公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

役員論文

2011.04.11 (月)

先島への実戦部隊配備こそ急務 平松茂雄 

先島への実戦部隊配備こそ急務

中国軍事専門家・平松茂雄 

 

≪作戦「島を敵から奪回せよ」≫

 1996年1月下旬~2月上旬に、外国軍に占領された離島を奪回する自衛隊と在日米軍の統合演習が初めて実施された。コンピューターで部隊を指揮する指揮所演習、図上演習と呼ばれるもので、米軍横田基地で行われ、陸海空自隊員と在日米軍などの司令部要員約700人が参加した。

 演習の内容は公表されなかったが、こういうシナリオだったようだ。敵国がわが国を侵略し、その一環として、隠岐島のある島に中隊(約200人)規模を上陸させる。これに対して、陸上自衛隊の第1空挺(くうてい)団を航空自衛隊のC130輸送機で島に降下させる。海上自衛隊は輸送艦を派遣して武器などを陸揚げし、九州の基地からも航空機で補給する。米軍は空軍だけが参加して戦闘機で自衛隊の上陸作戦を支援、日米共同で島を敵の手から奪回する-。

 演習の想定地に隠岐島を選定した理由について、防衛庁(現防衛省)は架空の島にすると、竹島など隣国と係争中の島が対象とみられかねないと説明した。

 同じ年の9月、陸上自衛隊がレンジャー部隊を中心とする特殊部隊(約400人)を、10年計画で第8師団(熊本)に編成する構想が明らかにされた。西日本から南日本にかけての島嶼(とうしょ)防衛を目的とし、具体的には、外国の小規模部隊の侵入や武装難民の上陸に際し大型ヘリコプターで現地に急行する部隊である。ただ、竹島、尖閣諸島に派遣することは考えていないとされた。

 離島奪回は、それまで北海道にソ連の機甲化部隊が上陸してくるとの前提に立った対戦車作戦に日夜明け暮れしてきた自衛隊が、創設以来初めて行った演習で、筆者は自衛隊が南西諸島の防衛を想定するようになったことを示す画期的な変化だと評価した。

 ≪それから15年、牛の歩みに似て≫

 だが、占領された領土の奪回は大変であるのみか、多くの犠牲を伴う。それよりも取られないようにすることが先決である。取りに来た場合は、こうして反撃・阻止すると、訓練・演習を日常的に実施して明確にしておくことが必要である。それが「戦争抑止」であり、現代の軍隊の任務であろう。15年前の 97年4月に出版した小著『続中国の海洋戦略』で筆者はそのようなことを書いた。

 奪回演習から約5年後の2000年8月、日本近海で活発化する中国艦艇などの動きに対応するため、防衛庁は九州・沖縄地区を管轄する陸上自衛隊に、離島防衛などを主任務とする部隊を新設する方針を固めたと報じられた。わが国政府はようやく中国の海洋活動に対応し始めたようで喜ばしいとはいえ、中国の海洋活動はその程度では片付かない、と同年9月4日付本欄で筆者は書いた。

 それから5年余り、筆者が最初に書いたときからちょうど10年を経た06年1月に、離島防衛を目的とした陸上自衛隊と米軍海兵隊による初めての合同訓練が、米サンディエゴ近郊の米海軍基地で実施された、と伝えられた。

 報道によれば、合同訓練は、中国軍の軍事力増大・近代化を念頭に、九州近隣の離島が特殊部隊やゲリラに攻撃されたとの想定で行われた。九州・沖縄地区の離島防衛を主任務とする西部方面普通科連隊(長崎県)の陸自隊員120人が戦闘服やウエットスーツに身を包み、夜間、離島に潜入して、島内に拠点を確保する指導を海兵隊教官から受け、上陸作戦で使用される特殊ゴムボートの操舵訓練や泳いで偵察に向かう際の泳法訓練も実施されたという。

 ≪南西諸島防衛、あまりに手薄≫

 それからさらに4年ばかりを経た10年3月、沖縄・南西諸島の防衛警備を受け持つ陸上自衛隊第1混成団(那覇市)が第15旅団に格上げされて、新編された。旅団化により兵員数は約300人増え、2100人になった。普通科3個連隊、沿海監視を担う偵察隊が編成されて、化学テロに対応する化学防護隊も新設された。

 離島作戦演習が実施されるようになって、15年の歳月が流れている。海空軍との連携を前提とした作戦がようやく具体化し現実化してきていることは評価できるが、百六十余の島嶼が列島線を連ねている南西諸島を防衛するには、あまりにも小規模である。

 東シナ海における中国の活発な活動に対し、日本は海上保安庁の巡視船2隻が常時、警戒に当たっているものの、それは尖閣諸島周辺海域だけで、海上自衛隊と航空自衛隊の航空機と護衛艦が南西諸島周辺海域の監視任務に就いているにすぎない。陸上自衛隊の部隊は沖縄本島以南の離島に駐屯していないばかりか、防衛警備訓練を実施したことすらない。

 沖縄とか南西諸島では、反自衛隊感情が強いとよくいわれる。しかし、筆者が何年か前に石垣と与那国島に行って、現地の人たちと話をする機会を得た折に、多くの島民は自衛隊の配備を歓迎していた。緊急時に本土や沖縄から駆け付けるのでは遅い。小部隊でいいから先島諸島に実戦部隊を配備することが急務である。(ひらまつ しげお)
3月3日付産経新聞朝刊「正論」