公益財団法人 国家基本問題研究所
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役員論文

2012.07.04 (水)

民主党は解党的出直しし信問え 遠藤浩一

民主党は解党的出直しし信問え

 拓殖大学大学院教授・遠藤浩一 

 「自党内の不統一をそのままにして、このままずるずると連立政権を続けることはかえって他の与党に対し無責任な態度とも言える。私はいろいろ考えたすえ結局、総辞職の腹をきめ、…総理に総辞職の決意をうながした」

 ≪西尾末広と輿石氏の違いよ≫

 これは輿石東民主党幹事長の発言でない。64年前の片山哲内閣で官房長官を務め、社会党書記長も兼務していた西尾末広の述懐である(『西尾末広の政治覚書』)。

 昭和22(1947)年春の総選挙で社会党は比較第一党に躍進したものの、政権を担当するには、同党は未熟だと西尾は内心思っていた。危惧した通り、片山内閣は8カ月で行き詰まる。連立与党間の連携がうまくいかなかったわけではなく、社会党内部の対立が激化した揚げ句の政権崩壊だった。

 階級政党論に立つ左派は、連立によって社会主義政策が修正されるのを嫌い、政権発足当初から何かと異を唱え、ついには公然と「野党宣言」をするにいたる。

 公務員給与の財源問題について予算委員会を中断して与党の政調幹部による調整が行われている最中に、左派の鈴木茂三郎予算委員長(社会党政審会長兼務)は「ちょっと、失礼する」と抜け出し、右派や民主党などの与党委員が不在のまま予算委員会を再開し、党内造反派と野党で政府原案を撤回してしまうという挙に出た。

 当然、他の与党からは「与党の中から、政府予算案を謀略的に否決するようなことでは、やっていけぬ」(栗栖赳夫蔵相=参議院緑風会)、「社会党の党内統制について、もっと責任をもってもらわねば困る」(一松定吉国務相=民主党)といった批判が噴出する。西尾は、ひたすら頭を下げて謝りながら、思い極めた。「こんな状態では、とても連立内閣の重責を担ってゆくことはできない。このさいは、むしろ潔く、政権を投げ出し、党内の左派問題を処理することに専念する方が賢明である」(同書)と。

 ≪民主党は片山内閣よりぶざま≫

 この時、党内には、なるべく穏便に事態を収拾すべきだとの意見もあったが、西尾は安易な党内融和論を採らなかった。反対派の統制紊乱(びんらん)を放置すれば禍根を残すと確信したからである。戦後初の政権交代によって成立した片山内閣はこうして総辞職にいたった。

 さて、3年前の、戦後何度目かの政権交代は、いま目を覆うばかりの惨状を呈している。

 片山内閣の崩壊過程よりもぶざまに見えるのは野田佳彦首相や輿石幹事長、さらには得意げに造反してみせた小沢一郎、鳩山由紀夫両元代表らに西尾が示した見識や覚悟が見当たらないことによる。

 党首である内閣総理大臣が「政治生命を懸ける」と宣言し、党内外における手続きを経てようやく合意形成を見た「税と社会保障の一体改革法案」について、党内から大量の造反者が出た。これでは与野党協議は成立しない。野田首相以下の民主党幹部には「党内統制」の責任がある。造反問題に決着をつけるよう谷垣禎一自民党総裁が求めたのは当然だが、首相は「他党のことをとやかく言われたくない」と開き直った。幼稚である。ここはひたすら頭を下げるのが大人の態度ではないか。

 輿石幹事長は、首相に総辞職または解散・総選挙を進言し、党内の路線対立問題に決着をつけるべきだろう。それが要路にある者の責務だが、そうしようとはしない。ひたすら「党内融和」を冀(こいねが)い、無意味としか思われない小沢氏との会談を繰り返して時間稼ぎをしてきた。

 ≪公約破綻し覚悟も見識もなく≫

 輿石氏の頭に「党内融和」しかないのは、自らが「民主党あらばこその幹事長」だということが分かっているからである。この人は政治家としての傑出した資質によって出世したわけではない。日教組の組織内議員として参議院に進出し、当選回数を重ねるうちに民主党を牛耳るにいたったにすぎない。未熟な政党でも数さえ揃(そろ)えていれば幹事長として君臨でき、将来は参議院議長も夢ではない。

 「党内融和」こそ、彼の地位を担保する条件である。ちっぽけな野望が見え透いているから、一挙手一投足が見苦しいのだ。

 見苦しいといえば、小沢氏や鳩山氏ら造反派の姿勢もそうだ。小沢氏らは2日、離党届を提出したが、反対票を投じる前にそうするのが筋ではなかったか。

 目に余る混乱の原因は、消費増税を否定して政権を獲得した民主党政権にそれを主導する資格と力量はないという一点に帰着する。綱領なき民主党にとってはマニフェスト(政権公約)が疑似綱領の役割を果たしていたが、その破綻は明白となった。この期に及んでの「党内融和」は破綻と矛盾の温存でしかない。

 基本理念は不明で、政策は破綻し、見識も資質も覚悟も不在の政治家によって運営される民主党が、このままずるずると政権にしがみつくのは、国家と国民に対して無責任な態度である。この際、解散・総選挙に踏みきり解党も視野に入れて出直すべきであろう。(えんどう こういち)

7月3日付産経新聞朝刊「正論」