公益財団法人 国家基本問題研究所
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役員論文

2012.04.05 (木)

日本の停滞を憲法改正で立て直せ 櫻井よしこ

日本の停滞を憲法改正で立て直せ

 櫻井よしこ  

どっちを向いても日本には閉塞感が漂う。しかし、大いなる希望への道筋も見える。多方面の人々と語り合うとき、必ず強調されるのが日本立て直しの必要性である。およそ皆、現状を危機ととらえ、具体的課題への取り組みもさることながら、根本的立て直しが必要だと考えている。この危機意識の深さは、昨年の3・11で日本が受けた被害の大きさと、政府が晒け出した無能力の限りと、無関係ではない。いま、国民が叡智を結集して呼び起こそうとしている変化は、真の日本再生につながる本質的な変化でなければならない。

立て直しの第一はなんといっても憲法改正である。時恰も国家基盤を作り直す憲法改正論議が活発である。

自民党はサンフランシスコ講和条約発効60周年の4月28日までに最終案をまとめ、国会提出を目指す。

保利耕輔氏が本部長を務める党憲法改正推進本部起草委員会は、平場での意見交換を通して逐条的に党内意見を取りまとめてきた。重要点についての合意はすでになされており、たとえば天皇は日本国の「元首」と位置づけられ、国旗国歌は「表象」として尊重される。実はこれこそ日本再生のために最も重要なことである。

一方、「産経新聞」も「国民の憲法」起草委員会を創設した。来年5月までに憲法草案を完成させ、世に問う予定だという。

起草委員会の長を務める田久保忠衛氏が、3月26日の初会合に臨んで語っている。「どこの国の憲法も歴史、伝統、文化の香りを持っているが、日本国憲法にはそれがまったくない」「日本には皇室を中心とし、和を尊び、平和を愛する独特の国柄があった」

戦後、日本人を日本人たらしめてきた一連の価値観が失われたことが、自らどんな存在かも認識出来ず、従って自主自律の意思さえない現在の日本の姿につながっているのだ。だからこそ、日本立て直しの第一歩は、自分たちは一体何者であるかということを認識すること、そのために日本の国柄を明確にしてその再生をはかることである。

大祭主としての天皇

日本は、国民と国家のために祈って下さる大祭主としての天皇を中心に、穏やかな文明を築いてきた国である。例外的なわずかな期間を除き、天皇は権力から遠い存在だった。祈りを以て国民を守り、国民は皇室を中心にまとまってきた。国民の心の統合としての存在であるからこそ、両陛下の東北被災地へのお運びに国民は感動した。

どの国を見ても元首の存在しない国はない。わが国でその立場に立てるのは、権力を預かる政治家ではなく、長い歴史を通して国民、国家のために祈り続けてこられた大祭主としての天皇こそ、相応しい。

この一点だけを見ても、憲法改正はもはや一部の条項や文言の手直しでは不十分なのである。

次に9条について、自民党は自衛隊に替わる国軍としての「自衛軍」の保持と、集団的自衛権の容認に踏み込んでいる。この点について相対立するのが「朝日」と「読売」である。

「朝日」は毎年5月3日の憲法記念日に合わせて電話による世論調査を実施してきた。それによると9条改正に関しては反対派が多数を占めている。憲法9条は「変えない方がよい」が08年は66%、「変える方がよい」は23%だった。09年は9条改正反対が64%、賛成が26%、10年は67%と24%、11年は59%と30%だ。

年毎に多少の変化はあるが、9条改正反対が賛成を大きく上回っている。だが、「朝日」の数字は実態を反映しているだろうか。同紙の9条に関する質問はこう書かれている。

「憲法は9条で『戦争を放棄し、戦力を持たない』と定めています。憲法9条を変えるほうがよいと思いますか。変えないほうがよいと思いますか」

9条故にどんな問題が生じているか、一切わからない短絡的な問いである。このような聞き方できちんとした答えを聞き出せるのか、私は疑問に思う。

「朝日」と好対照なのが「読売」である。こちらは電話ではなく直接面接しての調査だ。今年2月の調査では憲法改正賛成は54%、反対は30%。9条に関しては「解釈や運用で対応するのは限界なので改正する」が39%、「解釈や運用で対応する」、つまりいまのまま、が39%で同率だった。但し、集団的自衛権の行使を容認する人は55%で初めて半数を超えた。

国民と国土、領海領空を自力で守るのが国家の最も重要な役割である。中国がかつてないほど力をつけ、しかもその版図拡大の意図は明らかだ。中国共産党機関紙の『人民日報』はすでに尖閣諸島を中国の核心的利益と呼び始めた。わが国がわが国の離島に名前をつけたことに反発して、彼らも中国名をつけて公表し、尖閣諸島海域で海洋局所属の大型船、「海監50」などによる「定期的巡回」が始まった。3月16日には「海監50」がまたもや尖閣周辺の領海を侵犯し、ガス田「白樺」付近で、「海監66」ら他の調査船4隻と合同訓練を行い示威行動に出た。

根本から立て直す好機

9条の拡大解釈という小手先の対応で処しきれる状況ではないのである。主権を守り、生き残りをかけるほどの強い意思力を、国家として発揮しなければならないときなのだ。その意味で、自民党の9条改正、国軍としての自衛軍の創設と、集団的自衛権の容認はまったく正しい。

自民党案はまた、現行憲法で無視されている家族の大切さを強調し、権利と自由ばかりが言及されている国民の行動規範に関して、責任と義務を重視し、誠実な日本の価値観を取り戻そうとしている。

民主党案も論じたいのだが、彼らはまだ党論をまとめきれておらず、論ずることも出来ない。

だが、民主党の有志らも協力して、昨年6月、超党派の「憲法96条改正を目指す議員連盟」が結成され、衆参両院で260名の署名が集まった。現行憲法96条は、改正には衆参両院で3分の2以上の発議が必要だと定めている。これは3分の1の反対で改正を妨げることが出来るというもので、民主主義に悖る。

よって、これを3分の2の賛成から、民主主義のルールである過半数に改めたいというのが96条改正議連だ。

96条の改正で、これまで私たちが手を触れることが出来なかった憲法を、私たちの手に取り戻せるのだ。多くの人が国の在り方に疑問を持ち始めたいまこそ、日本を根本から立て直す好機である。ちなみに私自身、昨年11月、民間憲法臨調の代表に就任した。日本を日本らしい国にし、立派な日本人を育てるためにも、全力で憲法改正に取り組みたい。それは、いまの日本の停滞を反転させる一大好機になると、私は期待している。

『週刊新潮』 2012年4月5日号
日本ルネッサンス 第504回