公益財団法人 国家基本問題研究所
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役員論文

2012.02.10 (金)

辺野古に行き決意示せ 櫻井よしこ

辺野古に行き決意示せ

 櫻井よしこ  

 米軍普天間飛行場の移設問題と在沖米海兵隊のグアムへの移転問題が切り離され、沖縄の海兵隊8千人のうち4700人がグアムに移り、残りはハワイ、豪州、フィリピンなどに分散させるという。

 普天間問題は残るが、沖縄の負担軽減を実現していく点で、野田佳彦首相は同決定を突破口として普天間問題のみならず、日本の国防体制の議論を起こしていくべきだ。

 現在、米軍基地は沖縄の全面積の19%を占めている。米軍再編がもともとの計画どおりに行われれば、嘉手納以南の基地もすべて返還され、米軍基地の面積は12%にまで減少するはずだった。鳩山由紀夫元首相の「県外、国外」発言で移設問題自体は暗礁に乗り上げたままだが、今回の措置は明らかな負担軽減につながるのであり、沖縄の人々も前向きにとらえるべきであろう。

 嘉手納以南の基地返還も普天間問題とは切り離して実施し、そのうえで首相は住宅や小学校に囲まれた普天間の現状打破に指導力を発揮しなければならない。

 2月8日、衆院予算委員会で普天間の移転先は辺野古しかないと、首相は述べた。そこまで固く心に決めているのであれば、移転先の辺野古に足を運んでみることだ。

 辺野古は正式には久辺地区と呼ばれる。久辺地区は辺野古、久志、豊原の3地区で構成されている。久辺地区の人々は、移転の直接の地元は自分たちなのに、政府関係者は名護市どまりで、自分たちの所には来ないと嘆く。

 名護市長の稲嶺進氏は普天間の辺野古への移転に反対だが、低い山並みを境に東部と西部の2地域に大別される名護市には多様な意見が存在する。

 人口が集中する名護市に対して、久辺の人口は3地区で計3千人規模だ。平成22年の市長選挙では名護市中心部の有権者の多くが、移転に反対したが、久辺地区の有権者は必ずしも反対ばかりではなかった。彼らは自民党時代に13年間も安全対策、騒音、経済的補償などについて、国と県を相手に話し合いを重ね、最終的に飛行場の受け入れを決めた経緯がある。

 沖縄全体の負担軽減を進めながら、いま、当事者中の当事者である久辺地区の人々の声に耳を傾け、現実的解決策を探るときだ。

 そのうえで、東シナ海で高まる中国の脅威に対しての日本政府の基本姿勢を明確に示さなければならない。

 日本政府はこれまで名なしで放置していた離島に個々の名称をつけ始めた。名前のなかった尖閣諸島の久場島近くの3つの島にも名前がついた。

 遅きに失したとはいえ、日本の領海や排他的経済水域を明確に国際社会に周知徹底させる島嶼(とうしょ)の命名は評価したい。

                   ◇

 中国側の反発は当然予想されたが、中国共産党機関紙『人民日報』は尖閣諸島と周辺諸島を中国の核心的利益と表現して伝えたという(『産経新聞』1月30日)。「核心的利益」とは穏やかでない。核心的利益とは、(1)その地域や国は中国の領土領海であり、分離独立は許さない、(2)分離独立の動きは軍事力を行使してでも阻止する、(3)第三国の介入は許さない、という意味だ。

 平成22年3月に「南シナ海は中国の核心的利益」と戴秉国国務委員が語ったとされ、南シナ海の利害関係諸国や米国は、中国への警戒を強めた。その警戒感は東南アジア諸国連合と米国、さらにインドなどをゆるやかに結びつけた対中牽制(けんせい)網となっていった。それほどの強い意味を有するのが核心的利益である。

 だが、中国が東シナ海をそう定義するとき、直接の利害関係国は、日本だけである。集団的抗議が行われた南シナ海とは全く事情が異なり、日本は他国の問題提起や抗議、反論に頼ることはできないのである。

 日本一国で中国の不当な主張に対処しなければならないこの場面でこそ、首相は声を大にして抗議すべきなのだ。中国の不当な主張を、首相自らのメッセージで広く内外に知らせていくことだ。ここで政治力を発揮しなくていつするのか。

 中国はまた、日中中間線近くのガス田、樫(中国名・天外天)でガスを採取し始めたことが確認された。日本政府は1月31日と2月2日、中国側に抗議したというが、中国側が作業をやめた形跡はない。

 樫については中国側は共同開発を認めず、日中間で継続協議となっていた。その協議自体、22年7月以来、行われていない。この間中国は民主党政権下の日本の力を見透かして、開発を進め、ガスの採取に乗り出したのだ。

 日本の向き合うべきは、中国の脅威なのである。わが国に対して「核心的利益」を掲げる中国の前で、いま、最も力を入れるべきは防衛と外交である。

 しかるに、田中直紀氏を防衛相に選んで、首相は一体日本をどこに導こうというのか。

 権力の最大の源泉は人事権にある。その人事権を党内融和のために小沢一郎氏、その代理としての輿石東氏に事実上、譲り渡しているのでは、野田氏が首相であり続ける意味はない。党内融和を脱しない限り野田政権の展望は開けない。

2月9日付産経新聞朝刊「野田首相に申す」