もはや解散・総選挙以外にない 遠藤浩一
もはや解散・総選挙以外にない
拓殖大学大学院教授 遠藤 浩一
≪限界を露呈した民主党政権≫
普天間飛行場移設問題をめぐる鳩山由紀夫前首相による「方便」発言には唖然(あぜん)とさせられたが、これは、民主党という政党の本質が端的にあらわれた言葉とみるべきだろう。
鳩山氏のみならず、小沢一郎元代表、菅直人首相といった民主党要路の発言はころころ変わり、野党時代に自民党政権を攻撃した際のセリフが自らに跳ね返ってくる“ブーメラン現象”を、しばしば呈している。こうした軽さや矛盾も、彼らの発言が「方便」にすぎないことを示している。
2月28日の衆議院予算委員会において民主党政権への信頼が失墜した理由を問われた菅首相は質問には直接答えず、「4年間で(実績を)見てほしい」という発言を繰り返した。この答弁も、かなり質の悪い「方便」と言わざるを得ない。いったい、4年の間、国民に何を見続けろというのか。
平成21年総選挙のマニフェスト(政権公約)に掲げられた政策は修正を余儀なくされている。撒(ま)き餌のような公約が修正されるのはある意味当然だが、そもそも民主党はこうした不誠実な政策をもって政権を獲得したわけで、その張本人たちによる際限なき修正とそのたびに繰り返される空疎な言い訳、それに伴う内紛を我慢して見続けろと言っているに等しい。
いま起こっていることは、菅政権の蹉跌(さてつ)ではない。国家主権解体主義や成長戦略なき再分配重視主義(要するに古典的な左翼的政策)を推進し、国防・安全保障の空洞化をもたらした民主党政権そのものが限界を露呈しているのである。
≪修正主義と原理主義の対決≫
昨年9月、菅氏と小沢氏とが争った同党代表選で提起されたのは、マニフェストの修正主義(菅氏)と原理主義(小沢氏)との対決だった。綱領なき民主党にとって、疑似綱領の役割を果たしているマニフェストは、仮にその中身がいかに胡乱(うろん)なものであったとしても、死守すべき基本文書ではある。その意味で小沢氏らの主張は一応筋が通っている。しかし政権を獲るための「方便」にすぎなかった代物に固執されたのでは、国家と国民は不幸である。
この対立は、代表選で菅氏が勝利したことによって、一応の決着を見ている。小沢氏およびその周辺があくまでも「マニフェストへの原点回帰」を追求したいのであるならば、民主党を解体し、新党を組織し、その公約として訴えるしかない。
では、菅氏に政権公約を反故(ほご)にしてまで政権を担当し続ける資格があるのかといえば、否というほかない。菅政権は「税と社会保障の一体改革」と称して消費税率引き上げの検討に着手している。経済成長と財政の健全化、さらには社会保障制度の安定を鼎立(ていりつ)させるのは、針の穴に縄を通すくらいに困難な課題ではあるが、わが国の政治が取り組まねばならぬ重要課題の一つといえる。しかし増税を否定して選挙に勝った民主党政権に、「一体改革」を推進する当事者としての適格性はない。
≪双方の路線ともに敗れたり≫
つまり、原理主義も修正主義も、ともに敗れつつあるのである。菅氏は、「4年間で見ろ」などと強弁するのではなく、民主党政権行き詰まりの根本要因を、謙虚に見据えるべきである。
さて、追い詰められた菅政権の選択肢は妥当性、可能性を別にすると、次の三つが考えられる。
第一に、予算関連法案が成立しなくとも、あるいは4月の統一地方選挙に敗北しようとも、このままずるずると政権にしがみつくという途(みち)。しかしこれは国民にとっても民主党にとっても、最も不幸な選択である。その先に待つものは民主党の完全崩壊と国家のさらなる疲弊に違いない。
第二は、菅政権が総辞職するという、民主党にとっては最も望ましい展開だが、その先には二つのオプションがある。
新代表も菅政権と同様に、修正(という欺瞞(ぎまん))を繰り返して何とか衆議院任期を全うしようとするかもしれない。衆議院における現在の大勢力を維持しようというのは民主党にとって抗(あらが)いがたい誘惑だろうが、これでは根本的な矛盾は継続するので、第一の選択と同じ結果になりかねない。
もう一つ、新たな指導者の下で新たな政権公約を掲げて解散し、総選挙に臨むというケースも考えられる。民主党の党略にとっては比較的マシな選択肢といえる。民主党が自民党政権を批判してきた「政権のたらいまわし」ではないにしても、表紙を替えただけとの批判は免れまい。
第三は、菅首相による解散・総選挙の断行である。首相がどうしても自らの手で増税したいのならば、このまま不毛な政権運営を見続けよと国民に強要するのではなく、解散・総選挙に打って出て、新たなマニフェストを掲げて信を問うべきである。それが最もすっきりする。
早期の解散・総選挙は、有権者が2年前の政権交代の意味を真剣に問い直す上でも有益である。(えんどう こういち)
3月2日付産経新聞朝刊「正論」