小沢氏よ「無罪」を引退の花道に 屋山太郎
小沢氏よ「無罪」を引退の花道に
評論家・屋山太郎
小沢一郎元民主党代表の政治資金規正法違反の裁判で、無罪判決が出た。無罪になったからといって、私の小沢氏に対する評価は全く変わらない。自分に都合の悪いことは黙る、相手がひるむと恫喝(どうかつ)するという小沢氏の流儀は、日本の政治を担う指導者の、あるべき手法とはかけ離れている。
≪不動産買いあさりは師譲りか≫
誰もが不審に思う一つが、土地の「確認書」問題である。2007年2月、小沢氏は、自分が所有する13の土地、建物について釈明の記者会見を行った。中に、今回の裁判で争点となった世田谷の4億円の土地が入っている。
小沢氏は「土地の名義は小沢一郎になっているが、実際は政治団体、陸山会の所有物である」と釈明し、政治団体で登記できないから小沢名義にした証しとして、「確認書」を示した。であれば、登記した日に確認書を作成すべきなのに、6件の確認書は後で同じ日に書かれたと判明する。
それが、今回の裁判でいつの間にか、4億円の土地は自己資金で買ったから問題ないという話にすり替わっている。自己資金なら、なぜ確認書の公表という大芝居を打つ必要があったのか。あれから5年たつが、小沢氏はこの点に関し一度も説明していない。
小沢氏が、投資家ではなくて政治家でありながら、なぜ、不動産を13カ所も買いあさったのか。それは、師匠の田中角栄氏の生き方をまねているからだろう。
角栄氏は、土建や土地売買で莫大(ばくだい)な政治資金を手にし、田中人脈を培養した。傘下の国会議員を最大110人にまで増やしている。「角福戦争」を戦った福田赳夫氏は角栄氏を評し、「1人が50人を縛る。その50人が200人を支配する。これでは政治が独善、独裁に陥る」と言ったものだ。
≪政党助成金で大勢力を形成≫
角栄氏は、ロッキード事件で起訴されて無所属になっても、自民党内の田中派を増やし続けた。政治権力の中で大きな勢力を占めれば、司法も手が出せなくなると思い込んでいるようだった。
こうした政権党の金権体質を清算するために、小選挙区制度を導入し、政党助成金を交付して、政治風土の浄化が図られた。小沢氏は、この一連の改正作業の中心にいたはずだが、自らは政治活動の手法を全く変えなかった。
角栄氏が、党のカネも自分のカネもふんだんに使ったのに対し、小沢氏は、自分のカネを使わず政党助成金を握ることで、大派閥を形成し維持したのである。
小沢氏は新進党を解散し、自由党を分裂させ、民主党に転がり込んで母屋を取る。その手口は、党のカネを握って傘下の議員を増やすというものだった。解散した党に残った政党助成金を、小沢氏は私物化し、その総額は一説に28億円といわれているが、小沢氏は一切、明らかにしていない。
小沢氏が民主党に鞍(くら)替えしたときの言い分は、「政策から何から全部、民主党の主張をのみ込む」-だった。そこで、選挙の責任者となって、小沢氏は何百億円もの政党助成金を自らの一存で使い、“小沢ガールズ”をはじめ100人余の追随者を当選させた。その選挙で、民主党は政権を取り、その政権党に、小沢氏は公金で「党中党」を築いたのである。
与党の中に、100人もの支持議員を作れば、司法の攻撃への盾にでもなると、角栄氏同様に思っていたふしがある。だが、世間の常識に照らせば、人のふんどしで相撲を取った、ということになる。教養と武士道精神がある指導者が最も恐れる言われ方だろう。
≪野田降ろしに走れば筋違い≫
小沢氏は無罪が確定したら、政治活動に本格復帰し“野田(佳彦首相)降ろし”を始めるだろう。「野田氏は行革や、選挙で公約したことをやっていない」との理由だそうで、呆(あき)れてしまう。
そもそも、民主党が09年の総選挙で掲げたマニフェスト(選挙公約)は、ほとんど実行されていない。目玉公約の中に、「天下り禁止」「渡り根絶」があった。天下りを根絶すれば12兆円のカネが浮くという触れ込みだった。
ところが、民主党政権初代首相の鳩山由紀夫氏と、党幹事長として支えた小沢氏のコンビが最初に行った人事が、元大蔵(現財務)事務次官、斎藤次郎氏の日本郵政社長への起用だった。こんな典型的天下り人事を許したわけで、他の公益法人の人事などバカらしくてチェックする気も失(う)せる。
日本外交は、「普天間飛行場の移転先は少なくとも県外」との鳩山首相の一言で崩れ去った。小沢氏は、議員を含めた600人を引き連れて訪中し、屈辱的な朝貢外交を展開した。今、嫌中感情を抱く日本人は9割に達している。米国に距離を置いて中国と交流を深める外交方針などは、国民感情を逆なですること甚だしい。
民主党政権を大きく躓(つまず)かせた張本人は小沢氏であって、自らの政策失敗を反省せず、政治手法の問題点を棚に上げ、後続の野田氏を攻めるのは恥知らずだ。度し難い古い政治を引きずっている小沢氏に、強く政界引退を勧めたい。(ややま たろう)
4月27日付産経新聞朝刊「正論」