い半減期を保管しなければならないのですが、プルトニウムは燃料になりますから、取り出して燃やすと、なくなるわけです。量で言うと、再処理によって高レベルの廃棄物は、2分の1か2.5分の1減ります。その作業を連続的に行うのがもんじゅです。もんじゅが本格的に稼動すると、厄介なゴミは燃えてしまいますから、ものすごく管理が楽になるということなのです。
櫻井 石井さんのお話を伺っていると、多くの国民がもっともだと思う部分はあります。例えば、計画を何回も延長して、何十年もかけて、ものすごいお金をかけて、失敗ばかりしているじゃないかと。しかし、それは一面の真理なのですね。もう一つ別の面から見ると、例えば、奈良林先生の説明、それから甘利さんの説明にもあったように、人類はこうした問題を着実に解いてきているわけです。そして我が国がこの高速増殖炉をやめたとしても、もうすぐ中国が始めてしまう。技術は中国がやるところまで行っているわけです。
そうすると、ガラスの固化の問題も、奈良林さんの説明でかなり明確に分かったと思いますが、もう既に青森にはそれを貯蔵する建物ができて、地下何十メートル、何百メートルに埋めるという世界ではなくなっているということですね。それからもんじゅの意義について、今、甘利さんは、要らないものを燃やすという機能もあると言う。ただ、政府も誰も国民にそういうふうに説明してこなかった。だから理解をしてもらえないというのがあるのですが、今この時点で私たちは、このような科学的な情報をなるべく自分のものとして、冷静になって原発問題を考えるべきではないかと思うのです。今のお話を民主党の人たちにも聞いてもらえれば、脱原発みたいな愚かな決断にはならないのではないかと思うのですが。
石井 テクニカルなお話は奈良林先生に教えていただくしかないので、私はどうこう言える立場にありません。今日までデータの改ざんがあったり、稼動すると言っていたのが延びたり、もんじゅの時にはこけてひっくり返してどうしたというようなことがあったりしたことで、国民の理解に繋がっていないのだと思います。私たちは何かを潰すために勉強会をしているのではありません。予断を持たずにしっかりと勉強をした上で、政治家として判断したいという思いです。
櫻井 今、人類が使っている原子力発電所は440基で、2030年には1000基になるという甘利さんのお話がありました。そうした中で日本のエネルギーをどう確保していくか。脱原発というわけにはいかないということは、ここにいらっしゃる皆さん全員がお認めになったと思うのですけれども、それだけではないわけで、日本の責任として、本当に安全な原発の技術を日本自身も作り、磨き、それを世界に提供していく。それによって日本も栄えていくということになっていくべきだろうと思うのです。奈良林先生、世界の最先端の原発、事故があってもひとりで冷やしてくれるという原発について、もう少し説明してください。
奈良林 スリーマイル島の原発事故の後に、自然空冷、つまり自然の冷却機能を生かそうというのが、安全研究をやっている世界中の研究者の目標になりました。20年ぐらいずっと研究開発をして、国際会議をやって、いろんな議論を戦わせて、そしてそれが結実して製品のレベルで実際に建設を開始したものの1つがAP1000です。これは、格納容器はお寺の鐘を伏せたような形になっていて、その上からまず水を流して冷やします。時間が経って発熱が少なくなったら、もう水はなくなっているでしょうけども、実は格納容器の鉄板とコンクリートの建物の間が煙突のようになっていて、そこを空気が流れて鉄板の外側から冷やすようになっています。ですから水を持ってこなくても、空冷で冷えてしまうのです。これが新しいタイプの原発で、今、中国で建設中です。上海の北へ車で約5時間行ったところに、合計6基造ります。安全性を極限まで高めた新しい原子力発電所の建設が既に始まっているのです。米国でも12月に2基着工するといわれています。3.11の前に、米国からは十数基注文が入っていました。
それからESBWR(高経済性単純化沸騰水型原子炉)も、北海道の室蘭の日本製鋼所で、圧力容器の実物がすでに造られています。これは米国向けです。もう出荷態勢が取れるようになっています。3月11日以降、米国でも建設ペースが落ちると思いますけども、いずれこういったものが必要だという理解が戻れば、世界中に建設されていくと思います。
櫻井 AP1000に戻ると、事故が起きても、そこにいる人間は十分な時間を持って逃げられるのですね。
奈良林 はい。設計コンセプトは「ウオークアウェー」(歩いて避難しましょう)です。慌てなくてもいいということです。3~4時間たったら炉心がメルトダウンして、水素が出て、放射能が漏れてしまうという現象は起きないのです。ゆっくり歩いていいですよ、ちゃんと事故が収束したのを確認して、また戻ってきましょうというのを開発の基本コンセプトに据えています。これはESBWRも同じです。
櫻井 これはどこの技術ですか。
奈良林 (加圧水型の)AP1000はウェスティングハウスです。ちょっとねじれ現象が出ているのですが、日本の加圧水型原子炉は、ウェスティングハウスと技術提携した三菱重工が造っています。(沸騰水型の)ESBWRは、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)、日立製作所、東芝の3社で共同開発をしました。
ところが東芝がウェスティングハウスを買収したことで、AP1000は東芝が買収した会社のものになった。ESBWRはGEと日立でやるという構図になりました。三菱は提携相手のウェスティングハウスが東芝に買収されてしまったので、自力でいろんな安全機能を持った原子炉を開発し、一部小型のものについてはフランスのアレバと提携して開発しています。
いずれにしても、日本の三大メーカーが世界の原子力発電所を建設するという、そういう動きは変わっていないのです。ただ油断ならないのは、韓国が今ずっと入り込んできていることです。これは、他の産業でもそうなのですけれども、日本の国家戦略がないからです。ですから原子力発電をやめて電気料金が高くなると、日本の工業製品はさらに国際競争力が落ちてしまう。そうなるとやはり非常に深刻な問題を引き起こすので、早く手を打つことが非常に大事だと思っています。
櫻井 今の奈良林先生の説明で、世界の最先端の原子力発電はどの技術も全部日本の企業が絡んでいて、非常に重要な役割を果たしていることが分かりました。世界の原発は、日本がやめようがやめまいが、増えて行きます。その場合、日本国は日本の技術を国内でも国外でも生かしていくのか、それともやめるのかを、もう1回冷静に考えなければいけないのではないでしょうか。
甘利 原発事故が起きた後で、エネルギー政策を将来にわたって決めるというのは、かなり無理があります。もう原発こりごりだという人たちの中で、冷静な議論はできませんから。少し時間を置いた方がいいと思って、恐らく民主党も基本計画の策定を半年延ばしたのだと思うし、自民党も来年6月を目処にというふうにしているのは、少し冷静な議論を科学的にしようということだと思うのです。
その中で私は、新エネルギーについても徹底的に取り組むことが、原子力に対して冷静に取り組める第一ステップになると思うのです。新エネなんか駄目だと言って、だから原発だと言ったら、原発の説得力はないと思うのです。新エネの技術開発は徹底的にやってみろと。コストがどれくらいかかり、技術的にはどうで、不安定性はこのへんにあるということを、赤裸々に語る必要があると思います。すると、必ずここらあたりが限界かなというのが見えてきますから、では後はどうするのですかといった時に、皆が原子力に正面から向き合える環境ができると思います。
櫻井 国基研の提言も、「選ぶべき道は脱原発ではありません」と言うと同時に、新しい再生可能エネルギーも力を入れて開発していきましょうという、2本立てにしたのです。ただ、私たちは、新エネルギーをやらなければ原発が進められないという見地からではなく、新エネルギーの分野でも我が国は技術的に世界をリードしていくべきだという立場から、その提案をしたのです。なぜならば、もしかして50年後、100年後、200年後には太陽光を飛躍的に安いコストで利用する技術が生まれているかもしれない。それが可能であるならば、それを生み出すのは日本であるべきだという考えを持っていますから、新エネルギーについても非常に力を入れてやるべきだ。
けれども、少なくとも私たちが生きている間は、原発をきちんと守って、安全性を高めていって、最先端の原発技術は実は日本の企業が作っているということに気がついて、今ある54基の原発をやめにするのではなくて、古いものから新しいものへと置き換えていくことが必要なのではないでしょうか。先ほど石井さんは1億分の1の危険があるとおっしゃった。確かにどんな技術も1億分の1か 10 億分の1の危険があるのは当たり前なのですが、それを前向きに捉えるのか、それとも1億分の1の危険があるからやめようと後ろ向きになるのかといったら、日本国は前向きにならざるを得ないし、なるべきだと思うのですが。
石井 もちろんそうだと思います。リスクゼロというのはあり得ないと思います。それと、今の監督官庁のあり方と、原発を持っている電力会社が10か11に分散している体制も、いいとは思いません。電力代は現在でも韓国の倍ぐらいです。向こうはちょっとインチキして安くしているようですけれども、そういう意味ではよく言われる包括原価方式を我々がいつの間にか受け入れざるを得ない状況になっていることについても、考えなければいけません。安全対策にしてみても、やはり優秀な原子力技術者が10個、11個の会社に分散してしまっているわけです。また、原子力安全・保安院の前の審議官は、少し前まで環太平洋経済連携協定(TPP)を担当していた人でした。そのようなことを一つ取っても、今のこの体制をしっかり見直していかなければいけないと思います。
櫻井 今回の事故の最大の不幸は、菅直人さんが首相だったことだと私は思っています。まさに戦争と同じ非常事態だったのに、菅さんは平時の対応をしてしまった。そして、自分はいろんなことを知っているつもりになって、抱え込んでしまって、各省庁の縦割り行政の中で、現場は何もできなかったわけです。
会場からの質問 チェルノブイリの事故の教訓として、フランスやドイツがフィルター付きベントを付けたのに、なぜ日本ではその時に付けようという議論が出なかったのでしょうか。
奈良林 実は、チェルノブイリ事故の後に、日本でもフィルター付きベントを付けようという議論はありました。ところが、アメリカはフィルター付きベントではなく、スクラビングベントと言って、圧力抑制室プールの水を1回潜らせた気体をウエットベントというかたちでベントするというのをやりました。日本はその安易な方にしてしまったのです。
議論の中で、フィルター付きベントを付けたいと言うと、反対派が「では原発で事故が起こるのですね」「危険なのですね」「事故が起こったら何万人も死ぬのですね」と主張するわけです。そうすると電力会社の側は「いや、原発は安全ですから事故は起こしません。ではフィルター付きベントは付けません」「アメリカではスクラビングベントでやりますから、日本もそっちをやります」となってしまったのです。
質問 国家安全保障の面で、日本が民生用の原子力技術を持つことにどれだけ重要性があるのか、そしてリスクがあるのかというところをお伺いしたいと思います。外国の中には、日本を事実上の核兵器保有国と見ている国もあると聞いたので。
石井 長崎型の原発がプルトニウム4~5キロででき、今我が国が持っているのは国内10トン、イギリス、フランスにある分を合わせると30~40トンで、それを割り算すると数千発分のプルトニウムを持っており、それに核弾道ミサイルがあれば、すぐに核兵器だという、そういう文脈ですね。そういうふうに準核保有国だと言われるだけの外形的要因はあると思います。ただ、それではいけないから、一生懸命プルサーマルでさっさと、さっさと燃やすか、というような話をしているのだと思います。
甘利 プルトニウムは比較的簡単に核兵器になるので、プルトニウムが余っているということに対しては、世界中はすごくナーバスになっています。核保有国以外でフルセットの再処理を認められたのは、日本だけです。それは日本にIAEAの査察官が常駐し、チェックして、日本は数量管理をきちっとして変なことに使わないという信頼性があるからなのです。これは世界に誇る日本の信頼感だと思います。
櫻井 日本が原子力発電を続け、その技術を非常に高いレベルに磨き上げて、世界の最先端に我が国を置いておくことは、民生用のエネルギーのためだけではなく、その他の波及する全ての分野で、どの国をも凌駕し得る技術を持ち続けるということになります。これは安全保障の面において、日本の存在感に重要性を与えるものだと思います。
(文責・国基研)